第4話 「召喚者は魔王」
あれからどれほどの時間が経過したのだろうか。鼻から入ってくる空気は、かなりまずい。所々、血生臭い匂いが混じっており、地球の住み慣れた家の匂いでは無かった。
目を開けると、周りは暗く、所々に蝋燭の優しい灯りが見える。身体を起こそうとしても力が入らず、言葉を発しようとしてもかすれた音しか出てこない。
「$”&$&’&%$%#$&”」
なんだろうか、闇の中から聞いたことのない言葉が聞こえてきた。ずっしりとした男の声で、空気が振動しているのがわかる。その男がこちらに寄って来た。俺はその男に抱きかかえられ、口にひんやりとした液体が流された。味はほとんどせず、ほのかに鉄臭い液体だった。美味しくもなく、不味くもないような印象を受けた。
飲み切った直後から、身体に変化が起こるのがわかった。
まず、暗いはずなのに周囲が良く見えるようになった。次に、身体が締まるような感覚があり、以前よりがっちりしたようだ。最後に、男の言葉が理解できるようになった。そして、変な言葉が聞こえるようになってしまった。
「私の言葉が分かるか? 話せるか?」
突然の身体の変化に戸惑っていると、後ろから声をかけられた。先程の男だろう。振り返ると、そこには、約2メートルほどの高さの男が立っていた。頭には2本の黒い角が生えており、青い髪をしていた。地球では『鬼』と呼べるような風貌だった。
「私の血を薄めたものも飲ませたし、多分大丈夫とは思うが、一応返事はしてくれないか?」
「あぁ、分かるよ」
「おお、そうか。良かった、良かった。で、名前を聞いてもいいか?」
「丈瑠です。失礼ですが、あなたは? それと、ここは? 舞悠って人知りませんか? 少し前に来たと思うんですが」
俺は、状況を整理するために、いろんな質問をした。すると、男はあきれたような顔をして、首を横に振った。
「質問をしたいのはわかるが、落ち着くのだ。というか、落ち着け。あまり騒ぐと、あいつらが来てしまうだろうに」
男はそう言い、自己紹介から始めた。
「私の名前は、ゲミュラス。ゲミュラス・ベルベディアだ。このベルベディア王国の現国王で、魔族だ。魔王と呼ぶ人間もいる。そして、お前を異世界から召喚した者でもある。よろしく頼むな」
・・・・・・は? 魔王?
俺は、目の前で話している男、ゲミュラスが何を言っているのか理解できなかった。困惑している俺をよそに、魔王ゲミュラスは自己紹介と、俺を召喚した目的、俺がした質問に対して話していた。
どうも、私が魔王ゲミュラスです。
お見知りおきを。