ちょっと自分を追い込んでみました(2)
拝啓、地球のお父様、お母様。
私、樫原 鈴は、新しい世界で元気に……
筋トレしております!
あの日、私がここに来た日から、いくつ経ったのだろう。
後で聞いてみると、約1100年経ったらしい。
つまりは……婚期を逃して早12世紀とちょっとか。
やべぇな。
その間、毎日毎日筋トレをし続け、最初は嫌だった自身の身体を痛めつけるような行為も、今ではすっかりハマってしまいました。
日に日に増えていく腕立て、スクワット、腹筋、背筋の基礎的な筋トレの回数。
クシャナちゃんが筋肉が好きだったそうで、色々と教えてくれるメニュー。
ヒンズープッシュアップなんて聞いたことなかった。
神ではないので食べ物が必要。
クシャナちゃんが人間と同じ生活を送ってみたいという心から、お城? にはご飯があったけど、全て彼女が管理。
玄米や、鶏胸肉。取り敢えずヘルシー。
何度も何度も心が折れかけた。
だけど全ては究極の肉体のため!
……? なんかおかしい気が……?
気のせいだろう。
あと、思ってたよりもこの世界の住人の頭が良かったそうで、クシャナちゃんが総仕上げとして、フワフワの勝負服、違うや、神さまっぽい服を着て塔を六つ生やしてるのを、サイドレイズしながら見た。
何だったんだろう。
それはともかく、初めて同僚、もとい、ルシファーに会った。
デクラインプッシュアップ中に。
彼も人型を保っていて、中性的な顔つきのイケメンだった。クシャナちゃんとお話に来たらしく、奇妙なものを見る目でこちらを見た後、軽く微笑んでクシャナちゃんと別室へ。
ずるい。
そして今も、天井の装飾で懸垂しております。
「レヴィ? 一回くらい自分の筋肉の質を確認してみない? 1100年間ずっと確認してないでしょう」
そういえばそうだ。
鏡の前に立つ。
クシャナが「筋肉があまり目立たない身体に作ってしまったぁぁぁ!」って後悔していたこの身体は、腹筋は控えめなシックスパック、ほんの少し盛り上がった力瘤、俗に言う細マッチョというものになっている。
(我ながらモテそうな筋肉美女じゃない?)
以前行ったあの部屋へと向かう。
「やっぱいい身体付きになったね!」
そうでしょう、そうでしょう! もっと褒めて!
私は板にゴツくなった手を置く。
さて、運命の瞬間だ……!
いざ!
筋肉:A
嘘!レベルAまで行ってたの!?
思い返せば1100年、人生を余裕で超える年数を筋トレに回したもんなぁ。
それでもSではない。
「やったね! Aだって!これでほかのスキルも使えるんじゃない?」
そうだ! そうだった! 何で筋トレしてたか思い出した! 強くなるためじゃん! いつの間にか究極の肉体を目指してたわ。
それならまず理力から使ってみようかな。
【理力】
星々の戦い、選ばれし者が使うことのできた力。
光の剣を操る者は、この力が使えなければならない。
簡単に言えばフ●ース
▼
アウトじゃん。
星々の戦いって直訳じゃん。
なんかもう、どんな力か想像つくし。
そして謎の三角。
押せるのかな? 押せたわ。
▶︎
・予知 ・認識能力拡大 ・引力、斥力 ・身体能力強化 ・読心(感情に限る) ・心理操作
・テレパシー ・治癒 ・霊体化 ・理の雷 ・その他
チートじゃん。
思いっきりチートじゃん。
最後のやつって絶対必殺技じゃん。
使えそうなものを使ってみようかな……
理力! テレパシー!
(クシャナちゃんは可愛い!)
「ちょっ! 急にどうしたんですか! は、恥ずかしいじゃないですか……!」
可愛い、口でも言ったろ。
「クシャナちゃんは可愛い!」
「やめて……恥ずかしいから……」
耳まで凄い赤くなってる。
実験は成功に終わった。
嬉しい。
「レヴィ。貴女に重要なお話があります」
ヤベっ、遂に怒られるか?
「なんと! この世界は完成しました! そのため、データを下界へと送ることになります!」
「やったー」
「なんで棒読みなんですか?」
あんまり実感がないから。
「一応、この世界はソロ用なので、魔王って言うキャラクターも配置し、その配下の魔族も作り出しておいたので、本当に後は送るだけです。さて、ここからが本題です。他のお二人には既に聴きましたが、貴女はこの世界のゲームで、どの様なキャラクターになりたいですか?」
いつもと違う真剣な表情でクシャナは話す。
「私はレヴィアタンじゃないの?」
「レヴィアタンですけど、それだけでいいんですか?」
言われてみれば、私ってなんでメイド選んだんだっけ?
そうだ、服の作りをまだ知れてない!
「私、メイドになれる?」
「なれますよ。ただし、裏ボスのメイドになりますけどね」
いいじゃんカッコいい!
「それじゃあ、レヴィはメイドで裏ボスってことで、向こうに送りますね」
今すぐメイドじゃないの? なんかその気でいたんだけど。
「勿論メイドになれますよ? でもその前にゲームデータを作ってからの方が……」
「何故?」
「まぁ、そこは、色々あるのよ。上からの指令だったり、今後の世界の展開だったりと」
これ以上突っかかる必要もあまりなさそうだから、別にいいか。
「それでは、データ転送を開始しますので、あんまり近づかないで下さいね?」
「はーい」
クシャナの両手に光が集まり、一つの球体を創り出す。その中には私達の今いる世界があった。
「本部、本部聞こえますか?」
『こちら本部、聞こえております』
「データ転送の準備をお願いします」
『了解しました』
小さな世界は一層光を増し、目を開けるのが困難なほど眩く輝く。
いつの間にかそれは無くなっており、汗だくになったクシャナがへたり込んでいた。
「大丈夫……じゃ、なさそうだね」
私はクシャナを持ち上げる。
「思ってたよりも軽いんだね」
「貴女が力持ちなだけですよ……」
ヤバイ、私が男じゃなくて良かった。男だったら絶対に襲ってるわ。だって卑怯すぎない? こんな顔も身体もを赤らめてさぁ! 息も荒くしてさぁ! そしてスタイルが良い! ちょっといい匂いするし!
「や、そんな、見ないでください……」
あー、無理。理性が保たん。なので!
「一名様ベッドへご案内!」
「ちょっ、何する気ですか!?」
「グヘヘへ、嬢ちゃん、それは後からのお楽しみですぜ、そうっすよね、旦那!」
「おうよ!」
「えっ? なんで二人いるんですか?」
ついさっき見つけた理力の一つ!
「「分身したのさ!」」
そして今、クシャナちゃんはベッドの上でちょっと服をはだけさせて熱い息をしております。
どうしてこうなっているかだって? よせやい、言わせんのか?
「クシャナちゃん、力の使い過ぎには気をつけて下さいませ」
「メイドの練習ですか? 貴女なら、いつも通りの方が可愛いですけど?」
「そんなこと言ってるクシャナちゃんの方が私の数千倍可愛い」
今クシャナちゃんは力の使い過ぎで倒れております。何? もしかして期待してた?
「ねぇ、クシャナちゃん、話は変わるんだけどさ、どこか訓練出来そうなところってある?」
「本当に唐突にですね。ありますよ、広間から北西に伸びた廊下の奥が、私の運動場というか、息抜き用のところが」
「使って良い?」
「良いですよ。今の状態じゃ、また数百年ほど、力を蓄えないといけませんからね。この後も、この世界の均衡を保たないといけないんですよ。だから今は、ちょっと休ませて下さい……」
「おやすみ、クシャナ」
さて! その運動場とやらに行ってみますか!