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サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
18/60

16.パワーアップ

 

 誘拐事件から数週間後、詩音の外出禁止期間が終わり、クロエも今まで停滞していた分の勉学を終えると自然と三人はまたミストラル家で集まるようになった。最近はなぜかクラージュとクロエが顔を合わせるたびにいがみ合うようになってしまったので詩音はナタリアの胃を心配したが思ったよりも屈強な胃のようだ。一度も胃痛が起こらない。それに二人も詩音を本気で悩ませるほど険悪でもないので喧嘩するほど仲がいいということだろう。詩音はそう思っている。多分言ったら全力で否定されると思うが。

 そんな三人で集まってはお茶を飲んだり、お喋りをしたりと騒がしいが楽しい日々が続いていた。



「よし!それじゃあクラージュくんやってみよう!」


「はい…」


 詩音が見守るなか、ゆらり、クラージュの手に水が集まり形を形成していく。小さな水の球体が形を変えようとした瞬間、弾けた。それは詩音がクラージュに一番初めに見せてもらった魔法と何ら変化はなかった。その結果にクラージュはため息を吐く。

 ここ最近はクラージュの魔法の向上を図っているがなかなか思うようにはいかない。


「なかなか難しいね」


「まぁ、僕には才能がないですから。あまり気にしてませんよ」


「ばっか!もっと熱くなれよ!!」


「痛った!」


「お兄様もうちょい手加減してあげて!」


 卑屈な発言をするクラージュの肩をリアムが容赦なくど突くので詩音は慌てて止める。クラージュは少々自身の魔法に対して自信がなさすぎる問題があるのでどうにかしたいのだが…。しかしこのまま卑屈という言葉と一生関わりのなさそうなリアムに任せたらクラージュの肩がパンパンに腫れそうだと詩音は思った。


「御機嫌よう。ここにいらしたのね」


 そこへクロエが三人の元へやってきた。クロエの姿を見るや否や嫌そうな顔をするクラージュ。クロエはそんなクラージュは眼中になく、詩音が嬉しそうに手を振ればパァッと顔を明るくさせる。


「クロエ様、御機嫌よう!」


「ナタリア、今日は何をしているの?」


「クラージュくんの魔法がパワーアップするように特訓中だよ」


「へぇ…………」


「露骨に興味を失うのをやめてクロエ様」


「まぁ、ちょっと見せてみなさいよ。手伝ってやらないこともないわ」


「えぇ……」


「なによ!その顔は!」


 キーキーと騒ぎ立てるクロエが面倒になってクラージュはしぶしぶと先ほどと同じように魔法を展開する。

 手のひらの上でビー玉ぐらいの大きさの水がぴしゃっと弾けたところを見ればクロエはきょとんとしてクラージュを見つめる。


「……これだけ?」


「これだけですが何か?」


「……、……ブフォッ!!オーホホホホ!!」


 途端、クロエは噴き出して笑いだした。詩音は急に笑いだしたクロエにギョッとして慌てて背中を摩るが、クラージュは額に青筋を立てる。


 笑いすぎて涙が出てる…!めちゃくちゃツボに入ってる!


「ふふ、ごめんあそばせ。あまりにも小さくて可愛らしい魔法だったから…ブフッ!」


「だから嫌だったんです。この人に魔法見せるの……!」


「クロエ様!」


「わるかったわよ!ナタリアもそんな顔しないで!まさかここまで酷いとは思わないじゃないの!!」


 また吹き出しそうになったクロエに流石に非難するように名を呼べば、謝罪するが笑いの耐えきれてない上擦った声が更にクラージュの眉間に更に皺が寄せる。


「そういうクロエ様はただ派手なだけの魔法なんじゃないですか?」


 クラージュは腹立ち紛れにクロエの粗を探すように言葉をぶつければクロエはピクリと眉を動かしたかと思うとクラージュに向けて手の平を向ける。その瞬間、クラージュの横で大きな炎が弾けた。その炎はバラの形に変え、花弁が散るように消えていく。

 詩音はそのクロエの魔法を見てまるで花火のようだと思った。なかなか威力の高い攻撃にクラージュは目を丸くした。その反応にクロエはとても機嫌が良さそうだ。


「能力も高くなければ殿下の婚約者は務まらないのよ」


「へぇ…そうなんですか。それにしてはコントロールは不得意みたいですね」


「……今すぐ貴方に当ててもいいのよ?」


「二人ともやめなさーい!!」


 険悪な二人の間に詩音が割って入れば二人は互いにそっぽを向く。


「クラージュくん!!お兄様を見て!銀髪、青い瞳。完璧に風属性か水属性の人間だよ!なのに、なのに!魔法が全く使えない!ほんとに出来ない!」


「お?オレか?そうだよ。詠唱もだめ。魔法陣とか書いてもムリ。全然使えねぇ」


 クラージュは髪色も瞳の色も何も影響を受けていないから才能がないと言うがリアムはその二点を持っていながら魔術が全く使えない。詩音からしてみればそんな関連性全部迷信だと思ってる。


「わかる?お兄様は脳から心臓まで筋肉で出来てるから魔力が入り込む隙間がないんだよ!」


「お?馬鹿にしてんのか?喧嘩なら買うぞ?」


 今フォローしたのに!?


「でも顔が良いから許される節があるわ」


「許されないよクロエ様!?才能ありそうなお兄様が魔法が微塵も使えないんだよ?クラージュくんは伸びしろがあるはずなんだから才能がないとか僕なんかとか言うと私も悲しい!」


 詩音がそう何度も言い聞かせることでクラージュのネガティブな発言は減ってはいるものの気持ちは思うようにはいかないらしい。今も何か言いたげな浮かない顔をしているので、その気持ちが痛いほどわかっている詩音は頭を悩ませる。


「……クラージュくんって魔法使うときに何考えてる?」


「え?」


「クラージュくん魔法の使い方が一定というか、変化がないというか…こうやって魔法を使いたい!みたいな意志を感じるから何考えてるのかなーって思って」


 少し考える素振りを見せたが何か思い出したのかあっと言い出しそうな顔をした。


 おっ、心覚えがあるみたいだ。


「ヒントになるかもしれないからさ。話してみてよ」


「えっ」


「えって何?えって?」


「何よ!言いにくいことなの。教えなさいよ!」


 どうしてクロエ様はこんなに嬉々としているんだろう。クラージュくんの弱みを握れると思ってるからかな。


 クラージュは初めは嫌そうな顔をして渋っていたが、詩音が悲しそうな顔をして頼み込めばため息を吐いて観念したように話し出す。詩音は後ろ手でガッツポーズしたのをクロエとリアムは見ていた。


「二年くらい前の話なんですけど…あのですね……一度森で迷ってしまいまして…」


 はい、可愛い。

 詩音はその心情がそのまま言葉にならないよう口を押えた。不審な行動をした詩音にクラージュは首を傾げたがまたぽつりと話し始める。恥を晒すのが嫌なのか心底嫌そうに話すところやだんだんと声が小さくなるところに詩音はクラージュもまだ子供なんだなぁと実感する。


「その時に女の人に出会いまして、送り届けてあげたいが所用でここを動けないからと魔法を使って道を案内していただいたんです。その時の魔法が目について離れなくて……もしかしたら影響を受けているのだと思います………」


「…これは…」


「…そうよね……フフっ」


「だな…」


「な、なんですか…」


 クラージュの話を聞けば三人で顔を見合わせうんうん頷く。


 やっぱりそうだよね……。


 きっとクラージュにとっては大切な思い出なのかもしれない。しかし詩音は心を鬼にして言わなくてはならない。


「…クラージュくんの一目惚れの初恋の話を聞いてしまって申し訳ないんだけど…」


「………違いますけど!?」


  うっそでしょ!?


「うっそでしょ!?何が、どこが違うの!?その人の魔法を一目見て心奪われてその人みたいな魔法使おうとしてるんだよね!?一目惚れで以外ないでしょ!あ、初恋のほうが違う!?初恋は誰よ!お姉さんに教えてみなさいよ!!」


 詩音が興奮気味に距離を詰め、捲し立てればクラージュはたじたじと一歩下がる。詩音の勢いに押され気味だ。


「その女の人に憧れてなかったって言うの!?」


「………憧れてないわけではないですけど!」


「……それでクラージュくんの一目惚れの初恋の話を聞いてしまって申し訳ないんだけど…」


「二回も言ってもらわなくて結構です!」


「そのイメージ全部捨てたほうがいいよ」


「は?」


「クラージュくんにその魔法は合わないんだと思う」


「どういうことだよ?」


 魔法のことは勝手が分からないリアムはナタリアの言葉に首をかしげる。クラージュもよく分かっていないようだ。クロエは何となくわかるのか同意するように頷く


「私は誰かに風魔法の使い方教えてもらったことがないから誰かを見て真似ようってことがなかったんだよね。クロエ様は?」


「基本は教えてもらったけどあとは独学よ。魔法は人それぞれで扱い方は違うから。人を見て真似て完璧に同じようことが出来るのは多分天才よ」


「私たちは誰かの影響を強く受けたりしてないから自分の魔法に対して柔軟というか適当なんだと思う。クラージュくんは……悪く言えば頭でっかちなところあるからその人と同じ魔法を使うことにすごい拘りが無意識にあって上手くいかないのかなぁって……。」


 その人と全く同じように魔法を使おうとすれば自分の個性は伸ばされないし、実力も発揮されないのだろう。クラージュの理想は強い魔法を使うことだ。それなら一度全部捨ててやり直すことが一番早い道だと詩音は思った。

 これは実は詩音の経験でもある。フットサル部に所属している詩音は美しいフォルムをした選手と全く同じオーバーヘッドキックをしたいと真似してみたのだが、その選手と同じ動きをしようとすれば無駄な動きが出るし、物の見事に頭を打ち付けた。無理に他人の真似をすれば怪我にも繋がる。自分の体を理解した自分なりのやり方が一番だ。


  「よくよく見てみるとクラージュくんが水を操ろうとすると反抗している感じがあるし、もっと上を目指すなら一度全部捨てて初心の気持ちでやり直したほうがいいかも。その人みたいな魔法を使うことにこだわりがあるならそのままで良いと思うよ。身体の成長と共にその魔法も少しは成長するはず。……だけど、限界はあると思う」


「……」


「正直、その魔法を使って少しでも身体に異変を感じるならやめてほしいかな。身体を壊したら元も子もないし、心配なの」


「……わかりました。善処します」


 心配そうな顔でクラージュをじっと見つめる詩音。クラージュはその目に降参と言わんばかりに返事をする。その曖昧な返事にクラージュが実際に少し無理をしていたことを詩音は悟る。


 やっぱりクラージュくんのことよく見とかないと……。


「他に理由があるならクラージュくんがやっぱりちょっと卑屈なところかな。私の風の魔法もクラージュの水の魔法も精霊がいるから出来ることじゃない?」


「……そうですね」


「精霊も私たち人間みたいに面白い人や感謝してくれる人に力を貸してくれるんじゃないかな?あの時だって私の反応が面白いから面白半分に力を出してくれてるんだと思う」


 マジスピのゲームストーリーの時には唯一精霊の見える四属性使いの攻略対象がヒロインに「キミは聖龍に愛されているから様々な精霊がキミに興味津々だ」とかなんとか言ってた気がしていたから精霊も自我があるのは間違いない。

 アビス家破壊事件の後、詩音は何も無い場所で普通に魔法を何度も使ったがあれほどの威力は未だに出ていない。

 

「……」


「無理がない程度にゆっくりやっていったらいいよ。時間はまだあるし。私達も力を貸すよ」


 まだ悩んでいる様子のクラージュに詩音は優しく微笑めば、クラージュは黙って頷いた。




「で、どうすんだよ。アイツに本当に魔法の才能がなかったら」


 クラージュが目を閉じて集中している隙にリアムが私の隣に移動する。その表情は難しい。


「次から次にアイデア出すのもいいが期待させるだけさせてだめでしたなんて酷だろ。ある程度で踏ん切りつけさせることも大事だぜ」


「私もそう思うわ。あいつがそこまで出来ると思えないし」


 クロエの言い方は散々だが確かにこのまま同じことの繰り返しだとだめとは詩音も理解している。このまま続けていれば期待することもやめていつか何も出来なくなってしまうかもしれない。そうなる前に詩音が止めなければならない。でも詩音は、


「うん…わかってる……。でも、私は」


 クラージュが馬鹿にされたこと、努力したことそれは決して無下にされるはずがない。これは詩音の根拠のない直感だ。しかしこういう時の勘は当たるのだ。二人を見て自信満々に告げる。


「クラージュくんを信じてる!」


 その時、何かひび割れた音が聞こえたと同時に冷たい風が詩音の頬を撫でた。


「え……?」


 振り返るとそこには、


「で……できた……?」


 クラージュの目の前には大きな氷の柱が立っていた。空に向かう氷は依然として伸び続けている。

 その状況にクロエは目を丸くしてリアムは楽しそうな表情でその場で拍手した。


「あああああああ!!クラージュくんすごいぃいい!!!」


「うわ!?」


 歓喜のあまり詩音がクラージュを抱き締めれば集中力が切れたのか氷は水に変わって二人に降り注ぐ。全身びしょ濡れになったが詩音はそんなことどうでもよかった。


「すごい!すごいよ!」


 興奮気味に話しかけるがクラージュは呆然としたまま立ち尽くしている。


「クラージュくん?」


「─────ッ!」


 詩音が顔を覗き込めば放心状態だったクラージュはそちらに視線を向ける。しばらくしてふつふつと実感が湧いてきたのか詩音を強く抱き締め返した。


「───やりました……!」


「流石クラージュくん!まさかの水じゃなくて氷属性?そんなのもあるだね!クラージュくんなら出来ると思ってた!」


「……はは、そんなこと言うのは貴方ぐらいですよ……」


 そう言いながらも屈託なく笑うから、詩音はその笑顔に嬉しくなって肩に顔を埋める。さっきまでとても落ち込んでいたのにすっかり元気になったクラージュにくすくすと笑う。


「……よかった」


 猫のように頭をクラージュの肩に擦り付ければくすぐったそうに身動ぎする。


「ちょっとくすぐった───」


 そこで周りが見えていなかったクラージュはやっとリアムとクロエが二人を見てにやにやと笑っていることに気づいた。自分が周りの目も気にせず魔法が上手くいった喜びで詩音を情熱的に抱きしめていることを思い出すと途端に顔を真っ赤にさせる。


「ナタリア様ちょっと……」


「ねぇ!何考えて魔法を使ったの?」


「……精霊に感謝の気持ちを込めてました……。ナタリア様ちょーっと一旦……」


「そっかそっか!やっぱりそれが一番なんだね!氷って暑い日とかすごい便利そー!」


「便利使いする気ですか?いや、そうじゃなくてですね……」


  詩音は詩音で周りがまだ見えていないし、離れろと言わないクラージュ。その二人の空気に先に耐えられなくなったのはクロエだった。クロエは詩音を後ろから小突く。

 

「あっ痛っ!?」


「そのまま濡れたままだと風邪をひくわ。まぁ、私にはどうでもいいんだけど」


「ほんとだこのままじゃクラージュくん風邪ひいちゃう!タオル持ってくる!」


 詩音はクラージュからぱっと離れてミストラル家に走っていく。それを見守っていたクロエはクラージュほうを向くと鼻で笑った。


「周りが見てると気づいた途端、挙動不審になるところとかスマートに振り解けないとかほんとかっこわるい男ねぇ~」


「ぐぅ……」


 一番見られたくない奴に情けないところを見られてしまったことに呻き声しかでないクラージュの肩をリアムが叩く。


「やったなクラージュ!そんなクラージュに朗報だ!魔法の力と体力をもう一段階上げるオレの特訓が」


「今は結構です……」


「えーーー!」

 

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