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世界の敵の私だが  作者: P定食
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プロローグ

短め。



森の中、青年が走る。



走れ、走れ、走れ。


街を抜け、森に入り、木々を避け、奥へ。


走れ、奴らに捕まる前に、


開けた場所に出る。

まるで何かの跡地のような場所に。


何故こんな森の奥に、城一つ分ありそうな場所があるのか。

ましてや、何故近辺の住民である俺達の耳に入っていなかったのか。

様々な疑問に、思わず脚を止めていた。


止めてしまった。



「ぐあっ!?」


後ろから何か硬い物で背中を叩かれた。


追っ手はここまで来たのか……


「やっと見つけたぜ坊っちゃんよ! さっさと吐け! 塔の暗号を!」

「………誰が」


吐くものか。


父が代々守ってきたあの塔を、国の資源として食い潰されてたまるか。


「待て、俺がやる」


髪の毛を掴まれ、引き摺られる。

抵抗すれば、今のように頭の毛がプチプチと抜けていくだけでは済まないだろう。

そのまま木の幹に叩きつけられ、肺に溜まった空気が、一気に外へと飛び出していく。


「妹の処遇を、お前に任せてやろう」


何?


「お前が吐けば……の話だがな」


外国の野心家供からすれば、この交換条件は妹の生死、国の未来をかけた交換にしては、些か小さすぎると思うだろう。

もっとこちらに利益のあるものでなければならない。

例えば……開けはするが、所有権は渡さないなどなど。


「……断れば?」

「貴様の妹は惜しくも見た目と才能はあるからな。良き子を多く産んでくれるだろうよ」


孕み袋か……


珍しくない話だ。

没落した貴族の家には、ほぼ必ずと言って良い程、良い血質がある。

それをそのまま逃す程、奴らも甘い訳ではない。

ならばその血を取り入れるために側室にでもするか?

否、没落した者を寝台の上に乗せるなど言語道断。

だからこそ、貴族の家には地下室があり、そこで孕むまで陵辱する。

貴族にとって、その後のことは如何とでもなるため、なんの躊躇いなどない。


反吐がでる。


アイツは身体が弱いから、きっと一人目で死ぬだろうな。


……

……………


「で? どうなんだ?」

「誰が喋るか」

「……おい、デブ、国に連絡しろ。妹は好きにしろとな」


仕方なし……か。

……

……………


「待て」

「おいデブ!」

「デブって言うなよ! で? 何?」


俺は? 今、何を?

待て。確かにそう口にした。


「今、待てと言ったな? 喋る気になったか」

「…………」

「さっさとしろ!」


耳の近くに突き刺された剣によって俺の髪が少し切れる。


「……っ」


冗談だと言え! そんなことして何になる! 兄妹愛など捨てろ!


「……じ」

「じ?」


さぁ!




「地獄に落ちろ。クソ野郎」




「ああ、そうかい……じゃあ、交渉決裂だな」


そう剣を持ち上げた瞬間、


()ガ欲シイカ?』


『全テヲ薙ギ倒ス()ガ!』


ああ、欲しい……

コイツらを、ぶっ殺せる力が欲しい!


『ナラバ我ガ問イカケニ答エヨ! 貴様ハ、コノ世ヲ滅ボス魔王トナルト!』


俺は、この世を滅ぼす魔王に……


「死ねやぁぁぁ!」


謎の雄叫びと共に、剣を持ち上げた兵士が石ころを蹴飛ばしたかのように吹き飛んでいく。


「は?」

「な、何だぁ!?」


同僚が吹っ飛ばされたことに気が動転している兵士と青年。


そこに、


「失礼」


という声と同時に、もう一人も何処かへと飛んでいってしまった。

何が起きている?


「良い初仕事でした」

「「勿体無きお言葉、主人よ」」


呆けている俺に、足音が近づいて来る。


「それでは……」


その足音は俺の前で止まり、




「遅れて申し訳ございませんでした。新しき塔の所有者よ」




そう告げたのであった。


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