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サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
23/60

番外編 可愛いって

 クラージュくんとクロエ様の共通点といえば悪役ということである。

 二人が手を組んで何度もヒロインを貶め入れようとしているシーンは一プレイヤーとして記憶に残っている。マジスピの時には協力できる程度には仲が悪くなかったはずだ。しかし…


「あっらーごめんなさい。ポットを取りたかったのだけど誤って倒してしまったわぁ。慣れないことはするものではないわねぇ。服に掛かってたら買い換えてあげるわ。少しはマシな格好になるでしょうね」


「わーっ!!クラージュくん大丈夫!?熱くない!?」


 見ればクロエ様が倒したポットの中身が避けきれなかったクラージュくんの服には染みができていた。のにも関わらずクラージュくんは慌てることなく詩音に向けて見慣れた笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよナタリア様。いやぁ、全く、これっぽっちも気にしてませんよ。紅茶のおかわりですかねぇ」


 そう言って平然と紅茶を注ぎ渡すクラージュくんにクロエ様は不満げの顔をするが出された紅茶を一口飲む。が、すぐに大きく咳き込んだ。


「クロエ様!?」


「冷たっ!?何よこれ!?」


「あっ、すいませーん。まだ魔法の扱いが未熟なもので紅茶が冷えてしまったみたいですねぇ。でも今日は暑いしちょうどよく冷えるんじゃないですか?頭とか」


「…構わないわよ。貴方がまともに紅茶も注げるわけないものね」


「「ははは」」


 険悪過ぎじゃない……?


 詩音はキンキンに冷えた紅茶を飲みながら目の前の状況を死んだ目をしながら眺めていた。

 この数ヶ月、二人はずっとこうなのだ。最初は詩音も仲裁に何度か入っていたのだ。しかし素直にはいと従う人たちではない。この二人、もともとが悪役という性質を持っているせいなのかやり方が汚い。悪口などいうタイプではなくいつも詩音が咎めにくいギリギリを攻めるのだ。わざとじゃないと装い、やられたほうもそれを微塵も気にしない風に振舞うものだから詩音は二人を止めることに挫けそうだった。

 しかもこの二人別々に会いに来れば良いのに訪問が被る被る。互いに譲らず居座るのも仲が悪くなる原因なのかもしれない。


 まぁ、クラージュくんはうちで勉強してるからほぼ毎日来るんだけどね…。


「ナタリア。こんな冷えた紅茶飲まないで私が持ってきたお菓子を食べましょ」


 にこにこと楽しげに言うクロエ様に自然と笑顔になる。二人とも出会った当初はあんなに揉めたのに……。可愛いくて邪険に扱うことも出来ないんだよなぁ。


「今更取り入ろうとしているのですかぁ?クロエ様の性格が底なしに悪いことは知られてますよ?」


「勘違いしないで欲しいのだけど私は純粋にナタリアに美味しいものを食べて欲しいと思っただけよ。貴方には到底用意することの出来ないとっておきのものをね!」


「お母様ーー!!」


 耐えきれず詩音はつい最終兵器の名を叫んだ。すると扉からノックの音が聞こえ、母親が入って来た。母親を見た瞬間二人はピタリと動きを止める。


「どうしたの?私のことを呼んで……あら、クラージュくん、クロエちゃんいらっしゃい。いつもお世話になってるわぁ!この子と一緒に遊んでくれてありがとう」


「いえ、こちらこそ……」


「お世話になってます……」


 二人を見た途端嬉しそうに美しく笑う母親に二人は見惚れているのか大人しくなる。


 さすが我が家の秘密兵器。可愛くて美しくてたおやかでなんかキラキラオーラの出ているお母様の前で喧嘩なんか出来るわけない。

 ちなみにお父様にも効果覿面である。


「いつも楽しそうに二人の話をしてくれるから私も嬉しいわ!この前もこの子が──」


「お母様!」


 口がちょっと軽いのが傷だけど!


 母親も一緒に談笑に交わると二人も喧嘩する事なく穏やかに会話を始める。詩音はそれを見てホッと息を吐いた。


「うふふ。あ、そうだわ。テオフィルス様に呼ばれていたの。まだお話していたかったのだけど……。二人ともゆっくりしていって頂戴な」


「ありがとうお母様……」


「いいのよ~。それじゃあ」


 母親が部屋から出たことを確認するとクロエはほぅ……と感嘆を吐いた。


「いつ見てもマリア様はほんとにお美しい人ね。心が洗われるようだわ…」


 よかったこれで二人とも落ち着いて……


「そうですねぇ……クロエ様もマリア様を見習ってみれば少しは落ち着きのある女性になるのでは?」


「クラージュくん?」


「……男ってすぐそうよね…美人とな方と比べるような言い方して…。まさか初対面の人間に綺麗な女の人の名前適当に出し褒めてると思ってる?直ぐに靡くと思ってる?調子に乗ると思ってる?まさか貴方ともあろう人がそんな浅はかな人間なわけないわよねぇ」


「そ、んな、ことは………ないですけど?」


「図星じゃないのよ!!こんなやつ止めなさいナタリア!私がお父様に頼んでこんなやつより断然良い人を紹介させるから!」


「はぁ!?」


 最終兵器(お母様)を投入してもこれってどういうこと!?数分前の穏やかさは!?

 確かにクラージュくんは私と初対面の時にお母様の名前を出して褒め称えていたけど!確かに好感度上がらなかったけど!

 ダメだ。一旦作戦を練らないと!!


「はははは、クロエ様ったら冗談が過ぎるなぁ~。あ、ちょっと私、お花摘みに行ってきまーーす」


 ◇

 

「…はぁ……」


「お嬢様、もうどうしようもならないと思うので二人とももう一度殴っちゃいましょう」


「そんなこと言わないで欲しいわ~!!大丈夫!ちょっとした出来事があればグッと二人の距離は縮まるわぁ!」


「一応お嬢様の婚約者なんですけどぉ!?」


「ミラ。そんな心配よりも今は二人が一緒にいて喧嘩をしないことのほうが重要よ。その為には私、なんだってする覚悟だから」


「その覚悟重すぎですから!!」


 私はキッチンで茶菓子を用意していたマノンさんとミラという仲間を連れて戦場へ向かう気持ちで足を運ぶ。

 私が席を外している間、二人っきり…。一体なにが起こっているのか…。


「ナ、ナタリア様ぁ!!」

 

 使用人の一人がナタリアの部屋から飛び出し、顔を青ざめて詩音へ駆け寄ってくる。


「な、なに!?」


「ナタリア様のお部屋が!!」


「え?私の部屋!?もしかして敵襲!?」


 私の部屋にはまだクラージュくんとクロエ様が!


「急がないと!」


 二人の無事を祈りながら急いで部屋に飛び込む。


 そこには──


「────」


 倒れている椅子や本棚。


 所々に散らばる氷の欠片。


 燃えカスになった本。


 部屋の中央では服の端を焦がしたクラージュくんと霜のかかったクロエ様が対峙していた。


 そういえばさっきの使用人、ナタリア様の部屋()!ではなくナタリア様の部屋()!って言ってたなぁ…。


「ク、クロエお嬢様がこんな……」


「うわぁ!?マノンさんがショックで倒れたんですけどお嬢様ー!!この人、背が高くて胸が詰まってる分おっも!!」


 ミラの助けを求める声を背中で受け止めながら詩音は一歩部屋に踏み出す。


 今、初めてようやくお父様の気持ちが分かった……お父様はいつもこんな気持ちだったのね…。


「コラァーー!!!」


 ◇


 荒れた部屋の真ん中で正座している二人をどうしてやろうかと詩音は腰に手を当てた。


「まさかクラージュくんが一生懸命魔法を使おうとしている理由が喧嘩で人を傷つけるためだと思わなかった…。これも人を見る目がなかった私の責任ね」


「いやぁ、あれは急に暴れだしたクロエ様の攻撃を防ぐために仕方なく…」


「クロエ様は少し落ちついたと思ってたしこれからは仲良くできると思っていたけれど私の勘違いだったのかもしれないね」


「違うのよナタリア!私は貴方に付きまとうこの陰湿男の本性を暴く為には手段は選んでいられないの!」


「………二人とも仲良く」


「「出来ない」」


 そう言ってまた言い合いを始める二人に詩音は額を抑えた。


 この子たちほんとに懲りない!


 ここで本気で怒ったところでもう喧嘩しなくなるわけじゃないだろう。人の部屋をここまでしといてこの態度だ。もうさすが悪役だと言うしかない。


 仕方ない……。


 詩音はため息を吐いてからミラへ覚悟を込めた瞳を向ける。


「……ミラ。私、奥の手を使うわ」


「こうなる前に最初からそれ使っていればよかったんですよ」


 ミラに耳が痛いことを言われた最後の手段に出る。

 正直、これはクロエ様には効かないかもしれない。でもどちらかが喧嘩を売り買いしなくなればそれで良い。騙すことに良心が痛むが二人は部屋を壊した時点でもっと心痛めて欲しかったしいいだろう。


 この奥の手に重要なのは…


 この(ナタリアの愛らしい)顔!


「……二人が仲良くしてくれたら嬉しかったの…」


 ぽつり。急に悲しげな声で呟く詩音の方を二人は見る。


「私って今まで病気がちで友達いなかったから…二人と…もっと仲良くして行けたらと思って」


 俯き、その表情は美しい銀髪で隠れていて伺えない。


「初めは私もクロエ様と仲良かった訳じゃないし、時が流れれば二人も最初のように仲良くなってくれるって信じてた……でも……」


「でも……やっぱり無理なんだね……」


 ここだ!!


 顔を上げたナタリアの瞳から一筋の涙が零れた。


「「!?」」


 固まる二人を確認してから急いで詩音は両手で顔を覆い隠す。


「…………ごめん。今日は帰ってもらえるかな……?」


「ナタリアさ」


「はい、馬車は呼んだのでお帰りくださーい。あっ、この人も連れて帰ってくださいねー。重たいかもしれませんが自分たちのせいなんで!え?まだ居座るつもりですか!?えー!?泣かせたのに!?」


 顔を青ざめながら何か言いかけるクラージュの言葉を遮りミラは片腕にマノンを抱えながら器用に二人の背中をぐいぐい押し出す。

 詩音は二人が部屋を出るまで肩を震わせていた。


「はい、御足労様でした!ほんと何しに来たんですかね!」


 嫌味とともに見送られ、固まっていたクロエはハッと意識を取り戻した。


「あのナタリアが泣いて……。もう!全部貴方のせいよ!」


「………」


「ちょっと聞いてるの!?」


「………」


「ちょっと……」


「………」


「ショック受けすぎじゃないの…?」


「………」


「げ、元気出しなさい!私達確かにやりすぎたわ。明日!明日すぐ謝りに行きましょう!貴方とは絶対友達以下だけど今度からナタリアの前では仲良くしてあげるわ!泣いて欲しくないものね!あ、お詫びの品も持っていきましょう。ほら、ナタリアのことよく見てるからナタリアの好きな物分かるでしょう?」


 馬車ではナタリアに泣かれ動揺しているクラージュとそれを何故か永遠と励ましながらマノンを介抱しているクロエというシュールな絵面が出来上がっていた。



「どう?私の嘘泣き。効果ありそうだった?」


「お嬢様も結構性格悪いですよね」


 次の日、詫びの粗品を持って来て謝りに来た二人はやっぱり仲良くできると思う。

 あと可愛いって強い。

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