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「ずるいです」


 ルネの拗ねたような声に気付いて顔を向けると、そこにはふわふわの金茶の髪があった。どうやらルネが頭を差し出してきているらしい。

 え、撫でて欲しいの?


「……ルネ、厚かましい真似はおやめなさい」


 そう言いながら、十三も少し頭を寄せてきている。

 何なのお前ら。撫でて欲しいの? 何甘えてんのさ。良く分からんけど、男の子ってそういう年頃があったりすんの?

 私は疑問に思いながらも、取り合えずルネのふわふわ頭を撫でた。手触り抜群なのよね、この子の髪の毛。猫っ毛なのかな……これはこれでまた、別の方向で未来が心配。

 撫でられて満足したように、ルネはフーンと息を吐き出した。毛だけじゃなく、態度も猫っぽい。城之内が犬っぽいのもあって、両手にもふもふした生き物がいるような気分だわ。


 そこで撫でるのを止めたら、十三がショックを受けていた。

 ……見ないでおこう。

 私の中の何かがね、十三は甘やかすなと言うんだ。あいつはヒロインとは違う意味でヤバいってね。完全に同意だよ。


「帰ろう」


 ルネは今日、咲の方に行くんだって。彼女の苦手な注射の日らしいよ。そのくらいでついていてあげちゃうのか、ひゅーひゅーだぞ!

 十三は肩を落としつつも、藤岡さんを呼んでくれた。

 ただし機嫌はよろしくないようで、一緒に乗せた城之内に、大変当たりが強かった。移動の短い時間の間に、保護はするけど某国のスパイなのは知っている事、護っていたんじゃなくて見張っていたという事まで伝えている。

 十三、大人げない。


「でも……さっき、助けてくれた。自分も怖いのに」


 十三の言葉でしょんぼりしちゃった城之内は、それでも妙にキラキラした目で私を見ている。やや俯き加減なせいで、そのキラキラが上目遣いなのが凄い。さすがだ、これが攻略キャラの力か……。凄い可愛いけど、凄く犬っぽい。


 うーん……これは本格的に懐かれてるね。

 確かにチョロキャラという認識はあったけどさ……助けられただけでこれって、チョロすぎでは? エリートスパイなんだよね、この子。こんなにチョロくて大丈夫なの? 良く今まで生きてこられたなぁ。

 でも、それだけ愛情不足だったって事でもあるか……あ、妙な母性みたいのがまた湧いてきたわ。思わず城之内の頭を撫でちゃう。

 城之内の顔は、『きゅーんきゅーん』と鳴いている犬のようだった。本当に犬っぽい子だなぁ。


「俺、結構修羅場も通ったはずなんだけど……どうしてか、あの女が物凄く怖くて」


 いや、分かるよ。

 ルネの居たスパイアクションの世界と、あの女のホラーの世界は完全に別ジャンルだもの。普通は同時上映も無いレベルだと思うよ。怖くて当然。混ぜるな危険。

 ……乙女ゲームのはずなんですけどね、この世界。


「……それは分かります」


 十三も同意した。

 お前も雫が怖いのか……なのに、紫朗の為に立ち向かってくれたんだね。ありがとう。……さっき撫でてやらなくてごめんな。

 思わず十三も少し撫でてしまって、私はハッとした。


「紫朗さま……!」


 十三が感激を溢れさせて、ぷるぷる震えている。

 しまった、またやってしまった! 構いすぎるとテンションが上がって、後が大変なのに……どうしよう、何か急いで仕事させるか。何か新たな任務でも与えないと落ち着かないでしょう、これ。


「城之内を、よろしくね」


 咄嗟にそう言うと、十三の体が一瞬大きく震えた。

 そこからびしっと背を伸ばし、非常に美しい角度で頭を下げる。車中で座りながらとは思えない、綺麗なお辞儀だった。


「かしこまりました。命にかえても」


 めちゃくちゃキラキラしているところ悪いけれど、そこまでしなくて良いからね?


 その後、家に着いてからの十三は、大変甲斐甲斐しい様子に変わっていた。車中のトゲトゲっぷりが嘘のようだよ。

 まぁ……うん。

 今の城之内は不安いっぱいだろうから、アレで良いかな……当人たち嬉しそうだし。

 私は部屋に戻り、ベッドの上に転がった。


 城之内をこちら側につける事は、なんとか成功した。多分。

 でも、素直には喜べないよなぁ。すっごい複雑な気分。

 懐かれたのは、雫の登場が関連しているんだもの。彼女が現れなかったら、城之内はこちらを信用しなかったに違いない。明らかに不信感丸出しだったもんね。


 雫、何がしたかったんだろう。あの子の考える事は本当に分からない。あの行動に、こちらを振り向かせる何かがあるのかな……理解不能だよ。それとも、一般的な男性はアレで落ちるの? ……無いな。城之内怯えていたもんな。


 考えても答えなど出るわけがなくて、私は無駄に広いベッドをごろごろ転がった。そこに、新しいスマホがメッセージの着信を告げる。


 あ、ルネのお陰でスマホも復活したの。もちろん頑張ったのはセキュリティスタッフだけど、新しい目線は強化にとても役立っていたからね。こうやってメッセージのやり取りが復活して、凄く嬉しい。

 ……紫朗にメッセージ送る人が、千代と二三ちゃんだけとしても。

 親戚と従者見習いだけって、大分酷いのでは……いや、考えてはならない。さっさとメッセージの確認しよう!


 やっぱり、相手は二三ちゃんだった。

 二三ちゃんも今日の計画を知っていたんだけど、知っているだけで計画に参加しているわけじゃなかったのね。それでも雫の動きを止められなかった事をとっても後悔していて、その謝罪のメールだった。


 気にしなくても良いのに……あんなクリーチャー(ヒロイン)、可愛い二三ちゃんに止められるわけないじゃない。危ないから避けててくれた方が良いわ。安全第一!

 むしろ今、二三ちゃんの頭を撫で撫でしてあげたい。あ、紫朗が撫でたらセクハラかな? じゃあ、せめて何か可愛いスタンプかなんかで癒せないかしら……うん、ハードルが高い。無理。


 私は結局、『気にしなくて良いよ。危ないから、あの人に近付かないように』と言う、文字だけを送信した。顔文字や絵文字すら無い。使えないんです、相手の反応が怖くて。うう……。

 一方、二三ちゃんからは『ありがとうございます!』っていう言葉と共に、可愛い絵が泣きながら拝んでいるスタンプが送られてきた。

 んふー、可愛い。お友達とのやり取りっぽい! 相手が従者見習いだけど!

 私はそれにも『どういたしまして』という、つっまんない文字だけ返信をした。そこに二三ちゃんがにこにこ笑顔のスタンプを送ってきて、やり取りは終了。

 あー……良いわ。凄く青春っぽいやり取り……。


 あ、そうだ。

 城之内なら、メッセージのやり取りをしてくれるのでは?


 十三は直にくるし、ルネは電話派なんだよね。大体二人とも従者の位置にいるわけで、お友達とは違うじゃない。

 そこで城之内ですよ。従者じゃなくて、保護している人。ある意味、お客様です。

 やばい、名案すぎる。これで私も対等な相手とメッセージのやり取りして、既読スルーだぜとか言えちゃう!


 ……と思った事がありました。


 良く考えたら、私からメッセージのやり取りしようって言えるわけが無かったんです。最初のハードルが高かった。このハードルを越えられるくらいなら、クラスメイトとやりとり出来ているよね、うん。知ってた!


 その日の晩御飯は城之内も一緒だったんだけどね、全然喋れなかったから。マミィも喋らないし、静かな夕食でしたよ……。


 あとね、私はお喋り出来なかったんだけど、十三は違うみたいでね……なんか……翌日には城之内も従者になってた。

 しかも教育が行き届いていて、すっごい忠犬っぽくなってた。あれじゃもう、お友達っぽいやり取りなんて出来ないよ!

 十三、お前何してくれてんの? 主人の淡い夢をあっさり壊しやがって。返せよ、淡い夢! 叶う事など無かっただろうけどな! うわーん!


 ……心で泣きながら、十三褒めましたよ。

 だって、よろしくねってお願いしたのは私だもん……十三に任せたのが駄目だっただけだもん……。

 ボスつらい。下っ端に戻りたい。



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