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VRMMO【Parallel World】   作者: BLTサンド
第1章 Prologue
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P.2 「ドナドナドーナー…… えーと、ここまでしか知らん」

光が収まると、俺は質素な部屋で一人立っていた。


六畳程の部屋に、自分以外は何もない。

壁の材質は石ではなく、古ぼけた木で出来ており、窓はなく扉が一つだけ。

後は、部屋が天井に吊るされたランプの揺れる小さな火に照らされ、おまけに少しカビ臭い。


スタートがこんな場所からなのか。

………なんか、ショボくね?


「────って、いやいや!これはすげえな」


今更ながら、この現状のスゴさに気付く。

()()()()()()()()()のだ。


そうだ。余りにも違和感ないから忘れていたが、ここはゲームの中だった。

このじんわり匂うカビ臭さや壁の木目といい、ここがゲームの中と知ってなきゃVRと気づけないな。


うわ、壁の隅見てみたら微かに埃が残ってる。こってんなー。

ホコリを見て感動するなんて人生初である。


ウンコ座りをしながら隅っこをジーと見てると、唐突に扉のドアノブが回り、バーンと勢いよく開かれた。

驚きながらもそちらを向けば、夜には出会したくないようなゴツくガタイの良い中年男性が居た。


「ようこそ新人君!歓迎する・・・・・・しゃがんで何してる?トイレだったらここを出て右だぞ」


「ち、違います!」


恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じる。

ハジメはコホンと咳払いをし、目の前の人物に話しかける。


「ここはどこですか?」


「テイマーギルドだよ。ここに出現したってことは君もテイマーだろ。で、俺が君のような新人を案内するギルドマスターのジャック・オーランだ」


「ちなみトイレは大丈夫か?」と呟きながらジャック・オーランは握手をしてきた。


見た目によらず優しそうな人だ。

そしてうんこじゃねえって言ってんだろ。


話によると、どうやら俺達冒険者は選択した職業毎のギルドに召還されるとのこと。

そして、ここで手解きを受けギルドに所属するらしい。


・テイマーを選択した冒険者は始めにモンスターをテイムし、テイムしたモンスターはギルドで登録。

・ギルドに所属すると仕事の依頼を斡旋したり、テイムモンスターの飼育手当が出る。

・重大な問題を起こした場合はギルドを脱退しなければならない。


「とまあ、決まり事はざっとこんなもんか。じゃあ、さっさとこんなカビ臭い部屋から出ようぜ」


いや、ザックリしすぎなのでは。


そう思いながらも、部屋を出ていくジャックさんの背中を慌てて追いかけ俺も部屋を出る。


「ようこそ、テイマーギルドへ!…………って言っても、今は人が出払っちまってるけどな」


目の前にある光景は"いかにも"という感じだった。

木の机と椅子に、様々な貼り紙がされた大きな掲示板。

西部劇に出てくるようなカウンターとその後ろには酒瓶が置かれている。


正しく、ファンタジーで出てくるギルドの内装そのものだった。


この内装見てるだけで、今から俺の冒険が始まるのだと実感してきて、ワクワクが治まらない。


「じゃあ、えーと、そういや名前聞いてなかったな」


「俺の名前はハジメです。よろしくお願いします」


「おう、よろしく!で、本来ならギルドにいるお前さんと同郷の奴に頼むんだが、あいにくに誰もいなくてな。どうしたもんか」


オーランさんが頭をガシガシと掻き悩んでいると、カランカランとドアベルの音が鳴った。


「ただいま~」「コーンッ!」


音のした方を見ると一人の白髪の青年と、その青年の肩に乗った狐がいた。


その青年一言で表すならば「白」だ。

白髪に、少し大きめの白いコート、そして首には暑くないのであろうかマフラーが巻かれている。

雪のような人だなと、何故かハジメはそう思った。

青年などと言ったが、年は俺より上だろう。よくよく見ると肩にいる狐のしっぽが三本と普通の狐でないのが分かる。

モンスターだろうか。まあ、可愛いので、細かいことはどうでもよい。

モフらせてもらえないだろうか。


「おっす、オーラン!………ん?もしかして、そっちの彼は新入りか。よろしくな」


「あ、ども。オーランさん、この方は?」


「────────」


突然現れたフレンドリーな青年のことを聞こうとオーランの方を向くと、オーランは何とも言えない渋い顔をしていた。


え、何でその顔?


オーランの表情の意味を計りかねる中、青年が笑顔でハジメに自己紹介を始めてきた。


「俺はシオン。こっちの狐っぽいのがイナホ。でだ、何だよオーラン、その嫌そうな顔は」


「あー………………いやな。確かに俺は誰かを欲してはいたが、そしたら不安な奴が出てくるとはな」


「えー。俺のどこが不安なのさ」


「テメエの胸に手を当てて思い出せ!」


オーランは頭痛がするのか、こめかみを押さえながら大声でそう言った。


その言葉にシオンは、しばし思考。


そして、トンっとオーランの胸筋に手を置いた。


「………えーと、硬い。生暖かい。テンションが下がった」


「俺のじゃねえ!なんで野郎に触られて感想聞かされなきゃならねえんだよ!」


オーランさんは大きな声を出してはいるが、そこに険悪さは無く、シオンと仲が悪いというよりむしろ親しいようだ。


しかし、尚更あの顔はどういうことなんだろうか?


「そんなことより、オーラン。彼は新人なんだな。なら、仕方ない!俺が新人研修行ってやるよ!誰もいないんだろ。ちょうど俺ヒマだし」


「………んぁ~~~、しょうがねえ!ハジメ、これからシオンに同行してテイマーの基礎を学べ」


最後まで悩んでいたようだが結局折れたオーランさん。


オーランさんの許諾を聞き、それはもう嬉しそうなシオンさん。


対して、俺はオーランさんが何故そこまで渋るのか気になり、少し不安になってきた。


俺はシオンさんに聞こえないように小声でオーランさんに話しかける。


「オーランさん、失礼ですけど、あのぅ、もしかしてシオンさんって素行が悪かったりします?暴力とか恐喝とか」


「いや、そんなことはない。住人からも好印象で、テイマーとしての腕もいい。だが、一つだけアドバイスをやる」


そう言ってオーランさんは俺の肩に手を置き、そのアドバイスとやらをくれた。


「ヤバイと思ったら即逃げろ。それだけだ」


「待って、それ俺の知ってるアドバイスじゃない。それ、ただの不吉な言葉」


または、人はそれをフラグと()う。

一体、この先俺の身に何が起こるというのだ。


「なーに話してんだ。ほらほら行くぞ、新人君」


不安の種がメキメキと成長する中、俺はシオンさんに手を引っ張られ連れて行かれる。


「あ、あの、まだ心の準備が。ちょっと、オーランさん!って、見てないフリしないで下さい!」


あ、あの人、口笛吹いてそっぽ向きやがった。

シオンさんの引っ張る力は意外にも強く、振り払えない


「よし、歌を歌いながら行こうか!」


そう言ってシオンさんが歌い始めたのはドナドナであった。


これが俺の冒険の一歩目となった。

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