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「……控えろ、下郎」


 十三が滅茶苦茶怒りのオーラを振りまきながら、私とルネの間に入ってくる。


「貴様如きが簡単にお仕え出来るようなお方ではない」


 え、何この時代がかった展開。今時下郎とか、言わなくない?

 いやいや、それ以前の問題か。何怒っているの十三……あ、そうか。

 十三って私に仕えるようになるまで、どぎつい修行しているんだっけ。それじゃ、ぽっと出の新参者が付いたら不満だよね。

 そこを理解したものの、何と言って止めれば良いのかが分からない。子供の喧嘩ならまだしも、これってお仕事の関わる話でしょう? 私の顔に拘りすぎとはいえ、十三はちゃんとプライド持って働いているし。

 おろおろしながら見ていると、ルネがにっこり微笑んだ。


「お仕えするのではありません」


 あ、そうなの? でも確かに仕えるとは言っていないね。十三のノリで勘違いしちゃった。

 まあ、ゲーム内では完落ちのセリフだけど。


「ただ、感謝と命を捧げたのです」


 え、止めて?

 激重! 感謝は良いけど、命は重いよ!

 それは各自で保管お願いいたします。


「……命はいらない」


 私がそういうと、ルネはショックを受けた顔をした。そして、十三が勝ち誇ったようなドヤ顔になった。

 おい待て十三、何故お前がドヤる。お前の命もいらないんだからな。


「感謝も良いよ……僕には僕の、理由があってした事だ」


 私は罪悪感に俯いた。

 そもそも、殺人鬼ルートを潰したかっただけなのだ。その為には咲の治療が必須だったし、私にはそれをする力があった。

 それだけの事。


 ……元々は「関わらなければそれで良い」って、思っていたんだよ? ルネが人を殺そうが、咲が死のうが、関わらなければそれで良いって思っていたの。たまたまヒロインがアレでソレな子で、このままだと自分の周りに影響しそうだから動いただけ。


 そんな損得勘定で動いているのに、こんなキラキラした感謝は受け取れない。


 再び顔を上げたら、ルネが何故か微笑ましいものを見る目付きになっていた。

 え、何? 何でこんな目で見られているの? どっちかというとルネがそんな目で見られる側では? おい待て十三、何でお前も「分かってますよ、紫朗さま」って目付きであったかい顔してんの?


「分かりました、そういう事にしておきます」


 ええええ……何その「子供のどうしようもない言い訳を聞いた大人」みたいな対応……。何で私、年下の子にこんな対応されているの? 中身半世紀以上生きているんだけど……?

 解せぬ。

 首を傾げる私に、ルネがクスクス笑いながら言う。


「僕があなたのお力になれる事なんて、あまり無いのは分かっています。でも、僕に出来る事があったら、いつでも仰ってください」


 明るくなった雰囲気に、私はホッと息を吐き出した。ああ、ルネはもう大丈夫なんだなと、心から思えた。

 ちょっとだけ、胸の中にあった罪悪感が消えていく。

 良かった……最終的に全員幸せなら、それで良い。


「……良い心掛けです」


 私が返事をするよりも先に、十三が酷く上から発言する。

 もう本当、お前何なの。すみません、うちの従者が……。


「ありがとう」


 頭の中では十三の所業を詫びていたのに、口からは感謝の言葉が出ていた。

 うん、気持ちは嬉しいし。

 謝るより、お礼の方が良いか。

 実際にはルネは何もしないでくれるのが、一番助かるのよね。だから何もお願いしないと思う。


 強いて言うなら、咲とお幸せに。


「お礼を言うのは、こちらですよ」


 嬉しそうに笑ったルネの顔は、その顔立ちのまま、天使のようだった。


 良かった。

 これで殺人鬼ルートは消えた。

 今の彼は殺人鬼なんかじゃなくて、ただ咲の事が大好きな男の子だもの。


 ルネと別れて一回教室に戻ると、カバンの中がブルブルしていた。誰かからメールが来たらしい。

 何気なくスマホの画面を見たら、知らないアドレスからだった。

 あれぇ? 私、連絡先に登録していないアドレスは受け取らない設定にしているんだけどなぁ。なんかの弾みで、間違った操作しちゃったかな?

 念の為に中を確認してみて、私はスマホを放り投げた。


 ぎゃあああああ! (ヒロイン)からのメール!!!


 ど、どこで知ったの紫朗のアドレス!! 学校にすら教えていないのよ、全部専属スタッフを通して連絡くるようにしているんだから!!

 私が投げたスマホをキャッチした十三が、画面を見て眉根を寄せる。そのままいくつかの操作を行った後、スマホを落として踏みつけた。


「紫朗さま、こちらに変更なさってください」


 十三はそう言いながら、新しいスマホを渡してくる。

 わあすげぇ! その場で機種変出来るんだね! 凄いけど嬉しくないぃぃぃい!

 さっきの踏みつけて壊した私のスマホ、どうなっていたの……壊すって事は、何かされてたんでしょう? しかもすぐ壊さないと問題があるような感じで!! そのくらい分かるんだぞぅ!!

 そう思っていても、怖くて問い質せない。分かっているのか、その場では十三も説明しない。

 私は泣きたい気分で、十三の差し出すスマホを受け取ろうとした。


 ブブブブブブ


 突然、十三の持っているスマホが振動しだした。


「……遅かったか」


 十三はそう言って、そのスマホも落として踏みつける。

 一瞬見えた画面には、やっぱりメールが着信していた。誰からかまでは確認出来なかったけれど、十三の反応を見ればもう分かる。


「紫朗さま、申し訳ございませんが……別の機種を用意するまで、暫しお待ちいただけますか?」


 私は頷いた。

 頷く以外の道なんてないでしょう。むしろ暫くスマホ無くて良いよ? 怖いから。

 私の持っていたスマホって、うちの専属チームがセキュリティ強化してくれているものなのよ。そこに何か仕掛けたって事でしょう? そのレベルの事する相手なら、対策に時間かかって当たり前だもの……。

 スマホどころか、他もなんかされてそうで怖いわぁ。


 大蔵からパソコン周りを教わったんだろうか。なんて無駄にハイスペックなの、このヒロイン。一体どこ目指してんのよ。紫朗の嫁か、知ってた! だが断る!


 私は頭を抱えたかった。そんな事したら目立つからしないけど。

 大蔵って、出会いを見つけるのが大変なだけで、大分チョロいキャラだったんだけどなぁ。敵に回すとこんなに厄介だったか……。


 ん?

 もしかして幼馴染っていうの、影響している?


 雫に完全な情報は渡していないっぽいから、完落ちしていないと予想していたんだけど……逆? もしかして、落ちているからこそ、情報渡していないとか?

 あ、やばい。想像したら筋が通っちゃった。


 想像したのは、「幼馴染の甘酸っぱさ」でございます。


 実は片思い中の幼馴染が、急に他の男に憧れ始めるわけですよ。彼女は玉の輿を狙っている子だから、ある程度仕方がない。だけど、面白くは無い。

 なのに、幼馴染だからって理由で、協力を求められちゃう。

 好きと言えない手前、彼は協力を拒めないわけですね。でも嫉妬も含むから完全な協力は出来ない。ちょっと抜けた情報渡したりしてみて、失敗してくれないかなーと考える。そんな自分が卑怯に思えて、次はがっつり協力もする。

 好きと言えない、複雑な気持ち。


 ……みたいなの、想像できない? するよね? 私はした。なんかそんな感じの少女漫画、いっぱい読んだ記憶があるよ。甘酸っぱい!


 なーんてね。

 こんな甘酸っぱい関係が裏にあったら、もうちょっと楽しめるんだけどなぁ。いや、やっぱり無理か。ヒロインに無理がありすぎる。幼馴染モードが甘酸っぱくても、こっちじゃただのホラーだもの。


 ……変だなぁ。

 ここ、乙女ゲームの世界なのに……解せぬ。

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