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VRMMO【Parallel World】   作者: BLTサンド
第1章 Prologue
14/28

P.14 「       」

始めは幻聴かと思った。


直前まで走馬灯みたいなもんを体験していたのだ。

だったら、危機に陥った俺の頭がありもしない声を生み出してんじゃねえか、と思うのだって不思議ではない。


ただ、どうやら違うようだ。

何故分かるのか?分からない。


ただ、言葉が重なるにつれ、確信へと変わる。

それは確かに、現実として、ハジメの頭には声が響いているのだと。


【プレイヤー:ハジメからのオーダーを確認】

【……承認】

【種の成長を促進】

【種の成長開始……終了】

【スキル「冒険の(ブレイブズ・)(ダイアリー)」をハジメに移植………終了】


冒険の(ブレイブズ・)(ダイアリー)…発動します】


それは機械的な声であった。

しかし、最後の声だけは、今までと変わらず無機質なものではある筈なのに、違って聞こえた。


そこには熱が、俺を後押しするかのような、太陽のような温もりが込められていた。


【貴方の人生に幸あらんことを】


そしてその声は終わり、奇跡が起きた。


目の前が、いや、ハジメの胸から光が発せられた。





光は大きくなり、閃光が辺りを包む。


「────!」


「Ga────?!」


余りの眩さに、思わず目をつぶってしまう。


そして、目蓋を閉じている時に、何か大きな、それこそ大きな獣がそこに舞い降りたかのような音が、耳に届く。


……何だ!?


光は収まりつつあり、確認する為にも無理やり目を開け、前を見る。


そこには、クルムゾンベアが居て、その前に立ちはだかるように、


『────Kueeeeeeeeee!』


そこに黄金の翼を携えた獣が居た。

背中から生える大きな翼は存在を知らしめるかの如く羽ばたかせ、威風堂々とした立ち振る舞い。


あれは、あの獣は、


「あれは、グリフォン!シオンさんのラプラタか……!」


『Kue!Kuaeeeeee!』


その美しい躰から放たれる嘶きはビリビリとこちらの芯から震わせ、それはクリムゾンベアも同様だ。


「Ga?!G、GaAAAA!」


クリムゾンベアは突然のことに警戒をしている。


……シオンさんが何処かに居るのか?……いや、そんな事よりも今は逃げなくては!


最初は訳が分からず唖然としていたハジメであったが、この(チャンス)を逃す手は無いと、すぐさま行動に移る。

ケールから貰っていた煙玉で煙幕を張ると、ケールの元まで駆けつけ、傷だらけのコボルト達と共に背負いクリムゾンベアから離れる。


ある程度クリムゾンベアから距離を取り、大木の影に身を隠すように背中を預ける。


「はぁ、はぁ……大丈夫か、ポチ、ハチ、ポン太」


「「「わっふ」」」


不思議な事に、ポチ達は所々怪我をしているが、骨折などの重傷には至って無いようだ。

……幸運、だったと言うことか……?


「いや、それよりも」


ハジメはクリムゾンベアを警戒しながらも、ケールの状態を確認する。


腕、足は骨折しているが、それ以外は別状無し。

流血こそしているものの、呼吸はしっかりしており、幸運にも気絶しているだけだ。


恐らくだが、殴られた瞬間に足と腕をクッション代わりにし、後ろへ跳んで衝撃を殺したのだろう。

ケールの状態を確認し、ホッと一安心していると、


「良かった・・・って、おわっ!?」


クリムゾンベアから離れ、少しではあるが余裕を持ち直したハジメはやっと自分の隣に浮く本の存在に気づく。


思わず大きな声を出してしまい、慌ててクリムゾンベアに気づかれてないかと思い、恐る恐る確認する。

どうやらまだグリフォンのラプラタに意識を奪われているようだ。


声に気をつけながらも、謎の本に意識を戻す。


「……これは、本?」


その本に恐る恐る触れると、ハジメの眼前にステータスが表示された。



● ● ● ● ● ●


固有能力【冒険の(ブレイブズ・)(ダイアリー)


プレイヤー【ハジメ】の経験した視覚・聴覚・嗅覚の情報を詳細に記録、また再現する。


効果範囲:半径20[m]

副作用:痛覚100%UP


● ● ● ● ● ●



固有能力……?

何故発現したのか、先程の機械的な音声は何だったのか、分からない事だらけだが。


……確か『(ギフト)』って言ってたな。


確かだが、そのワードは昨日シオンさんも言っていた。

PWでのプレイヤーの特典という事かなのか?


……考えても解らん。


分からない事だらけだが、チラリと前を見る。

相変わらず本、いや、【冒険の書】はフワフワと浮いている。


「再現………」


と言うことは……つまりあのラプラタは、昨日見せて貰ったシオンさんのグリフォンで、その時の光景を再生している映像ってことか。


映像と言っても、3次元の立体映像。

本当にそこに居るかのようだ。


見ればクリムゾンベアは苛立たしげそうに、ハジメによって再現されたグリフォンを何度も剛腕を振り攻撃しようとするが、腕はスリ抜けるだけだ。


聴覚に嗅覚も再現してるとのことだ。

グリフォンの呼吸、心拍音、体臭、その他も本物そっくり、いや本物そのものである。

感覚が優れている獣だからこそ、尚更攻撃が当たらないのが理解不能なのだろう。


だが、それも長くはない筈。


(早く次の行動に移らなければ・・・ッ!?)




──────バキゴンッ!




突如、ハジメが背を預けていた樹が、クリムゾンベアの腕により飴細工の如く折られた。


急なことにハジメは振り返ることも無く、息の根を止めんと紅に染まった剛腕が振り下ろされ、



──────そのまま、腕は通り抜けた。



「………間一髪セーフ、だな。よく気づいてくれた、ポン太」


「わふ」


数秒前にポンタのおかげでこちらにクリムゾンベアが近づいていることを察知。

既に、先程までいた場所から離れており、草むらに隠れ済みである。


そして、どうやら自分の姿も造影出来るようだ。


「…………でも、この後はどうする。打つ手を考えなきゃ」


今はまだ手玉に取れているが、その内クリムゾンベアも慣れて来るだろう。


……頼みの綱は、このダブルエッジ。

この攻撃だけ、アイツには効いた。

右腕は反動の痛みでこそ痺れているが、まだ動かせる。

むしろ、あれで骨折していないのが不思議というほどだ。


つまり、これを喰らえばクリムゾンベアであろうとひとたまりも無いと、先程ので証明済み。



しかし、だからどうする。



ダブルエッジは残り一発である。

何よりも、最もな問題は、クリムゾンベアに接近し、確実に倒すために急所を狙わなければならないということだ。


しかも、あの大きな体躯に見合わず俊敏で、リーチもアチラの方が長い。

こっちが攻撃を当てる前に、剛腕によってミンチにされてしまう。

例え接近出来たとしても、攻撃を避けられてしまえば糞ほどの意味も無い。

それに、腕を犠牲にガードされて、殺し切る致命打にならないかもしれない。


……後ろから近寄って奇襲……いや、ダメだ。


勝ち目があるとすれば背後から奇襲であるが、大きな謎がある。


ケールの背後からの強襲。

あれを何故避けられたのかが理解できない。

それが判らないようでは、奇襲しようにもケールの二の舞だ。


こっちは、今にもボロボロの初心者。

対して、百戦錬磨の狩人ですら食らう強者。


無理だ。

このままではどう考えても、勝利への道など100%叶わない。


「何か、何か無いか・・・!」


この危機的状況を打破すべく、熱が出るほど思考を巡らせ、周囲にヒントが無いか一心不乱に探り、





────それを、偶然にも捉えた。


「………………あれは」


それは偶然であった。


それが視界に入った瞬間、ハジメの脳裏にバラバラのピースがかすめていき、無意識にトライエムを取り出し急いで装着。


そして、映し出された情報には────





シオンからの教え、渡されたアイテム、 シオンさん、超近接型武器ダブルエッジ、 視覚同調 、 トライエム、ケール、

幻影を生み出すスキル 、ケールの煙玉

クリムゾンベアの不自然な動き、不自然な偶然、

不吉な色、テイマー、不意打ちの回避…………






刹那、ハジメの脳内で全てがカチリと合わさった。


その思いついた仮説は馬鹿げているかもしれない。


確かにそれらしい証拠があるとしても、その仮説に自身の期待と願望が含まれてないかと言えば嘘になる。


奇跡的に考えが合っていたとしよう。

しかし、これから行おうとする作戦は大きく見積もっても成功五分の大博打。


間違ってしまえば、ハジメは敢え無くおっ死ぬ(ゲームオーバー)


だが、0(ゼロ)ではない。

どんづまりだった暗闇に、蜘蛛の糸のように微かで細い光が自分の目の前にさしている。

ならば、


「あとは掴んで手繰り寄せる!」

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