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 問題は、大蔵側より雫側だ。

 大蔵を落とすためには、ノーマル雫でなければならない。ギラギラ前世さんバージョンだと、逃げちゃう気がする。逃げなくても、失敗に終わる確率が上がりそうだよね。

 失敗しても前世さんは気にしないだろうけど、雫本体は落ち込んでしまう。そうしたら、もう一回挑戦……とはいかないものだ。コミュ障でもそのくらいは分かる。前世の私にも一応あったんだよ、青春時代。


「……君が、出てくる条件はあるの?」


 前世さんに問いかけてみると、彼女は「新規ボイス」と言いながら答えてくれた。その顔は、なんだかとっても不思議そうだった。


「出てくるも何も、ずっといるよ?」


 随分不思議そうな顔したなぁと思ったけど、答えを聞いて納得だ。

 なるほど……そうだよね。私だってずっと私だ。早いところ記憶が戻ったせいで違和感無くなっているだけで、今更戻ってたら私も雫みたいになっていたのだろう。性別が違う分、もっと酷かったかも知れない。


 ……と言う事は、暫く経つとこの子もこの二重人格感は消えるのかな?


 私たちの会話を聞きながら、十三が何か考えているような顔をしている。

 十三は私が視線を向けた事に気付くと、言っても良いかと視線で問うてきた。もちろん良いので、軽く頷く。


「前世の記憶どうこうは理解出来ないので置いておくとして……ようは、ギラギラしていなければ良いのですよね?」


 私はもう一度頷いた。

 多分、問題点はそこだ。この前世さん、気配が怖い。城之内なんて、ちょっと精神的に参るくらい怯えていたもんね。

 幼女以外は女として見ないティーチャーですら、前世さんの雰囲気に駄目出ししている。彼女のオーラは、攻略キャラには脅威でしかない。

 十三はちらりと雫を見た後、私に視線を向けた。


「大蔵の前では、しないのではないでしょうか?」


 ……ん?

 それはどういう事?

 首を傾げる私に、十三が付け加える。


「その……彼女から見て、想い人なのですよね? ならば、我々に対する態度とは自然と変わってくるのでは?」


 ……んん?

 雫に視線を向けたら、「あらやだ」みたいな感じに頬を両手で抑えている。恥ずかしがっているせいか、ギラギラ感が無い。

 おやー?

 ギラギラ感は無いけど、雰囲気は前世さんのまんまだなぁ。


 そういえば、雫がノーマルモードに落ち着いたのは、大蔵の事を話したからだった。大蔵への恋心で落ち着いたのだ。

 雫の話でも、大蔵に怒られて正気に返ったり、落ち込んで前世さんが暴走したり、行動がほぼ大蔵絡みになっている。


 そうか。

 余分な記憶があるだけで、感情は雫のままなんだ。あくまでメインは雫で、前世さんはオマケ。

 ……私も前世部分がメイン活動しているようで、本当は紫朗メインなのかな……いや、これを考えるのは後にしよう。自分の事考えてたら進まないわ。


「普通に告白すれば、普通に受け入れられると思います」


 十三の言葉に、その場の全員が頷いた。

 ノーマル雫ちゃんはまだ不安みたいだけど、大蔵って周りから見て、明らかに雫が好きだもんね。

 ……あれ?

 でも、それだとおかしくない? 前世さん、大蔵が雫を好きだって気付いているよね。普通に告白すればいけるのならば、前世さん、もう動いていてもおかしくないのでは?


「ただ、問題があるとすれば」


 ですよね。

 私が気付いたくらいだから、十三も言いながら矛盾があるって気付いたはず。ついでに、私より詳しく予想出来ているんでしょうよ。

 十三は腕を組んで、難しい顔をしながら言う。


「……私の知る限り、大蔵という男は……ちょっと難しい性格だと思われるのです」


 十三って大蔵と知り合いだったっけ?

 ……違うか。調べたんだ、雫絡みで。それで気が付いた事があるのかな?

 十三の言葉に、雫が頷いている。十三は眉間に皺を寄せて、うまい言葉を探すように続けた。


「なんでしょう……こう……相手から先に言われると、拗ねてしまうような気が」

「そう、それ」


 十三が絞り出すように口にした言葉に、雫が食い気味に同意した。


「私もそんな気がするから、自分から言えなかったのよね」


 そうか……前世さんが動かなかったのは、そこが理由か。

 前世さんが動いていないようだからこそ、大蔵は前世さんを避けるだろうと思っていたんだけど……そうじゃないのなら、原因は大蔵側かー。

 なるほど、ノーマル雫も言ってたもんな。ゲームの知識が使えないって。

 ゲームの知識が使えるのなら、大蔵はチョロキャラだ。発見までが難しいだけで、落とすのは簡単だった。幼馴染という美味しいポジションでそれが出来なかったのだから、当然、チョロくなくなっているという事だ。


「告白するのではなく……させなければならないわけですね」


 十三の言葉に、全員が唸った。

 相手に言わせるというのは、とても難しい。言う言わないは性格次第なところが大きい上、大蔵はその性格も向いていない気がする。

 だって、既に明らかに両思いじゃないの。それでまだ言っていないんでしょう? 望み薄じゃない?


「そこで私が思いついた方法は、いくつかあるのですが」


 十三が続けた言葉に、私は視線を向けた。

 すげぇなお前。この状況ですぐ方法思いついたのかよ。さすがだな。コミュ障の私には無理な芸当だよ。

 気配だけで褒められたのを感じたのか、些かドヤ顔の十三が言う。


「まず一つ目は、『嫉妬させる』。彼女が他の男に取られそうになったら、少しは慌てるかも知れません」


 なるほど。良くある作戦だけど、それは有効だからかな。幸いここは男ばかりだから、作戦も実行しやすかろう。


「二つ目は、『追い詰める』。一つ目と似てはいますが、より切迫した状況を作ります。失敗した場合のリスクが高くなりますが、言わせられる確率も上がります」


 その方法は分からないけれど、確かに追い詰められれば大蔵も動くかも。実際、雫が捕まりそうになったら動いたもんな。嫉妬させるよりは有効なのでは?

 そんな考えは、続く十三の言葉で吹き飛んだ。


「なお、こちらを選ぶ場合の『切迫した状況』には、この中の誰かと婚約させるのが良いかと」


 ブフォォっと、吹いた音がいくつも響いた。私も紫朗ボディじゃなかったら吹いていた。言いたい事は山ほどあるけど、とりあえず一番吹いているのがヒロインの雫なのが大問題。もうちょっとヒロインの自覚を持って!


「あ、紫朗さまはダメですからね。私が許しません」


 馬鹿野郎、お前が許す許さないの問題じゃないぞ! というか、問題はそこじゃないからな!!


「僕も駄目です! 僕には咲が!!」

「俺もダメ。俺はありすちゃん一筋って言ってんだろ!」


 そう、この二人はさすがに無理だ。特にルネは止めてあげて。ティーチャーは半ばどうでも良いけど、さすがにルネは可哀相。

 城之内の方をちらりと見ると、「名指しされたらどうしよう」と思っているのがバレバレの表情をしていた。それが捨てられた子犬のように見えてしまい、城之内も選べない。

 だってこの子、選ばれたら泣いちゃう。泣いちゃうくせに、言いつけ守っちゃう。それは可哀相だから止めてあげて……。

 こうなると、選べるのは十三と谷田だけになる。


「俺が適任だと思います!」


 はいっと全身を使った挙手で、谷田が立候補する。皆が嫌がる中、まさかの立候補だ。横で城之内がホッとしている。

 今回に限り、良い仕事したな……谷田。


「そうですね。最初に彼女に近付いたのは彼ですし、一番適役でしょう」


 十三も頷いている。

 そういや、雫の話にもあったな。なら、教室まで押しかけた姿も目撃されているし、雫を様付けしているのも知られている。大蔵がその情報を得ていないわけもなく、既に繋がりがあるなら、そこを利用するのが一番だろう。

 ……当の雫が凄く嫌そうで、ちょっと可哀相だけど。


 あ、でも「それでこそ」か!

 雫が嫌な相手と婚約して、それを助けに入る王子様が大蔵……王道じゃないの。

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