P.3 「キミに決めた!………著作権とか大丈夫なの?」
俺はシオンさんに手を引かれながら、町へと出た。
シオンさんは初めてならば見せなければならない物があるとのことで、大人しく付いていくと、そこは市場であった。
「らっしゃいらっしゃい!今日な良いお野菜が入ってるよ!」
「ビールいかがですか〜!キンキンに冷えたビールいかがですか〜!」
「今日はどこ潜るかねぇ」
「おい、もう少し安くならないのか」
「本日、ミスリル銀製の剣20本入荷!早い者勝ちですよー!」
そこは活気に満ちていた。
男から女、若いのから老いているのも、ケモ耳が付いていようが悪魔の羽が生えていようが、誰彼問わずが揚々と闊歩し、売りさばき、集っていた。
その光景に見惚れていた俺に、シオンさんが声をかけてきた。
「どうだ。凄いだろ!」
「────はい。とても、壮観です」
俺は出せたの平凡な解答であった。
しかし、許してほしい。
それほどの感動と驚愕が俺の胸の中を埋め尽くして、精一杯なのだ。
ここはゲームの中。
目の前の光景は0と1により作られた虚実だ。
だが、この肌に伝わる程の人々の発する熱気。
この熱は正しく本物である。
心の底から・・・心の底から、ハジメはお金を工面してまでゲームを始めたことを間違いではなかったと悟った。
三回転土下座が報われたのだ。
「そうか。気に入ってくれたなら上々だ」
シオンが足を進み始めたので、ハジメも付いていく。
「あら、シオンちゃんじゃない!今日はどうしたんだい?」
「おはようジュリさん。今日はテイマーギルドの新人を案内してるところさ」
「あら、それはめでたいね!なら、お祝いに果物持ってきな」
「おっ、サンキュ!また来るよ」
「なんだシオン。新入りのお守りか。だったら後でウチの防具買ってけよ。安くしとくぜ!」
「すまないけど、今回はパスで。面白い考えがあるからさ」
「そりゃ残念だ」
「あっ、シオンだ!キツネさん触らせてー!」
「OK、OK。優しくしてくれよ。ほれ、イナホ」
「コーン!」
道を歩けば、そこかしこからシオンさんに声がかかってくる。
オーランの言っていた通り、どうやら顔が広いようだ。
「すごいですね、シオンさん。皆さんから慕われていて」
「そうかあ?普通にここで暮らしてればこんなもんだと思うけど。ほれ、さっきの果物」
ヒョイと投げてきた緑色のリンゴらしき果物を、慌てて受け取る。
仄かに香ってきた甘い匂いもリンゴに近い。
というかリンゴだ。
「これは・・・リンゴですか?」
「その通り。名前は『カービティアップル』って言ってこの土地の名産さ」
そう言ってシオンさんはパキリと慣れた手つきでリンゴを半分に分け、片方をイナホに渡す。
イナホは小さな手で器用に持ち、可愛らしくシャクシャクと頬張る。
俺も一口。
シャクリ
「・・・っ!?甘ぁ!!」
ただ一口食べただけなのに口の中には怒涛のフルーティーな甘みが押し寄せてくる。
だが、決して甘ったるいわけではない。
甘さと共に、微かなミントのような爽やかさが駆け抜ける。
それがこれ以上少しでも強ければ、甘味を邪魔していただろう。
この絶妙なバランスが、極上へと引き上げている。
「旨いですよ、コレ!」
「食べ過ぎには気をつけな。名前の通り虫歯になっちゃうからな」
「んぐっ、まさか〜。もしかして本当に虫歯になるんですか?プレイヤーが?」
リンゴを飲み込み、俺は冗談めかして聞いた。
だが、返ってきたのは肯定だった。
「なるなる。実際、この世界の住人から風邪うつされた例があるし」
「風邪って………そんな」
「ま、疑うよな実際。ゲームだし。でも、PWだけは別格だ。例えば、さっき俺が会話を交えた人達の内、何人がプレイヤーだか分かるか?」
「………………」
その問いにハジメは考察する。
しかし、これといった答えが出ない。
それほどまでに区別がつく程の違和感が無かった。
「分かんないだろ。まるで別世界に転移したかのような。正しく『Parallel World』さ」
ハジメは心底驚いた。
今しがた食べているリンゴもそうだが、そこまでリアルを追求してくるとは。
風で運ばれてくる土の匂いも、手を振り返している人々も、聞こえてくる喧騒も、全く現実と遜色がない。
もはや、これはゲームではなく、Parallel Worldと言っても過言ではない。
ハジメは改めて、いや、初めてこのゲームの凄みを実感した。
「さてと、そろそろ行こうぜ!」
リンゴをいつの間にか食べ終えたシオンさんが子供とじゃれていたイナホを肩に乗せ、そう言ってきた。
「行くって、どこにですか?」
「決まってるだろ。お前の相棒になるモンスターを探しにだ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「着いた着いた。ここで最初のパートナーを見つけよう!」
「あの・・・本当にここであってます?」
シオンに連れられた場所を見て、俺は思わず不安気にそう返していた。
それもそのはず。
俺の目の前にあるのは、ボロ屋。
しかも、町の賑わいからも外れ、治安が良くなさそうな路地裏の隅っこ。
「モンスターとかって草原とか森で探すんじゃないんですか?」
「テイマーが上達したらそれでもいいけど、初心者の場合は人間慣れしているモンスターを購入した方がオススメだ」
なるほど。
ポ○モンでも、最初は博士から貰うもんな。
しっかし、ホントにこんなボロ屋に肝心のモンスターがいるのだろうか?
いや、失礼な考えだけども。
誰だって、会って間もない人に「ここがおススメスポット」なんて言われてあばら小屋連れてかれたら誰だって少なからず訝しむもんだ。
何より、オーランさんの渋い表情と最後の不穏な言葉が不安を煽る。
そんなハジメの心を知ってか知らずか、シオンは話を続ける。
「簡単にいうと、ペットショップみたいなものかなココは。俺の知り合いが経営してるのさ」
そう言うと、今にも壊れてしまいそうなドアをガンガンと無遠慮に叩くシオン。
「グランドーン!いるかー?」
友達の家来て遊びに誘うほどの気軽さだ。
すると、しばらくして中からドサガサと音がし、扉が開いた。
罵声と共に。
「うるせぇぞ!誰だ騒いでいる野郎は!」
「よっ、久しぶり!元気してたかグランドン」
「さっきまでは元気だったよ!テメーが来るまではな!」
機嫌が悪そうに出てきたのはがっしりとした体格の無精髭を生やした男性。
歳はハジメの倍ぐらいはありそうだ。
グランドンと呼ばれた男性は飄々とした表情のシオンをしばし睨みつけていたが、諦めたかのようにため息を吐いた。
「で?今日は何の用だ?」
「新入りのパートナー探しに来たんだよ」
その言葉にグランドンはシオンの後ろにいたハジメをジロリと睨む。
その後、上から下まで値踏みするように観察し、再びシオンに視線を戻す。
「ど、どうも」
「………所持金は?俺の店にゃ安いのは居ねえぞ」
「俺が出すから、気にすんな」
初耳である。
「えっ!?そんな悪いですよ!」
「大丈夫、10回ローンにしとくからさ」
「あ、金はとるのね」
初耳である(2回目)。
そして、リアルである。シビアでもある。
いや、当たり前ではあるのだが、ゲームだと言うのに、この世は世知辛い。
「………こっちへ来い」
そう言ってグランドンは店の奥へと引っ込む。
シオンもそれを追うように入店し、ハジメは為すがままについて行く。
「し、失礼します」
店の内装は外観からは想像出来ないほど意外にも普通、いや、むしろ綺麗であった。
だが、モンスターがどこにもいない。
「あ、あの、もしかしてグランドンさんってNPCですか?」
ハジメはつい気になったことをシオンに小声で質問した。
「お!その通り、よく分かったな」
いえ、分かってません。
勘で言っただけです、ごめんなさい。
「なにボーとしてやがる。こっちだ」
見ればグランドンは部屋奥の扉を開け、階段を降り地下へと向かうところであった。
ハジメはおっかなびっくり階段を降りて行くと、微かに漂う独特な獣の匂いと、複数の鳴き声が聞こえ、
「おおっ!」
「いつ来ても壮観だな、ここは」
「コーン」
地下に広がる空間はぼろ小屋の外見からは想像がつかないほど、広大であった。
上の店よりも明らかに広い空間が広がり、それこそ様々なモンスターが檻に入っていた。
興味深そうに檻の中のモンスターたちを観察していたハジメに、グランドンが声をかけてきた。
「おい、何か希望はあるか」
「希望ですか?」
「おう、何でもだ。虫系獣系魚系鳥系、小型中型大型、植物有機物無機物、粘液岩石毛皮草花、攻撃防御遊撃回復、器用寄生変形猛毒、温厚凶暴怠惰知的、なんでもいい。何か言え。いいから、言え」
先ほどまでと雰囲気が違うグランドン。
最初の少々だらしない姿などどこにやら。
彼の目には言い知れぬ熱がある。
グランドンの豹変に気落とされているハジメに、シオンが間に入る。
「まあ、落ちつけって。本当に初心者で、どんなモンスターがいるかすら分かんないだから」
「む。すまん、熱くなった。・・・なら、一通り見るか」
スッと先ほどまでの落ち着きある様子に戻った。
どうやら仕事に熱心なようである。
「しかし・・・こんなに沢山いるんですねぇ。世話大変じゃないんですか?」
ファンタジーの定番プルプルと震えるスライムから、見たこともない湯気を吹いてる赤色の亀、紫色の猿。
多種多様の生物がこちらを興味深げにバシメを観察し、ところどころで興奮したように鳴いている。
「何だ雇って欲しいのか?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「冗談だ。真面目に答えるな」
………冗談って。無表情だから分かりづらいよ。
あと、意外にノリがいいのかもしれない、この人。
「ここには人間よりしっかり働くパートナーがいるからな」
「パートナー?」
「それ私たち私たち!」「働き者頑張り屋!」
「うぉっ!ビックリした」
突然の2人の幼い声。
気づくと、いつの間にやらシオンの背後から頭に華を乗せた少女2人が現れた。
「呼ばれた呼ばれた!」「仕事仕事?」
ハジメが驚いている事などよそに、グランドンの周りをクルクルと回り、華が咲いたように笑う少女達。
2人はそれぞれ白と黒の着物で着飾っている。
「驚かしてすまないな。ほれ、お客さんだ」
「お客だお客!」「見ない顔珍しい!」
そう言うや否や、今度はハジメの周りをクルクル回り興味津々に観察する。
ハジメは戸惑いながらも自己紹介。
「ど、どうも。ハジメって言います。本日はシオンさんの紹介で来ました。よろしく」
「あはは生真面目生真面目〜!」「よろしくよろしく〜」
何が楽しいのやら、あははと笑顔を浮かばせながら回り続ける2人。
シオンは、当然と言うべきか、2人の登場に戸惑うことはない。
「相変わらず元気だなぁ」
「コンコーン!」
「あっイナホちゃんだ!」「おいでおいで!」
シオンの肩からイナホは飛び降りると、2人の少女と戯れ始めた。
「この子たちは・・・?」
「グランドンのパートナー。黒い着物の方が牡丹で、白い着物の方が桜。そして、一言で言えばモンスターだ」
「モンスター!?・・・ただの子供にしか見えませんけど」
改めてマジマジと観察すると、確かに、頭にある花は飾りでは無く本物であり、頭から生えている。
しかし、それ以外はほぼ人間の子供と見分けがつかない。
そんな未だ驚きに包まれるハジメにシオンが説明を加える。
「牡丹と桜はドリュアスというモンスターで、知能が高く人の言葉を理解できる。絶滅危惧種でなかなか遭えない子たちだよ」
「な、なるほど・・・言われても未だ信じられないですけど」
「まあ、牡丹と桜が特殊ではあるんだが」
「━━━━シオン」
「おっと、すまん。しかし、本当に何も知らないんだなハジメは」
グランドンのどこか責めるような声にシオンは話を変えた。
そのことに気づかず、ハジメは恥ずかしそうに答える。
「ゲーム装着一式買うのに必死で何も調べてなくて」
そもそも、自分はゲームをする際は攻略サイトを見ない。
ドキドキ感が薄れてしまう気がするからだ。
例え、どんなに大賞を受賞した推理小説だって、犯人を知ってしまえば駄作と化す。
そのハジメの考えにシオンは賛同した。
「いいのいいの。その方がこのゲームは面白くなるし。………………とすると、種についても知らないのかな」
シオンがぽつりと呟いた『種』の意味が分からず、首を傾げるハジメ。
その反応を見てシオンは満足したかのように頷くと、ポケットをガサゴソと漁り始めた。
「なるほど。こいつは珍……もとい、運がいい。そんなハジメにいい物をやろう」
数秒後、「あったあった」と言ってシオンが取り出したものは、
「パートナーを決めたい、そんな時はコレ!デデデデッデッレー!モンスカウター!(ダミ声)」
「・・・何すか、そのパチモン」
ドラゴンの玉的な漫画にありそうなアイテムが出てきた。
パッと見、完全に○カウターである。
「俺の友人に作ってもらったヤツで、コレをかけてモンスターを見るとモンスターの名前、強さが分かるのさ」
ス◯ウターというより、どっちかと言うと、ポ○モン図鑑のような気がしなくもないハジメ。
だが、ゲーム知識が無い自分にとって、これはパートナーを決める際に役に立つではなかろうか。
ハジメをモンスカウターを受け取り、頭に装着する。
…………と同時にシオンが一言ぼそり。
「一個、銀貨20枚な」
「金取んのかよ!」
「冗談冗談。お祝いに今回はタダであげるさ」
「………お前、一瞬マジだったろ」
「本気本気〜!」「アコギアコギ〜!」
「コーン・・・」
皆から呆れられた目を向けられるシオン。
パートナーのイナホすら同じ視線だ。
「ほ、ほら。実際にかけてみな!」
いたたまれなくなったのか、誤魔化すようにハジメを催促するシオン。
ハジメがしょうがなくかけると、牡丹と桜の上に文字が浮かんだ。
【ドリュアスの牡丹と桜】
契約主:グランドン
ドリアードとも言う。2人は■■■のドリュアスであり、見た目は人間に似ているが、実際は植物。高い知能を持ち、レベルが高ければ、人の言葉を用いての意思疎通可能。
牡丹と桜はグランドンに面倒を見られ、元気に育った。2人とも優しい性格をしているが、グランドンに害を為す者には容赦しない。
強さはハジメを一捻りで殺せるほど。
※状態〈穏〉
「・・・なんか最後にスゲー不吉な文が見えるんですけど」
一捻りで殺せるって。弩直球過ぎる表現、怖過ぎ。
そうは全然見えないけども。
「テイマーはモンスターと戦って自分のパートナーにすることもあるからさ。力量差分かった方がいいじゃん」
「な、なるほど・・・ん?」
ハジメがふとシオンに目を向けると、何故かこちらにも文字が出現した。
【■■■のイナホ】
契約主:シオン
※詳細不明
【乞食蜘蛛のオニマル】
契約主:シオン
とても臆病。乞食蜘蛛自体に戦力はほぼ皆無と言えるほど弱い。その為、お尻から出した糸で形成した巣にかかった虫だけでなく、道端の鉱物に木なども食べるよう進化し、生存競争を生き抜いた。何でも問わず食べてしまう姿から乞食蜘蛛と名がついた。
一年前森で死にかけている所をシオンに救われ、懐く。
真っ向勝負ならハジメでも勝てる。
※状態〈警〉
「オニマル・・・?」
ハジメが呟いた言葉に驚くシオンであったが、どこか納得のいった表情をした。
「・・・レオの野郎、無駄に高性能にしやがったな」
「ま、いっか」と呟くとシオンは己の肩を軽く叩いた。
するとシオンの服がモゾモゾと動き、1匹の蜘蛛が出てきた。
「おぉっ、デカ!」
タランチュラよりも大きなサイズだった為、思わず大声を出すハジメ。
そのハジメの声にビクッと蜘蛛は身を震わし、またシオンの服の中に引っ込んでしまった。
「すまん。オニマルは見た目に反して臆病でね」
「い、いえ、こっちもすみません」
しかし、このパチモン、思っていたよりも使える。
PW初心者の俺にとって、パートナーを決めるには絶好であろう。
「これがあれば、すぐに見つけられる!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そんなこと考えていた時期も自分にはありました。
ハジメは中々決められず、気付けば時計の長い針が一周していた。
「どうだ。ピンときたのはいたか?」
「・・・いえ、まだ」
グランドンは嫌な様子もなく、寧ろ嬉々としてオススメのモンスター見せてくれる。
だが、ハジメは何故だか分からないが、どこか違うと思い、その中から自分は選ばなかった。
段々と申し訳なってきたハジメは、いっそのこと妥協してしまおうかと思い、
「ダメだ。テキトーに選ぶのは良くない」
しかし、シオンに見透かされたのか、やんわりと止められた。
「しっくり来てないんだろ。なら、もう少し探してみな」
「そうだ。テイマーの感性は馬鹿にできない。それに俺もシオンも面倒臭いとは感じてない。始めが肝心だ」
「・・・その、ありがとうございます」
ハジメは2人にそう言われ、パートナー探しを再開。
それからしばらくして、それは唐突に向こうからやって来た。
中々見つからず、屈んで痛くなってきた腰を、ここまでリアルかと実感しながら、伸ばさそうとした時。
檻の外で何かが動いてるのを視界の端で捉えた。
ハジメは何を見たのかを確認するために、その方向を向く。
すると、そこには毛でフサフサの小さな6本足が生えた大きな檻がトテトテと歩いていた。
「は?………いや。あれは」
いや、違う。
小さい何かが大きな檻を下から持ち上げているのだ。
檻を下ろそうとしているがバランスを崩したのかフラフラと倒れそうで、思わず近寄り檻を下ろすのを手伝うハジメ。
檻を取り去ると、そこにはちんまりした3匹の、中型サイズの犬が二足で立っていた。
【コボルト】
かつては最弱モンスターと謳われていた。しかし、その器用さを活かし、人の様に武器や魔法を使うように進化。どこにでも生息しており、どうやって侵入したかは不明であるが町中でも見かける。人に危害を加える心配はないため、討伐されることはない。たまに人間と同じように?仕事に就くコボルトもおり、謎が多く、コボルトの派生は豊富。
強さはハジメを5分で倒せる。
状態:《穏》
コボルトはハジメのことをつぶらな瞳で見上げている。
「お、コボルトじゃん。グランドン、どうしたんだこの子たち」
「町で困っていたところを助けんだが、恩返しなのか知らんがこの店に急に現れて頼みもしないのに、こうしてちょくちょく働いてんだ」
「…………この店の警備システムは?まさか、手抜き?」
「な訳あるか、アホ。警報が一切鳴らず、いきなり俺の目の前にいたんだよ」
「なるほど。相変わらずコボルトは謎だねぇ」
「━━━━決めた!」
シオンとグランドンの2人が他愛のない会話をしていると、ハジメが意を決したように立ち上がった。
「「ん?」」
「お願いがあります。この子たちを俺に譲ってくれませんか!」
ハジメは自分のパートナーにはコボルトしかいないと思った。
理由は自分でも分からない。
しかし、何よりも。
断言出来ることが1つ。
コボルト達を見た時、ハジメの心にピンと来たのだ。




