全てが始まりました(2)
「最後に登場した、天地創造初期に作られた摩天楼の主、このゲームの裏ボスの一柱、ルシファー、レヴィアタン、サタン、マモン、ヴェルフェゴール、ベルゼブブ、アスモデウスの中の、レヴィアタンになっていただきます」
……ふぇ?
人外? まさかの?
「ええと、それは……?」
「これも社長が……」
またか社長!
「ああ、でも安心して下さい。貴女は一応向こうの方だと神的な存在ではあるので、皆さまがお好きなチートキャラクターではギリありますので」
ギリって何!? そこ凄い重要では!?
「そのぉ、ギリチートっていうのは、どういう?」
「パッシブスキルとして不死身がありますので」
不死身! それは十分チートでは!
「しかしながら、チートはそれしかないというか……」
「不死身のみということですか?」
「そうなります……」
なんと……! 強いけど、弱い! 死なないけど殺せない! って感じか……
『そこについては気にせんといてええよぉ。儂がちゃぁんと、強ぉしてあげるわぁ』
どっからともなく私にはとても真似出来なさそうな脳みそまで溶けそうな甘い女性の声が……
「社長! また貴女は! 事後処理してる私達の気にもなって下さい!」
社長!?
『ごめんねぇ、でも、楽しそうなことには逆らえんのよぉ』
「全く、貴女という人は! ……あっ、すみません。お恥ずかしいところをお見せしてしまい」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
社長って女の人だったのかぁ。きっと美人なんだろうなぁ。
『そんでなぁ、お嬢ちゃんには、あのぅ、何やったかなぁ……そうそう! なんちゃら、うぉーず? とか言うやつの、確かぁ、理力? って言うやつをつけてあげるわぁ。あと、もう一つ付けたるんやけどぉ、それは後のお楽しみや』
そう言い残して、声は消えていった。
き、気になる!
「ええ、気を取り直して、樫原様には、既に現地へ向かっている部下の仕事のサポートと、支配領域の充実化を行っていただきたいのです。詳しい話は向こうがお話ししますので。取り敢えず現段階では、先程のアンケートに答えていただきます」
さっきのアンケート? ああ、名前とかのやつか。そういえばやってなかったな。
まず名前は……そのままレヴィアタンから取ってレヴィでいっか。
次に性別は……って、女性しかないんだっけ。
希望する職業?
「向こうはどんな職業があるんですか?」
「色々ありますよ。プレイヤージョブのパラディンや魔剣士などだけでなく、NPCジョブの農民、兵士、学者など色々」
ならば!
「メイドってありますか?」
「ええ、確か……」
よっしゃぁぁぁっ!
ずっと前からあのメイド服ってどんな感じか気になってたんだよねー! それに不死身メイドとか、最高じゃない? 個人の感想ですが。
「どうしました!? 急にガッツポーズをして?」
「あっ、すいません。つい」
じゃあ、希望する職業はメイドで!
「ああ、言い忘れておりました。 希望した職業によって色々とスキルが追加されます。なので、メイドの場合は、裁縫、料理、掃除、洗濯、家計、育児、介護、その他家事スキル全般と、護身術が追加されます」
多くない?
まぁたくさんあるなら別に損はしないでしょ。
一応全部記入したかな。
「ありがとうございます。もうすぐで転送の準備が整いますので、しばらくお待ちください」
「あの、向こうにいるという神様はどのような方ですか?」
むさい男かな、それだったらちょっとやだなぁ。
「女性ですよ。丸いメガネが特徴的な。少し熱中し過ぎてしまう事があるので、サポートしてくだされば幸いです」
良かったぁ。女の人だぁ。
『準備整いました!』
「っと、準備が終わったみたいですね。それでは、陣を展開しますね」
え、ここで?
なんか、こう、もっと凄いところかと思ってたらここ?
「彼女の目の前に飛ばすので、迷子にはならないと思いますが、一応気をつけて下さい。入り組んでますので」
「わかりました。気をつけます」
上司さんはこちらに手を向ける。
「それでは、転送を開始します。良い旅を」
陣が輝き出し視界は真っ白になった。
「……きて、……て下さい!」
「んぅ……後五時間……」
「……そうですか。なら、ちょっとイタズラしますよぉ! それ!」
「うひゃぁ!」
冷たい! 冷たい。冷たい?
目の前には,縦セタ丸メガネの美少女。
「もう、目が覚めましたか?」
「あ、はい。覚めました」
転送,終わった?
気づけば知らない場所だった。いかにもな宮殿の中というか、城の中というか、取り敢えずファンタジー。
「そうそう! まだ自分の姿を見ていませんでしたね! いやぁ,我ながらよくできたと思ってるんですよ」
そう言うと、彼女は手鏡を取り出し、私に渡した。
そこに写っていたのはとんでもない美女!
鋭い眼の淡い水色の瞳、健康的な白い肌、ボブヘアでサラッサラの黒髪、そして何より、頭のツノ! 黒強めの群青色で、光の反射で光沢の綺麗なツノ!
お嬢ちゃん、いい腕してるじゃぁないか!
「ありがとう! こんな美女に生まれ変わるなんて思ってなかった!」
「い、いやぁ、そんなに言われると照れますねぇ」
む? でも待てよ? 元々、私、レヴィアタン。今、人。
「ねぇ、私ってレヴィアタンだよね?」
「はい、そうですが?……ああ! そうでした! 元々の姿を見ていませんでしたね! 先に人型の依代を作ってしまったので、ついそっちを優先してしまいました!」
彼女は廊下の奥で手招きしたので、私はそちらに向かった。大きな扉があり、その奥から光が溢れ出す。
目が慣れてきたとき、私の目の前には美しい光景が広がった。
青く輝く海、大きな樹海、火を噴く火山に、真っ白な凍土。他にも、見たことない鳥や、山のような亀、空に浮かぶ謎の紋章。まさに異世界!
そして何よりも存在感を放つ七本の柱、きっとあれが摩天楼なる物なのだろう。
「これが、私達で作っていく世界です。どうですか? 楽しんでくれますか? って、どうしました!? 涙が……!」
「えっ?」
いつの間にか、私の目からは涙が溢れていた。自分でも理由はわからないが、きっとキャパオーバーにでもなったのだろう。
ちょっと恥ずかしいからあのピンク色の鳥に変な名前でもつけよう。
「もしもし?」
「グラミンゴッ!」
「グラミンゴッ!?」
「いや、ごめん、そうだ! 何か見せたいものがあったんじゃない?」
「ええそうです! そうでした! 樫原さんのレヴィアタンの姿のお披露目をしようと思ってたんです! 私も見た事がないので!」
「え? でも、そんな方法わからないんですけど」
なんかマニュアルとかないの?
「確かマニュアルには、『身体の奥からズバッと力を解放した後、グググっとそれを凝縮させる』という事ですが……訳がわかりませんね」
「そうかな? わかりやすかったけど」
「え゛?」
取り敢えず言われた通りにやってみよっかな。
こう……ズバッとしてから、グググっと……
そのとき、その世界にいた存在は、ある一点を見つめていた。それは単なる好奇心なのか、それとも怯えだったのか。しかし、彼らは一つ、同じことを頭の中に焼き付けた。
「“アレ”は危険なものである」
それ程までに凶悪、そして侵し難い神聖。
“アレ”はこの世界で最高位の存在だと、理性があろうと無かろうと理解した。いや、理解させられたのだ。 自身がどれだけちっぽけな存在なのかと。一部の者達を除いて。
一方で、神は後悔していた。
神は彼女の内にある一つの感情を、外見に反映させるという施しをした。
それは嫉妬。人間ならば抱える感情。彼女は人一倍それが強かった。
心の奥底にしまい込んだ巨大な嫉妬。それが今、表面に出てきたのだ。
彼女はそれ程、結婚というものに憧れていたのである。
映像とは大きく違う外見。黒鉄を彷彿とさせる鱗は上から被さるように生え、体長は約8キロメートル。頭部は先端が斜め上に反り尖っている。また、そこから尾まで、鱗と対照的な輝く白い鬣のようなものが続き、風が吹く度に波のように揺れる。その姿は正に神の使い。その名を騙るにふさわしいと誰もが言うだろう。
「で、どうだった?」
私は変化を解いて彼女に答えを求めるが、一向に返事が返ってこない。
「……だから、樫原さんを……めの、器……張り、あの人達は……! あ、すみません、とってもかっこよかったですよ」
良かったぁ、自分じゃ自分の姿なんてわかんないけど、他人の意見ならまだ信用性があるというか……そういえば……
「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね」
「そうでした! 色々ありすぎてすっかり忘れて居ました! 私、クシャナっていいます! 一応、風などを司ってはいます」