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VRMMO【Parallel World】   作者: BLTサンド
第1章 Prologue
21/28

P.20 「人から貰った物には慎重に」

「ぜぇ、ぜぇ……ぷはっ………何とか、ま、間に合った……」


ケモノのそうこからダッシュで開催地である総本部ギルドへ到着したハジメ。


着いた瞬間にギルドの受付嬢に『す、ずいません!はぁ…はぁ……これに申し込みたいんですが……はぁ……大丈夫ですか!?』なんて息乱れたまま言って駆け込んだ訳だが。

良くアレで、受付嬢の営業スマイルが崩れなかったのは流石としか言いようがない。


しかし、落ち着くいてみるとある事に気付く。


……コースが3種類あるな。


訓練参加者はハジメの予想よりも多く、見れば3つに区分けされている。


区分け毎に貼り紙でそれぞれ、『イージーコース』、『スタンダードコース』、そして『ハードコース』。


そして自分が居るのはハードコース。


ハジメはコースについて知らず、どのコースを受けるかは明言していなかったが、何故かハードコースへと受付嬢に案内されたのだ。


周りを見渡すと、ハードコースには他の2つのコースに比べて、あまり人が見られない。

数にすると3:6:1。


……ハードコースが厳し過ぎて不人気とか?


余りの人数差に不安になってくる。

いや、厳し目の方が自分にとっては有難いのだが。

自分の目的に適っている。


だが、それよりも気になる点が。

他のハードコース参加者にチラリと目を向ける。


『はぁ……はぁ……』

『まだかまだかまだか』


ハードコースに居る人たち皆、目が血走っているというか。


息を荒げてたり、ワクワクしていたり、息をはあはあしていたり、体を抱きしめ恍惚とした表情をしている。


人を見た目だけで判断してはいけないとは思うが、見るからにヤバい連中である。


そのため、ハードコースについて聞こうにも容易に話しかけ辛い。


アウェイ感を感じながら、心細くなっていると。


「なあ、あんたも受講者か?」


「え……そ、そうだけど」


突然声を掛けられるとは思ってもおらず、びっくりしながらも後ろを振り向けば、自分と同じ年ほどの少年が立っていた。


赤髪で短髪で、見るからに活発的な少年。

武装は軽量な革鎧に手甲と具足……近接系タイプの戦闘職だろうか?


取り敢えず少年の質問に同意すると、少年はホッとして破顔する。


「そうかそうか!良かった〜、やっと普通そうなのが来てくれてよ。心細いったらありゃしねえ」


「えーと、あんたは?」


「ああ、すまんすまん。俺はユエン。あんたと同じで、始めたばっかの初心者だ。それで、そっちの名前は?」


「ハジメだ。こっちのコボルト達は俺のパートナー」


「「「わん」」」


「パートナー……ってことはテイマーか。珍しいな」


ユエンの発言に気になりながらも、確認しておきたいことが。


「ところで、ユエンは俺と同じでプレイヤー……なのか?」


「そうだけど………俺と同じ?待て、ハジメもプレイヤーか」


……何で驚いた顔してんだ?


意図が分からず疑問を浮かべるハジメに対して、頭の方を指さしてユエンが言う。


「じゃあそれ何だ?特殊クエストの成功報酬で変身でも出来るのか……?」


変身?と理解出来ず、取り敢えず指を向けられた頭を掻こうとする。


すると、出迎えた感触は自分の髪のものではなく、フワッとした非常に触り心地の良い柔らかなもの。


慌てて両手で、しかし慎重に確認。


「まさか…………ヤベェ、つけ耳モッフィーさんに返し忘れてた……!」


ただでさえ他人の物だと言うのに、このつけ耳は異常なほど高価である。

これからの訓練で汚すだけでなく、最悪の場合壊れでもしたら又もや鉱山送り確定!


ゲーム内なのに節約でパンの耳生活はもうヤダなんよ!いや、もっと酷くて白湯と塩オンリーの生活になる。

この犬耳が俺の骨折治療代より高い事には未だに納得行ってないが、すぐに取ろうとし、


「……ん?ちょ、ちょっと待……取れねえ?!何で!」


「……何してんだ?」


「いや外れないんだってコレが!接着剤で付けられたみたいに!」


結構強めの力で引っ張るが、頭皮と一体化でもしたのかと言わんばかりに離れない。

それに見かねたユエンがむんずと犬耳に手を掛ける。


「ちょっと乱暴に扱うぞ」


「え、ちょっと待っ『せえの!』イテテテッ!らめえええ、ご飯が塩と白湯オンリーになっちゃうううううう!」


「………駄目だ、びくともしねえ。しかも、破けもしないなんて」


頭皮ごと禿げるかと思ったが、首の皮はなんとかつながったようだ。

頑丈で助かった。


頭を痛めながらも、ふと、犬耳が装備品扱いなのではと考えに至る、あることに気づく。


………そうだ、ステータス欄からならワンチャンあるぞ!


すぐさまステータスを表示させると、アイテム項目に新しい表記があり、




【リアルな付け耳(犬)】

その名の通り、リアリティ溢れる獣を模した耳飾り。

手触り、フィット感、香り………追求し続けた匠の一品。

セントホースの鬣とポフィネティーグルの体毛にて製作。

依頼主には走ってもずれないようにとの要望に応えるべく、

以前に遺跡にて倒した【邪神の欠片】、

そのドロップアイテムである呪われた鎧を壊して破片の1つを利用。

これにより装備したらズレない、取れない、外れない………つまり安心だね!

外すには解呪の術か、一週間経つか、死んでしまうかのどれか。

製作者はモッフィー。

効果:聴覚UP、装備解除不能(ランク:B)〈デメリット〉

ランク:A-

●装備中




モッフィーさんがシオンさんの友人である理由が少し分かった気がする。


「チクショーーーーー!解除不能って………これ、明らかに呪われてんじゃねえかあああああ!?」


「うわっ!どした急に?」


「………すまん。ぶっとんだテキストに驚いただけ。そう、大丈夫落ち着いてるぜ俺OK、HEY YO , COME ON!」


「いや、めっちゃ動揺してるやん。何でアメリカンスタイル」


………落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ。


さながら今の俺は、頭に割れたら即借金の壺を乗っけている状態。

テキストをもう一度読み直す。


『解呪の術』


目についたのはその言葉。

キタキタ踊りでも踊れってのかと混乱していたが、ある事を思い出す。

落ち着いて考えれば、モッフィーさんもウサ耳だったとはいえ、同じ物を着けていた。

あれも同様に呪われていた筈、しかし、それでも着けていたという事は、


………モッフィーさんには解呪可能な手段がある………!


ハジメはその解答へと至り、今スグにケモノのそうこへ向かおうとするが、ユエンが待ったを掛ける。


「おいおい、何処に行こうとしてるんだ!今から講習始まんだろ!」


「くっ!いや、でも……!」


引き止められ悩んでいると、逃げ道を塞ぐように声が掛ける。


『えー。では、今から訓練を開始します。イージーコース、スタンダードコースの方々は私について来て下さい!そして、ハードコースの方は暫くしましたら講師がお見えになりますので、そのままお待ち下さい』


「ああ……分かっていたけど時間が足りない……」


「なんか知らんが諦めろって。それに、周り変な奴で落ち着かねえからよ。俺を助けると思って一緒に講習受けようぜ」


ユエンが肩を叩いて、そう言ってくる。

そう言われて見渡せば、何故か先程よりも尚一層鼻息を荒げるハードコース参加者。


……確かに、これに混じって独りだけはキツいものがある……。


仕方がないと半ば諦め、観念したハジメ。

それでも、格闘などの訓練がある場合は、どうにか今日だけでも観戦という形にして貰えないかと考える。


「まあ、事情を話せばどうにかな───」


『いらっしゃったわ!』

『……ついにか。この日を待ち焦がれていた!』


突如、他の参加者が騒ぎ出し、言葉が遮られる。


何だと2人が騒ぎに疑問を浮かべていると、カツカツとヒールらしき足音が近づいて来て、





「────さっさと整列をしないか、このノロマな豚共!」





「「へ?」」


現れたのは、軍服かと見紛う程ギルドの制服をピシッと着こなした長身の女性。

ハイヒールを履いてることもあってか、尚背が高く見え、鋭利な目つきでコチラを睥睨している。


その視線に刺された周りの者達は──────黄色い悲鳴を上げる。


『ブヒいいいい!』

『失礼しました、お姉様!』


「誰がその汚い口から醜い鳴き声を漏らして良いと言った!」


バシィィッンッ!と鞭が振るわれ、空気を引き裂く快音が鳴り響く。


『ハヒィ!すみません!』


………………。

その中で、その状況に付いて行けてない2人。


「……ハジメ。急に俺もここから出たくなったわ」


「ハードって、そっちのハードかい!!」





クレア・スタンフィード(26)は若いながらもベテランギルド職員である。


長身ですらっとしたスタイル。

冷たい視線と、つり目のクールな美貌。


ナイフの様な冷美さにキツい言葉も相まって、ドMの変態だけでなく、熱狂的な同性のファンが多い。


振るわれた鞭の音に、ハードコースの変態共が「はひぃ」と羨望の眼差しを向ける。


だが、そんな彼女、実は、


(はぁ、おウチに帰りたい)


表情とは裏腹に、気分はナイーブである。

勘違いされているが、クレア・スタンフィードは存外ピュアでシャイな女性である。


「さっさと動け、この豚共が!」


(どこで間違っちゃったんだろう………)


………もう一度言うが、クレア・スタンフィードは素直になれないシャイでピュアな女性なのだ。

本当だよ。


初心者には厳しく指導をしなければならない。

これは皆が共有する暗黙の了解である。


変にアテもない自信をつけられて、死にに行かれると困るからである。

だからこそ、最初の指導は厳しく、己の力量を知らせなければならない。


クレア・スタンフィードは武の才があった為、指導役に推薦された。

そんな役に就いたクレアは、純粋であった。


それはもう純粋な白さ。

だからこそ、他の色に染まる時は一気だ。

舐められてはいけないと、ギルドマスターから渡された『君も今日から◯ートマン!指導者教本』を元に熱心に勉強した。


そう熱心にだ。

彼女はギルドマスターが冗談で渡した物を、真に受けてしまったのだ。


ギルマスもまさか真に受けるとは思っておらず、彼女がそれに気づいた時は既に手遅れで。


「ただまともに並ぶ事も出来んのか!この家畜にも劣る畜生共め!」


『ブヒーーーーッ!』

『はい、お姉さま!』


汚い歓声と黄色い悲鳴が響く。


(もうやだよぉ………)


ちなみにであるが、この原因を作ったギルマスはクレアの華麗なる鞭捌きにより、1週間入院するほどのボロボロの雑巾となった。

自業自得であるが、しばかれたギルマスがちょっと新しい扉を開きかけたのは内緒だ。


クレアがそのような物憂げに浸っていると、


「……あの、すみません」


「お、おい。やめとけってハジメ!」


ふと、自分に声をかける者が居るのに気付く。


「なんだ、貴様ら!誰が発言を許したと━━━」


もはや反射とも言えるほど染み付いてしまった罵声を繰り出そうとして、思わず声が詰まった。


(……犬耳!それにコボルトちゃん!)


立っていたのは、このハードコースには珍しい至って普通のあか抜けた犬耳少年。

その足元には、自分の声に怯えてしまっているのか少年の足に隠れるようにコチラを覗くコボルト達が。


コボルト達のその様子に胸がキュンとときめくが、それよりも、


(普通の……普通の子だ……!)


クレアは感動していた。

毎度毎度講習を開けば、変態が集って、怖くて鞭で叩けば喜び、更に変態達が増える。

悪夢、文字通りの悪夢。

1匹潰したら、30匹いると思え。


……で、でも……もしかしたら見た目だけで中身は他と同じかも。


人を簡単に信用しては行けないと、私をこんなにした元凶ギルマスの件で大いに学んだ。


「あのぅ、実はお願いがありまして……」


目の前にいる犬耳の彼は何か言いたげな表情をしていたが、


「貴様!今は私が話しているのが見えないのか!その目はビー玉か何かか?分かったなら、さっさと戻らんかこのグズな蛆虫が!」


変態共に振舞うように、いつもと同じ調子でゲキを飛ばす。


「…………ごめんなさい(しゅん)」


(あああああ!見るからに傷つけちゃったよーーーー!やめて、そんな顔しないでーーー!)


クレアの言葉を受け、項垂れる少年。

頭の犬耳もしょんぼりと垂れ下がっている。


その様子は、実家で飼っている犬のイタズラに対し怒った時の反応に似ていて、尚更罪悪感がクレアの中を渦巻く。


『あ、アイツ一人だけ罵倒されやがって……何て羨ましい』

『きぃーーーー』


「黙れ、この口からゴミを吐くしか能のない蛆虫共!」


外野が煩いので、八つ当たり混じりに鞭で黙らす。


視線を戻せば、背中を向けとぼとぼと後ろへ下がっている。

そして、友人なのだろうか、同じ歳程の少年と合流して話し合う。


「駄目だったわ」


「そりゃ当たり前だろ。何せ、こんな変態共囲って喜ぶドS女だぜ」


……ピクリ


「そこまで言う必要は無いんじゃ……大体俺がうかつだったのが原因だし」


「いやまあ、だとしてもよ。暴力的な女ってマジ無理だと思うね」


……ピクピク。


「おい、言い過ぎだユエン。聞こえるぞ」


「でもさハジメは思わんの?ちょっとはな。ちょっと女王様とか興味あったけど、実際に目にすると……ないわ」


……プチンッ



聞き耳を立てていたクレアの中で、何かが切れる音がした。


言いたい放題言ってくれた男へと振るわれたクレアの鞭は、蛇のように首へと絡みつく。


突然の事にウグゥッと息が詰まり、ユエンは慌ててコチラを向く。


……好き放題言ってくれて!


私の何が分かるの。

最近私生活でも支障きたして、自家帰った時にお父さんにいつもの癖で間違えて蛆虫って呼んでしまった時の事を!

そのいたたまれない気持ちが分かるのか!


「そこの赤髪!罰として、ダッシュ30周だ!」


「何で!?俺が何かしましたか!」


「……貴様の顔が気にくわん!」


「理不尽!」

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