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 楽し気な十三を横目に見つつ、私は少し考えた。

 恐らく、大蔵は何らかの動きを見せるだろう。積極的に姿を現して止めてくれると話が早いが、性格上それは無い。最初はこっそり裏付けする程度ではなかろうか。


「ふふふ……谷田家の送迎車はAI付きでしたよね……ふふふ」


 あー……そうか。十三、そこも考慮してたか。

 そうだよねー、大蔵なら車の制御システム乗っ取れるんだよねー。このタイミングで谷田家の送迎車がおかしくなったら、確実に大蔵だよね。

 コツコツ詰めていくなぁ、十三。


「なお、運転手は変装した城之内です」


 まじかよ……あの子居ないなーと思ったら、いつの間に仕込んでいたの……。頑張って働いているから、帰ってきたら褒めてあげよう。十三も、たまには雑じゃなくてちゃんと褒めてやれよ? あ、余計なお世話かな……仲良いもんね……さ、寂し……いえ、良い事ですとも。


「残念ながら、大蔵対策で車内の情報をこちらに送る事が出来ません」


 十三の言葉に、私は頷いた。

 下手に通信を行うと、そこから大蔵に計画がバレる可能性がある。些か不便ではあるけれど、ここは慎重になった方が良い。


「その為、大変アナログではありますが、『へ』の五をつけています。特に問題なければ、立石家に到着次第、連絡が来るかと」


 なるほど、草の人たちが頑張ってくれているのね。

 ……後でお礼言わないとな。最近は雫関連でかなりハードに働いていただいているし。追加のボーナスも必要だよね。

 その旨を十三に伝えたら、十三は真顔で首を振った。振った方向は横だ。


「今回の件に関しては、紫朗さまが少し微笑んで頷かれるだけで結構です」


 何それ、お前じゃあるまいし。その程度でハードワークに耐えられるとか、有り得なかろう。

 私の表情で言いたい事を理解したのか、十三が続ける。


「基本的に、桐生院家に仕える者は、総員桐生院家のファンでもあります。過剰なご褒美はむしろ毒となりますので、程々に願います」


 待って。

 意味が分からない、待って。

 なんなの? それでいくと、桐生院家で働いている皆様、総十三なの? 止めて、心が休まらない。


「なお、山川の者はファンではありません。崇拝者です」


 なお悪いわ。ドヤ顔すんな十三。ルネと張り合ってんのか?

 ……まあでも、芸能人より顔が良いとかいう一族だし……分からなくもないか。いや、十三じゃなくて、他の使用人さんたちが桐生院家のファンだってのよ?

 そもそも前世でゲームとしてプレイしている時は、私だって紫朗好きだったし。今もダディやマミィになら、内心キャーキャー出来るもんね。

 喜んで貰えるのなら、良い……のかな? 後で十三の言う通り、微笑んで頷くか……。


 そんな話をしつつ、私たちも藤岡さんの運転でお家へ帰る。今日もありがとう、藤岡さん……あれ? 藤岡さんも我が家のファンなのかな? 分からないけど、微笑んだだけでお礼になる可能性があるなら微笑んでおこう。

 私は頑固な紫朗の表情筋を動かし、少しだけ微笑むことに成功した。藤岡さんも少し微笑んでくれた。

 良かった。少し気持ちが通じた気がする。十三が後ろで歯噛みする以外は、本当に良かった。止めろ十三、「私もあまり微笑んでいただけてないのに」って、聞こえよがしに言うな。敢えてやらないようにするぞ?

 騒ぐ十三を無視して、応接室へ向かった。着いて少しした辺りで、十三の元に『へ』の五さんの連絡が届く。


「紫朗さま、どうやら大蔵は動きをみせたようです」


 お。動いたか。


 十三の説明によると、予想した通り、直接大蔵が出てくる事はなかったらしい。

 だが、車はハッキングを受けたようだ。


「車が真っ直ぐ立石家に到着した事で、それ以上の接触は無かった模様。本日もし接触があるとしても、立石雫本人への様子窺いになるかと思います」


 そうだよね。まず本人に聞くよね。

 ここで雫が噂の全てを肯定すれば、もう大蔵も動くしか無かろうよ。問題はその手段くらいだろう。

 そして、大蔵が動く為に情報を集めても、出てくるのは雫の言葉が本当だと思えるものだけ。


 雫のお家は、小さいながらも会社を経営している。そしてその取引先の一つに、谷田の系列企業があるのだ。

 この状況で、婚約は谷田側から「娘さんさえよろしければ」の形で申し入れ。

 まだ本格的なものでは無いものの、雫側から断りにくいお話なのは事実だ。このままいけば確定する。


 権力で従わせたように、見えなくもない。


 実際はまだ口約束だし、大蔵次第で谷田側から解消する予定なので、そこまで圧力をかけているわけではないのだが……それは外から分かる事情ではない。


 大蔵を勘違いさせる事が出来れば充分だ。


「帰宅後の事は、『へ』の五及び立石雫からの報告待ちです」


 すぐに動きが見えたから、初日としては悪くないかな。恋する高校生男子としては慎重すぎませんかってツッコミたいけど、それが大蔵の個性でもあるからしょうがない。


 それにしても、周りが優秀だなぁ……今回の事で紫朗がやった事なんて、谷田に連絡先を教えたくらいだもん。

 いや、紫朗も優秀だよ? 本気出せば色々頭には浮かぶし、記憶力も良いし、動けば機敏だし。

 生憎中身が……それを動かすに値しない性格なだけでさ……。

 結局駄目だわ。性能の良いポンコツだわ(紫朗)

 少し落ち込んできたのが気配で分かったのか、十三が優し気な顔を向けてくる。


「紫朗さまは、存在そのものが至高なのです。そこにおわすだけで人々のやる気を増させ、能力以上の働きを出せるのです」


 止めて。優し気に言っているけど、それは危険な思想だから止めて。ちっとも慰めにならない。あとルネ。いつの間に来たのか知らないけど、十三の後ろでキラキラした目で深く頷かないで。

 ルネに気付いたら、彼はスッと自然かつ滑らかな動きで、私の前に跪いた。


「ただいま戻りました」


 あ、ハイ。おかえりなさい……ん? ルネのお家はここじゃないよ? これ、おかえりで良いのかしら。いや、それより何で跪いてんのこの子。

 ……ルネが立ち上がってくれない。そしてキラキラした目で見上げてくる。なにこれ。

 すると、十三がそっと耳打ちしてきた。


「褒めてあげてください」


 良く分からないが、ルネが働いてくれたのは確かなので、取り合えず頭を撫でた。ルネ、えらいえらい。

 そこに、カメラの連写音が響く。

 十三だ。

 十三が、何故かカメラを構えて、すごい執拗に様々な角度から撮っている。お前いつからカメラマンになった。っていうか、何故今撮る。連写音えげつない回数だけど、容量どんだけ使ってんの?


「素晴らしい……素晴らしい光景……神が天使を愛でている……生ける芸術……」


 息の荒い十三が、ハアハアしながら呟いている。やべぇな十三……めっちゃ怖い。

 ドン引きしてルネの方に視線を向けたら、ルネは「我が人生に一片の悔いなし」みたいな顔で涙を流していた。

 駄目だ、こっちもやばい。助けて。この子たちどうしたら良いの……。

 逃げ場を探した目が、自然とドアへと向かう。

 そのドアが、バーンと音を立てて開いた。


「お兄さまー、来ちゃったー!!」


 途端、弾丸のように突っ込んでくる千代。避ける事は紫朗の反射神経なら可能だが、これを避けると確実に面倒臭い状況になる。

 結果、私は千代のタックルを全身で受ける事となった。しかもそのタックルからの締め付けがすごい。殺しに来ているのかと疑うレベル。何この可憐な顔のゴリラ。

 前方にルネ、胴体に千代、周囲に十三。

 ……駄目だこれ。逃げられない。

 諦めかけたその時に、千代が開け放ったドアの方から、救いの神が訪れた。


「千代さま、そんなに絞めては紫朗さまが苦しそうですよ。ルネさまはほどほどに、兄さんは控えましょうね」


 二三ちゃんのその言葉に、三人はやっと普通に立ち上がってくれた。助かった。二三ちゃんは救いの女神様だ。

 ありがとうの気持ちを込めて見詰めると、通じたらしい二三ちゃんがにっこりしてくれる。

 有難い……脳内で拝んでおこう。

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