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「おう、桐生院」


 校舎を出ようとした辺りで、教師に呼び止められた。

 教師の名前は小野寺康之(おのでらやすゆき)(三十二歳)。少しだらしない雰囲気だが、そこがまた微妙に雄の色気になっているタイプのイケメンだ。たれ目気味で彫りの深い顔立ちで、いつもダルそうな表情をしている。少し長めの髪は癖があり、それがまた、色気を増させる。こんなエロい外見の教師が居て良いのか?と心配になるが、教え方はとても上手い。性格も気さくなので、生徒に人気がある。

 当然の事ながら、こいつも攻略対象だ。


「何でしょうか?」


「明日の入学式、よろしくな」


 そう言って、小野寺は二ッと笑った。可愛げがありつつ、色気むんむんの笑みだった。

 信じられるか? これ、スチルじゃなくて通常の立ち絵レベルなんだぜ? クオリティ高すぎかよ。すげぇな、リアル乙女ゲーム世界。

 私は内心動揺しまくりながら、こくりと頷いた。

 紫朗は無口キャラなので、この程度の対応で何とかなる。足りない部分は十三が動くし、特に問題ない。

 明日の入学式で、紫朗は在校生代表として、新入生へ挨拶を行う。こんなコミュ障にそんな大役任せて良いのかと思うが、何せこの顔だ。顔見せただけで、新入生は満足する。多分何言っても大丈夫だ。一応ちゃんとした挨拶文は作るけどさ。十三が。


「じゃあ、またな」


 紫朗が頷いた事で満足したらしい小野寺ティーチャーが、色気を振りまきながら去っていく。

 私はホッと息を吐き出した。

 正体を知っているから何とかなるが、小野寺ティーチャーの色気はかなり破壊力があってきつい。

 ちなみに、あの人はロリコンです。幼女をこよなく愛していますが、お触り厳禁を貫いているので犯罪にはならないタイプ。

 でもね、ある意味もっと危険だよ。幼女の裸とかパンツとかじゃなくて、純真に子供らしく遊んでいるその姿に興奮するタイプだから。しかも見てるだけで興奮が極まって、ティーチャーのティーチャーがティーチャーするんだよ。意味はそれとなく察して。


 あれだよ。

 あいつが見ただけで幼女が穢れる。

 そんな感じ。


 保父さんじゃなくて高校教師になったのは、まだ理性的だったと言えるわ。いや、分かってんだろうな。保父さんなんか出来ないって。興奮しすぎて死ぬだろう、あいつ。

 私はしみじみ思った。

 二三ちゃんが高校生で良かったと。

 あのウルトラ美幼女だった頃の二三ちゃんをあいつが見たら、大変な事になっていた。二三ちゃんが穢れなくて良かった。本当に。


 あ、そうです。

 二三ちゃん、明日この学校に入学します。ヒロインと一緒に。

 つまり、彼女はヒロインのライバルキャラになりますね。はい。十三ルート用ライバルです。


 でもこのゲーム、ライバルは複数いるけど、悪役令嬢はいないのよ。互いに切磋琢磨して競うせいか、割と竹を割ったようなサバサバした友情を築くの。誰も落とさずライバル達と仲良くなり、会社を興して社長になるなんてエンディングも存在するくらい。


 ……って、そうか。そのエンディングを目指して貰えば良いのでは? いや、他の誰かとくっついてくれても良いんだけどさ。私に向かってこなきゃ、もうそれで良い。


 私は明日からの事を考えて憂鬱になりつつ、十三と一緒に迎えの車に乗り込んだ。

 今日の運転手さんは藤岡さん。我が家に複数いる運転手さんの中で、一番長い人だね。こちらが話しかけなければ、必要以上に話しかけてこない人。なので、私には大変有難いです。それでいて運転は抜群に上手いので、とても快適。

 こんな時は、お金持ちで良かったなーって思う。こんな憂鬱な気分で満員電車とか、苦行だからね。前世では毎日味わっていたけど、あれは本当ツライ。

 ぼんやりしているうち、車はスーッと滑るように我が家に到着。止まる時のガックンがあると酔うから、それが無い藤岡さんの運転最高。

 快適な帰り道に少し気分が上向いて、私は軽い足取りで我が家へ入った。


「お兄さまー!!」


 途端、体当たりを食らう。

 十三が背中を支えてくれたので転倒しなかったが、痛いものは痛い。

 私はそっと飛びついてきた子の肩を押し返した。


「千代……痛いよ」


「あ、やだお兄様……ごめんなさい! お兄様が好きすぎて、つい」


 可愛らしくてへぺろするこの娘は、私……紫朗の父方の従妹の花邑千代(はなむらちよ)。大体お分かりの通り、紫朗ルートのライバルキャラです。この子も明日、桜峰に入学してくるよ! わあ怖い!

 紫朗と違って真っ黒なストレートのロングヘアで、所謂姫カット。顔立ちはその髪型のイメージと違い、西洋人形みたいにおめめくりくり、睫毛びしばし。瞳の色は紫朗と同じく、色素が薄い茶色。身長は165cmくらいかな? 女子としては背が高い方。

 ぶっちゃけ、可愛いです。凄い美少女。性格も基本的に真っ直ぐ正直で、悪くはない。

 だけど、執着が怖いの。出来れば関わりたくないんだけど、紫朗を気に入って滅茶苦茶くっついてくる。怖い。

 あれですよ。大まか、十三と一緒。紫朗の顔が好きなのよ、この子。紫朗の前ではかわい子ぶるけど、見た目に反して凄い脳筋だから。柔道空手合気道、いずれも黒帯だから。体当たりとか、本当ツライ。


「明日からお兄様と同じ学校に通えるから、凄く嬉しいの!」


 そうかい、私は凄く怖いよ。

 まあでも、付き合いが長いからかな。それとも、血の為せる業かな?

 千代は比較的普通に付き合えるのよね。少しならお話も出来るし。執着に対する恐怖はあるんだけど、親戚としての情みたいなものもあるの。だから、そこまで邪険にしようとは思わない。


「……はしゃぎすぎないようにね」


 私が静かにそう言うと、千代は嬉しそうに頷いた。


「はーい! お兄様の従妹として、恥ずかしくないように振る舞うわ!」


 うん、そうやって大人しくしてると可愛いんだけどね。熱烈すぎるんだよね、千代。

 同じ学校になるって言っても、学年が違うからなぁ。ゲーム内でも千代が教室まで来ることはなかったし、それほど心配いらないのかも。

 むしろ、ゲーム内では紫朗の教室まで行こうとするヒロインに注意していたはず。プレイ中はウゼェと思っていたけど、有難いのでは? あれ?


 千代って、紫朗の味方では?


 そうだよ、ヒロインのライバルって言っても、千代と二三ちゃんは別格だよ! この二人は存在が邪魔なだけで、恋敵ではないんだもん!

 血縁者ゆえに攻略対象との距離がヒロインより近くて強敵だけれど、この二人は攻略キャラとくっつくエンドが無い。ヒロインから見て、猛烈に邪魔なだけ。その邪魔も意地悪なものでは無く、全部真っ当な理由で行うのだ。


 ヒロインからどう逃げるか不安だった気持ちに、光がさしたように感じた。これは是非、千代ともうちょい仲良くなって、助けて貰わなくては!

 そう意気込んで千代を見ると、千代はにっこり笑顔を返してくる。


「じゃあ、お兄様に会えたから、お家に帰りますね!」


 私はこくりと頷いて、千代に手を振った。

 ここで引き留めて親密度を上げられないのが、私ですとも。相手の好感度が元々高いのにコレだよ。自分で自分にがっかりだよ。


 千代が帰った後は、十三と明日の入学式の挨拶について打ち合わせをし、部屋に戻った。夕食まではまだ少し時間があるので、その間にゲーム関係者のデータをまとめておく。


 まず、桜峰学園内に存在する攻略キャラ。


桐生院紫朗(きりゅういんしろう)(自分・三年)

山川十三(やまかわじゅうぞう)(従者・三年)

小野寺康之(おのでらやすゆき)(英語教師)

谷田良平(たにだりょうへい)(陸上部・三年)

城之内真(じょうのうちまこと)(美術部・三年)

大蔵斉史(おおくらさいし)(情報部・二年)

鈴原(すずはら)ルネ(園芸部・一年)


 既に十三と小野寺ティーチャーには会っている。それ以外の四人のうち、明日入ってくる一年以外は、既にチェック済み。大まかな行動範囲が分かっている状態だ。上手く出会わないように気を付ければ、ヒロインとの接触も避けられる。

 残念ながら、彼らのルートに現れるライバルちゃん達は未チェックだ。彼女たちは肉食ゆえ、うっかり紫朗が注目したら、紫朗に向かってきかねない。怖すぎて視線すら向けられないのだ。

 一応情報はあるものの、ライバルちゃんは放置で構わないと思っている。下手に構わなければ、攻略キャラの方へ向かってくれるわけだし。


 問題はヒロインだ。

 彼女の名前は……デフォルトだと「立石雫(たていししずく)」。


 名前の変更が出来るシステムはあったけれど、プレイヤーがいるわけじゃなし……いるのかなぁ。やだなぁ、ここがゲームの中だったら。

 まあ、この辺は考えだすと止まらないから、後にしよう。今はヒロインに狙われないよう、身の振り方を考える方が大事。

 二三ちゃんが池に落ちるのを阻止出来たんだから、ヒロインだって止められる。多分。

 ……嘘。止められる自信無い。

 ゲームのままだったら、あれは暴走機関車だもの……攻略対象たち、よくあんなのに惚れるよなぁ……いや、キャラの前じゃ可愛くしているからだろうけどさ……。

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