P.7 「一気コール、ダメ絶対」
絶景に感動した後、ハジメはシオンに店に連れていかれ、宴が開催された。
グリフォンのラプラタのおかげで、馬車とは比べ物にならない程早く着いた。
「1日お疲れ様!今日は奢りだ、じゃんじゃん食いな!」
「おお!!」
「「「わん!(じゅるり)」」」
目の前には御馳走、御馳走、御馳走、御馳走の山がある。
極上の香りがハジメとポチ達の鼻孔をくすぐり、お腹から「ギュルルルル〜」と豪快な音が聞こえてきた。
このゲームには”空腹”がある。
時間の経過、及び運動により空腹状態に移行し、そのまま放置すると餓死し、食べ物を口にすることで回復する。
PW発売当初はゲームの中で満腹感になってしまうことで現実で食事をしなくなり、支障をきたしてしまうのではと危惧されていた。
だが、それは杞憂となって終わった。
どういう仕組みなのか分からないが、ゲームの中での満腹感は現実に引き継がれないのだ。
なので、気にすることなく、この世界での食事を楽しめる。
まあ、少数ではあるがゲームを利用して節約やダイエットを考えていたプレイヤー達は肩を落とすこととなったのだが。
閑話休題
モンスターとの初めての戦闘で4人(1人と3匹)はお腹がぺこぺこである。
シオンの許可も頂いたことあり、飢えた4人は料理を早速口へと運び、パクリと一口。
その瞬間。
ピシャンッ!と舌から脳にかけて電撃が走り、火花が散った。
「う、旨ぇ!何すか、コレ!?旨すぎますよ!」
「「「ムシャムシャムシャ!!」」」
4人は食べる手を止めることができなかった。
ガツガツガツと空腹のスパイスが追加された料理を暴食の権化となって、あっという間に大量にあった料理は無くなり皿だけとなった。
しかし、まだ食い足りない飢えた獣達。
そんな4人の姿を見て微笑みながら、料理の感想をたずねてきた。
「口にあったかな?」
「「「わんっ!」」」
「勿論!美味すぎますよ、この店!」
「そりゃ良かった。あ、お姉さん!ピースソウクラブの酒蒸しとジャックビーンズの籠盛りを1つずつ、GB酒2つ、あと今日のオススメの品を一人前ずつお願いねー」
シオンは一通り追加の注文を終えると、この店について説明をしてくれた。
「ここはプレイヤー経営の店でね。現実の方で超一流ホテルの元料理長だったんだよ」
「ほら、あそこに写真がある」と指を指された方を向くと、立派な髭をお持ちのぽっちゃり男性の写真がそこにはあった。
年は70ほどだろうか。どこにでもいそうな感じだ。
「あのアバター。現実のまんまらしいぞ」
ということは、かなりの高齢者か。
「そんな人までPWやってるんですか?意外です」
ただの自分の中の印象ではあるが、高齢者の方ほどこういったゲームには疎いというか興味がないイメージがある。
だが、シオンさん的には逆らしい。
「そうか?むしろ、俺的には当然の事だと思うけどな」
ウエイトレスの女性が「お待たせしましたー!」と元気な挨拶と共に、酒らしき飲み物を2つ机に置いた。
シオンが先程頼んだGB酒だろう。
シオンは早速GB酒で喉を潤すと、話を続きを再開した。
「現実で自分の店が持てない人。年の関係で思うように動けない人。自分の夢がある人。または定年退職して暇な人だっている。老若男女問わず多くの人の希望を叶えるからこそ、PWは全世界から人気なのさ」
そういえばと、シオンの話に触発されてかハジメはあるニュースを思い出す。
PWは若者と同数の中年や高齢者の世代がプレイしているらしい。
確かゲストで出ていた偉そうな教授も、ストレス発散やボケ予防に良いからとPWを勧めていた。
「………なるほどなぁ」
流石は世界的有名なPWだ、とハジメは納得しながらシオンを見習って酒をぐびりと飲み、
「旨ッ!?ええと、何でしたっけこの飲み物?」
「GB酒」
「そうそれ!お酒って聞いてたから苦いのかと思ったら、全然そんなことなくて飲みやすいです!」
ハジメにとってお酒というのは、興味本位で舐めてみた父親のビールの味、つまりは苦いものだ。
対してこのGB酒は上品な甘さで、ジュースと言われても疑わない。
これなら何杯でも飲めてしまう。
「この世界の食べ物は全部こんなに美味しいんですか?」
「うんにゃ、当然だけど当たりハズレがある。それでも現実じゃないような食品があったりしてな。冒険じゃなく、グルメ目的の奴とかもいるくらいだしなあ」
「そういうのも良いですね。俺もいつかはしてみたいです!」
冒険メインだが、そういった食い道楽ってのも憧れるもんだ。
今度は味わうようにハジメはGB酒を口に含み、
「まあ、それだけじゃなく娼館目的のプレイヤーもいたりすんだけどね」
唐突のカミングアウトに酒が気管に入り、思わず咳き込む。
「ブフッ!ケホッケホ………娼館って、まさか実際ヤレるわけじゃ」
「うん、抱ける」
えー、まじですかー。
………………後で調べとこ。
「もし行くなら、『ゴールデンボールW』って名前のプレイヤーが書いた娼館ガイドを参考にしな」
そんなハジメの頭を見透かしたようにシオンが話題を振る。
「えっ!や、やだなーシオンさん!俺、行くなんて一言も言ってませんよ!」
────だが、仮にだ。
仮にだとして、このゲーム全てを回らずしてPWを楽しんだと言えるか?
(※ここからは男の全力の抗議、もとい言い訳なので流し読みで結構です☆)
俺はゲームをやる時にはトロフィーを全てコンプし、レベルはMAXまで上げる。
定食屋でおかわりタダの時は必ずおかわりするし、買い物はポイントをしっかり貯める派だ。
勿論、娼館に興味が無いかと聞かれて「無い」などと言えば、それは嘘になる。
俺だって男だ。
これで興味が無いなんて答える男は恥ずかしがり屋なチェリーボーイか根っからのゲイである。
なので、俺は男だ。男なら誰しもが女体に興味を持つ。
故に、俺が娼館に赴くことになろうと、それは当然の帰路である。
この三段論法こそが俺を、全男を全面肯定する言わずと知れた証拠だ。
リンゴが地に落ちるように。
太陽が西ではなく東から昇るように。
それは神が創世せし不可避の摂理だ。
そう神だ。
そもそも18禁話なくして、日本の神話語れるだろうか?いや、出来ない!
古事記を見れば、2人の神がしばらくして出会ったらあ互い股に凸と凹の部位が増えていて、「何かなこれ入れてみましょ」「あらピッタリ」なんて日本最古無知シチュの開幕直行で交わって野球チーム作れるくらい子供ポンポン産むのだから!
全人類の斜め135度を行く超展開。
誰がついていけるか。日本人はついて行ったが。
流石は海外からHENTAIの国と呼ばれるだけはある。
創世がそうなのであれば、その日本で生を授かった子として、大和の血を引き継ぐ者として、この行動&思想を恥ずべきことであろう筈が無かいでか!
今更ながら自分でも何を言っているのか理解できないほど暴走しておるが、この胸に渦巻く熱いLibidoは本物である。
つまり、結論として、当然のことながら、俺が娼館に行くのは必至であるということだ!
脳内言訳論弁会が終わり期待に胸一杯のハジメ。
そんなハジメにシオンが一言付け加える。
「………ちなみに、18歳以下だとゲームシステムでブロックされて、抱けないぞ。あと、異性の恥部とかにモザイクかかる」
「あ、そーですか。ですよねー」
絶望した!心の奥底から絶望した!
"据え膳食わぬは男の恥"という格言かあるというのに、その言葉を真っ向から絶するとは!
昔のエロい人、じゃなかった、偉い人に謝れ!
こんなの、これが人間のやることかよおッ!!
「チクショウッ。TPOか、TPOが悪いか!」
「ハジメ〜、TPAな。TPOじゃないから。あー、酒美味ぇ」
顔には出さぬよう努めているが(本人的には)、内心絶望の嵐である。
まさかここでリアル過ぎる事に対しての弊害があるとは。
俺は初めてこのゲームを恨んだ。
結構ガチめに。
あれ、視界が霞んできた。あはははは、何でだろう?
隣のポチ達が「どうしたの?大丈夫?」というニュアンスで背中をさすってきた。
優しさがありがたい。
「あ、でも、膝枕専門店や、抱擁and添い寝専門店とかなら未成年でも入れるぞ。その名の通り、交わるの無しでそれだけの店だけど………興味ある?」
「詳しく話を聞きましょう」
ハジメは肘を机につき手を組み、身を乗り出して話を聞く体勢になる。(さながら◯ヴァのグラサン司令のように)
そんなこんなで酒も入っていたおかげか、話に花が咲きあっという間に時間は過ぎて言った。
話はこのゲームでの基礎知識から、都市伝説のような根も葉もない話など様々なことを話した。
もう少し話していたい2人であったが、そろそろ閉店の時間である。
満腹になりコックリコックリと船を漕いでいるポチ達を起こし、ハジメが帰宅の準備をしていると、シオンが質問をしてきた。
「大体、教えたけど。そうだな・・・次のログインはいつになる?ゲーム内の日数でな」
「このままログインするつもりです。明日は休みなので」
このゲーム、PWでは寝ることが出来る。
長時間ログイン(およそ現実世界で18時間)していると、【疲労】と【睡眠不足】という異常ステータスが表示される。
これを治すにはゲーム内での睡眠か、ログアウトをして数時間置くと解決する。
どういったメカニズムで眠れるのかは知らないが、知ったところで自分の頭では到底理解できないだろう。
PW、恐るべし。
補足だが、ゲーム内での睡眠中にアバターが殺害されると強制ログアウトされるので、鍵付きの宿に泊まることが推奨される。
どこかの宿を探さなければなぁ、とハジメが考えていると、シオンが一枚の紙を渡してきた。
「そうかそうか。なら丁度いい。ほれ、次はこのクエストに行ってみな」
「えーと何々、ゴブリンの討伐?」
「明日は用事あって面倒見れないから、お使いでこのクエスト行ってきな。今のレベルなら大丈夫なのをって、見繕っておいて発注しといたから」
ありがたいが、勝手に俺名義でクエスト発注してたのか。
俺に予定があったらどうするつもりだったんだよこの人。
「それとだな。今日のでお金も稼げたし、クエスト前にこの店に寄りな」
そう続けざまに言われ地図を渡された。
見るからにこの街の地図で、ある一ヶ所が赤く丸をつけられていた。
その場所はどうやら店らしく、その名前は、
「────『ケモノのそうこ』?」
「テイマー御用達のお店さ。テイマーの相棒用武防具を取り揃えているんだ。手頃な値段で腕も確か。俺も行きつけの店さ」
テイムモンスター用の武器。
むたりポチ達の戦力的アップに繋がる訳で、非常にありがたい。
「店長がモッフィーって言うんだけど、仲良いから連絡しとくな。さて、そろそろ行きますか。お姉さん、お勘定お願いねー」
「はーい!ただいまー!」
シオンさんはウエイトレスの女性にギッシリとお金が入った袋を渡すとさっと立ち上がり店の外へと向かって行った。
ハジメもポチ達と共にシオンの後を慌ててついて行き、店の外へと出た。
話に盛り上がり気にしていなかったが辺りはすっかり暗くなり、見上げれば星が輝いている。
「もうこんな時間か。じゃ、また今度も飲もうな」
「今日はありがとうございました、シオンさん」
「いいってことよ。明日は頑張ってなー…………ちなみに、明日必要になる薬草は宿の亭主がもってるからな」
「え?それってどういう、ってちょっとシオンさん!」
「じゃあなあ〜」
ハジメは呼び止めようとするが、シオンは気にせずニヤニヤとそれだけ言い残して去って行った。
ハジメは言葉の意味が分からなかったハジメ。
しかし、その意味を早々に知ることとなるのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
安場の宿を借りて、一夜。
ゴルゲゴゴッエーーー!
日本じゃ聞き慣れない不思議な鳴き声(世界探しても居ないだろうが)と朝日の光によりハジメは目を覚ました。
「ぅうん?もう朝か?」
眠気に打ち勝ちながら体を起こそうと頭を上げ─────ぐらりと前へ倒れ込んだ。
「え?………ッう!?」
何が起きたのか理解しようとするが、しかし、眠気が覚めたと同時にその暇もなくハジメの頭に痛みが襲いかかる。
「う、ごごご。頭痛い。・・・もしかして」
あることを想像し、視界の端を見る。
すると、そこにはハジメの想像通りのものがあった。
こちらの世界観では15から飲酒が合法な為、上がりまくったテンションと、あまりの旨さに任せて飲み明かしたわけだが。
「まさか、二日酔いまで再現されるとは。侮ってたぜ」
視界の端には【二日酔い】の文字が表示されていた。
結論:酒は飲んでも飲まれるな




