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サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
20/60

18.ヒロインとの遭遇 前

 

「イヤァアナタリアチャンダァ!!!カミチュヤチュヤ、オメメキラキラキャンワイィイ!!!」


「なんて言った?」


  詩音の手を握り、目をキラキラと輝かせる少女の言葉を理解できずに詩音は首を傾げた。


 ◇


 詩音は約束を果たすべく三日後にアビス家へ向かった。マルスランは本気だったのか…という表情をしていたがなんたって詩音にとってはこれ程にないカモなのだ。逃す筈などない。マルスランもなんやかんや律儀な性格である故に大人しく詩音に着いてきてくれたがクラージュと顔を合わせた瞬間顔を思いっきり顰めていた。

  リアムと共に勉強していたクラージュもマルスランが突然現れたことにとても驚いたようだ。マルスランの目の前で力の限りに扉を閉めた。


「なにするんだこのやろう!開けろ!」


  憤慨するマルスランの言葉は聞こえないとばかりに詩音だけを視界に入れて笑いかけながら声をかける。


「なんだか耳障りな音が聞こえますねぇ。ナタリア様、扉開けっ放しにすると入って来そうなので素早く入ってきて下さい」


「なんだその態度!!」


「はいはい喧嘩しない。マルスランさんはお兄様に用事があるんだから」


「俺?」


  リアムに大まかに説明すれば同い歳の一緒に遊んでくれる人間にリアムは大層喜び張り切ってマルスランと外へと出かけた。リアムを一目見たマルスランはその儚げな容姿にこんな奴が俺よりも強いのか?と疑わしげな顔をして引き連れられて行ったが数分後にはその考えの甘さを深く後悔しただろう。

  その証拠に帰ってきたマルスランはよくも騙したなぁ!!と叫びながら詩音に魔法を放っていた。


  騙してはないじゃん!


「クラージュくん!ミラが街に連れて行ってくれるって!ちょっとマルスランさん怒らせちゃったし落ち着くまで一緒に遊ばない?」


「あんな人連れてくるから……。しかもこの前街で厄介な人と出会ったばかりでしょう。懲りない人ですねぇ。…まぁ、いいですけ」


「あ、クラージュくん?今時間あるならよければこの前の本の話でもどうかなぁ」


「はい、喜んで!!」


「クラージュくん!?」


  嘘、お父様に負けた…?確かにお父様はこの中でちょっと頭が良いみたいだけどそんな手のひら返ししなくても!あ、お父様に渾身のドヤ顔された!すごいムカつく!


「もういいもん。お父様と本の話で盛り上がったら?」


  大袈裟にぷいっとそっぽを向けばクラージュはしまったという表情をしてしどろもどろに言葉を掛けようとするが詩音の耳には入っておらず不機嫌そうに頬を膨らませたまま待たせている馬車まで走った。


「ミラ~~!」


  馬車で二人を待っていたミラに詩音が情けない声でひしっとしがみつけば目を丸くして受け止められる。


「お嬢様早かったですね!あら、クラージュ様は?」


「お父様に負けちゃったの私!悔しい!」


  その言葉にきょとんとしていたが状況を理解したのかにこやかに微笑んで、


「わかりました。今日の旦那様の食事に辛味の香辛料詰めときます」


「やめてやめて」


  くるりと向きを変えてどこかに行こうとするミラをすぐさま止める。


  このメイド怖いものなしか!


  止められたことに不満げな表情をしたが必死な説得ののち使命感に燃えるように意気込んで拳を握り詩音に言い切る。


「こうなったらクラージュ様も羨ましがるくらい二人で楽しみましょ!」



 ◇



「いや、またはぐれてるじゃん!!」


  先程の宣言は嘘だったのかと疑うほどに街に着いた途端、人の波に攫われ二人ははぐれてしまった。


「やっぱり手を繋ぐべきだったんだよミラ!!!」


  馬車から出る前、はぐれないよう手を繋いだほうがいいのではないかと提案したら「クラージュ様と一緒に来ることができなかった寂しさを紛らわすためにそれを口実に手を繋ごうとしてるんでしょう!お嬢様意外ととても可愛い人ですね!」と茶化してきたミラが今回は絶対に悪い。しかも意外とってなんだ。さっきの発言と一緒にお父様に言っておこう。


  そう心に決めてミラを探すためにとりあえず闇雲に歩こうと一歩踏み出そうとした。


  え……?


  しかし、あるものを見つけた詩音は目を大きく見開く。気づけば人混みの中を突っ切りながらその方向へと急いで足を進めていた。


  遠目からでも目立つストロベリーブロンドに温かな琥珀色の瞳。和らげな雰囲気の少女がそこにはいた。


  その姿を詩音は知っている。だって過去に何度も見てきたのだから。あの少女は……


「ヒロインだ……」


  マジスピのヒロイン、エレノア・ラピーヌ。この世界で数少ない光属性の持ち主で世界を救う少女。


  そんな少女が今の目の前にいる。もしかしたら今の自身状況について何か知っているかもしれない。そう考えが行きつけば詩音の足取りは自然とどんどん早くなる。

  距離が近づくにつれてヒロインが何をしているのか見えてきた。よく見ればプラチナブロンドにルビーのような真っ赤な瞳の少年にハンカチを差し出している。

 

  あれ、よく見たらヒロインとメインキャラクターの遭遇?こんなところで会ったっけ?でも困ったことに私、全然覚えてないんだなこれが!


  様子を見ようかと思ったが少年はハンカチを受け取ってすぐに詩音のいる方向とは逆方向へと走り出していた。よく見れば少年の顔が赤いような気がしたので邪魔をしないでよかったと詩音は心の底から思った。少年少女の青春の邪魔をしたいわけでないのである。

  少年がいなくなったのならこれ幸いと少女の横顔に向けて声を掛けようとして


「……推しにハンカチ渡しちゃった!!!これは夢!?!?」


「……え?」


「どうしよう!でも渡さないといけない流れだったし、でも推しに一人だけ認知されるなんて罪深くない?でも怪我してる子供に何もしないなんてこと許されるわけないでしょーーー!!でも幼少期推し可愛すぎた……。推しの生ツンデレは至高。これはおかずなしに飯三杯はいける。神様仏様女神様悪魔様この世の全てに感謝」


  突然頭を抱えてしゃがみこみ独り言を話し始める少女を人々は避けて通る。詩音もこのまま声を掛けずにミラを探そうかと迷ったが彼女の様子に何処か既視感を感じた。


  もしかしてこの子……。


  一つの考えに至った詩音は未だに独り言を続けている少女の前へと姿を現した。


「貴方……もしかしてマジスピユーザー?」


「この透き通るような可憐な声……誰!ナタリアチュワン!?」


  少女はがばっと立ち上がると詩音の方を見ると顔を赤くして後ろへ飛び上がる。


「驚かせてごめん。でも私達もしかしたら似た境遇の人間かもしれないの。だから」


「嘘!本物!?こんなに可愛い人間がこの世に存在してもいいの!?きゃわ!!」


  やりづらいな……。


「あの……話を聞きたいんだけど」


「もちろん構わないわ。でもその前に………握手してください」


「えぇ…………?」


  握手だけでは留まらず一通り揉みくちゃにされた後、少女は平静を取り戻したようだ。


「元マジスピ廃課金ユーザーの社会人。今はヒロインのエレノア・ラピーヌです。最推しは先ほど出会いましたバージル第二王子です。私もうこの世に未練はありません。ありがとうございました」


  聞けばヒロインになった人は詩音より歳上で重度のマジスピファンだった。


「終わらないでください。元マジスピ大団円ルートを通過した程度の高校生です。推し……?王国騎士団第一部隊隊長です」


「高校生!?若いわねぇ……。隊長ルートも確かに良いわよね!どんなことにも動じないクールな隊長がヒロインが傷つきそうになった時に見せた焦りの表情が……」


「ひたすら育成と戦闘を重ね最強の隊長にしました。かっこいいですよね風魔法最強技を放つ隊長……」


「あれ一応恋愛ゲームで戦闘はおまけ要素なんだけど!」


  そうツッコミを入れれば少女は詩音にどのルートから進めていくのがおすすめか真剣に語り始めた。とても楽しげに話す少女を見て本当にマジスピのこと好きなのだなということが詩音にも伝わってくる。


  しかし申し訳ないが詩音が今聞きたいのはそこではないのだ。

  好きな物の話が止まらない少女に詩音はここに来て一番聞きたかったことを問いかける。


「ねぇ、貴方はどうやってこの世界に?私、いつの間にかナタリアになってて……」


  それまで弾丸のような勢いで喋っていた少女の口から息だけが漏れた。途端に明るい笑顔をくしゃりと歪めて俯く少女を見て詩音は聞いてはならないことを聞いたのだと悟り、同時にこの先を聞くのが怖くなった。


  なんと言ったら良いのか困ったように視線をさ迷わせていたが少し間が空けて言いづらそうに口を開いた。


「私は……、交通事故で多分、死んじゃったから……かなぁ」


「え………」


  交通事故……?死んだ……?


  自身の背筋が凍りつく。


「それで気づいたら赤ちゃんになってて。生活しているうちに自分がエレノアだって気づいたの……」

 

  足元がぐらりと崩れそうな感覚がした。だって彼女がそうであるならもしかしたら……。何も思い出せない自身に焦りを覚えて手を強く握る。


  どうして私はここにいるのだろう。


『…………お前は………………か?』


「ッ!」


  突然の頭痛に頭を押さえた。


「あ、でもナタリアちゃんも同じだとは思わないな!ここに来るまでの記憶ないんでしょ!?私と違って死んだわけじゃ…いや、私も死んだわけじゃないかもな!ほら、転生者のテンプレ考えたらそうかもって思っただけだし!」


  詩音の顔色を見て慌ててそう言い足す少女。しかしその表情は晴れず何も言えない。そんな詩音に眉を下げながら落ち着かせるように慰めるように少女は背中をリズム良く叩き始めた。


「ナタリアちゃん。ごめんね」

 

  彼女にそれを言わせるのは違うと思い否定するように勢いよく首を振る。


「私が聞きたいことに答えてくれただけじゃないですか……」


「それでも私が迂闊だったと思う。元の世界へ戻りたいと思っているのでしょう?キミはまだ高校生でやりたいこともなりたいものもたくさんあったんじゃないかな?」


  幼い顔だがその表情は大人びていてそんなちぐはぐな少女は詩音の顔を覗き込み、優しげな瞳で問いかける。答えたら同情されるのかもしれない。しかしいつの間にか詩音の心は凪いでいた。


「……」


「…きっとキミは我慢して一人で抱えちゃう子なのね。…私の言葉を信じるなら今から言うことも信じて。大丈夫。私が聖女になってキミはちゃんと帰してみせるわ。だから今度からは(大人)を頼ってね」


「……はい」


 あまりも優しい声でそんな希望を持たせるようなことを言うからちょっとだけ泣いた。

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