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 仲間にしてみると、ティーチャーは大変に優秀だった。予想外である。

 でもまあ、ルネも仲間にしてみたら予想以上に強かったもんね。ティーチャーにもなんかあって当然かも。


 ティーチャーね、捕まらないようこっそり幼女を愛でる為、異様に隠密スキルが高かったのよ。

 凄くない? あの顔で目立たなくなるんだよ。マミィや十三ママみたいに、美しい背景になるの。その能力あるとうちのメイドになれるよ! お前みたいなメイドはお断りだけどな!

 あと、同好の士とのネットワークが存在して、ありとあらゆる分野への連絡が付くんだって。対価は必要とはいえ、お願い事も可能。しかも、それが全て内密に行えるんだから、分野によっては大蔵並みの便利さ。


 教師としての権限程度しか期待していなかったから、これは大収穫よね。これで対価が紫朗の幼少期の写真じゃなければ、もう少し心から喜べるんだけどな。


 あ、十三の持っている写真は全部没収しましたよ。部屋にある分もね。でも、対価アイテムとして出てくるのは紫朗の写真です。

 ……おのれクラウド保存。

 データで保存されていたから、無意味でした。無念。

 何やっても対策されそうなので、もう諦めていますよ……。


 ティーチャーを仲間にしたことで雫からの接触があるのでは?と警戒していたんだけど、今のところその様子はない。草の者の頑張りもあり、大変平和に過ごしている。

 本日は再び我が家で作戦会議だ。なお、新しい仲間であるティーチャーは居ない。彼は職員会議中である。


「紫朗さま、あの小野寺先生ですら便利なのです。もしや、谷田も使えるのでは?」


 十三に『あの』扱いされているぞ、ティーチャー。だが同意しかない。私も『あの』ティーチャーが使い物になるとは思わなかった。

 ゲームには無かった裏設定のようなものが、総じて使える気配なのよね。

 でもドエム……ドエムにどんな使い道が……? ドエムの裏設定……?

 考え込む私に、ルネが手を上げながら言う。


「はい! 紫朗さまがいらっしゃれば、谷田先輩もイチコロかと思います!」


 ルネきゅん、もっと成長して。前回と変わってないよ? 十三、満足気に頷くな。城之内、メモしない!


「実は私、谷田を手駒にする秘策がございます」


 十三が得意満面で言う姿を見て、嫌な予感がした。

 この流れは知っている。どうせまた紫朗の何かで釣るんでしょう? ……でもドエムは写真じゃ釣れなくない? 罵声も嫌だよ。紫朗の立場があるもん。……これはそもそも十三がやらせるわけないか……何するの?

 私の不安を察したのか、十三が安心させるように微笑む。


「大丈夫です。紫朗さまは声を荒げる必要も、暴力を振るう必要もございません」


 何でだろう。益々不安。

 だって谷田ってドエムなんだよ? そのドエムを引き込むのに、何もしなくて良いとか……あ、もしかして十三? 十三が動くの?


「今回は私が谷田を引き込みますので、紫朗さまはご確認だけお願いいたします」


 あ、やっぱり十三がやるんだ?

 そうだよね。私、怒鳴ったり暴れたり出来ないもん。その点、十三ならぴったり。

 想像出来るよ、十三が罵詈雑言浴びせている姿。特に声を荒げる事も無く、視線と声の調子だけで翻弄するんでしょう? っていうか、ゲーム内でそんなシーンもあったな。フルボイスだったから、十三の声やってる声優さんのファンが「ご褒美です」って喜んでいたっけ。


「俺、見学して良い? ですか?」


 城之内が手を上げる。

 え、お前……十三が誰かを罵っているのを見たい系? お前も谷田と同じなの?

 ちょっと心配したが、違うらしい。


「まだ全然、紫朗さまのお役に立ててない。山川の仕事覚えて、勉強したい」


 何それ可愛いな。忠犬かよ。

 あー……ティーチャーも十三も変態だから、凄い癒しだわ。もう充分役立っているよ、城之内! 是非そのままの君でいて。

 ルネはほら。顔は可愛いけど、あの子わりと腹黒じゃない? 何か凄く悪い意味で十三の影響も受けてるし、順応しすぎててさ……。

 諸悪の根源・十三が頷く。


「大変良い心掛けです」


 うん、心掛けは大変良い。ただし、そこの従者を見習っては駄目だ城之内。そいつは狂犬なんだ。城之内は可愛い忠犬のままでいてちょうだい……。


 この日の話し合いの結果、十三と城之内で谷田に接触する事になった。私は待っているだけなので、今回はとても楽が出来る。

 私がいればなんとかなると思っているらしいルネも、特に文句はないようだ。そうだよね。ドエム相手だったら、絶対私より十三が適任でしょう。


 それから当日まで、またも平穏無事に過ごせました。

 ……ティーチャーもこっちに付いたせいで、雫、諦めたのかな? そうだと良いなぁ。あまり期待は出来ないけど。


 当日私がする事は、迎え入れる谷田を確認するだけ。簡単なお仕事ですね。毎回こうだと良いのにな!

 例の如く放課後に話をするとの事で、私は教室で十三を待っていた。傍には護衛代わりにルネがいる。三年の教室内なので、比較的安全だ。

 谷田も三年だから、教室で待っていられるの。本当、今回楽で良いわぁ。


 でもさ、谷田は今までと違うんだよね。今まではまだ雫側に付いていない人ばかりだったんだけど、今回はもう付いている人間なわけじゃない。どうしても裏切りの可能性を考えちゃう。

 最悪の場合、最初からスパイさせる目的でこっちに付かせるって事もあると思うの。実際こっちに国単位のスパイがいる以上、安心は出来ない。

 ……たった一日で、完全に調教済みだったもんなぁ……谷田。本当にこっち来てくれるかなぁ。


 少しドキドキしながら待っていると、教室のドアの向こうに十三の姿が見えた。後ろにはちゃんと谷田がいる。

 どうやら成功したようだ。

 これは思ったより責任重大だぞ。ちゃんとこっちに付いているか、裏切らないか、見分けないと。


「紫朗さま、谷田を連れてきました」


 十三が手で示す先に、谷田がいる。

 赤味の強い茶髪を短くして、全身からオラオラ感の出ている……おや?

 外見は確かに谷田なんだけど、雰囲気が違うぞ? あのいかにもリア充ですって感じのオーラが無い。どうしたの、この子。

 なんていうか……凄く大人しい感じ。それでいてちょっと卑屈で、こう、チラチラッとこちらの様子を窺ってくるの。

 あれぇ? 何故あのオラオラ感たっぷりの俺様具合が消えているの? これが雫の調教の成果? 折角のイケメンが台無しだよ。表情だけでイラっとくる仕上がりだもの。


 どうにも抑えようもなくイラっとして、私は谷田を見ていられなくなった。それで目を逸らしたら、なんか谷田の方から「オオフッ」とかいう妙な声が聞こえてくる。

 オオフ?

 怪訝に思ってもう一度視線を戻したら、谷田が身悶えていた。


「お、おお……予想以上、予想以上です山川くん……!」


 え、なに。何なの?

 谷田の身悶え方が、生理的に受け付けないような、絶妙に気持ちの悪い身悶え方だった。頑なな紫朗の表情筋ですら、拒絶を表すレベルの気持ち悪さ。

 ゾッとした私に対し、谷田が更に身悶える。


「や、やまかわ、くん!! 凄い、凄いです……これは!!」


 気持ち悪さの限界に挑戦するような谷田に、話しかけられている十三が謎の頷きを返した。そして、悶える谷田の耳元で囁く。


「……私の言った通りでしょう。紫朗さまの冷たい視線はその美貌が天上のものであるが故、訪れる絶望も最上級。あなたには最高の感覚のはずです」


 ……囁きなのに、聞こえてしまいました。っていうか、わざと聞かせたよな十三。お前、この間から酷いぞ! 何だその主弄り!

 そして……そしてお前! 何が確認だけだよ! これ、谷田にとっては完全にプレイ!! 紫朗になんて事させるんだ!!


 でも、残念ながら……これで谷田が本気で落ちた事が分かりました。

 この気持ちの悪い身悶え谷田、スチルで見てたもん……。


 ……あと、城之内。メモしない。

 この十三からは何も学ばないで、お願いだから。

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