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 そもそも、ルネは子供の頃から狂っていた。

 しかもその自覚を持っていて、悩んでもいた。

 罪悪感は持たないものの、知恵はある。自分のしたい事が犯罪である以上、我慢しているより他は無い。

 だけど当然、限界は存在する。


 ルネは十歳でその限界を迎え、殺人を犯す事に決めた。

 決めた相手が、ルネルートのライバルキャラ・二宮咲(にのみやさき)である。


 ところが、ルネはここで返り討ちにあう。

 咲を殺すどころか、大笑いさせられて。


 二宮咲は、孤児院にいる少女だった。彼女を殺そうと決めた時点では、ルネは彼女の名前を知らない。それが初対面だった。

 ルネが彼女を標的に選んだ理由は、ただ、孤児だから。

 子供の浅知恵で、両親が居ない彼女なら、失踪しても騒がれにくいと踏んだのだ。それだけだった。

 だけどこの出会いにより、ルネは彼女に会うと、己の中の殺意が消える事を知る。著しく素直すぎ、かつ不思議ちゃんな咲に会う度、ルネは笑顔になりっぱなしだった。つまりは初恋なのだが、その自覚が無いまま、現在に至っている。


 その彼が、何故再び殺人を犯そうとするのか。

 それは彼女が死ぬからだ。


 咲はルネの高校入学の少し前、死に至る難病にかかっていると判明する。

 その病気の特効薬はあるものの、まだ新しい薬で非常に高く、国の補助も無い。普通に暮らす人々が払える額では無かった。

 もちろん、ルネの家には払うだけのお金はある。

 しかし、それはルネの自由になるお金ではない。

 ルネは必死に両親に頼み込んだ。どうにか彼女を救いたくて、泣いてお願いをした。


 ……結果は、彼のその後で分かるだろう。

 両親はむしろ、孤児と関りを持った事を叱り、これを機会に縁を切れと言ったのだ。


 ルネは怒りと絶望で、殺人の衝動を復活させた。

 そこから先は、転がり落ちるように連続殺人鬼になっていく。一度衝動に身を任せてしまうと、彼は止まらない。

 その為、彼からライバルたちを救うには、ルネを従える立場にならねばならない。

 出会いで仲間と思わせた程度では、従わせるのは無理だ。出来るのはせいぜい、協力を条件に殺す相手を指定する程度。

 ルネにライバルを殺させるのは簡単だが、殺させないのは相当に難しい。だからこそ、ライバルを生き残らせる紫朗・十三ルートの難易度が上がる。


 実は、ライバルルートに進むか紫朗・十三ルートをクリアしないと、咲は死んでしまう。死に様は病死・自死・縊死の三通り。三番目嫌ですね。はい、犯人はルネです。殺人鬼である事がバレて、パニックになって殺しちゃうのよ。ありがちな展開だけど、心理描写が巧みで、うっかり泣かされたわ……。これが切っ掛けで、ルネがヒロインに完落ちすんのよね。


 キープ機能の順位付け次第で、咲の寿命や死因も変わっていく。

 ライバルルートは一番安全。ヒロインがライバルたちと起業するってアレね、咲を救う為の会社だから。最終的には特効薬に国の補助が出て、格安で治療可能になるの。

 紫朗・十三ルートだと殺人が絡んじゃうから、物語の物騒度が上がる。ルネのイキイキ殺人シーンは、多くのユーザーのトラウマ(一部には新しい扉)になっちゃったからね。

 でも、ここが重要。


 紫朗・十三ルートに入る為に、ヒロインはルネを説得する。

 紫朗ならば、咲を救う事が出来る。だから紫朗・十三を落とすので、協力しろって。

 あ、十三が含まれるのはね、紫朗が十三の持ち掛ける咲の治療話に反対しないからです。十三まで落とせば、とにかく咲は助かるのよ。

 で、咲を救えると、ルネはヒロインに永遠の忠誠を誓っちゃうのよね。忠誠だから恋愛とはちょっと違うとは言え、そのルートは結婚相手が紫朗か十三だし。下僕が増えるって感じ。


 ……お分かりいただけただろうか……。

 つまり、最初からこちらで咲に救いの手を伸ばしてしまえば、ルネの殺人衝動が爆発しないわけですよ。多分だけど。

 ついでに、ヒロインがルネを落とせなくなるおまけつき。こっちで掌握しちゃうからね。

 あらやだ名案。


 ただね、問題点があるの。

 紫朗の立場だと、咲を知る切っ掛けが無いの。設定では学年が一緒なんだけど、彼女は一般の公立学校に通っているし。コミュ障故に、道ですれ違うのも難しい。

 咲を知らない紫朗には、彼女を救う理由が無い。ただ難病の人を救うって理由だけでは、彼女を選ぶ理由にはならない。


 どうしよう?

 このままだと、ルネが人を殺しちゃう。確か、ゲーム開始が入学式で、その一週間後に最初の殺人のニュースが流れていた。

 でも、それは死体が見つかった時点。実際に殺されたのはその前になる。早くしないと手遅れになりそうで怖い。


「……ほかに、情報は?」


 私は一縷の望みにかけて、聞いてみた。

 十三は複数の情報をそのまま私に聞かせるのではなく、ある程度取捨選択をしている。多く聞き出そうとしたら、中には咲の情報もあるかも知れない。


「そうですね……学校では人当たりが良く、人気者になっています。ですが、家ではそうでも無いようです。最近両親と酷い喧嘩をしたらしく、家の中がギスギスしている模様」


 お。

 これ、まさに設定にあったやつ!

 そうか、草の者が怯える気配出していたのは、もうそこまで進んでいたからだったのね。やっぱり時間的にギリギリだったか。

 でも、これはもうちょっと聞いていけば、咲の情報も出るかも!


「喧嘩の理由は?」


「孤児院にいる友達が難病で、両親に治療費の補助をお願いして断られたからだ……と、鈴原家のメイドが噂しておりました。その為、メイドたちは彼に強く同情していますね」


 はいはい、知っていますとも。

 だからルネが殺人鬼だってバレた時、メイドたちは彼の逃亡の手助けするんだよね。彼女たち、ルネが咲を好きなのも知ってたし、必死に両親にお願いして怒られているのも見てたから。絶望して殺人鬼になったんだ、なんて可哀相な坊ちゃん……って。

 元々殺人鬼候補だったんだけどね! 顔に騙されてるよ、メイドさんたち。


「……その友人は分かるか?」


「はい、判明しました」


 よし来た、それだ。その情報を待ってました! うちの草の者優秀! 臨時ボーナス出してあげて!

 私は少し考えたフリをして、十三に指示を出した。


「うちの系列病院で保護するように」


「……かしこまりました」


 十三の返事に、私は心の中でガッツポーズをとった。ガッツポーズから、ラ〇ウの往生ポーズまでやった。天に拳を突き上げるアレね。実際にやらなかったのを褒めて欲しい。

 これで被害者を出さずに済む! (ヒロイン)の勢いも止められる……かも知れない。

 十三は「さすが紫朗さま、お優しい」って顔しているけど、そんな良い話じゃないぜ? こっちにはそれなりの思惑があるからな。


「人質だよ。治療は念の為」


 おいこら十三。なんだその「良いんですよ、分かっています」みたいな生温かい笑顔は。何故うんうん頷いているんだよ。べ、別にツンデレじゃないんだからね! いや、本当に。ツンデレじゃなくてコミュ障だからな。やめろ、微笑むな!


 でもまあ、これで何とかなる……と、良いなぁ。ヒロイン相手も少し楽になる、はず。

 当面の問題は、一個だけだわ。


「十三、出ていけ」


 ……早くお湯から出ないと、もう逆上せるのよ。出るのに、十三が邪魔。

 おい、何でショック受けてんだよ。当たり前だろ。いくら男同士だからって、わざわざ見せる必要あるまい。繰り返すようだが、中身は半世紀生きた女なんだぞ。いくら美しいからといって、裸見せるのは嫌なんだよ。


 「十三、ハウス」って言わないだけ有難く思え。

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