P.18 「幕開けと行きましょう」
【????】
『聞きましたよ~。ホープさん、また宣言する前に企みを邪魔されたんですって~』
『ヒャハハハハ、またかよ!ほーぷっち、マジ喜劇!』
『……………………』
『うるせーよ。俺はお前らと違って蒔いてる種の数が多いんだ。事に至る前に潰されるのは承知の上』
『フフフ、そう意地を張らずに。ここには私達しか居ないのです。隠さずもっと本音を出して悔しさで惨めに泣く姿を私に見せてくださいよ~!』
『隠さずに?……分かってねえな、グリーフ。俺が少しずつ少しずつ記憶操作して、やっと芽が咲きそうだったってのに潰されて。そんなもん悔しくて悔しくて………………最高に楽しいじゃねえか。自分の思ったように行かねえ、これこそ人生の醍醐味。ああ、俺は人生を楽しんでいる!』
『…………嘆かわしい』
『相変わらずの狂人ぶりですね~。反吐出そうになるほど惚れ惚れしますよ~』
『ぐりっちがそれ言うの?ヒャハハ、マジ喜劇!』
『何を他人事みたく言ってんだ。そんなの俺ら全員に言えたことだろう。────で、次は誰だ?』
『ああ、それなら早い者勝ちでもう決まっていまして………』
『なるほど。そりゃ楽しみだ』
◆
ハジメがクリムゾンベアとの死闘を経てから、現実世界で5日。
とある鉱山にて。
「おーい、ハジメ!そろそろ休憩入れとけー!」
「了解ッス!」
ハジメは泥まみれになりながら、ツルハシ片手にあくせく働いていた。
ハジメのすぐ隣にはパートナーであるハチ、ポチ、ポン太の3人が足元の壁を掘っていた。
親方に言われたので、キリのいいところで止め、腰をつく。
健全な汗を流した後は、水筒に入れておいたキンキンに冷えたお茶を一杯。
「かぁ〜、生き返る!」
お茶で喉を潤していると、ベテランのオッさんからおすそ分けを頂いた。
「ほれ、若いの。このパンでも食って力つけろ」
「ありがとうございます!ほら、お前たちも」
「「「わん!」」」
ハジメは貰ったパンを4つに千切り、コボルト達にも分ける。
「美味えな、やっぱ。空腹は最高のスパイスだぜ!」
「「「わふっ!(むしゃむしゃ)」」」
労働の後の飯は格別だな!
HAHAHAHAHAHA!
………………ふぅ。
「…………ゲームで何やってんだろ、俺」
冒険しに来た筈なんだがなあ。
自分の思っていたゲームプレイ予定から遠く離れた現状に、我に返ったハジメは落ち込むのであった。
◆
現在、ハジメはサルトリイバラ鉱山という長い名前の場所で働いていた。
これには、さして深くもない単純な訳がある。
素直なのは美徳だ。
だから、敢えて言おう。
金が、無いから、です!!
クリムゾンベアとの激闘の末に、ハジメが手に入れた得は爪と骨のアイテムとキノコ × 20のみ。
本当キノコ落ち過ぎだろ。
割合9割キノコってなんなのよ!熊だろお前!
対して、損はと言えば、
・右腕複雑骨折
・肋3本骨折
・武器、及び衣服の破損
・ハジメの治療費
・ポチ達の治療費
・ポチ達を含めた装備品の一式買い換え
・クエストの失敗による違約金
………見ての通り、得に対して割に合っていない。
この世界には、回復魔法が得意なものが集まった病院なる所で骨折だろうが怪我を自然治癒よりもすぐに治すことが出来る。
だが、怪我が酷ければ酷いほど、かかる費用が増える。
また、クエストの違約金はクエスト毎に違い、初心者用クエストに関してはビギナーにとって安くない金額の請求がくる。
これは、ふざけず、クエストへの真摯さを学習させるために出来上がった暗黙の了解であるのだか。
まさか初心者クエストの最中にクリムゾンベアが出るとは誰が想像できたか。
その結果、ハジメの大量出費へと繋がり。
────ロクな飯も買えないスカンピン野郎の出来上がりである。
そんなハジメを流石に可哀想に思ったシオンと、テイマーギルドのオーラン。
クエストを受けようにもロクな武器が無い。
バイトしようにも、プレイヤーはリアルの事もあり結果不定期にしかシフト出せず。
そんなプレイヤーを雇ってくれる場所は少ない。
そこで、不定期でしか働けないプレイヤーを雇ってくれるバイト先をシオンが勧めたのであった。
まあ、元を辿れば。
怪我の治療費も。
装備品の買い換えも。
クエストの失敗も。
全部、シオンのせいである訳だが。
双方にとって、知らぬが仏、言わぬが花、である。
鉱山での仕事に最初こそ戸惑っていたハジメではあったが、今では手馴れたものである。
また、パートナーのポチ達も力になった。
「わん!」
「ん?ここは掘っちゃダメか、ハチ」
「わふっ」
ハジメがツルハシで壁を掘ろうとすると、ハチが警告するかのように吠えた。
コボルトは穴掘りが得意である。
観測されたものでコボルトによって最も深く掘られた穴は、地下50mまで至っている。
穴掘りを得意とするコボルトは、音、感触などからどのように掘れば穴が崩れないかを本能的に知っているのだ。
そして何より、優れた鼻が最もたる貢献者である。
匂いからこの先にアレがあることを発見してくれる。
意思疎通が出来るので、カナリアの何倍も優秀だ。
「すいませーん!アレがまた出たんで、処理お願いしまーす!」
「はいよー。お前ら、一旦手ェ止めろー!」
「「「うーすっ」」」
その為、ハジメはポチ達の協力のもと、効率的に鉱山での仕事は進んでいった。
そんなこんなで、あくせく働いたかいあって、ハジメは予定よりも早く無事目標金額まで達せたのであった。
「親方、ありがとうございました!」
「おう!困ったらいつでも来いよ!お前らも、またな」
「「「わふー!」」」
親方達もいい人だったし、今では正直ここを離れるのが惜しいとすら感じている。
たが、俺は冒険をしにこの世界に来たのだ。
それは自分の根幹であり、譲れない部分だ。
金を手にしたハジメは、まずは武器を受け取りに行くのだった。




