P.5 「素直なのは時として罪」
2人が到着したのは、だだっ広い草原。
と言っても、後ろを振り向けば木々が生い茂る森が離れた所に見える。
「という訳で、街から大分離れた草原に来たわけだが。ハジメ、頭の中でステータスよ出ろとか考えてみな」
「はい・・・?っおお!」
ポコンと軽い音が鳴ると、目の前に文字が表示された。
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ハジメ
【テイマー】LV.1
HP:550
MP:100
筋力:30
俊敏:20
耐久:15
技力:40
知力:25
カリスマ:9/50
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雑に思っただけで、本当にステータス出たよ。
気の抜ける音と一緒に。
ただ、この音とステータスは俺だけで、シオンさんには聞こえも見えもしないようだ。
「頭で思い浮かべれば画面が表示されて、自分しか見ることができない。指でタップして操作できるし、フレンド交換した相手ならメールを送る事が出来る」
やっぱり俺だけか。
しかし、メールとな。存外便利である。
だが、そういう細やかな事もこのゲームの人気な理由の一つなんだろうな。
「改めてですけど凄い技術力ですね、このゲーム。ところで、この『カリスマ』って何ですか?」
途中まではゲームでよく見る項目だが、ハジメのステータスには『カリスマ』の文字が存在した。
既に30の内、9が埋まっている。
「ステータスにはジョブ毎に特殊なステータスが存在しててな。テイマーの『カリスマ』は正にそれだ。カリスマの文字をタップしてみ」
シオンの指示通りハジメはカリスマの文字に触れると、新たな項目が開かれた。
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ポチ (コボルト) LV.1(必要カリスマ値:3)
ハチ (コボルト) LV.1(必要カリスマ値:3)
ポン太 LV.1(必要カリスマ値:3)
合計 9
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「このゲームではモンスター毎に必要カリスマ値が存在していて、合計分が自分の持ってるカリスマ値を超えると契約が出来なくなる仕組みだ。ちなみにいくつ?」
カリスマ値のことだよな?
「えーと、50です」
「お、高い。普通だと始めの頃はカリスマ値は10ぐらいだけど。ハジメはテイマーに向いてるってことだ」
「本当ですか!」
褒められて嬉しくない人間はいるだろうか、いやいない。
人より才能があると言われて少し鼻が高くなったハジメ。
だが、これがいけなかったと、すぐに後悔することになる。
「ハジメ、これ食ってみ」
「なんすか、これ。(パクリ)」
おもむろに話を区切ったシオンが渡した木の実をヒョイと口に入れたハジメ。
味は………ないな。
なかなか無いぞ、無味なものって。
強いてあげるとするならば、
「ん〜、なんか少し舌がピリピリするような」
「そりゃ毒だからな」
「オエエエッ!?」
木の実の正体を知り、すぐさま吐いた。
「なに危ないもん食べさせるんですきゃ!?」
うわっ、痺れてんのか呂律が上手く回らないぞ!
このままで大丈夫なのか、これ!?
「まあまあ。軽い毒だし、すぐ吐いたから数秒で治るさ。まあ、そんなことは置いといて」
いや、よくねーよ。
「ほら、左上を見てみな」
言いたいことは山々だが、言われた通りハジメが左上を見ると、【微毒】の文字が表示されていた。
「このように身体の異常は左上に表示されるから」
いや、それ実践じゃなく口で説明できなかったのだろうか。
喋れは出来るけど、まだピリピリするし。
「パートナーの異常も左上に表示されるからよ。次にアイテムの欄をタップして開いてみな」
「えーと、アイテム欄は(ポンッ)・・・袋?」
アイテムの欄をタップすれと、少々見すぼらしい革袋が出てきた。
「それは初心者に与えられるアイテムボックスさ。見た目とは違い、中には多くの物が入れられる。中には装備品が入ってるから」
ハジメがアイテム欄を見ると、新たに3つのアイテムが増えていた。
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【初心者の革袋】
駆け出しプレイヤーのためのアイテムボックス。
物を入れても革袋の重さは変わらず、総重量50[kg]まで収納可能。生物を入れることは不可能。
製作者は不明。
ランク:D−
●装備中
【初心者の革鎧】
駆け出しプレイヤーのための防具。
製作者は不明。
ランク:E
【初心者の短剣】
駆け出しプレイヤーのための武器。
製作者は不明。
ランク:E
【M・M・M】
通称トライエム。装着してモンスターを見ると、モンスターの詳細、魂の繋がり、装着者と比較した際の強さが表示される。
注意:モンスカウターなどという安直な名前で決して呼ばぬこと!(製作者より)
製作者はレオナルド・カルロ
ランク:A+
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………最後のトライエムとは、このモンスカウターのことだろう。
だって、注意書きあるし。
しかし、製作者の人よ。注意虚しくシオンは間違えて(わざとだろうが)呼んでますよ。
因みに、モンスカウターことトライエムは現在外している。
高い品だそうで戦闘中に壊れたら危ないとシオンさんに指摘された為だ。
おっと、話が脱線していた。
この内、下2つをタップすると革袋から革鎧と短剣が表れ、ハジメの前に出現した。
「アイテムを取り出す際はステータス欄からタップでもいいし、道具袋に指突っ込んで取り出したいもんイメージするのもOKだ」
「装備するには?」
「普通に革鎧を着れば、装備出来るぞ。でだ、コボルト達の武器をどうするかなんだよな」
コバルト達をチラッと見る
掌には小さな爪とプニプニの肉球、フリフリの尻尾。
ある意味では暴力的だ、可愛さの方で。
戦うのに流石に獲物無しの無手というのは。
「「「わっふー!」」」
「「・・・?」」
コボルト達は自分のお腹辺りモフモフしてる毛の中を探るようにゴソゴソとし始めた。
何をしているのか2人して見ていると。
「「「わふっ!」」」
ぽぽぽぽぽん!と音を立て、どうやって入れていたのかそれぞれの手には弓と矢、木製の盾、刃こぼれしている剣が握られていた。
どうだコレ!と言わんばかりに取り出した物を見せつけるコボルト。
明らかにモフモフの毛に隠せない大きさだ。
「どういう仕組みなんですか、これ」
「知らね。相変わらず謎だよなー、コボルト」
「コーン」
シオンさんも知らんのか。
ますます謎である。
ちなみにであるが、弓を持っているのがポン太、槍を持っているのがハチ、剣がポチである。
屈んで武器が出てきたであろう辺りを触れて弄る。
だが、ふわふわでコッチが癒されるのと、ポン太達は気持ち良さそうにリラックスするばかりで特に何も出てこない。
「しっかし、それだけだと心許ないな」
しゃあねえ、とそんな事を呟いたシオンは腰に付けていた布袋を漁り始め、ポンとハジメに手渡した。
「ほれ。これやる」
「これは……籠手ですか?」
「そ。名前は【タブルエッジ】。友人が本気の遊びで造った使い捨ての装備品さ」
渡されたのは右手用の仰々しい籠手。
メカリック的な鈍い輝き、肘の辺りにはバックルがあり装備よりも装着の言葉がしっくり来る。
見るからにゴツゴツとして荒削りさを感じる。
しかし、それは男心をくすぐるカッコよいデザインである。
それはハジメも例外ではなく、マジマジと見つめてしまう。
ちなみにコボルト達も欲しそうにつぶらな瞳を向けていた。
「使い方は、至ってシンプル。籠手に薬莢を装填したら、装備して敵を殴る瞬間に『アクセルバースト』と言えば発動する」
シオンから渡されたのは籠手と、大きな薬莢2つ。
「【ダブルエッジ】は文字通りの欠陥品だ」
文字通りとシオンさんはそう語った。
「何か問題が?」
「簡単に言うと、攻撃力重視の為、あまりの威力に使うと相手も殺せるが、自分の腕も破壊される。1回目は腕の骨が真っ二つに折れ、2回目には粉々。だから、3回目は無い。2回使うと壊れる設計になっている」
「わお、問題だらけ」
人はそれをロマン武器と呼ぶ。
たった2回だけの切札。
敵味方諸共を壊す武器。
なるほど。ダブルエッジね。
「まあ、2回分の威力に耐えるために頑丈だから、只の籠手として殴ったり、盾代わりに使えるが。今は道具袋にしまって、ナイフだけにしときな」
出来ることなら、使うことなく済ませたいものだ。
「さて、そろそろハジメの毒も治った頃だろう。いっちょ行きますか」
「はいッ!」
「「「わんっ!」」」
「ん。いい返事だ!」
シオンはおもむろに懐を手を入れまさぐると、シオンの身長と同じほどの長杖が出てきた。
おそらく懐辺りにアイテムボックスがあるのか、それともあの服自体がアイテムボックスの役割を担っているのか。
聞いてみたい気もしたが、今は控えて戦闘に集中することにした。
「ちょっと離れててな。『モンスター・テンプテーション』!」
そう唱えるとシオンが頭上に掲げた杖から小さな花火が上がる。
「今のは、スキルですか?」
「そう。【従獣師】のレベルが上がれば覚えられるヤツ。効果は直径1キロ以内にいるモンスターを自分へと集合させること。ただし、初期に覚えるスキルだからか、低レベルのモンスターしか引き寄せられない」
「他にもそういったスキルはあるんですか?」
ハジメの質問にシオンは杖を肩にかけて思案しながら答える。
「そうだな〜。いくつかあるけど、俺的にオススメなのは【視覚同調】だな」
視覚同調。
シオンはそう言うと、己とイナホの目を交互に指さしながら説明をする。
「パートナーであるモンスターの視覚情報を共有するスキルでね。敵地の偵察や迷い人の捜索なんかに使うのが本来の目的だ」
敵地の偵察。
確かに便利である。情報を持つということは、それだけで此方を有利にさせてくれる。
さしずめドローンのような感じか。
「けど、俺がオススメの理由は別にあって。鳥系のモンスターと【視覚同調】すると、まるで空を飛んでいるようで面白いんだよ、これが」
「おっ!イイですね、それ!」
鳥のように空を飛ぶ。
ライト兄弟程ではないとしても、それは誰しも一度は思い浮かべる夢だ。
是非とも覚えたいスキルである。
「ただし、レベルが25にならないと覚えられない」
「…………まだまだ先かぁ」
「まあ、気長に行こう。……とまあ、話をすればなんとやらだな」
そんなことを話している間、森がある北の方角で砂埃が舞っている。
どうやらモンスターの群れがこちらに向かっているようだ。
ぼんやりとだか、群れの先頭に緑色した小人みたいなのが見える。
「ゴブリンっぽいな、ありゃ。運良く近くにいたか。じゃあ見ててなー」
「え、ちょっ!」
まるでこれから散歩に出かけると言わんばかりの気の抜ける声と共に土煙の上がる方に向かって駆けていくシオン。
シオンは予想していたよりも俊敏な動きで駆けて行き、あっという間にハジメとの距離が離される。
シオンはある程度近づいた所で止まると、杖を構えた。
「イナホ」
「コン!」
その名を呼ぶと共にシオンの肩に乗っていたイナホが飛び降りる。
前には自分より大きな体躯のモンスターが、多数迫っているというのに怯えた様子はない。
「グギャガガガ!」
「”大地よ、鋭き爪で脅威を穿て”【アースエッジ】!」
「ガギィッ?!」
突如棘状に隆起した大地に先鋒を担っていたゴブリンに刺さり、後ろにいたゴブリン達はつんのめる。
「イナホ、狐火だ」
「コーンッ!」
出鼻を挫かれたゴブリン達に、すかさず攻撃を指示するシオン。
イナホが2本の尾を立てたかと思うと、空中に炎が発生した。
そのサッカーボールサイズの炎はゴブリン共に放たれ、爆発する。
「ガァッ!!」
ゴブリン達は短い悲鳴と共に爆散し、骸と化した。
見た目に反して、い、意外にエグい攻撃を。
しかし、モンスターはゴブリンだけではなかった。
「お、オークまで来たか」
ゴブリンとは違い、巨体なオークが3体こちらに向かって来た。
「コーン!」
先程と同様にイナホから炎が放たれ爆発が起こる。
知能は低いのか2体はゴブリン同様モロに受けて倒れた。
だが、前の2体が正面から攻撃を受け止めた結果、肉の盾となり、おかげで後ろの一体が軽傷しか負わなかった。
続けてイナホが攻撃を仕掛けようとしたが、躊躇う。
オークに爆発を喰らわせるにはシオンに接近し過ぎており、シオンごと巻き込んでしまう。
そんなイナホに対して、
「大丈夫だよ、イナホ」
シオンはそう一言呟き、オークに向かってゆっくりと前進する。
オークはそのままシオンめがけて突進し、棍棒を振りかぶる。
対して、シオンはオークに向けて腕を伸ばす。
「オニマル、目へ照射」
「ブギャ?!」
シオンの袖から、白い糸のような物がオークの両目を目掛けて放たれ、オークの視界は奪われる。
目を塞がれたことで狙いが甘くなった棍棒。
それをシオンはオークの股の間を滑り込み、紙一重で避ける。
背後を取ったシオンは、手にしている杖でオークの首を撫でるように振るった。
「………ふぅ。おつかれ、イナホ。オニマル」
パートナーに労いの言葉をかけているシオンは歩き出し、
──────その背後で、遅れてオークの首から鮮血が舞った。
オークは呻くことなく事切れ、巨体が膝をついた。
対するシオンは汗すら流すことなく、軽く息を吐いて落ち着きをはらっている。
「とまあ、こんな感じだ。次はハジメの番な」
それに対してハジメは一言。
「すみません。レベル違いすぎて無理です」
「「「わっふぅ」」」
シオンさん。
移動中に言ってたことと全然違うじゃないですか。
何が、「テイマーはサポート重視」ですか。
おもっくそ前出てんじゃないですか。
最後の、オークの首が切れたのって何が起こったの?
俺には杖で首を撫でたようにしかみえなかったのですが。
シオンの戦闘を見て、ハジメは尻込みしてしまった。
「あんなの出来ませんって!」
「ま、数こなせばいいから………ん?」
「………?」
シオンの視線に釣られ、後ろを振り向いたハジメ。
これがいけなかった。
先程学習したはずなのに、なんとマヌケだったのかとハジメは後に語る。
「隙あり(シュッシュッ)」
「冷た!」
シオンを向けば、謎の液体が入った霧吹きを手にしている。
そして、おそらく、ハジメはその謎の液体を吹きかけられた。
何故だろうか。
果てしないほどに嫌な予感が聞こえる。
「………何ですか、その中身」
「モンスター興奮剤。ゴブリンとかオークがこの匂いを嗅ぐと、興奮して向かって来る薬」
「つまり………」
「『モンスター・テンプテーション』!」
・・・ドドドドドドドドッ!
「モンスターがハジメ向かって殺到する。ファイト」
「「「わっふううううう!?」」」
「何してくれてんだあああ!?」




