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VRMMO【Parallel World】   作者: BLTサンド
第1章 Prologue
8/28

P.8 「ギャップ ✖️ 女子力 = 破壊力」

《???side》


ソレは狭く、暗く、そしてカビ臭い空間に居た。


『・・・・・起きてるようだが、本当に大丈夫なのか?』


『心配するな。以前ならまだしも、この作品は命令通りに動くからの』


外から音が聞こえる。

ソレは言葉を解することは出来ないが、ソレがいる空間の外に(エサ)がいるかは理解している。


嗅ぎ慣れた匂いだ。


だが、オカシイ。理解が出来ない。

いつもであれば食欲が増すはずなのだが、外のエサを食いたいと思わないのだ。


『しかし、出来過ぎては人形。出来さな過ぎて獣であり、死人が出る。大分骨を折ったぞ、コレには』


『そのおかげで、俺の部下達がコレの糞に成り下がった訳だが』


『何じゃ。文句か、それは?』


『まさか。異邦人のアンタには感謝してるんだぜ。これで依頼主に報告が出来るんだからよ』


そもそも、ソレは何故この空間で落ち着いているのか分からない。

その気になれば容易く壊し、外に出るなど造作も無い。


だが、ソレは行動に移らない。


『それはどうも。それで、お主の方の準備は?今回の仕事、お前さんが操縦するようなもの。怠るなよ』


『ふん。言わずとも。では、運ぶとしよう』


ソレは意識がある、息がある。

だが、意志だけがソレには希薄であった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




二日酔いは宿屋のおばちゃんから貰った薬草(100Gを50Gにまけてくれた)を食べたら、存外すぐに治った。

凄く苦かったけど。


「まだ舌に苦味が残ってる………」


宿を出たハジメは広場のベンチでポチ達と共に朝食を取っていた。


先程市場で購入したサンドイッチと果物、竹筒に入ったお茶を購入したのだが。


「………イマイチ味が分からん」


薬草のおかげでサンドイッチの正確な味が分からない。

隣を見ればコボルトのポチ達はその小さな口にぱんぱんになるまでサンドイッチを詰め込み、ハグハグと口を動かしている。

表情からお察しするに空腹も相まって美味しいのだろう。


というか、シオンさんはこうなると知ってて黙ってやがったな。

ホント性格悪いわ、あの人。


今頃ケケケとほくそ笑んでいるのだろう。

騙された俺も悪いが。


「ま、それはそれとしてだ。やっと二日酔いも治ったし、ケモノのそうこに行きますか」


少しはお金に余裕があるから、コボルト達の装備をもう少しマシな物にしなくては。


気持ちを切り替えたハジメは行動に移り、しばらくして。


「・・・えーと、ここだ!」


シオンから手渡された地図を頼りにたどり着いた先は看板の文字がポップな感じで、可愛らしい店であった。

ファンシーショップというのか?あんな感じだ。


男の俺からしたら少々入りづらいが、取り敢えず入店。


「すいませーん。シオンさんの紹介で来ました!モッフィーさんいます、か・・・」


「・・・・・・(ズーン)」


一言。

ゴツいのが居た。


坊主頭、サングラス、ガッシリした体型。

サングラスで隠しきれないほどの傷跡が左眼をなぞるようにしっかりある。

893みたいな見た目である。

というか、「みたいな」ではなく893の権化である。決してカタギの方には見えない。


………うん、確実にあれはモッフィーさんじゃないな。

というか、アレをモッフィーと認めたくない自分がいる。


「し、失礼しました〜」


「「「わっふ〜!」」」


「あ、こらっ・・・!?」


そそくさと去ろうとしたハジメであったが、ヤクザ風のおっさんの元へと何故かコボルト達が駆け出し飛びついた。


「す、すみません、すぐ剥がすんで!うぎーっ、どうしたんだお前ら?!」


旨い出汁でも出てるのか、ツルツルの頭をぺろぺろと舐めまくるコボルト。

ヨダレでグラサンがべちょべちょだ。


ガタンッ!


無言を貫いていたオッさんはいきなり立ち上がると、おもむろに懐に手を入れた。


(アカン!(たま)とられる)


思わず目を瞑るハジメであったが、しかし、何にも起こらない。


恐る恐る目を開けると、


「・・・ビーフジャーキー、食うか」


美味しそうなビーフジャーキーが差し出されていた。



〜それからしばらくして〜



「・・・たんぽぽ茶だ」


「ど、どうも。ズズッ・・・うまい」


足元ではコボルト達はリスみたいな頰いっぱいにビーフジャーキーを詰め込んでモグモグしていた。


さっき頭舐めてた理由はこれか?

余程気に入ったのか、目がキラッキラッと輝いている。


「あの、シオンさんからの────」


「聞いている。これがいいだろう」


「・・・・・・」


コトリと机の上に置かれたのはコバルト用の武器が置かれていた。

ポチ達の大きさにピッタリの盾と弓と剣。


盾と剣は金属製だというのに、先程の音からして軽そうだ。


素人目から見ても、しっかりとした作りである。


それはいい。

うん………まあ、問題は武器の装飾だ。


取手などにパンダや猫に犬などの可愛らしいイラストが描かれている。

それはもう大層ポップでキャッキャウフフ感満載である。


「えーと………試しに装備しても」


「構わない」


可愛いらしい施しのことには触れるべきか悩んだが、触れないでおこう。うん、その方がいい。

話してさらに追加情報来ても、今の俺のキャパはぱんぱんなので対処しきれない。もう少し時間を置かせてくれ。


装備の許可も頂いたことだし、ハジメは妙に可愛らしい武器をポチ達に手渡す。


「わふ」「わふー」「わんっ!」


ポチ達は各々で新しい武器を試着している。

手渡した時、ハジメの想像通り軽量であったことから、小柄なコボルトでも使いやすいであろう。


コボルト達はご満悦してる様子である。

対して、ハジメ達は、


(………………何か喋ってくれよ)


互いに無言。

流石に無言は気まずい。


「あ、あのイラスト可愛いですねー!」


無言だと気まずいので、取り敢えず目についた店の壁に描かれていた大きなイラストの褒めに入るハジメ。

全体的にモフモフしたモンスターらしき生物が仲良しそうにお茶会を開いている様子が表されている。


「そうか。頑張って描いた甲斐があったな」


………やっぱりあんたが作ったんかい。


顔に似合わない技術にツッコミを入れそうになるが、心の中だけで堪えるハジメ。


「ちなみに、武器の持ち手にはリラックス効果のあるアロマを少し染み込ませている」


女子力高すぎだろ。

ギャップあり過ぎ。


そんなこんなでツッコミを堪えていると、試着を終えてご満悦の表情をしたポチ達がトコトコと寄ってきた。


聞かずとも一目で気に入ったことが分かる。

言葉はなくともつぶらな瞳が「勝って欲しい!」と訴えている。


「すみません。これを購入したいんですけど」


「値段は………これくらいだな」


そう言われ提示された金額は少しお高いがハジメにとって決して払えない額ではない。

何よりポチ達の武器が木製から金属製になるのは戦力的に有難い。

ここはケチって安物買いの銭失いになるより大いに得策である。


シオンに勧められていた店ということもあり、ハジメはすぐさま購入を決意。


「これでお願いします」


「そうか。なら、これはサービスだ」


「これは………スカーフ?」


赤、緑、青色と色がそれぞれ違うスカーフ。

それが購入した武器と一緒に手渡された。


「コボルトちゃ……達を見分けるのに良いだろう。正直、分かりづらいだろ」


「それは、まあ」


今、「コボルトちゃん」と言いかけていたが、聞かなかったことにしよう。


戦闘中はそれぞれ装備品が違うからパッと見で分かるが、普段の後ろ姿などほぼ見分けがつかない。


確かに首輪とかよりは上下感が無くなって、パートナー感がより増すかな。


「それに、他の者達に対して、こうしたアイテムを装備させていた方がテイムモンスターだと区別がしやすい。【鑑定】能力(スキル)持ちや、そういった系統の道具(アイテム)を持っているならまだしも、一目では分からないからな」


【鑑定】とは能力の一種であり、能力を発動すると自分が知りたい対象の情報を読み取ることが可能である。


この能力を習得するには、ある一定以上の知識を学び蓄えると発動する。


また、中には【鑑定】をする道具もある。

シオンから渡されたハジメのM・M・Mもモンスター限定にしか発動しないが、その一例である。


試しに、ポチを対象にM・M・Mを発動するとこうなる。




【コボルトのポチ】

契約主:ハジメ

かつては最弱モンスターと謳われていた。しかし、その器用さを活かし、人の様に武器や魔法を使うように進化。どこにでも生息しており、どうやって侵入したかは不明であるが町中でも見かける。たまに人間と同じように?仕事に就くコボルトもおり、謎が多く、コボルトの派生は豊富。

グランドンの下で働いていた時に遭遇し、契約を果たす。

状態:《満》




このように情報が表示され、そしてテイムモンスターならば、名付けられた名前と契約主の名が表示される。


こういった能力(スキル)は必ずしも全員が持っているわけではなく、後から習得するものだ。

つまりは駆け出しプレイヤーほど野良モンスターと勘違いして攻撃してくる可能性が高いのだ。


また、攻撃されてしまうのも危険だが、正当防衛の為に逆に返り討ちにしてしまった場合。

もし、それで殺してしまえば、契約主であるハジメが指名手配認定になる可能性もありえる。


・住民を殺害など大罪を犯した場合、指名手配

・契約したモンスターが罪を犯した場合、連帯責任で契約主が指名手配

・指名手配にされたプレイヤーは逮捕、又は殺された場合、特別監獄に転送される


以上のことは気をつけろと、シオンさんが口を酸っぱく言っていた。


中には犯人だと発覚されずに殺しを楽しむ暗殺犯もいるらしいが、そういった場合だと指名手配認定が出来ない。

まあ、鑑定などのスキルもあるため、大抵の場合は犯人が誰だか判明はするとのこと。


昨日の移動中に聞かされていたハジメは、ふとその事を思い出す。


「なるほど。心遣いありがとうございます」


モッフィーの言葉に同意したハジメは腰を落とし、お言葉に甘えて早速ポチ達の首に巻いてあげる。


ポチには赤色。

ハチには青色。

ポン太には緑色。


「OK。これでよしと」


これで一先(ひとま)ずは準備が整ったわけだ。


「よしっ!頑張ろうなポチ、ハチ、ポン太!」


「「「わんっ!」」」


「早速クエストか?」


「ええ。シオンさんが訓練という名目で昨日勝手に発注されて。それを受けに」


「シオンが、か…………そうか。気をつけることだ」


またアイツは、とぼそりと呟くモッフィー。

モッフィーの何か含んだ物言いに微かな疑問を抱くハジメ。

しかしそれは一瞬で、すぐに勘違いだろうと考えた。


「はい。慣れてないからって慌てないよう気をつけます!」


そう言ってハジメはお金を払い、クエストに向かうために店の出口へと向かい、


「待て。これも持っていけ」


振り向くと同時に袋を投げ渡され、あわてて受け止める。

中をチラリと見ると、薄緑色の液体が入った瓶が3つ。

一体これは?


「餞別だ。それはポーションと言って、いわゆる回復薬だ。傷口にそれを注げば回復する仕様だ」


おお、Theゲームアイテム筆頭でもある念願のポーション!

感激だ!………って、そうじゃなくて、


「いや、ここまでしてもらうなんて悪いですよ!」


「いいから受け取っておけ。初心者に優しくするのは共通の認識だからな。どうせ蔵で余っていたものだ。要らないのなら捨てても構わん」


「そこまで言われると…………いろいろとありがとうございます」


ん?ポーションの他にもなんか小さな缶が入ってる?


「あと、試しに作ったハンドクリームも持っていくといい。薔薇の香料入りだ」


「本当、女子力高いなオイ」


勿論、貰っておきました。

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