P.25「ジョーカー」
「よし、今日はここまでだウジ虫共!次は2日後だ!物覚えの悪いお前たちの為に、わざわざその身体に痛みと共に刻みこんでやったのだ。有り難く思え!」
『ブヒィィィ!』
「あいてて……今日もカスリすらしなかったぜ」
「いつもめげないな、ユエン」
「「「……わっふぅ」」」
クレアさんによる猛特訓が終わり、ハジメとユエンはクタクタに疲れた身体を引きずるようにギルドを出る。
対して2人の周りでは変態達が『今日の鞭もいい音鳴らしてましたな〜』『ああ、床になってお姉様に踏まれたい』『この為に生きてる気がしますな』とツヤツヤした顔で意気揚々とギルドから出て行く。
「……コイツらは本当にブレねえな」
「そうだな」
そう呟きながら、ハジメは頭に触れる。
そこにはもう慣れつつあるモフモフな感触が。
ケモ耳だ。
結局あれからゲーム時間で3日間ケモ耳着けている。
あれから毎日モッフィーさんを尋ねているが、未だ帰っていない。
しかもこれ、1週間ほど外せないと書いてあったがログアウトしていた時間分はカウントされず、ログインしてからゲームプレイ時間合計が一週間を過ごさなければ取れないクソ仕様。
唯一の救いは妙に頑丈なところ。
はぁとため息を吐き、トボトボとした足取り。
これからどうしたものかと、悩むハジメに声をかける人物が。
「ん?おお、ハジメか。最近見ないと思ったら、イヌ耳なんか生やしてどうした?」
「……シオンさん。久しぶりです」
そこに居たのは狐のイナホを肩に乗せ歩く青年、テイマーのシオン。
シオンはイヌ耳をしきりに気にしている。
「それにしても何だこれ……この精巧さに、こんな物に馬鹿真面目に力を注ぐのはモッフィーの作品か?ハハハ、凄えなオイ。微弱だけど鑑定阻害効果もあるのか」
「笑い事じゃないんですよ、これ……呪われて取れないんですよ」
ハジメの「呪い」の言葉にシオンは何かを思い出すように呟く。
「呪われてる?……もしかして、それって【邪神の欠片】のドロップアイテムである鎧でも使ってるとかするか?」
「そうですよ。知ってるんですか?」
ハジメが肯定すると、シオンは「なるほど」とそう言って、
「知ってるもなにも……その鎧、モッフィーにあげたの俺だし」
「────はい?」
「『砕いてリサイクルで呪いのアクセサリーでも作っちゃう?』とか酒の席の冗談で言ったんだけど。ハハハーそうかそうか……本当に作っちゃったかモッフィー」
「アンタが原因かい!」
「いや、普通使うとは思わないじゃん!」
わーぎゃーと責任の押し付け合いで言い争いをしていた2人だったが、ふとシオンがハジメの後ろにいるユエンに気が付いた。
「ところで、彼は友達かい?」
「へ、そうですけども」
「……どうも、ユエンです。ハジメとは初心者講習で知り合いになったばっかりです」
何故か借りてきた猫みたいに緊張するユエン。
ハジメはユエンの似合わない様子に訝しみ、しかし、それよりも自己紹介されたシオンには気になることがあったらしい。
そして、しきりにユエンとハジメの両者を見て、「ああ」と何か納得しながらポンと手を叩くと、
「初心者講習…………もしかして、ハードコース選んだ新たなドM志願者2人ってハジメ達か」
「「おい、ちょっと待て!」」
初耳な爆弾発言を投下しやがった。
当然、その言葉にハジメとユエンは食ってかかる。
「何すか、その情報!間違い、真っ赤な嘘ですから!それ!」
「俺らはドMじゃねえ!」
「そうなん?1人は自分の身体を爆発させた後に鞭を貰いに行って。もう1人は犬耳を事前に付けてコボルトに扮した嬢王様のペット志願者ってきいたけど」
「「全然違え!」」
いや、少しだけ本当混じってるけど、全く違う!
「大丈夫大丈夫。ほら、人には言えない趣味の一つや二つ、あって当然だしさ。俺は偏見とかないから、安心して……ね」
「「だから、違う!!」」
どうりで、ギルドの受付嬢さんが生ゴミでも見るかのような目をコチラに向けていたのか。
……無理ありつつも、気のせいだと自分に言い聞かせていたのに。
「マジかよ……どうりで受付の姉ちゃんが冷たい目をするのか。後ろの変態達に向けているとばかり……!」
……どうやら、ユエンもだったらしい。
まさかの事実を受け止められない2人。
そんな俺らの様子を見て、シオンは必死に笑いを堪えている。
……この人、Sだ。しかも天然の。
「……それで」
「うん?」
「それでシオンさんは何をしてるんです?まさか、俺らをからかう為に遠出してた訳じゃないんでしょ」
「そりゃ偶然さ。まあ、おかげで楽しかったけど……悪かった悪かったって。だから、そのナイフをしまってくれ。俺は今回、総本部ギルドに呼ばれたんだよ」
ハジメが取り出したナイフを仕舞うと、シオンは2人が出てきた総本部ギルドを指差し言う。
……総本部に呼ばれた……つまり、
「……自首?」
「ははは、コイツ〜……結構容赦無くなってきたなハジメ」
隣で「コーン」と狐のイナホが「しょうがないでしょ」と言いたげに鳴いた。
「依頼だ依頼。何でも、隣国との国境線付近でモンスターの様子が異様らしくてな。それの調査として、適任の俺が駆り出されたわけよ」
「へー…… シオンさんみたいな人に頼る程って、人材不足なんですか総本部って?」
「質問にみせて微かな皮肉を織り交ぜ始めたな、コイツ……。そうじゃない。今回の件ではモンスター絡みだからな。俺の種と相性が良いんだよ」
そのシオンの発言に、ハジメは食いついた。
「前は教えてくれませんでしたけど。シオンさんの種は一体何なんですか?」
「教えな〜い!」
……悪いけども一瞬イラッと来た。
コチラが言い過ぎたからへそを曲げたのかと思ったハジメ。
しかし、どうやら違ったようだ。
一転、シオンの顔からふざけた様子はなりを潜め、真剣なものとなる。
「いいか、ハジメ。種は俺たちプレイヤーにとっての切り札だ。なら、それを出来る限り見せてはいけない。でなければ、ここぞという時。折角の札がブタになるかもしれないんだ」
「…………!」
「頑なに教えるなという訳ではない。ただ、それだけは知っていて欲しいんだ」
「もしかして……シオンさんはそれを気づかせる為、敢えて俺に秘密に」
「いんや?ただの気分」
「…………」
この人は、綺麗に終わらせる事は出来ないのか。
私事の為に、次回から毎日更新が難しくなります。




