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「紫朗さま、お食事のお時間です」


 色々考えこんでいたら、十三が迎えに来た。

 もうそんな時間か。


「分かった」


 私は思考から復活した。

 ゲームに関してのデータは、全部頭の中でまとめるようにしている。

 だってね、十三って無駄に優秀なのよ。紫朗のストーカーだから、下手に証拠残すと嗅ぎつけられちゃうの。パソコンで暗号化しても解読されるだろうし、物理的に鍵をつけても開けられちゃうと思う。

 紫朗に忠実だからバレても大丈夫……とは言い切れない。頭がおかしくなったと思われる事は無いだろうけど、気を使って余計な動きをして、逆に大惨事になる可能性だってある。ゲーム補正なんてものが存在したら危険だし、知られずに過ごすのが無難。

 既に執事服に着替えている十三に扉を開けてもらい、部屋を出る。現れるのは、無駄に長い廊下だ。

 このお屋敷はかなりの広さだけれども、私は基本、自室に引きこもっている。自室にバス・トイレ完備なので、それ以外で使うのは食堂・大浴場・応接間くらいだ。応接間は複数あるので、どこを使うかは十三に任せている。

 部屋数、いくつあるんだろう。正直分からない。広すぎだからね、このお屋敷。


 そんな事を考えていたら、食堂に到着した。


「やあ、紫朗」


 あ、珍しい。イケメンダディが居る。

 声をかけてきたのは、紫朗の父親。どこそこのパーチ―に呼び出されてご挨拶して軽く食べて……みたいなのばかりだから、ダディが家で食事するのは珍しいのだ。


 儚げな美貌の紫朗とは違い、大人のお色気たっぷりなダンディである。最近白髪が出てきたんだけど、メッシュ入れたみたいに綺麗に一か所にまとまって入っているのよね。それが天然物だっていうんだから、驚きだよ。しかもこの人、ゲーム未登場だからね。画像設定無しでこの美貌。意味分からんわ。


 ダディの横には、麗しきマミィ。紫朗の儚げな感じは、この人に似たらしい。ロシア系クオーターで、全体的に色素が薄い。だけど瞳の色は紫朗よりも濃いの。瞳だけはダディの色味貰っているんだよね、紫朗。この瞳の色は父方の遺伝っぽいわ。


「背が伸びたかい?」


 ダディがにこにこと話しかけてくる。

 この人こんなコミュ障の息子を、こよなく愛してくれているのよね。ちょっとなんかやっただけで大げさに反応して、滅茶苦茶喜ぶの。

 それなのに最近あまり会えなかったから、寂しかったのかな。紫朗見てテンション上がっている。


「はい」


 頷くと、ダディは全身から嬉しいをダダ洩れさせた。


「そうか。じゃあ、もう私の身長を抜いたかな」

「まだです。旦那様の身長が180cm、紫朗さまは178cmです」


 ダディの発言にかぶせるように、十三が答える。

 十三は何故か、ダディにライバル意識を持っているらしい。いつも『紫朗の事を一番知っているのは私ですマウント』をとる。

 やめたげて、一緒に居る時間がどうしても違うんだから。

 主に対して失礼な行動だと思うんだけど、ダディは少しシュンとするだけで怒らない。何故同じ土俵に上がるんだよ、ダディ。


「私は高校卒業後も身長が伸びていたからなぁ。この後きっと抜かされちゃうな」


 嬉しそうに言う辺り、どうも息子に身長抜かされたいらしいです。

 うん、多分大丈夫じゃないかな……紫朗エンドの場合の大学生編が小説で発売されていたけど、紫朗の背が伸びてたし。

 あ、内容はヒロインとイチャイチャしているだけだったので、この小説はヒロインを避ける為の資料にはならないです。残念。


「もう私は抜かれてしまったから、寂しいわ……」


 マミィが寂し気に微笑む。

 元々の儚げな美貌と合わせると、凄い破壊力だわ。何この人。これで十七の息子がいるとかおかしくないか? この人もゲーム未登場だと思うと、この世界が心配になるよ。美形多すぎだろ?

 十三は満足気にマミィと私を見ている。

 何せ、紫朗の顔を気に入っているわけですから。良く似たマミィの顔も大好きなわけですよ。だからマミィと紫朗が同時に視界に入ると、十三の機嫌が良くなるわけです。うわぁ、怖い。

 いやー……男に生まれてマシだったかも。これでマミィ似の女の子に生まれたら、絶対十三に攻略されているよね。怖いわー。


 それにしても、この部屋の顔面偏差値高すぎる。桐生院一家はもちろん、十三もかなりの美形だからね……全員の顔面から圧が凄い出てるわ。さすがに慣れたけど、おっそろしい世界。


 食事が終わって部屋に戻ると、スマホが鳴った。二三ちゃんからのメッセージだった。


『紫朗さま、明日の入学式楽しみにしています!』


 二三ちゃんは十三と違い、まだ桐生院家で働いていない。高校卒業後、メイドになる予定。

 山川家は代々桐生院家に仕えていて、このお屋敷のどこかに住んでいる。多分一階だと思う。確か、使用人の方々は一階の奥の方にお部屋があったはずだから。んで、使用人用の出入り口があるから、会おうと思わなきゃ会わないのよね。同じお屋敷なのに。

 出会い以降、二三ちゃんは普通に懐いてくれた。おっとりさんで千代みたくガツガツ来ないので、私でも安心して一緒に居られる。二三ちゃんは怖くない。

 家族以外では、一番普通に接する事が出来る相手かも。

 従者の妹っていうより、幼馴染って感じかな。


 二三ちゃんも、千代と同じく味方になってくれそうよね。私は性格上、自分から色々お願いとか出来ないんだけどさ、二三ちゃんなら多少は会話出来るし。

 中学も一緒だったけれど、卒業式の時は事前に紫朗ファンを止めてくれてたんだよなぁ。私がコミュ障って知っているから、殺到しないように注意していてくれたみたいでさ。

 高校でも、同じようにしてくれたら助かるなぁ。

 私はそんな期待を込めて、返信した。


『僕もだよ』


 紫朗の一人称って、普段は『私』で、親しい人には『僕』なの。一応ゲームになぞって同じにしてみてる。気持ち的には、僕っ子だった痛々しい時代を思い出して辛いんだけど。

 二三ちゃんからにこにこ笑顔とおやすみのスタンプが返信されたので、『おやすみ』と返してやりとりを終了した。

 うん……まだね、スタンプは使えない。なんか、私如きがスタンプ使うの、おこがましいかなって思っちゃうんだよね……。


 私はスマホを持ったままベッドに転がり、天井を眺めて考える。


 ストーリー上、入学式でヒロインは紫朗の存在を知る。そこから紫朗を落とすには、先に十三を落とす必要がある。

 だが、「君尻」には、学園物お約束の生徒会が出てこないのだ。その他にも、攻略対象が一気に集まっているお手頃な場所が無い。

 学園内のキャラを落とすには、攻略キャラを探すところからスタートする。そのキャラが現れる場所で、出会うところから始めなければならない。


 紫朗が最難関な理由は、まず出会えないから。


 三年の教室に一年が行くなんて行為は、当然、ライバルキャラに止められる。紫朗と十三は部活も入っていないので、接触する機会が無い。

 その状態で接触できる場所は、たった二つ。


 一つは校門だ。

 それも常に二人一緒なので、ガードが堅い。十三は傍に紫朗がいる限り、紫朗最優先だ。例え自分に好意を持って寄ってくる女子であっても、決して近付けさせない。

 十三が病気や怪我で倒れでもしない限り、ここで接触するのは難しい。


 もう一つは、移動教室だ。

 理科室や家庭科室、音楽室。

 この辺は全学年で使用する。休み時間に移動する為、他の学年であっても出会う事は出来る。

 ゲーム上でもこちらで接触するのが、一般的な攻略方法だ。ある程度他のキャラを攻略していけば、時間割を入手できるので、待ち伏せして出会うのが王道。


 どちらにせよ、明日いきなりヒロインから接触される事はあるまい。時間割入手もそこそこ時間がかかるだろうから、当面は引きこもって大人しくしていれば安心……な、はず。


 私はそこで考える事を止めて、シャワーだけ浴びて寝る事にした。

 明日は入学式で、大勢の前に立つのだ。下手に寝不足になんかなったら、変な色気が出てしまう。ちゃんと寝ておかないと、方向性の違うファンが出来かねない。

 ……性格変わらないなら、普通の外見が良かったな……。美形、思ったよりツライ……。

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