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サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
21/60

19.ヒロインとの遭遇 後

 

「ありがとうございました…」


  不安だった気持ちを拭いさった詩音。傍にいてくれた少女に少し恥ずかしげにお礼を言えば、少女は可愛らしくにこりと笑った。


「美少女の泣き顔も役得だから今度からじゃんじゃん甘えて欲しいなぁ…」


  何か言ってるけどそれは流石に悪いなと眉を下げる詩音の気持ちを読み取ったのかその代わりと言って両手を合わせる。


「同じ転生者としてちょっとお願いがきいてもらっちゃうけど!」


「それはもちろん!私が出来ることなら!」


  食い気味に拳を握る詩音。それを見て何度も頷く少女はこの短時間で詩音という人間がわかってきたようだ。


「うんうん、素直な子はお姉さん好きだよ。ちなみにゲームで見た事ないけどナタリアちゃんって魔法使える?何属性?」


「え?風属性ですけど…」


「いいわねぇ!風属性って空飛べるんだったよね」


  なにか思い出があるのか楽しそうな少女に詩音はそんなのあったっけと首を捻るが思い出したかのようにポンっと手を叩いた。


「あ、そうか!空の果てを(フォルケルス・)目指す者(カエリー)!!え?」


  そう叫んだ瞬間、詩音の体が宙に浮いた。


「ぎゃーー!?!?」


「わぁーー!?!?待って待って今のは違う!!思い出して叫んだだけ!!」


  誰にともなく慌てて弁解すれば少女の頭の高さ位まで浮いていた詩音の体は落ちてお尻から着地する。


「あ痛っ!!」


「ナタリアちゃん!大丈夫!?」


「び、びっくりした……」


「ナタリアちゃんかなり魔力が高いのかしら?まさか短詠唱で魔法が発動するなんて思わなくて…ごめんねぇ~!!」


「いや、大丈夫です!今ので風魔法最強技思い出しました!」


「それはすごいけど叫ぶのは絶対にやめてね。でもその感じだと魔法はある程度使える見たいね……」


「魔法が必要なんですか?」


  それなら家の屋根を吹き飛ばすくらいならいけます。と言えば少し引かれた。


「いえいえ、そういうんじゃないの。魔法が使えるということは魔力があるということ!だからその魂、加護らせてちょうだい!」


「嫌です」


「どうしてーー!?」


  詩音は老人子供女の人のお願いをNOと言い辛い女であるが自身の譲れない点に置いてはその以前に何を言ったとしても絶対にYESを言わなくなる人間であった。


「お願いよー!さっきバージル様に祈ってみたけど実際に加護の効果があったとは限らないじゃない?加護が付いたらナタリアちゃん今より身体が楽になるよ。強くなるよ。さっきみたいに魔法を上手く使えないってことなくなるよ。ね、どうかな?」


「やめてください。離してください」


「急に距離が他人以下やめて」


  そうなるのには理由があった。


「だって聖女の加護つけるとその戦闘中五ターンの無敵効果、体力の上昇、魔力上昇にデバフ無効、回復効果。精霊とのシンクロ率百パーセント!ッ……ふざけるなーー!!許せない!正々堂々己の力の限りに魔法と魔法をぶつけ合って勝つことが勝利なの!」


  詩音も楽しくマジスピをプレイしていたが唯一不満点があった。それが聖女の加護であった。


  聖女の加護を付けたら毎回ワンターンキル。そんなのゲームとしてどうなの!?ラスボスを一撃なんて感動出来るわけがないでしょ!


「そんな戦いに勝っても嬉しくない!」


「だから戦闘はおまけ要素って言ってるでしょー!?この子聖女の加護無しで戦闘進めてるなー!道理で大団円ルートしかクリアしてないわけだ!そんなこと言わないでよー!ちょっとだけ!じわじわ強くなる感じにするから!」


「いやもうそれだけ出来れば十分では?」


「それがちゃんと出来ているかどうか経過を観測したいの!お願い!お願ーい!」


  逃げられないように腕にしがみつかれて愛らしい目を悲しげに潤ませて顔を近づけられれば詩音も断り辛い。このままではいつも自分が使っている手で押され負けてしまう。

  その時、肩を掴まれ後ろに引っ張られた。


「どうして貴方はそうもおかしな方に寄り付かれるんですかねぇ?」


「クラージュくん!」


  支えられた身体で振り返れば心底同情しますと言う表情でこちらを見つめるクラージュがいた。

  しかし彼がなぜここに。クラージュは街へ一緒に来ていなかったはずだ。


「あれ?クラージュくん。お父様と本の話してたんじゃないの?」


  思ったことを口に出せばクラージュはギクリとした顔をして汗を流しながら答える。


「いや、話が終わって僕もたまたま!偶然!街に用事があったのを思い出しまして、ミストラル伯爵にお願いして馬車を用意して頂いてこちらまで来たんです」


  一部を強調しながら早口に告げるクラージュに詩音は首を傾げる。


「そうなの?でも、それって二度手間だったんじゃないかな?あんまり御者を困らせたらダメだよ」


「ぐぅ……すみません……」


  指摘をすればいつもなら回る口が珍しく呻き声を上げて大人しく謝罪するクラージュに更に詩音は首を傾げた。

  本当は詩音が走り去った後、本に全く集中出来なくなったクラージュは父親に笑われながら馬車を用意してもらっていたのを詩音は知らない。


「それより!この方いったいどなたなんですか?」


  クラージュが警戒するように少女へ視線を向ける。


「あ、この子は」


「クラージュ・アビスだーー!!!!」


  クラージュに少女を紹介しようとすればそれより先に指を差してお化けを見たかのように叫ぶ少女。その態度にクラージュは不愉快そうに顔を歪めた。


  そうか。クラージュくんもマジスピの登場人物だから知ってるよね。


「ナタリア様なんですかこの方は。出会い頭に指を突きつけるなんて育ちの悪さが行動から溢れ出ていますが……」


「うーん、さっき初めて会った光属性を持った子。エレノア・ラピーヌさんかな」


「まさか貴方が王家が持つこの世に片手に数える程しかいないと言われる光属性の持ち主とはつい知らずとんだ失礼な態度を……。しかしよく見れば随分聡明な顔つきをしていると思いました。いったいどこで僕のことを存じてくれたのかは分かりませんが光栄です。どうぞこれからも仲良くさせて下さい」


「やだ!素晴らしい程の手のひら返し!!!」


「気にしないでください。クラージュくんの癖なんです」


  詩音の一言で態度をガラリと変えて頭を下げるクラージュを見て不愉快になるどころか少女はむしろ感心してしまった。詩音もわざとクラージュが少女に好感をもてるような言い方をしたがあまりの態度の変わりように自分で言っておきながら苦笑してしまう。

  しかし少女は思うところがあるようで詩音を引っ張るとクラージュに聞こえないようにこそこそと耳打ちする。


「ナタリアちゃんはクラージュ・アビスのこと知らない?一応大団円ルートにもいたと思うけど悪役だよ。ナタリアちゃんとこのお家お金とか毟られてない?」


「クラージュくんはそんなことしてません。とても良い子です」


  いつも勉強から逃げるお兄様を部屋まで引きずり、何かやらかした私やお兄様の代わりにお父様に弁解し、癇癪を起こすクロエ様を一手に引き受け、いつも私といつも一緒にいてくれる。いくら悪役だったと言えど誤解は解いておかなきゃ!


「そうなの!?確かに何もかもゲーム通りの訳では無いわよね。私もさっきバージル様と出会うはずがないのにあの美しいご尊顔を拝んじゃったし。……もしかして好きなの…?」


「え……?」

 

  思いがけない言葉に詩音は一度クラージュのほうを振り返る。


「この方と縁を作っておけばには後々利益になるかもしれない…。クロエ様よりも随分扱いやすそうな方ですしこれなら……」


  うーん……。


「互いの利害が一致して共にしている相棒みたいな感じですかね。もちろん好きですけど」


「そっかー。お姉さん恋バナも好きだから残念だなぁ」


  残念そうな顔をしてしぶしぶ詩音から離れる少女。


 でもクラージュくんこれだけ良い子なんだし将来良物件になって引く手数多なんだろうなぁ……。……あれ、でもクロエ様には余り好かれてはないみたい……?この対応は実は私だけとか自惚れてみ────


「どうしたんです?」


「クククラージュくん!?」


  コソコソとしていたのが気になったのだろうか。クラージュが詩音の顔を覗き込む、さっきの考えと相まって薄紫色の瞳がこちらをじっと見つめるのがなんだかむず痒くてつい詩音は大袈裟に他所を向いた。


「え?」


「あらあら」


  詩音の反応にぽかんとするクラージュとによによと楽しげな少女。


  別に驚いただけだし……。


  しかしその反応に少女の庇護欲が刺激されたのか、加虐心がむくむくと膨らんだのか今度はクラージュのほうへと狙いをつける。


「クラージュくんはこのこの世に生まれし精霊と引けを取らない愛らしさを持ったナタリアちゃんのことどう思う?」


「え!?」


  突然話題を振られたクラージュは素っ頓狂な声を上げて詩音を見る。


  こ、こっちを見るんじゃない!私は何も言ってないよ!多分その人恋愛お節介お姉さんだから!


「ほらほら、お姉さんに教えてご覧。ナタリアちゃんには内緒にするから……」


  耳をそばたてる少女にクラージュは呆れたようにため息をひとつ吐いて


「…………別に、あなたに教えられるような感情は特にありませんよ。僕らは親に決められた婚約なので」


  これで満足したかとにこりと少女に愛想笑いをするクラージュに詩音は見えないところで萎びた花のように顔をしわくちゃにさせた。


  私達互いの利益の為だけに婚約したもんね…分かってたけど普通に悲しい……。


  しかし数多の恋愛ゲームをこなしてきた少女はクラージュの様子を見逃しも聞き逃しもしなかった。その間の取り方、その言い回し、そしてその表情……。


「……ほぉーー。キミ思ったよりも難儀で可愛い性格してるねぇ。いいねぇ。お姉さんそういうのも好きだよ。二人とも推していい?」


「押す!?なんで僕は急に見知らぬ人から押されそうになってるんですかねぇ!?」


「いい加減にしてくださいよ?」


「ごめんなさい」


  二人まとめてハグをしようとする少女に調子に乗りすぎだと詩音は立ちはだかりそう言えば両手を合わせて素直に謝る。


  まったくもう!


「お詫びにいまこの街で流行ってるおまじないしてあげるね!今より仲良くなれちゃうおまじない!」


「胡散臭……身体の調子が悪いのでラピーヌ様の大変興味深い提案だと思いますが今回は遠慮しておこうかと思います」


「おまじないとかあまり信じてないです」


「はい、手を繋いでー」


  少女の唐突な提案に二人は興味なさそうに遠回しに遠慮しようとするがそんなリアリストな二人を半ば強制的に手を繋がせ、目を閉じるように促す少女。大人しく言葉に従うと胸の奥が温まるような、何かで満たされていくような感覚がする。


「……貴方達の魂が月の光で満たされますように……」


  あれ?そのセリフどこかで聞いた事あるような……。


  少女は二人に目を開けるように声を掛けると良い笑顔で親指を立てた。


「はい!加護りました!」


「嘘!?加護られた!?」


「?」


  結構ですって言ったじゃん!



  体力の上昇、魔力上昇にデバフ無効、回復効果。精霊とのシンクロ率百パーセントか……。また強くなっちゃうな……。クラージュくん的にはどうなのかな?いや、普通に喜びそうだな。


  そうなった自分を想像して遠い目をしている詩音、そんな詩音を不思議そうに見ているクラージュ。


「それじゃあそろそろおばあちゃんも心配してるだろうし帰ろうかな」


  そんな二人を見て満足気に頷くと少女はそう告げた。

 

「ナタリアちゃんまた経過教えてね!……そんな顔しないで!一応チートとかにはならないように調整はしたから!」


「……わかりました」


  呑気に笑う少女を恨みがましくじとっと見つめたが、諦めたようにため息をついてしぶしぶ頷いた。

 

「また次会った時は二人の恋バナ聞かせてちょうだい!」


「懲りない人ですねぇ……」


「ふふ、それほど二人のことをお姉さん気に入っちゃったわけだよ。……それじゃあね!」


「あ、待って!」


  早足に人混みに紛れていこうとする少女に一つ、一番大切なことを彼女から聞き忘れていたことを思い出し一人慌てて駆け寄る。


「あの……!名前!」


「え……?まさかナタリアちゃん、ヒロインの名前知らない!?」


「それは流石に覚えてます!」


「なら……」


  いいのではと言いたげな少女に詩音は首を振る。


「貴方は日本人でしょ?同じ名前のわけないですよね。エレノアはエレノア。私は貴方の名前が知りたいんです」


  その言葉に少女は大きく目を見開いた。詩音の青い瞳をじっと見つめて、それから目を細める。

  詩音にはその表情がなんだか今にも泣き出しそうに見えた。


「そうね。そうだった。私の名前は……─────」



 風が吹く。強い風。そのあまりの強さに詩音は目を閉じた。


「ナタリア様……?」


  クラージュの声がして目を開ければあの少女はいなかった。


「あれ……?あの子は?」


「先程走り去って行きましたがどうかなさいましたか?」


「え?いや……何でもないよ」


  まぁ、ここに来ればまた会えるよね。


  そう思った詩音は少女がいた方向を一瞥してクラージュの元へ歩き出す。


  しかしそれから詩音はあの少女と出会うことはなかった。





  さぁ、舞台を整えましょう。全ては─────の為に


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