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「くそ女がぁぁぁああ!」


 酷い罵声と共に、何かがひっくり返るような音が響いた。

 防音がしっかりしている我が家でこのレベルは、相当の騒音だな。何事だよ、十三。

 そう、声の主は十三。日頃汚い言葉を使わないように徹底しているのに、「くそ女」と来たもんだ。

 これは完全にアレですね。

 (ヒロイン)の事ですね。


 私は応接間でルネとお茶を飲みつつ、十三が来るのを待っている。少し前に草の者から報告が届いたとかで、十三が聞きに行ったのだ。


 あ、ルネは正式に我が家に雇用されました。今はまだ学生なので仮雇用だけど、大学出たら正式採用。セキュリティ面に役立つ上、武術の腕が十三より上なんだって……十三の護衛としてのプライドがズッタボロだね。まあ、護衛以外の仕事もあるし。今はお前の方が役立つよ、十三。多分な。

 ルネは十三と一緒に、学校での私の護衛をしてくれている。草の者が補いきれない部分を、ルネがやってくれている感じ。千代と二三ちゃんの事も見てくれているっぽい。超優秀。

 今はまだ仮雇用だし、基本的に学校だけの契約なのよ。

 でもルネはこうやって家まで来て、紫朗とお茶してから帰る事が多い。仮雇用なのに働き者だよねぇ。学校帰りにお茶とか、私は友達が出来たっぽい気がして嬉しいけど! ルネの方がお仕事でもね!! ちょっとだけキャバクラに通うおじさんの気持ちが理解出来たよ!!


 あれから、占いサイトの情報漏洩が問題になってね。警察も動き出したのよ。どうやら証拠が全て雫に集中していたみたいで、それってもう、明らかに真っ黒じゃない? 当然、彼女は疑われたわけよ。それで警察から事情を聴かれているって事で、草の者が調べてたんだけど……結果は十三の癇癪でお察しだなぁ。


 そんな事を考えていたら、ノックの音が響いた。

 十三がやっと落ち着いたらしい。入室許可をしたら、いつもより些か憔悴したような顔で入ってきた。


「……お待たせいたしました。ご報告いたします……」


 十三の説明によると、雫は『私も被害者』って言ったそうだ。

 私もあのサイトで占っていたから情報を抜かれた、その情報を使われただけ、私も被害者なのよ……って。


 ハハッ。

 乾いた笑いが出るよね。なんだそりゃ。

 でもね、その主張が通っちゃったんだって。証拠が雫に集中するように、後から細工した跡が見つかったとかでさ。無罪放免だよ。この世界の警察は無能か? 無能か。ゲーム内でルネを捕まえられなかったもんな。


 確かに、あの女が証拠を残すのはおかしいと思った。思いはしたけど、あのヒロインだよ? そのくらいやりかねないじゃない。あれ、まさか狙ってる? そう思われる事まで計算済み? いやいや、まさか……違うよね? 怖いよぅ。


 これで相手が成人なら、上から圧力かけて社会的に抹殺しちゃうらしいんだけど、高校生だからね。そこまではしないようにと、イケメンダディからのお達しです。大人は口出ししないから、お前たちで解決しろってさー。


「社会的では無く、物理的に抹殺したいですね」


 十三が良い笑顔でそう言った。

 気持ちは分からなくはないが、殺しちゃ駄目よ……ルネ、キラッと光るな。こんなところでやる気を見せるんじゃありません。


「それは駄目」


 声に出してそう言ったら、何故か二人して「てへ」みたいな顔をした。しかもちょっと嬉しそうだった。何やってんだお前ら。いつからそんな仲良しになった。

 くっそぅ……一人だけ除け者になった気分だぜ。でも、そこに入り込む方法なんか分からないからな……良いよ良いよ、除け者で。しくしく……。


「……冗談はともかく、何か対策が必要かと」


 言いながら、ルネは顎に指をあてて、首を傾げた。

 仕草が無駄に可愛い。それでいて、あざとさを感じない。素晴らしいな……女子の皆さんに習得させたい技術だわ。これで十三より強いとか、どうなってんだろうな……。


 可愛いルネの言う通りで、何かしないと解決しない。セキュリティレベルは上がったけれど、それだけだ。完全防御のままでは、あのヒロインに絡まれまくる。地獄でしかない。


「僕は……僕に関わらないでくれれば、それで良い」


 これは本音中の本音だ。

 私はあのヒロインがどうしようと、自分と自分の周りに関わらないでくれれば良い。是非とも他の金持ちに目移りしていただきたい。石油王辺りをお勧めしたいところである。日本から遠いから。

 イケメンダディにお願いしたら、石油王の息子さんを桜峰に留学させて貰えないかな……いや……即座に落とされた挙句、やっぱり紫朗も!ってなった方が大惨事だわ……駄目だ、この手は使えない。


「学校内で動けるこちらの手駒を、もう少し増やすのはいかがでしょう。あちらに絡まれそうな人材を先に取れば、一石二鳥では」


 十三の案は魅力的だ。まだ落とされていない攻略対象たちをルネのように味方に出来たら、手駒としてかなり優秀になる。元々能力の高い人たちばっかりだしね。

 だけど、諸刃の剣だ。

 同時に彼らはヒロインに狙われる人たちで、あちらに取られて裏切られる可能性も秘めている。

 いや、ルネは疑っていないよ? 咲の事があるもの。

 でも他の子たちはなぁ……。ライバルキャラを人質にとれるわけでも無い以上、お金で言う事きかせるくらいしか出来ないよ。それは結局裏切られる恐れがあるのでは?


「それは名案ですね」


 ルネが満足そうに頷く。

 いやいや、ほら。裏切りの可能性を考えて? そもそも仲間に出来る人望も無いよ。ルネが特殊なんだよ?

 ルネの同意に十三もドヤ顔で、話を進めていく。


「実は私……既に小野寺先生を手駒にする秘策を考え付いております」


 え!?

 小野寺ティーチャーはまずくない?

 そりゃ、先生側の味方がいるっていうのは心強いけどさ……小野寺ティーチャーだよ? 大丈夫? その……こう……人道的に。なんか幼女をご褒美につけるとか、幼女の身に着けていた何かを渡すとか、そんなんじゃないよね?


 ゲーム中、ライバルキャラ・ありすちゃんを殺さずに小野寺ティーチャーを落とすには、「幼女アイテムを渡す」という非常に危ない手段をとる。ゲーム中なら「うへぇ」とか言いながら出来た事でも、現実では絶対無理だ。あいつは危険すぎる。


 ところが、十三は自信たっぷりな表情だ。


「大丈夫、法には触れません。しかも、この手なら先生も決して裏切らないでしょう」


 まじでー?

 何するんだろう……凄い気になるんだけど。あのティーチャーに、幼女以外に心を動かすものがあるの?


「その為に、紫朗さまに許可をいただきたい事があります」


 私はドキドキしながら頷いた。

 何の許可を求めてくるかによっては、十三を止めねばなるまい。幼女を守らねば……!

 身構える私の耳に、十三の声が朗々と響く。


「紫朗さまのご幼少のみぎりのお写真を、使用しても良いでしょうか?」


 ……は?


 ポカンとする私の横で、ルネがガタンッと音を立てて立ち上がる。


「何と……それは僕もいただけるのですか!?」


 え、ルネも賛成なの? そんな前のめりになるほど? 十三と一緒にティーチャー買収にいくの?

 いや……確かに紫朗の子供の頃の写真、可愛いよ? 顔は至高だよ? 中身が自分だから萌えなくなったけれど、前世だったら垂涎のアイテムだったとは思う。

 でもそれでティーチャーが動くかねぇ……。紫朗は男の子ボディだし。

 まあ……そこで二三ちゃんの写真を使用するよりはマシかなぁ……。

 私が頷いて見せると、ルネが天高く突き上げるかのようなガッツポーズをとった。あ、普通に男の子っぽいポーズもするんだね……。


「紫朗さまのお写真なら! 小野寺先生も絶対服従ですね!!」


 力説するルネには悪いが、そこまでの力は無かろうよ。可愛いって言っても、男の子だし。


「当たり前です……あんな男にはもったいないくらいですよ、本来ならお配りしたくない秘蔵の品です」


「山川先輩の秘蔵品なら、品も確かですね!」


 ……わぁ……秘蔵なの……。って事は普通にアルバムにあるやつじゃなくて、十三のコレクションかな……。

 知っているんだぞ十三。お前昔から、紫朗の写真撮りまくっているだろう。隠し撮りで。ゲーム内でヒロインに自慢していたもんな。

 ああくっそぅ……怖いスチル思い出した。十三の部屋が紫朗写真で埋まっているやつ。アレは完全に、ドラマで警察が踏み込んだ犯人の部屋だぞ。しかも危ない犯人の。


 ん?

 ……待って。

 ルネ、十三の秘蔵写真の事知っているの? 十三の部屋入ったの? え?

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