第2話 招かれざる客
「それにしても、大丈夫か?どこか痛かったりは?」
「……(フルフル)」
少女を背負いながら施設の脱出を試みているが、どうやら俺達以外にも問題が発生しているらしい。
物陰から忙しなく動く男達の会話を盗み聞きする。
「くっ!早く資料を燃やせ!証拠を残すな!」
「検体どもはどうするんだよ!?」
「適当に殺しておけ!成体はいないから燃やすのも簡単な筈だ!逃げ出した二匹も見つけ次第確実に殺せ!」
「はっ!」
どうやら本当に緊迫した状況らしい。
男達の足音が遠退いていくのを確認してから、そっと扉を開いて外の様子を見る。
人影は見えないので、部屋から出るチャンスだ。
「よし、いくぞ。しっかり捕まれよ」
「……(コク)」
少女を背負い直して再び通路を駆けていく。
だんだんと戦闘音らしきものが大きく、激しくなっているのが少々不安だ。
少女も何かしら思うことがあるのか、少しだけ俺の首に回した手が震えていた。
(変なのに遭遇しなきゃいいんだけどな……)
「……(クイクイ)」
「ん?どうした?」
「……(ピシッ)」
「あー、あっちに行けってことか?もしかして出口とか?」
「……(コクコク)」
少女のジェスチャーを解読すると、どうやら指差す方向に出口があるらしい。なんでそんなことが分かるのかと思ったが、もしかしたらそういった事が分かる魔法があるのかもしれない。
「分かった。ならそっちに行こう」
「……」
出口が分からないまま彷徨き続けるのも馬鹿らしいので、少女の指した方向へと走り出す。
こんな陰湿な場所からはさっさとおさらばだ!
───────
弱い。弱すぎる。人間の中でもこいつらは特に弱い。
ゆっくりと通路を歩いていくと、また弱い人間達が私の前で武器を構えている。
「ひっ!ば、化け物が!」
「撃て!魔力が切れるまで撃ちきれ!」
「絶対に近付けるな!おい!魔法阻害装置はまだか!?」
筒状の武器から魔法が忙しなく撃ち込まれるが、そのどれもが誰でも使えるような下級魔法ばかり。
そんなもので私は止められないと理解している筈なのに、人間とはよく分からない生き物だ。
軽く手を振ってやれば人間達の胴体がズルリと切断され、容易く息絶える。
そうしてまた歩き出せばまた人間達が性懲りもなく立ち塞がる。
はて?こいつらに脳みそはないのだろうか?
「前に立たねば殺さぬぞ?」
「ま、魔王の言葉が信じられるか!!」
「そうか。なら仕方ない」
人間が魔法を放とうとした瞬間、影から槍が飛び出して人間を串刺しにする。
ふむ。私はただここの研究資料を貰いにきただけなのだがな。
だが周りの人間達の顔が恐怖で歪むのは面白い。
「素直に資料を渡すなら私からは何もしない」
「資料なんて残ってねぇ!あんたが欲しがるものはここには何も残ってねぇんだよ!」
「そ、そうだ!もう帰ってくれ!」
「ふむ?おかしいな。私はここで私を殺すための次期魔王を作っていると聞いたのだがな───む?」
弱い人間達の中に少しだけ魔力反応が違う存在があるな。
それにこの性質……。
私はある予感を感じ、今だ喚き立てる人間達を無視して反応を探る。
やはり間違いない。これは私と似たような……いや、私と同じ魔力反応だ。しかも二つもあるではないか。
やはりグリムロの言うことは本当だったな。これは僥倖。これらよりも余程興味がそそられる。
「ふむ。ならば二人ほど勝手に貰っていくとしよう。そちらとしても扱いに困っているだろう?」
「なんの話だ!?お前に渡すものはないと言っただろう!」
「なにか勘違いをしているな、人間。そもそも私はお前達の許可など求めていない。私が欲しいからそれを貰っていくのだ」
ゴチャゴチャとうるさい人間達を影で串刺しにし、そのまま影の中に引きずり込む。
私以外誰もいなくなった通路を早歩きで進むと、二つの魔力反応がなんと向こうから近付いてくる。
私が目的……などではなく、ここから脱出することが目的だろうな。
うむ。まぁ混乱に乗じて逃げようとするくらいの最低限の賢しさがあるのはいいことだ。
そのまま気ままに歩いていると、通路の向こう側から徐々にこちらに近付いてくる足音が聞こえてくる。
「っ!くそ!まだいたのか!」
「……」
そしてその時はきた。
ここは一本道だし嫌でも私と鉢合わせるので少し待ってみると、二人の子供が現れた。
あの人間達が持っていた武器と同じものを持ち、強気に私を睨む少年とその背に担がれた少女の二人だ。二人とも美しい銀色の髪が良い。
しかも美男美女ときた。無論魔力反応もこの二人からだ。
「ふむ?ふむ。良いな。実に良い。人間が作った魔王と聞いたからあまり期待はしていなかったが、これは良いな。実に私好みだ。魔力の質にも文句はない」
私に警戒心を剥き出しにしている少年の顔を見るとちょっかいを出してしまいたくなる。
さぞ私好みの男に成長してくれそうだ。
「ふふ。私と一緒に来い。外の世界を見せてやろう」
「は?」