師匠ができました
ほへぇ……
目の前に広がるのは先の見えない空白。真っ白な空間。
そして手元に半透明なパネル。
『ヨウコソ! トレーニングルームヘ! アナタハハジメテノカタデスネ!ゲストトシテトウロクシマス』
「うわぉっ!?」
唐突に声が部屋に響き、ちょっとびっくりした。
……取り敢えず返しとくか。
「どうも! 初めまして!」
『……』
沈黙すんな! 恥ずかしいじゃん!
『それでは、メニューを紹介しますね』
「いや、さっきのカタコトどこいった! 作ってたんだろ!」
『……。それでは、メニューを紹介しますね』
作ってたんだな。
半透明のパネルには、以下のことが書いてあった。
・戦闘訓練
森林
砂漠
火山
凍土
水中
冥界
魔界
・指揮訓練
一対一
一対二
一対多
多対多
軍対軍
・料理訓練
和食
中華
欧州
・筋トレ
・助っ人
『今回は助っ人がおススメですよ』
じゃあそれでいっか。
パネルの助っ人をタッチすると、目の前に青い輪っかが現れる。そして、中から如何にも強そうな鎧を着たおじさんが出てきた。
「我は突然友に呼び出され、龍を強くしろと言われ、困惑している武神である。して、主が我を読んだのか?」
「あ、はい。そうなっちゃいますね」
待って、スッゴイハードボイルドなイケオジなんですけど! それに武神? 神様なの? それならこの格好良さも納得かも。
「ほう……主、良い筋肉を持っておるな」
「あっ、わかります?」
一瞬で私の筋肉を見破るなんて、この御仁、できる!
「そうさなぁ……うむ、取り敢えず主を鍛えろという話は受けてやろう。これ程の逸材はそう見つからん」
これは!? 武神様にご教授願えるのでは!? 私は何もしてないけど!
「だからこそ、試験を行う! 儂に主の強さを見せてみよ!」
すると武神様は拳を構える。
えっ、これって私が武神様と戦うの?
「ほれ、ちゃっちゃとせんか!」
「は、はい!」
こちらも拳を構えて息を大きく吸う。
武神を見据え、身体に力を込める。
見よう見まねだけど、ストレートジャブ!
私の攻撃は、私が思ってた以上にスピードが出て、ゴォン! という風切り音と共に武神めがけて突っ込む。
「ふむ」
このまま!
しかし、寸前のところで感触が無くなった。
いつの間にか私は空中を舞っていて……
「ぷぎゅ!」
顔から床に落下して私は生まれて初めて、攻撃によって気を失った。
「ボベバベボ!」
おっといけない。変な奇声をあげてしまった。
目が覚めると、いつのまにか真っ白な空間から、木漏れ日の気持ち良い森の中になっており、切り株の上には武神様が座っていた。
「で! どうでしたか!」
武神様はこちらを向き、何か納得した顔で口を開く。
「主に足りぬは技! 威力だけが戦いではない! が、スピードは良い」
「技と言われましても……」
格闘技とかを観てた訳じゃないし、そういう漫画も読んでない私に、どうしろと?
「努力せい」
努力!
「ど、努力と言われましても、私には師範なる存在がいないのですが」
「主の目の前には誰がおるのだ?」
「まっ、まさか!」
「そのまさかじゃ! そしてこの部屋は外との時が完全に切り離されておる故、幾らでも特訓ができるぞ」
ひぃ……
ここから、私と師匠との特訓が始まった。
まずは瞑想からだった。
滝を生み出し、そこの下ではなく、滝を背後に座禅を組み、瞑想。
「これで、儂が戻って来るまで待機じゃ」
そう言い残して、師匠は去っていった。
この間に、この世界の設定についてもおさらいしようと思う。
この世界には大陸に7本の摩天楼が生えてて、私を含めて7人の悪魔がそこを管理してるそう。
なんか、クシャナちゃん曰く、私のところは放っといていいらしい。
謎だ。
摩天楼は場所によって中身とか内容が違うらしく、鉱山資源が沢山あるものとか、中が一面森になっているところもあり、摩天楼近くの国の名産品やらなんやらに有効活用されているものや、一面街になってて、国が出来てるところもある。でも、絶対条件として、摩天楼には階層があって、二階層からは魔物がいるらしい。
人間達にとって、私のところはまだ未開の地らしく、内装もわかっていないそう。
まぁ実際、知らなくてもいい気がする。
一応、主人として? 中身をクシャナちゃんに見せてもらいましたよ?
そこに広がってたのは……
ヤベェぐらいのディストピア。
それも現代チックな。
黒い雲に覆われた、ずっと真っ暗な世界。
この世界にはあまりにも似合わない鉄筋コンクリの崩れた壁や家。サビで一部赤くなった何かのマスコットキャラクターの像。噴水広場っぽいところの白い像は崩れ、その破片は煤を被って黒ずんでいる。
まるで全てを巻き込んだ戦争の跡のようで、特に名産品も、見てて楽しいことも無かった。
だけど一つだけ。
見た感じ、魔物がいなかった。というか、生物が全くいなかった。
だから安心して住むことは出来るはず。
私は嫌だけど。
あと、摩天楼を管理してるお家が国ごとにあるらしく、そこの主人、又は長男坊が許可を出さない限り、摩天楼の扉は開かないらしい。
そして、私のところの管理者はとってもお堅い人らしく、
神聖な摩天楼を国の資源として使うのはいけない! もしそれをやめないのであれば、私達はここを開けることはない!
って感じで断り続けてるらしい。
私的には、中を見られなくて万々歳! なんだけどね。
「痛ぁ!」
「瞑想をせんか! 心を研ぎ澄まし、いらぬことを考えるでない!」
他にも色々な訓練をした。
様々な技や型を身体で教わったり、自分よりも大きな敵と戦う極意だったり、拳以外の武器の扱い方だったり、「八刀流の化け物の剣戟を指二本で全て弾いてみせろ」なんていう無理難題を押し付けてきたりで、散々だった。
だけど、私は耐えた。耐えきった!
そして……
「これにて、全ての訓練を終了とする」
「押忍!」
「カッカッカ! いい面構えになったではないか!」
今の私は、ラの付く王のような顔をしているのだろう。それ程過酷な試練を超え、自身の足りない技を補った。
「では、最終試験だが、どうする?」
「お願いします!」