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 参考までに、今までの流れを雫側から説明してもらった。


 何と、彼女に前世の記憶が蘇ったのは入学式の前日だったらしい。


 そもそも『雫』は大蔵が好きで、それで同じ学校である桜峰を目指していた。ところが前世の記憶で他の攻略キャラの事を思い出し、妙に『近付かなくては』という気持ちになったと言う。それは紫朗を見た時に最高潮に達し、気付いたら十三にアタックをしかけていたそうだ。


「……あれを、無意識で」


 十三が「やだこの子逸材……」って顔で見ている。前も言ったよ、雫は草の者にはしないからね。

 凄い恐ろしい動きだったけど、あれは転生でパニクった行動だったのか……。

 私は転生に気付いた時、まだ五歳だった。それでもそこそこ混乱したもんなぁ。五歳だったからこそ許されるような、恥ずかしい行動もしたよ。

 そこから更に十年分の記憶が追加されていたら、もっと混乱するよね……。人格二つあるのと変わらなくなるもん。混乱しててあの動きなら、むしろ褒められるべきか。いや、凄い怖かったから褒めないけど。


 雫は元々大蔵に近付く為に勉強していたので、異様に機械関係に強かった。その技術で用意していた発信機により、紫朗の居場所を大まかに特定。

 なお、この途中で谷田に遭遇している。陸上部へのスカウトを物凄く冷たく断ったところ、谷田は下僕と化した。これにより、前世の記憶は正しいと思ったと言う。


「いやぁ……」


 照れんな谷田。何故照れる。別にお前のお陰ではない。むしろお前のせいだ。

 この確信のせいで前世の記憶の方が大きくなっちゃって、雫は暴走し始めた。大蔵のところに駆け込み、ドローンをレンタル。紫朗の家に入り込み、覗きを敢行。


 ここで十三も「お前のせいか」という目で谷田を見始めた。

 止めなさい、その目は谷田が喜ぶだけだから。無視しなさい。


 まあ、結局覗きは失敗。大蔵にも怒られてしまい、雫は少し落ち着いたそうだ。

 だけど翌日、下僕化した谷田が教室に登場。雫を『様』付けで呼び、勝手に三年の授業の情報を垂れ流し始めた。


 谷田、お前……。


 全員の視線が谷田に向かった。

 その目が「お前のせいだ」と訴えている。


「その視線……ッ」


 身悶えるな谷田。というか、お前本当になんなの? 雫が落ち着いたら、お前が一番アウトでは? 正直、一番アウトはティーチャーだと思っていたよ。侮っていてごめんな。今後もうちょっと丁寧に無視するわ。


 谷田のせいで、雫は再び暴走。取りつかれたように『近付かなくては』と考え、また紫朗の元に現れたと言う。

 ついでにここで草の者の存在を知り、以降、鬼ごっこを繰り広げたそうだ。それなりに楽しかったらしい。止めてあげて、彼らは仕事だったから。


 他の攻略キャラも落としておかないとと、雫は彼らに声をかけ始めた。だけどすぐ彼らにも草の者が付き、接触しにくくなった。

 ならばと手を変え、セキュリティの穴を突き、ハッキングに成功。


 あれは怖かったわー……。完全にホラーだったよね。ジャンル間違えたかと思った。

 実はこの時のメール……私は読んでないし、十三も即座にスマホ捨ててたけどね。あれ、ちゃんと読むと『前世の記憶らしいものに苦しんでいる』って書いてあったらしいよ。紫朗なら読み解ける、簡単な暗号にして隠してあったんだって。

 ちゃんと読めば、もうちょっと早めに解決していたのかな……いや、凄い怖かったから無理か。


 このハッキングは、関わった人数が多すぎて大ごとになった。さすがにヤバいと思ったところで、大蔵が事前にデータを弄り、わざとらしく雫に証拠を集めてくれたそうだ。

 報酬として、取得したデータは全部大蔵行き。でもそのおかげで手元にデータも無く、雫も警察で言い訳しやすかった。

 その後の警察の対応は、こちらも知っての通り。


 うん、十三が暴れてたやつだね。実際はこの通り真っ黒なんで、捕まえて欲しいところ。千代が可哀相だったから、この件は許していない。

 あの時のデータ……大蔵は悪用しそうだなぁ……ゲーム内のキャラ設定のままだったら、絶対する。というか、データ入手したって事は悪用する気満々だろうなぁ。


 大蔵が助けてくれた事で喜んだのもつかの間、彼が助けた対価を求めてきた事で、元の雫は意気消沈。これで前世の記憶の暴走っぷりが悪化。

 この頃、草の者との鬼ごっこで妙に身体能力が上がった為、わざと城之内をからかい始めたらしい。


「……からかっていたの、か」


 あ、あ、城之内が落ち込んだ。止めて、うちの子デリケートなの! あの時凄く怯えてたんだからね!

 シュンと落ち込む城之内を、ルネと十三が雑に撫でている。雑だけど、すぐ撫でるのね。それで城之内もすぐ機嫌回復するし。本当に仲良いな、お前ら。さみし……いや、良い事です。良い事……。


 こちらが城之内を手駒にしようとしている事、既にルネが手駒になっている事に、雫はここで気が付いたという。その時、暴走する記憶の方が『名案!』とばかりに、紫朗ハーレム妄想を始めた。

 ……そして、現在に至る。


「なるほど……ところで一つ質問があるのですが」


 これまでの流れを大体聞いたところで、十三が首を傾げた。


「前世、とは?」


 ……ああああ、そうか。そうだった、そうだったね。私は分かっているけど、まあ、普通は「何言ってんのこの子」だよね。だから私も十三に言わなかったんだし。

 雫は眉間に皺をよせ、少し困ったような顔をした。


「生まれる前の記憶よ……ここと似たような世界で、この……今のこの学校の事を、ゲームで遊んでいたの」


 その場の空気が、しん……と静まる。

 全員が「何言ってんの?」から「え、それってこの世界がゲームの世界だったってこと?」って考えになり、最後にまた「何言ってんの?」になっているのが分かる。

 私もそう思うよ。自分にも前世の記憶が無かったらね。


 でも、今、言える事はある。


「そのゲームと、完全に同じでは無いんだろう?」


 私の言葉に、雫が顔を上げた。

 ギラギラしていない、大きな目で真っ直ぐ見てくる。


「……君は、大蔵が幼馴染のルートは見た事が無いと言っていた。その後の事も、予想外だったのが分かる。……ならば、同じでは無いんだろう?」


 雫は頷いた。


「そう、同じじゃないの。……斉史も、振り向いてくれない」


 頷いた動きのままに俯いて、雫の声が小さくなっていく。


「記憶の中にある方法……あれは使えない。だって、斉史はマザコンじゃないし」


 あ、マザコンじゃないんだ!?

 まあ……うん。雫の幼馴染の時点で設定変わっててもしょうがないか。でももしかしたらマザコンで、幼馴染の雫には格好つけて隠しているだけでは?

 あれ? でも待って、おかしいぞ。


「……気のない男は、言う事など聞かないと思いますが」


 ルネがぽつりと呟く。

 そう、それ。恋愛中の男が言うと説得力あるなぁ。

 さっき暴走していた時、雫は大蔵の事を便利って言っていたよ? 便利使い出来る時点で、相手はその気では? せっせと尽くされているのでは?


「……え、あれ? でも、必ず見返り求められるし」


 雫も首を傾げている。

 ……んん? もしかして……前世の記憶の、ある意味第三者目線があると分かるやつ?

 そう思ったところで、雫の目が妙にギラギラしはじめた。


「サイシー、すっごい照れ屋なのよ。必ず言う事きいてくれるクセに、報酬求めるフリすんのよね」


 ……あ、前世の記憶さんだ、これ。

 分かりやすいな。前世の記憶が出てくると、あのギラギラアイが装着されるのか。

 これ前世の記憶っていうか、完全に別人格じゃない。うわぁ、大変そう……。雫の周りも大混乱しただろうなぁ、この状態。私、記憶戻ったの五歳で良かったわ。


「その報酬っていうのだって、絶対こっちの不利になるようなものじゃないの。嫌よね、年頃の男の子は見栄張っちゃって。可愛いったらないわ」


 あ、止めて。前世の記憶さん、それ以上はダメ。

 周り、その『見栄張りたい年頃の男の子』ばっかりだから。みんなひっそりダメージ受けているから。その辺にしてあげて。

 あと一人、ダメージ受けて身悶えて喜んでるのが居るの、本当に辛いから。


「面倒臭いなぁ……その子がギラギラしない状態で抱き着いちまえば、もう解決すんじゃないのー?」


 年頃の娘さんに全く興味のないティーチャーが、言葉のまんま、面倒臭そうに言った。

 内容は教師として些か問題ある気がするものの、私としては同意しかない。ノーマル雫でぶつかれば、大蔵は豆腐より簡単に崩れると思う。


 よし、ティーチャーの意見採用。

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