P.27 「ホラー映画の定番パターン知ってても、ビビるよね」
その日、いつものように学校の宿題を手早く終え、PWにログインしたハジメ。
しかし、その日はいつもと違った。
『ピコーン!メールが届きました』
「うおっ!何だ?」
借りていた宿から起き上がると同時に電子音が流れ、視界右上に点滅するマークが浮かぶ。
そのマークは封筒の形をしており、取り敢えずタップすると、文章のメッセージが開く。
差出人は、レオナルド。
そして、その内容は、
「武器が……出来た」
◆
レオナルドのメールに指定された場所は、街の中心部から離れた場所。
ポチ達は宿にお留守番させ、一人でスラム街の一歩手前の場所まで足を運ぶと、レオナルドさんが既に居た。
……何故か塀に登って高い所に立ってた。
何でですか?と理由を問いたいが、これは言わぬが花である案件。
うん、そっとしておこう。
レオナルドはマントを靡かせ、腕を組み仁王立ちにてハジメを出迎える。
「おお、来たか!我が同志よ」
「こんにちわ、レオナルドさん」
「レオでよい。早速だが本題に入ろう。今日はそんな下らない世間話をしに来たのではないだろ」
よっと塀から降り、いそいそと何かしらの準備に取り掛かる。
そして、布を被せた台を後ろから引っ張ってきた。
……台とか布とかわざわざ用意したんだろうなぁ……。
そうは思うが、水はささない。
レオナルドは勿体ぶらせながらも、武具の名前と共に布を取り去る。
「これがハジメ専用の武器、闘争の相棒【テングルド・ルイン】だ!」
それの武器はダブルエッジに似て、非なる物であった。
以前の武骨で剥き出しなデザインではなく、洗練され流線的なフォルム。
しかし、それでいてダブルエッジよりも一回り大きい籠手。
拳の腹の部分には、クリムゾンベアの爪らしき物が付いており、手の甲には幾つかのボタンがある。
しかし、名前のテングルド・ルイン。
直訳すると確か「絡まる破滅」か。
どうしてこの名前なんだろうか?
まあ、それよりも。
これを見て沸き上がる言葉は、
「────カッコいい」
「ふははは!分かる、分かるぞ同志よ!その顔、試したくてウズウズしておるな。良し!ならば装着してみよ」
そう言われ、右手に装備していく。
意外と装備に手間をとるかと思われたが、それは無かった。
「……想像してたのより軽いですね。ダブルエッジより大きかったんで、結構重くなってるかと思ってましたが」
軽い。
ダブルエッジの半分程の重さ、指や手首もスムーズに動く。
「前も告げたがダブルエッジは急拵えの作品だ。誠に遺憾ながら、軽量化には力を注いでおらなくてな。ふっ、我も若かった」
ハジメの好感触な反応に気を良くしたのか、レオナルドがテングルド・ルインの解説を始める。
「では、御高説をするとしよう。まずは、ハジメから渡されたクリムゾンベアの爪だ」
テングルド・ルインの指の部分を見る。
……爪のまま……じゃなく、金属みたいだな。
「錬金術で更に硬度を上げている。滅多なことでは砕けない。そのまま殴ってもいいが、それでは面白みに欠けるというものだ」
そこまで言うとレオナルドが藁の案山子を指差した。
「テングルド・ルインをカカシに向け、腰を落とせ。そして、『点火』と唱えてみよ」
まあ、気になってはいたが。
やっぱりレオナルドが用意していた物か、と思いながらも、ハジメは素直に指示に従う。
「こう、ですか?……点火!」
すると、
────ズドンッ!
「…………ッ!?」
右腕に走る衝撃。
踏ん張っていなければバランスを崩して倒れていただろう。
その衝撃の正体は、
「爪が、飛んだ……?」
見れば、付いていた爪がテングルド・ルインから放たれ、カカシに深々と刺さっていた。
そして、微かな煙を上げながら刺さる爪とテングルド・ルインを結ぶように細いワイヤーが繋がっている。
「例えるならば、遠距離兼用型ダブルエッジ。我が同志から譲り受けた特殊アラミド繊維を配合した全長50mのワイヤー」
同志、アラミド繊維と聞いて、ハジメの頭に浮かんだのはシオンの顔。
……なんか嫌な予感が。
感謝するべきなんだろうが、何故かシオンだと不安が勝る。
レオナルドは説明を続ける。
「クリムゾンベアの爪を用いた杭は撃ち込まれると同時に変形し、返しが発生。一度撃ち込まれたら抜くのは難い」
「発射する為のエネルギーは?」
ダブルエッジでは薬莢が出ていたが、今回は空の薬莢が排出されることは無い。
「クリムゾンベアの骨を籠手の骨格に組み入れたからな。改良し、超空気圧縮で発動が可能となっている。薬莢も捨て難かったが、今回は利便さを取った」
なるほど、それはありがたい。
「さて、ボタンを押すがよい。音声認識でも出来るが、今回は自分から見て1番手前のボタンだ」
「あ、これですか」
レオナルドに言われた通りに、指定されたボタンを押すと、テングルド・ルインから機械的な音が響いた。
ガキンッ!ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!
「────うおッ!?ひ、引っ張られる!」
回転する音がしたかと思えば、たわんでいたワイヤーがぴんと張り、そのままテングルド・ルインの中へと巻き取り収めていく。
慌てて踏ん張るが止めることは出来ず、ズルズルと案山子に向かって接近していく。
焦るハジメに対して、レオナルドは平常のまま。
しかも、腕組みしたままやん。
「このように、ハジメにどのような事態が有ろうと、一発爪が食い込んだら相手に接近する。例え腕だけになろうとな」
「いや、最後の不安すぎますよ!てか、このままだと案山子にぶつかる!」
「案山子に肉薄したら、案山子に拳を入れると共に『パンツァー』と叫べ!」
「それって────」
その言葉に、瞬間、ハジメの脳裏にクリムゾンベアとの死闘が浮かぶ。
そして次にあらぬ方向に折れ曲がった右腕が痛みと共に鮮明に思い出される。
ゾッと脂汗が流れ出す。
「いや、それだと俺の腕が!」
「いいからやるのだ、同志よ!さもなくば、死ぞ!」
「死って、案山子に当たるだけじゃ………ん?」
ふと、案山子が気になった。
……なんか、動いたような……。
うぃ〜〜〜〜〜、ジャキン!
変な音がするなと思ったら、案山子の腹からドリルが出てきた。
「へ?」
ぎ〜、ギュル、ギュルンギュルンギュルギュルッギギギギギギギギギギ!
そして、回り出した。
それはもう、勢いよく。
唸りを上げて回りだした。
「それ殺れカカッシー。我とシオンの合作だ」
「何てもの作ってんだー!」
そして、またあいつかい!
悪態を限りなく叫びたいが、生憎時間がもうない。
ワイヤーは止まらない。
回転するドリルはもう眼前。
「今だ!振りかぶれ!」
「くそッ、パンツァアアアアアア!」
ヤケクソ混じりに叫びを上げて拳を突き出す。
ドリルと拳がぶつかり、ズダンッと轟音と共に痛みが走った。
「ギャァァァァ!俺の腕がぁ……あれ?」
たしかにハジメの腕には激痛が走った。
しかし、それだけだ。
激痛といっても竹刀で腕を叩かれた程で、クリムゾンベアの時ほどではない。
ハジメは試しに右腕をさするが、どこも折れていないし、指も動く。
「ワイヤーに魔力を流してみろ」
「はい。(カシュン)……あ、戻った」
「クリムゾンベアの爪を使用して製作したのは魔力対応形状記憶金属。魔力を通せば、返しが戻る。慣れれば、針のように更に細くする事も可能だ」
それは凄いが、それよりも。
テングルド・ルインにも傷は無く、プシュウウウウと排気音が響いている。
見れば、案山子のドリルの先は欠け、後ろへと吹き飛ばされていた。
「これは、一体……」
「これが1番の改善点。使う度に腕が壊れるでは問題だからな。1発分を6発へと区分けし、一発一発の威力を軽減。最大で6連続で発動が可能だが、勿論、6発分を全て使い切り最大火力を放つ事も可能だ」
「ダブルエッジと同じくらいの威力ですか?」
「いや、その2倍だ。だが、安心しろ。それでも反動は籠手内にグランドスライムを使うことで半減はしている」
「それでも痛みは前と変わらずか……」
……威力2倍ってのは嬉しいが、あの痛みはな。
俺の種のせいで、痛覚が制限されないものだから本当に困ったものだ。
でも、
「どうする?威力を弱めるよう調整する事も出来るが」
「いや、このままで」
使い勝手の悪い武器。
正に切り札、そそるねこれは。
「俺はこのテングルド・ルインが良いです」
「ふははは!そうかそうか」
「……それでなんですけど。お代の方はどれくらいになります?」
言っちゃなんだが、かなりの高性能だ。
下手すれば、頭に未だついてる犬耳よりも高いかもしれない。
……というか、この犬耳より安いのはなんかヤダ。
一括払いは厳しいので、ローン有りだと有り難いのだが。
「ああ、そのことか。要らないぞ」
「え……いや、いやいや!そんなん悪いですよ!」
一瞬レオナルドの回答に戸惑うが、すかさず食ってかかる。
テングルド・ルインを観るに、手の凝みようは素人ながらにも窺える。
これを無償と言うのは、レオナルドの腕に対して失礼だ。
しかし、
「要らんと言ったら要らん。そうだな、約束していた期日を過ぎていた事だ。その詫びに無償としてやろう」
「そんなの」
「それで良いんだよ。俺は楽しく開発出来て満足したし、ハジメも満足。ウィンウィンだろ?」
それでもお金を払おうと試みたが、レオナルドが話はここまでだと言わんばかりに断言される。
その言い方は今までの芝居がかったものではなく、どこか素の感じであった。
「っといけね……コホン。つまり、我は既に代償は得た。それでいいな」
「すみま────」
思わず、すみませんの言葉が出そうになったが、レオナルドが指を立て制止させる。
「違うであろう。同志に対し、助け合ったのならば言う言葉は1つだろ」
その言葉に対して、ハジメは思い至る。
そうであった。
謝罪の言葉では無く、この言葉の方が相応しい。
「……ありがとうございました!」
「良いってことよ」
◆
「さてと。使い方の説明も終わった事だし、次は実戦に行くとするか」
「…………ん?実戦?」
何かレオナルドが聞き捨てならない事を言っているが、レオナルドは気にせずに何かの準備をし始める。
「シオンから聞いてな。まだ、種を使い熟せていないようだしな」
「いや、あのー……ちょっと?」
嫌な……とても嫌な予感がする。
特にシオンが絡んでいるのと、そして、目の前の人物がシオンの友人であることが更に不安を加速させる。
帰る提案をしようと直談判しかけるが、運命はマジ無慈悲。
「ほれ、ポチっとな」
レオナルドの右手に髑髏マークの描かれたボタンが握られ、それが押された。
すると、ハジメの背後で、倒された筈の案山子から機械音声がした。
『────自動モードに移行します』
「は?」
後ろを振り返れば、倒れていた案山子から足と腕が生え四足歩行へと移行して起き上がる。
頭が外れかかっているのか、ぐりんと180度回転する。
「怖えええぇええ!シンプルに悪魔に出る奴!!」
「それ殺れカカッシー、第二形態だ。本能のまま襲いかかってくるぞ、フハハハハ…………いや、マジで怖いなこれ」
作り手も思わず素が出る程の怖さ。
真っ暗闇にこんなん出てきたらチビるね、間違いなく!
『こ、ココココ……こ、こ、こ?!』
「ちょっと、レオナルドさん!壊れてませんかね、コレ!?色んな意味で!」
「いや、大丈夫……な筈だ。うん、多分?」
「疑問形止めて!………あれ?」
『…………』
「止まったのか?」
急に黙りこくったカカッシーに訝しむ2人。
しかし、どうやら動いているようで注視していると、ぼそりと…………。
『────コロシ、マス』
「1番言っちゃいけない台詞だろうがよ!」
緩急つけてのホラー映画定番パティーン!殺意増し増しです、呪われてないかなこの案山子!もしかして、この犬耳の呪いでも移りましたか!?
『キシャアアアアア!』
「チクショーーーーー!」
この日、呪われた案山子の都市伝説が出来たとか出来なかったとか。




