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 それからしばらくの間は、比較的平和だった。(ヒロイン)が大人しくしているのかなって思ってたんだけど、どうも違うらしい。その後に上がってきた申請で、雫がこちらにこない理由が判明した。


 来た申請は、人員増加希望。


 十三に減俸って怒られた草の者……いのじゅうさんたちね。かなり優秀なのに、それでもきついんだって……雫の監視。

 何でも、彼女がだんだん草の者の動きを覚えてきたとかで、先読みされたり裏をかかれたり、今では逆にからかわれる事もあるらしい。


 お分かりいただけましたか?

 そう、あの女は草の者をからかっていたのです……。


 ……雫は一体どこを目指しているの? 何で草の者より凄くなってきているのよ。恋愛もののヒロインがヒーローより強くなってどうすんだよ。意味が分からんわ。ゴリラか? ゴリラ目指しているのか? 個人的には有りなストーリーだけど、需要はどうなってんだよそれ。


 まあ、とにかく今の人員じゃきついから何とかしてくれって事で、応援要請がきたんだよね。だから雫付きを増やす事になったの。

 本日はその打ち合わせの為、新たに従者になった城之内も交えて会議中。場所は我が家の応接室です。広いし、私の移動が少なくて済むし、セキュリティも万全だからって理由で。お気遣いいただき、ありがとうございます……。情けないボスですまぬ。

 人員配置は、いつもならダディと十三パパで決める内容なんだけど、良い練習だから子供たちだけでやれってさ。一応のお目付け役で、マミィもお部屋にいるよ。相変わらず、気が付くと美しい背景になっているけどね。


 今はルネと城之内が仲間になっているので、二人に付けていたのをそのまま雫付きにする予定。

 問題は人数増やしただけじゃ駄目そうって事かな。雫の読みを上回る人がいないと、結局同じ事になりそう。もうちょっと手が欲しい。

 ちょうど同じ事を考えていたのか、ルネが手をあげて提案する。


「あと、草の者の頭領を出しましょう」


 それを聞いて、私は驚いた。

 基本的に全部十三パパがまとめているんだと思ってたわ。草の者も、メイドや執事たちも。

 でもそうか、そうだよね。会社だって各部門ごとに長を置くもんね。大人数がバラバラだったら、いくら十三パパが有能でも把握出来ないか。納得。


山川七三(やまかわななみ)ですね。良い案です」


 ……ん?

 なんて言った、十三。山川? 七三……って、お前のママの名前では?

 私は十三ママの姿を思い浮かべた。


 あの美少女・二三ちゃんのママだけあって、凄いエレガントな美人さんなのよ。長い黒髪をきゅっと結い上げてて、背筋がしゃんと伸びてて、いつも目がきらきら。こう……少し動いただけで周囲が華やかになったように感じられる人。近付くと薄っすら良い匂いがして、うっとりしちゃう。

 例えて言うなら、深紅の薔薇。

 前世で私が死ぬ前と同じくらいの年のはずなのに、完全に違う生き物だよ。あれが普通の人の基準だったら、前世の私は珍獣でしかない。世の中は理不尽に満ちているわ。

 うちのマミィも綺麗さじゃ大概だけど、絶対的な違いがあるのよね。

 マミィは儚げで消えそうで、実際気配も消えちゃうんだけど、十三ママは存在感が凄い。人の目を集める、強烈な魅力がダダ洩れているタイプなの。


 隠密的な何かが出来るとは、思えないじゃない。


 あとさ、美人が強いのって設定としては美味しいけど、現実としては受け止めにくいっていうかさ……。


 茫然としている私を見て、十三が少しだけ楽しそうに言う。


「母は優秀ですよ。正面から戦えば、ルネでも勝てないですね」


 名前を出されたルネが、神妙な面持ちで頷いている。

 まじかよ、ルネが最強かと思ってたわ!

 そっかぁ……セキュリティって重要なんだなぁ。そんな強い人がいたのに、ゲーム内では侵入されちゃってたんだもんね。改めてルネを味方に出来て良かったって思うわ。


 うーん……息子である十三から聞いても、やっぱり十三ママが草の者の頭領ってのが信じがたい。あんなに綺麗で目立つ人、滅多に居ないからなぁ。

 首を傾げる私に、十三がクスクス笑った。


「私の師匠でもありますから、私には当たり前の事だったのですが」


 おう……すまんな。主なのに何も知らなくて。学校以外はほぼ部屋に引きこもっているから、家の中の事もあまり知らないのよ。本当にすまん。実はお前の住んでいる部屋も知らんのだ、十三。知らなくて良いけどね。部屋の中は知っているから。あ、思い出したくないのに思い出した。くそぅ。


 それにしても、色んな情報が入るようになったなぁ。情報が入るのは嬉しいし、本当は常にこうあるべきなんだろうけど、状態は好ましくない。原因が雫だし。私はやっぱり、お部屋で平和に生きたいわ。


「実は既に室内に侵入し、奥様とお茶を飲んでいますよ」


 慌てて背景に溶け込んでいるマミィを見たら、確かにマミィの正面で十三ママがほほ笑んでいた。私の視線に気付いて、軽く頭を下げて挨拶してくれている。

 うわぁ……本当だわ。あの目立つ美人が、気配殺している……ダダ洩れる魅力って、出したり引っ込めたり出来るもんだったの? すげぇ……ちょっと習いたい。私も出来るかなぁ? あれを紫朗ボディで出来たら絶対便利だよね?

 そんな事を考えていたら、後ろからカタンと音がした。音につられて振り向くと、城之内がびっくりした顔でひっくり返っていた。


「城之内、お行儀が悪いですよ」


 十三にそう言われて、慌てて姿勢を直している。だけど城之内の顔色は真っ青だ。具合でも悪いんじゃなかろうか。

 私が心配して手を伸ばしかけた辺りで、スッとルネが間に入る。


「大丈夫ですよ、紫朗さま。城之内先輩は、この家に化け物クラスが多すぎて腰を抜かしただけです」


 あ、そういう……?

 城之内を見てみれば、確かに小さく震えているようだ。

 十三ママ……エリート育ちのスパイが震えて怯えるほど、凄い人なのか……って、そうか。私だけじゃなくて、城之内も十三ママが入ってきたのに気付かなかったのか。そりゃ怖いだろうさ、いつでも背後取られて殺される状態って事だもんな!


「ほ、ほご、していただけて、良かったです」


 城之内は可哀相になるくらい震えている。うん、我が家敵に回したら悲惨だよね……絶対勝てない相手がいるのに敵対とか、悪夢でしかないわ。

 怯える城之内が、やや上目遣いで紫朗を見る。それはもう、犬がご主人様に助けを求めているような顔だった。

 ああ……駄目だ。その顔は駄目だ。私、犬猫に弱いんです。

 思わず撫でそうになったところで、十三とルネから小さく「ッチ」って舌打ちのような音が聞こえてくる。

 え、お前ら……今、舌打ちしたの?

 何か気に障るような事した?


「はい、良い子良い子」


 すっごい投げやりに、十三が城之内の頭を撫でる。元々ぼさぼさ気味の城之内の髪が、ぐっしゃぐしゃだ。気遣いが感じられない撫で方である。


「はい、怖かったねーもう大丈夫だよー」


 続けてルネも、著しい棒読みで慰めつつ、城之内の背中を撫でる。

 どうも舌打ちは私にではなく、毎度毎度子犬のように怯える城之内にしたようだ。

 お前ら、一応は主の前で舌打ちなんかすんな。せめて隠れてやれ、私まで怯えるだろ。普段は無駄にチヤホヤするくせに、妙なところで手を抜くな!


 それにしても雑。

 二人とも、慰め方が凄い雑。


 こんな雑な慰め方なのに、城之内はふわっと表情を緩めた。そこから、まるでお花畑にいるみたいな、幸せそうな表情に変わっていく。

 えええ……やだ、この子思った以上にチョロくて不憫。意味もなく略してチョロびん。


 城之内の表情が緩んだ事で、十三もルネもホッとした表情になった。その顔は面倒そうでありながら、たっぷりの「仕方ないなぁ」が滲んでいる。呆れているやつじゃなくて、優しいやつの方ね。


 ……なんか知らない間に、君ら交流を深めたようだね。慰め方も素晴らしい連携だし、城之内もすっかり懐いているようだ。

 仲良くて、凄く……さみし……いえ、良かったです……。

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