P.9 「はじめてのくえすと」
街より遠く離れた所のとある森。
その見上げるほどの木々が生い茂る場所に、モンスターの叫びが響いていた。
「ギギギギギッ!」
緑色の醜悪な小人、ゴブリンが刃こぼれだらけの包丁を振りかざし走る。
ゴブリンが向かう先には、モノクルをかけナイフを構えたハジメが立ち構える。
ハジメへと襲いかからんとするゴブリン。
しかし、その間に盾を持ったコボルト、ハチが立ちはだかる。
「バウッ!」
「ギギッ!?」
ハチは装備した盾でゴブリンの攻撃を弾き、たまらずゴブリンは後ずさる。
「サンキュー、ハチ!”我が道を照らせ”【ファイヤーボール】!」
シオンの特訓によりレベルが上がったことで、拳大の火の玉を放つ魔法を習得した。
職業【魔術師】が装備している杖は装備者が行使する魔法を補助する役割を担っている。
これは魔法の威力を上昇させる他に、精密さをカバーする。
シオンのように杖を装備していないので魔法の威力はそれほどでもないが、牽制ならこれで十分である。
ハジメの手から放たれたファイヤーボールはゴブリンの顔へと当たり、ボンッと小さな爆発が起きる。
「ギァアア!」
顔半分を火傷したゴブリンは痛みのあまりに、持っていた包丁を落とし顔を手で覆う。
その瞬間を狙ったかのように、ゴブリンの膝に矢が刺さる。
「・・・わふ」
「ナイスだ、ポン太!」
横を見ると、弓を構え終えたポン太が満足した顔をしている。
膝に重傷を負ったゴブリンは、耐え切れず膝をつく。
「今だポチ!」
「わっっふん!」
「グ、ギャ!!」
ポチの上段からの剣撃を受けたゴブリン。
ついには生き絶え、その場に倒れるのであった。
ハジメは周りを確認してから、ホッと息を吐く。
「よし!みんな、お疲れ。アイテム回収したら一休みしよう」
「「「わふっ」」」
ポチ達にそう声をかけ倒れたゴブリンに近寄る。
PWでは倒したモンスターは死体のまま存在する。
しかし、プレイヤーが触れると、アイテム化することが選択可能となり、同意を押すとアイテムとなる。
これは、テイムしたモンスターも同様な効果を得る。
アイテムはランダムであり、ゴブリンが使っていた武器であったり、腰巻の布など様々である。
試しに一つ例に挙げるとこんな感じである。
【錆びた包丁】
ゴブリンが所持していたもの。
使えず捨てられたものをゴブリンが拾ったのだろう。
手入れはされておらず、状態は極めて悪い。
製作者は不明。
ランク:F
【汚い腰巻】
ゴブリンが巻いていた腰巻。
汚物と獲物の血で汚れており、非常に臭い。
……マジで臭あっ!
ランク:F
ほぼゴミ同然である。
ちなみに、PWではランクという格付があり、SSS、SS、S、A+、A、A−、………、Fとあり、SSSが最上ランク、Fが最低ランクである。
ほぼゴミのようなものもあるが、無いよりはマシである。
腰巻は使い道など無いが、包丁の方は持っていくところに持っていけば、鍛治師見習いの練習用の鉄屑として使うらしい。
たまにランクE+とか、鉄貨とかマシなものもあるし。
ハジメはコボルト達と一緒にアイテムを拾いつつ、クエスト内容を確認する。
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【ランクF:森に巣食うゴブリンを討伐せよ】
ピカダリア森にゴブリンが目撃された。
数が増える前に討伐が必要である。
日が暮れるまでに、近隣の村からの派遣者と同行し、最低30体は討伐されたし。
報酬:3000G
現在討伐数:28/30
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クエスト完了まで、あと2体。
まだ拙いながらも、昨日のシオンのハード特訓に比べれば、ハジメにとって今回のクエストは難なくこなせるものであった。
といっても、今回も協力者がいるから、ミスなくできてるのだろうが。
「さすが異邦者。戦いを知って間もないと言うのに、よくやるもんだ」
一息吐いているハジメに、その協力者が声をかけてきた。
「いやいや、ケールのおかげだよ。さっきもゴブリンの牽制してくれたし」
年はハジメより少し上だろうか。弓を携えた健康そうな青年ケールがハジメを褒め称える。
彼がクエスト内容に記載されていたこの森近隣の村からの協力者である。
何でも村で1番の弓使いで、将来有望な狩人らしい。
気さくな奴で、今ではすっかり意気投合だ。
「そういうのに気づいてるだけでもいいんだよ。最近はマシだけど、たまにアホな異邦者もいるからなぁ」
「例えば?」
「『使えねええぬぴぃしーだな!』とか訳分かんねえ暴言吐いて、敵に勝手に突っ込んで、食い殺される奴」
「そいつは酷ぇ。災難だな」
「だろ。まったく困るよなあ」
そう言って軽快に笑うケール。
ケールはハジメのことを異邦者と呼んだ。
異邦者。
それは、この世界の住民による「プレイヤー」達の呼び方だ。
このゲームでは、住民達は自分達の世界がゲームであることを知らない。
設定によると、住民はハジメ達プレイヤーが別の世界から神の加護により訪れている、ということになっている。
なので。
例え、ココはゲームなんだ!と言っても信じて貰えず、終いには腕のいい精神病院を勧められる。
(まあ、たしかに。事実を知っていても、人間と話してる感覚だし)
そんな事を思いながら、ハジメはドロップアイテムを拾い終え、軽食をとることにした。
ちなみに食事の内容は、ビーフジャーキーとたんぽぽ茶、朝に市場で購入したパンの余りである。
ご推察の通り、前の2つは『ケモノのそうこ』店主からのおすそ分けされたものだ。
【グレートバッファローのジャーキー】
荒原の猛牛と名高いグレートバッファローが原材料のジャーキー。
栄養価が高い。
製作者:モッフィー
ランク:C
【キラーダンデライオン茶】
初心者殺しと名高い肉食植物であるキラーダンデライオンから作られたお茶。
いくつかのハーブが配合されている。
老廃物を外へと出すデトックス効果と、利尿作用がある。
製作者:モッフィー
ランク:C+
相変わらず女子力高すぎである。
ビーフジャーキーを五つにちぎり、ポチ達とケールに手渡す。
ポチ達はハムハムと噛みしめるように味わっている。
俺も一口。
………うん、旨い。
どうやらケールも気に入ったようだ。
「こいつは旨え!店の場所教えてくれ。今度買いに行くからさ」
「そうか。じゃあ、気を付けてね」
「おい待て。なんで、店行くのに注意が必要なんだ。こっち向け、おい」
黙っていた方が面白そうなので、あえてケールの言葉を無視する。
そんなことを思いながら軽食を食べ終えると、ポン太が北の方向を向いた。
「ゴブリンが近くにいるのか、ポン太?」
「わんっ(コクコク)」
「よっしゃ!それじゃ〆に取り掛かりますか!」
たんぽぽ茶が入った水筒をアイテムボックスに入れ、戦闘準備に取り掛かるハジメ。
待ち構えていると次第にハジメの耳でも、こちらに接近して来ている音が聞こえてきた。
ハジメはゴブリンを視界に入れた瞬間に【ファイヤーボール】を放てるよう集中する。
────だが、事態は予告もなしに急変した。
「・・・ッ!ワンッ、ワンワンッ!!」
「ど、どうしたポン太!?・・・ハチにポチも?」
ポン太が総毛が逆立ったかと思うと、森の奥に向かって吠え始めた。
さながら、ハジメに警告するかのように───そして、不安を少しでも抑えたいがために。
ハチとポチも「ウウゥゥゥッ!」と威嚇するように唸っている。
ハジメは突然の事について行けず、戸惑う中。
そして、それは現れた。
「ギギッ、ギィィィ!?」
生い茂る草木を掻き分けて現れたのは一体のゴブリン。
しかし、そのゴブリンは酷い有様であった。
満身創痍で何かから我武者羅に、必死に逃げ惑うように此方に向かって走り、
ブンッ、グシャッ!
───ハジメ達の目の前で、頭が弾け飛んだ。
「「・・・・・・は?」」
ハジメは一部始終を見ていたが、頭が追いつかない。
ゴブリンの頭があった場所を、丸太の如き獣の腕が風切り音をたて通過したかと思えば、スイカ割り彷彿とさせる現象が起きた。
ハジメは動けない。
だが、事態は待ってくれない。
ゴブリンが来た道を追うように、しかし泰然と、それは姿を現した。
「Garrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!」
その叫びに肌がビリビリと震え、森に木霊する。
それは熊であった。
ただ、地球の熊とは全く違う。
その毛皮は獲物の返り血で染まったかの如く真赤。
大きさは5M、只でさえ丸太のように太い腕は4本もある。
「な、なんでっ!?こんな所にクリムゾンベアがいるんだよ!」
熊の出現にケールは目をむき、叫ばずにはいられなかった。
一目見て、知識の少ないハジメですら分かった。
格が違う。
その異世界の熊は、残虐的に、嗜虐的な顔を浮かべ、大きな眼がハジメ達を映していた。
────新たな獲物として。
『報告!プレイヤー:ハジメに緊急クエストが発注しました』
『クエスト名【紅き狂獣を打ち倒せ】』
『勝利条件【クリムゾンベアの撃破】』
『敗北条件【ハジメ、及びケール・グリンの死亡】』
『クエストランクはB−です』
『貴方の人生に幸あらんことを』




