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世界の敵の私だが  作者: P定食
2/11

全てが始まりました(1)


異世界転生。

それは一度は憧れてしまう至高の言葉。

けれども、いざ転生となれば、あまり踏ん切りがつかないものでもある。


もし突然、異世界転生してしまったら?


勿論、チート使ってハーレム作って可愛い女の子とキャッキャウフフするのが男の夢というもの。(多分)

どっかの姫になってイケメンに取り合いされたいというのが女の夢というもの。(多分)

そんなご都合主義な展開が待っていること間違いなし! なんて気分で踊りながら待つのだろう。

私もそう思っていた。

だがしかし! 現実は甘くはなかった!

ブラック企業って程酷い環境ではない中小企業勤めの彼氏いない歴=年齢の、樫原 鈴に起きた悲劇を、今からお話ししたいと思う……

そう、あれは真夏の夜のことだった。




あの日は給料日で、すっかり日の落ちた街中を同僚と酔っ払いながら歩いていた。

同僚はもうすぐ結婚をするのだと、私にものすごい笑顔で語ってきた。

悔しいかって? 勿論悔しい! もし法律が無ければこの嫉妬に身を任せて喉元喰いちぎってしまいたいくらい悔しい!

まぁ、私の家があんまり裕福じゃなかったため、正義の心よりも嫉妬心はとんでもなく養えたと思う。なんの役に立つんだ? これ。

同僚は愉悦顔でまだまだ話を続けるため、ちょっと一発殴ったろかと、拳を構えたとき! ダンプカーがこちらに突っ込んで来たのだ!

私は華麗なステップで避けたものの、同僚は直撃コース真っしぐら、地獄の門へとごあんなぁい状態だったため、とても、とっても遺憾ながら! どうか彼氏とはお幸せに、末永く爆発しろ! の意を込めたタックルで同僚を救うことができた……


という夢を公園のベンチの上で見た。


酔っ払っていたのは事実だが、我ながら有り得ない話だとは思う。

公園の中央、丸い模様がある床が光っていたのだ。

身体の自由なんて無かった私は、好奇心に抗うことなく中心に向かってしまった。


同僚はどうしたかって? 勿論、私を置いて帰っていったよ。彼氏の写真を横に置いて。


チッ!


酒とは危険である。酔っぱらいは何を言うか、何をするかを予想することなど、クラゲの思考を読み取る様なものだ。それプラス、嫉妬で狂ってしまいそうだったベロベロの私は中心に立って拳を突き上げ、少しでも気が紛れるように、自身の年齢がバレてしまいそうなとあるセリフを大声で言い放った。

きっと、全てこれが原因だと思う。


「ソロモンよ、私は帰ってきた!」


機動した戦士的なアニメの敵が戻ってきたときに言い放ったこのセリフ、リアルタイムで楽しんでいた私にはインパクトが強過ぎたため、つい、数十年後の今になってまた使ってしまったのだ。


すると、光は一層力を増し、気がつけば知らないところにいた。

ここはまさしく天界! のようなふわふわしてそうな場所ではなく、普通にオフィス。

扉の向こうでは電話の音が鳴り響き、それの応対の声が聞こえてくる。

机と椅子があったため、私は取り敢えずそこに座らせてもらった。


数分経ったあたりで、扉が開き、ブラックに白ワイシャツ。俗に言うリクルートスーツのいかにも新人社員な女性がたどたどしい足取りで入ってきた。

一応私は会社で面接関連もしていたため、そういうところについ目線がいってしまうのだ。

向かいに座った彼女は軽く深呼吸をしてから、私の目の前に一つのファイルを置いた。

やることも無かったので、そのファイルを開いてみた。


『おめでとうございます! 貴方は等サービスご愛用者様、1000万人目の』


のあたりでそっとファイルを閉じた。


なんだこれ。新手の詐欺か何かか?


色々疑っていると、目の前の彼女はあたふたし出して、失礼しますと一言言い残して去っていった。

もう一度ファイルを開いてみる。

1ページ目は無視して、内容を確認してみたが、アンケートばかりであまり読みやすいとは言いにくかった。

取り敢えず、このファイルを作った人には少し言ってやりたい気分だ。

アンケートの内容は、


『赤、青、黄色、緑、茶色、白、黒、その他の中から好きな色を選んでください』


『貴方は海派ですか? 山派ですか?』


『課題はコツコツ派ですか? 一気にやる派ですか?』


『和風と洋風、どちらが好きですか?』


『好きな俳優は誰ですか?』


『貴方は王様になりたいですか? それに仕えたいですか?』


などなど、最後はよく分からないが、変な質問ばかりがあった。

記入しようかしまいか悩んでいると、先程の女性とその上司らしき男性が入ってきた。


「先程は申し訳ございませんでした」

「もっ、申し訳ございませんでした!」


部下とちゃんと謝ってくれるいい上司じゃぁないか。


「申し遅れました。我々は、世界総括司令部、娯楽開発部門の者です。樫原様は我が社の社長が気まぐれで拾ってしまい、残念ながら亡くなってしまいました」


色々とパワーワードが多い。


「そこで、我々が制作途中のとある世界のゲームシステム関連の試運転にご協力をお願いしたいのですが」


やばい、ぜんぜん入ってこない。


「えっと、なら、このアンケートは、それに関係しているものでしょうか?」

「いえ、それは社長がふざけて置いたものです。試運転関係のはこちらになります」


社長ぉ!

一枚の紙を取り出し、ペンと共に置いてくれた。

内容は、名前の記入と、あっちの世界での名前、性別、希望する職業などの、いわゆるキャラメイク前の設定のようなものだった。

さっきのよりもとても読みやすく、いいアンケートだと思ったが、一つ気になる点があった。


「性別の枠に男性が無いというのは……?」

「それは……その、また社長が……」


おい社長ぉ!


「もう一つ質問よろしいでしょうか?」

「はい」

「私が行かなければならない世界というのは完成段階ではないものだそうですね。では、試運転が完了した場合には、その世界はどうするのでしょうか」


試験終わったから消えてね! とかだったら真っ平だ。


「完成次第データを下界へと送ります、これが我が社で初の試みになりますので少しイレギュラーはあるかもしれませんが、出来る限りは安全面を考慮しております」

「それはどのような?」


データ? 下界?


「皆さまが楽しんでいらっしゃるRPGゲームなどがありますね、あれの世界を作り、ゲーム会社に送るのです。そして、樫原様が行く世界の取引先は、TRIANGLE・ENIX、通称トラエニですね」


ト、トラエニ!?

デビルクエストや、ファーストファンタジーシリーズを手がけるあの!?


「そのゲームの設定の中に、私が?」

「その通りです。勿論、完成後も世界の中で楽しむことができます」


な、なんと……! 私がそこで伝説を作れば、プレイヤー達に認知されるのか!


「どうですか、是非協力して欲しいのですが」

「はい! 私で良ければ!」


今思えば、あの人超やり手だったなぁ。すっかり乗せられちゃったなぁ。


「ありがとうございます! それでは、このゲームの内容についてお話しさせていただく前に、開発途中映像を見ていただきます」


上司さんはどこからともなくプロジェクターとスクリーンを設置し、新人ちゃんがそれをつけた。すると、黒い画面に白いカウントダウンという、少し古さを感じる画面が映し出される。


ピアノベースの寂しさを感じさせるBGMが流れ始め、製作陣の名前が連なる。

黒い雲が空を覆い、雨を降らせ、多分主人公らしきフードを被った人間が泥道に倒れ込む。そこに運良く通りかかった馬車の心優しい男に拾われた。

BGMはかっこいい如何にもなファンタジーっぽい曲に変化し、身長も伸びた主人公は、大きな街の掲示板の依頼を一枚剥がし、冒険へと向かう。

ドラゴンとの戦闘、仲間達の出逢いと別れ、広大なマップ、そしてクライマックスのラスボスとの死闘!

「CLIMB THE SKYSCRAPER」というタイトルが現れた後の3秒ほど、灰色に染まった荒波の中で、ある7体の存在を映し出す。光に照らされた灰色の十枚の羽を持つ人、空へと畝る巨大な蛇、四枚の蝙蝠の羽を持つ獅子、牛のツノが生えた悪魔、目のような四枚の羽を持つ天使、空中に漂う黒い渦、怪しく目が紅く光る女性が映り、映像は終わった。


正直凄い。

まずグラフィックが凄い。草とか水とか火とか、まるで現実みたいな感じだった。

次にキャラクターのデザインがいい。ぱっと見、イケメンも美少女もとてもカッコ可愛いかった。

挙げればまだまだ出てくるけど、ここまでにしておこう。


「それでは、本題に入りますね。まず。樫原様にはとあるキャラクターになっていただきます」

「それって、映像に居た誰かですか?」

「はい。それも重要な役割を担っている者です」


誰かなぁ? 格闘家のお姉さんかなぁ、それとも王国の姫かなぁ、もしかして、主人公!?


「そのキャラクターは……」


プロジェクターのボタンを押し、スクリーンにキャラクターが映し出される。


「最後に登場した、天地創造初期に作られた摩天楼の主、このゲームの裏ボスの一柱、ルシファー、レヴィアタン、サタン、マモン、ヴェルフェゴール、ベルゼブブ、アスモデウスの中の、レヴィアタンになっていただきます」


……ふぇ?


「CLIMB THE SKYSCRAPER」

訳すと、「摩天楼を登れ」です。

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