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内心狼狽えまくる私を放置し、話はどんどん進んでいく。
ルネの未来が心配なんだけど! ねぇ、十三の部屋入ったの? その子、十三と一緒に居て大丈夫なの? 殺人鬼とは違う意味で危ない方向に行かない?
結局、全く口をはさめないまま、ティーチャーは紫朗の幼き日の写真で買収する事に決定。
話は更に進み、スパイ城之内をどうするかという話になっていた。
城之内がスパイと判明した事で、今は草の者で囲みまくっているらしい。そのせいで身動きが取れず、まだ雫の餌食になっていないようだ。
「紫朗さまと会話させるだけで良いと思います」
ルネが自信満々に言う。
同じく、十三も自信満々に頷く。
「そうですね。それで解決します」
いや、そんなわけ無かろう? 私、コミュ障なんだぞ。あと、何でお前がそんなに自信満々なの? お前の事じゃなくて私の事を話しているんだよね?
十三とルネは私をおいてけぼりにしたまま、変に盛り上がっていっている。
ど、どうしよう。止められる気がしない。
「ぶっちゃけ、全部紫朗さまで何とかなると思うんです」
「その通りです。さすがルネ、分かっていますね」
「山川先輩から色々学びましたから!」
得意げな顔でキラッとしたの可愛いけど! ルネ、そこから学んじゃ駄目! それは一番駄目なヤツ!
おい駄目の代表! ドヤ顔で頷くんじゃない!!
っていうか、何でお前らそんなに話が弾んでいるの? いつからそんなに仲良くなったんだよ。仲間外れにしないで……!
ついうっかり本音が浮かんだところで、十三と目が合った。十三はハッとした表情になると、すぐにいつもの済ました顔に戻る。
「……ですが従者として、全て主にお任せするわけにはいきません」
ルネもハッとした後、真面目な顔になった。
良かった……正気に返ってくれたようだ……。どうしようかと思ったよ、変なノリで。十三が二人居て、はしゃぎ倒しているみたいだったわ。うわぁ、言葉にすると予想以上の地獄。
「城之内は気になりますが、教師が味方というのは動きやすくなると思うのです」
十三の言う通り、教師側に味方がいるのは心強い。小野寺ティーチャーは幼女が絡まなければ、悪い教師では無いのよね。きちんと味方に出来た場合は、それなりに有能だと思う。問題点が多いけど。そしてその問題点がでかいけど。
「草の者の報告でも、小野寺先生は立石雫の接触を華麗にスルーしているようなので、今のうちに手駒になっていただきましょう」
あれ? スルーしてんの?
私は首を傾げた。
こちらにヤツがロリコンとの情報が入っている以上、雫もその情報を得ていると思う。私みたいに転生者だったら絶対知っているし、そうでなくとも大蔵がいるもの。
それなのに、買収アイテム渡していないの?
そこまで考えてハッとした。
そうだ。
ゲーム内でそれは、スパイ・城之内が提供するんだ。
……これ、城之内を先に仲間に引き入れた方が良いのでは? あいつチョロキャラだよね? 私はコミュ障だから無理だけど、十三やルネが仲良くしたら落ちるんじゃないかなぁ。
城之内がこちら側についたら、ティーチャーの攻略難易度が跳ね上がる。普通の高校生に、幼女アイテムは用意出来ないからね。雫は普通ではないけど、一回警察に目をつけられている身分で、自ら幼女アイテムは用意出来まい。大蔵にしたって、さすがに嫌だろうよ。
逆にティーチャー攻略中に城之内を落とされたら、城之内提供の買収アイテムで、ティーチャー横取りの恐れがある。男の子ボディの紫朗の写真じゃ、真の幼女には勝てない。
やばい、これは順番大事だわ。
「城之内が先」
私がそう言うと、十三は一瞬考えたようにしてから、深く頷く。
「なるほど……先にあちらの手を潰しておくわけですね?」
うわぁ……あの一瞬で言いたい事全部分かったの? 相変わらず有能だけど気持ち悪いわぁ、十三……。
十三の言葉でルネも理解出来たようで、うんうん頷いている。
「さすが紫朗さま……ですが城之内先輩は特に弱点が無いですね。平均的に優秀です」
ん? 城之内はチョロキャラですよ?
でもルネに優秀と言わせるって事は、武芸も情報管理も出来ているって事? ただのさびしんぼうでは?
ちなみに、城之内ルートのライバルキャラは、母性を存分に感じる同級生だ。お約束通り、大変豊満です。どこが、とは言わないけど。
ルネがライバルを殺すルートでは、彼女も殺される。城之内がガードしている状態でもアウトなので、ルネの方が能力は上だろう。
こうして考えると、ルネってゲーム内キャラで最強だよね。味方に出来て良かったわ……。
「某国スパイとは判明しましたが、それ以上が探れません。草の者も、上位の物ですら察知されているようです。監視を警戒して、襤褸を出さないようにしているのかと」
え?
あれ? あの子そんなに優秀なの?
私の知っている城之内と違う気が……。
あああ、そうか!
私は彼の弱点を知っているからチョロいと考えるだけで、知らなきゃ普通にエリートスパイなのか!
そうだよね、普通は知らないわ。敢えて自ら弱点晒しているスパイとか、居ないもんね!
うわぁ……これが噂の転生チートかぁ。紫朗なんて生きているだけでチートなのに、そこに転生知識とか……うわぁ……コミュ障じゃなかったら、すっごい活躍出来そう……無駄だわぁ。
全てを台無しにする自分の性格にうんざりしつつ、私は考えた。
何とか城之内の攻略方法を教えねばならぬ。二人はすっかり「攻略出来ない」ってノリだからね。
問題は私がコミュ障で、上手に伝えられない事。そこもまあ、十三が何とかするでしょう。気持ちの悪い察し方で。
……気持ち悪いけど、役には立つんだよなぁ……。
「正面から、普通に」
私はそう呟いた。
十三とルネならば、城之内は落ちると思うのよ。普通に友達になれば良い。二人とも、孤独なエリートの気持ちを、理解出来なくもなかろう?
十三が我が意を得たりと言った顔で、深く頷きながら同意する。
「そうですね。紫朗さまが正面から普通に近付いてきたら、それだけで跪いてしまいますね」
いや、違う。それはお前だけ。
内心そうツッコむものの、口には出さない。出したら負けな気がする。
さすが十三、分かってくれたか……と思ったのに、そっちいくのか。別の意味でさすがだよ。
あと、私が正面から行くの前提なの? コミュ障だよ、失敗するよ。どうしてそんなに私が万能だと思っているんだお前は。顔か? 顔のせいなのか?
「畏れ多すぎて、逃げてしまう可能性は?」
おい、ルネ。お前十三に毒されすぎだぞ。十三から少し距離を置きなさい。私はお前の未来が心配だよ……。
あ、でも逃げられる可能性はあるか……スパイだから疚しいところはあるわけだもんね。十三よりは一理ある。
「ならば、私たちで退路を塞いでおけば良いのです」
……十三、それだと私がRPGの懐かしいボスキャラみたいにならない? 逃げようとすると『逃げられない!』って出るやつ。ちょっと嫌なんだけど。
丁度いいタイミングで、ルネが笑顔で言い放つ。
「ボスキャラですね!」
ほらみろ、ボスキャラじゃないか!
「ボスですからね」
そうだった! 紫朗は二人のボスだった! そうだったね、正しいよ! でもなんか凄く腑に落ちないんだ、この苛立ちをどこに向ければ……。
もちろん、どこにも向けずに飲み込みましたよ。外に向けられるくらいなら、コミュ障卒業しているわ、ちっくしょう。
ねぇねぇ、これって全然話している内容変わっていなくない?
さっきはしゃいだ二人が暴走気味に話していた事を、より具体的にしただけに思えるんだけど。
おかしいな、話題を変えて貰ったはずなのに。何で結局お前らの言う通りの方向に向かうんだよ。本当に腑に落ちない。
あとね、やっぱり二人が仲良しで……さみし……いえ、良かったです……。