回想録 私と姉の話
これは昔の話。きっと誰も気にも止めないようなたわいもない私の記憶の一ページ。
私にはお父さんお母さん、それからお姉ちゃんがいた。私より二つ歳が上のお姉ちゃんは昔から喧嘩早い人で私が中学に入った頃には何故か番長として隣町まで名を轟かせていた。そんなの不名誉なのに自由放任なところのあるお父さんもお母さんも呑気にすごいなんて言っていた。もう少し怒るなり嘆くなりしたほうがお姉ちゃんの為に良いと思うの。しかもいつの間にか舎弟も何人か出来ていて、歳上であろう人達が私にまで律儀に挨拶してくるのは良い気分はしなかった。
そんなお姉ちゃんに巻き込まれる人は当然いて、いつも被害を蒙っていたのは私だった。
「お姉ちゃん!」
放課後、屋上へ向かう階段を駆け上がり、力強く扉を開ける。周りを見回し寝っ転がっているお姉ちゃんに近づきしゃがみ込めば私に気づいたのかお姉ちゃんは呑気そうに手を振った。
「よぉ」
「よぉ。じゃない!また先生に呼び出されたよ!」
「あー……断っといて。私、恥ずかしくて直接お断りするのは……」
「告白じゃないから無理なんだけど!自分で行きなよ!ていうか授業出なよ!授業出ないから代わりに私が呼び出されてぐちぐち言われるんだけど!?」
「えぇ~!いつもごめんなぁ」
怒っているのにそんなふうに反省しているか分からないわざとらしいリアクションをとるお姉ちゃんが憎らしい。職員室に呼び出され先生に渋い顔をされながら愚痴を聞いて頭を下げるこっちの身になってほしい。
「えーい!白々しい!」
頭を撫でてくる手を払い、怒ってます!という不機嫌な態度を続ける。
「しかも今日他校生に絡まれたんだけど!?」
「なにぃ!?」
上半身を跳ね起こしてようやく焦った様子を見せるお姉ちゃんにこのまま反省してもらおうと勢いをつけて捲し立てる。
「お前が番長の妹か!?って!殴られそうになったんだから!やっぱりこのご時世に番長って……おかしいよ!悪目立ちしてるんだよ!もうちょっと目立たない肩書きつけてよ!」
「負けたか!?」
第一に聞くことそれ!?
「交渉に交渉を重ねて腕相撲対決に変えてもらって勝ったけど!」
そう言えばお姉ちゃんはほっとしたように私の頭をぐしゃぐしゃにする。
腕相撲対決に変えるのにどれだけ苦労したか分かってるの!?
「あ~、よかった。お前に何かあったらお姉ちゃん気が気じゃないぜ」
「絡まれた原因お姉ちゃんなんだけど……」
喧嘩に巻き込まれるようになったのもお姉ちゃんのせいだ。変な肩書き広めて、妹の私まで顔を覚えられた。
「お~、ごめんなぁ」
ふくれっ面になる私の両頬を御機嫌を取るようにむにむにと揉む。
……そんなことで絆されるような私じゃないんだから……。
そんな姉をじっと見つめため息を吐く。
どうしようもない人なのだ。
お姉ちゃんは何も言わないけれど私は知っている。
元々、カツアゲされそうになっていた同級生を助けるためにお姉ちゃんは止めに入っただけだということを。そして止めに入ったお姉ちゃんは相手に殴られそうになったところを反撃して勝ってしまったことを。
しかしその真実は歪められ、お姉ちゃんはカツアゲされた同級生の金を喧嘩で奪い取ったと噂になって流れた。
お姉ちゃんはその真実を私にしか話さなかった同級生を責めるわけでもなくただその状況を受け入れている。
バカな人なのだ。こんなことになると分かっていながら、損をすると分かっていながら、いつも荒事に自ら突っ込んでいく。
「なんだよその顔」
「ううん、なんにも」
──でも私は後先を顧みないそんな強いお姉ちゃんみたいな人になりたかったのだ。
だから結局はこれからも喧嘩に巻き込まれても先生に呼び出されても足を運び、お姉ちゃんに文句を言いながらも許してしまうのだ。
そんな自分に呆れたようにまたため息を吐いた。
「姉御ォ!隣の学校の奴が攻めてきました!」
「よし!お前ら喧嘩だァ!!」
「お姉ちゃん!先生呼んでるって言ったでしょ!!」
バカなのだ。お姉ちゃんも私も。
◇
「ナタリア様」
声をかけられて目を覚ましたナタリアは体を起こして相手を見つめる。
「ん……?クラージュくん…?」
「こんなところで寝ては風邪をひきますよ。まぁ、ナタリア様なら大丈夫かと思いますが」
「……」
起きてすぐのせいなのか皮肉にも反応が鈍い様子にクラージュは首を傾げる。
「どうかされましたか?」
「……なんか夢見てたんだけど……忘れちゃった……」




