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冥王様が通るのですよ!  作者: 木口なん
魔族篇 5章・最後の王

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641話 ロマノの計画①

 オリガがバルリウス将軍やサーリオ大神官を呼びに行った直後、ロマノは行動を起こした。管制室を操作して全ての扉を閉ざし、鍵をかけてしまった。戻って来たとしても管制室には入れない。

 この行動には残された術師たちも困惑する。

 それが隙となった。



「何をする!?」

「がッ!」

「これはどういう――」



 ネロ社の傭兵は一斉に銃を構え、術師たちへと向けた。そして背後を取った傭兵は即座に彼らを押さえ込み、聖石を奪い取る。抵抗しようとした術師もいたが、不意打ちには対応しきれなかった。

 この場を任されていた六聖付き補佐は抵抗しつつ叫ぶ。



「どういうおつもりかロマノ・スウィフト閣下!」



 妥当な疑問である。

 如何にロマノが軍士官といえど、このような暴挙は反逆行為にも等しい。しかしながらロマノは薄ら笑いを浮かべつつ、懐から拳銃を取り出した。

 六聖補佐を含め、術師たちに緊張が走る。



「どういうつもり、ですか。私はただ掃除をしただけです。これは王の継承式なのです。下賤な異民族の見世物ではありませんし、邪魔をされたくもない」



 そう語る間にも傭兵たちは手際よく術師たちを縛り、声を出せぬよう轡も付けておく。武器となりそうなものは全て取り上げられ、一塊に集められた。小銃を構えた傭兵たちが下手な動きをしないよう見張っており、完全に制圧できたことになる。



「ありがとうございますアイリス社長。それとネロ社の皆さんも。厄介なバルリウス将軍は愚かで助かりましたし、聖石寮も分断することができました。オリガ殿が共に行ってくださったのは私にとって幸運でしたよ。お陰で手間もなく始末できそうです」



 先ほどまで手間取っていたのは何だったのか、ロマノは軽やかに制御盤を操作し始める。そして大量の仮想ディスプレイを立ち上げ、そこに移動中のオリガ達を映し出した。そればかりか必死に逃げ惑う王政府陸軍や飛行船の着陸場で待機する聖教会視察団も映っている。



「おそらくはこう……こうして、こうですか」

「古代語が分からないと言っている割には分析してきたな」

「迎撃システムの排除対象に設定したのですねー」

「おお、合っていますか。答えが確認できて助かります」



 シュウとアイリスの言葉に安堵しつつ、ロマノは設定を続ける。あっという間に聖石寮も視察団もシステムによる排除対象として設定され、殲滅兵の派遣が人工知能の解答として返ってきた。王政府陸軍については既に侵入者判定となっており、エラーとして返ってきたが。

 黄金要塞内部の監視システムは常に侵入者を捉え続け、隔壁封鎖などを用いて的確に行動を封じ、無尽蔵に殲滅兵を派遣する。誰であろうと生き残れるはずがない。



「ロマノ、ここにいる奴らは殺さないのか?」

「彼らはシュリットと交渉するための人質とします。それとオリガ殿の大聖石も回収し、交渉材料にするつもりです。戦闘力のない神官団も人質ですね。クローディア自治領を解放し、ラ・ピテル王朝の臣民として回収しなければなりませんから」



 そしてロマノはファイの方へと目を向けた。

 相変わらず司令官の座席に腰を下ろしつつ、手元の仮想ディスプレイを眺めているらしい。すぐ後ろにはシンクとアルネがいて、ファイの操作を眺めているようであった。

 後ろから透かして見るに、監視システムを使ってオリガ達の様子を眺めているらしい。



「……とはいえ、いきなり皆殺しというのも野蛮です。降伏勧告はするとしましょう」



 そう言った彼は制御盤を操作した。





 ◆◆◆




 飛行船の着陸場へと戻るオリガ達は、丁度鉄道に乗っている途中であった。来るときは通過した駅数で覚えていたのだが、突如として列車は途中で停止してしまった。

 どうなっているのかと困惑していたところ、車内に声が響き渡る。



『聞こえていますか。私はロマノ・スウィフトです』



 声を聞いた術師たちは初め、安堵した。

 列車が止まり不安を抱えていたところだ。何か情報をくれるものだと思ったのだ。だがその期待は瞬時に裏切られてしまう。



『武器を捨て、大人しくしていなさい。あなた方は人質です。我ら天空の民が父祖の地を取り戻し、ラ・ピテルの王国を再建するためのね』



 呆気にとられ、理解できずに立ち尽くす。

 彼らがどういうことかと考えている間もロマノの言葉は続いた。



『きっとあなたがたは何一つ理解できないでしょう。だから歴史の真実を教えて差し上げます。あなた方が異民族と蔑み、赫魔の盾として虐げるクローディア自治領民こそが天空人の末裔なのです。五百年前、地上へ降りて流浪の民となった末にシュリット人の奴隷も同然となりました。栄誉あるラ・ピテル王家は貶められ、セシリアス大公などと呼ばれるようになったのです』



 シュリット神聖王国の歴史書にそのようなことは記されていない。およそ五百年前、当時の九聖第八席ランダー・バルトリオによって保護された流民だった。東の地より流れてきた、滅びた王国の民とだけ伝わった。無論、当時の上層部には黄金要塞から降りてきた天空人である旨も伝わっていた。しかしそれは機密事項となり、正しく歴史として継承されることはなかった。

 オリガを含め、彼らからすれば寝耳に水な話である。



『黄金要塞の正統な継承者こそファイ・セシリアス・ラ・ピテル陛下なのです。そして私の本当の名はロマノ・スウィフト・ラ・ピテル。直系ではありませんが、かつて天空上で王の相談役であった同じ王家の人間です。あなた方シュリット人が外来人の軍人と蔑んだ私は王の血に連なる者なのですよ。ですが無知故の無礼で死罪を問うのも酷でしょう。故に天空王国再興のため、役割さえ果たせば解放して差し上げましょう』



 驚くべき情報が洪水のように押し寄せ、術師たちは動揺する。そして口々に真実か、嘘かと議論を始めた。当然ながら彼らの持つ知識にロマノの語った歴史などあるはずもない。血筋を詐称することで黄金要塞をせしめようとする裏切り行為だという意見が主流であった。

 だがオリガは一概に嘘と断じることができずにいた。



(そういえば彼が調べたという古文書はどこから来たのでしょう。あの理解もできぬ部屋へと案内もなく辿り着き、初めて見るはずの装置を使いこなしていました。それに天空城を手に入れる計画はスウィフト発案のもの……そもそも飛行船技術ですらスウィフト家が持ち込んで――)



 クローディア自治領民は五百年前に東から逃れてきた流民であり、スウィフト家は二十四年前の王都ルーク事変で亡命してきた一族だ。同じ東方をルーツとすることも辻褄が合ってしまう。



「まさか……全てが繋がっているというのですか?」



 騙りだと決めつけるのは簡単だ。

 根拠など提示されていないし、調べる術もない。ただオリガの胸中に沸々と怒りが湧出する。彼女は歯軋りした。



「移民、風情がぁ……」



 発案し、音頭を取り、多額の出資をしたのはスウィフト家だ。しかしながら彼の計画のために王政府、聖教会、聖石寮も共に多額の資金を投入している。全ては黄金要塞をシュリット神聖王国の制御下へと置き、世界を制するためである。

 分裂したプラハ帝国の隙を突くはずが、まさか内側から崩されようとは。



『我らが父祖の地を土足で踏み荒らす蛮族たちよ。私の慈悲に縋ることを勧めます』



 ぶちり、という音は決して錯覚ではない。

 ロマノの見下すような物言いはオリガの激情を昇華させる熱となる。怒りを通り越して能面のような無表情を浮かべ、重苦しい声で術師たちへと命じた。



「逆賊、ロマノ・スウィフトを討ちます。私に続きなさい」



 それは怒りに任せた反射の言葉だった。しかしそれと同時に、理に適った方針でもあった。



「あの男にこの城を取らせてはなりません。シュリットが……そして世界があの男の手に落ちます!」



 オリガが列車の壁に触れると、引き千切れるようにして変形する。そして彼女の手の中で一本の剣となった。侵食は止まらず、列車は破壊されて次々と剣へ変えられていく。しかもそれらは皆、浮遊して留まっていた。都合、十二本の剣が完成した時点でオリガは列車に空けた穴から飛び出す。

 停車中の駅は閑散としており、ゲートらしきものは閉じていた。

 勿論、オリガや彼女に続く術師たちは目もくれず線路の中へと飛び降りる。



『なるほど。それがあなたの選択ですか』

「待っていなさい逆賊ロマノ・スウィフト。私の剣で薄汚い首を叩き切り、世界を救います」

『そうですか。サーリオ大神官殿は大人しくする選択をしたのですが……残念です。ラ・ピテルに逆らうならば、あなた方には死んでいただきます』

「上等です」



 聖石寮は気勢を上げ、線路を進み始めた。





 ◆◆◆




 何と単純で愚かなことか。

 ロマノは笑いが止まらない。



(あの程度の挑発に乗ってくるとは。噂通り六席殿は右翼派閥の激情家ということですか)



 既に防衛システムに排除対称として登録してある。すぐに殲滅兵が派遣され、オリガ達は全滅することだろう。

 これで王政府陸軍は排除し、聖石寮も掃除の目途が立った。聖教会は動けず、管制室で捕らえた術師たちも無力化できている。理想的と言っていい。ロマノは計画通りに進んでいることを喜んだ。



「陛下」



 逸りをできる限り抑えつつ、努めて平静な口調を心がけた。



「陛下、あなたを王に据える時が来ました。行きましょう、王座へと」

「うん。じゃあ行こうか」



 ファイは手元の仮想ディスプレイへと呼びかける。



「『Rigvija he La Piter』……うん、開いたね。『そこをまっすぐ進んで』」

「驚いたな。グリニア語を知っていたのか?」

「これだけは必要だったからね。セシリアス家にずっと伝わってきた呪文のようなものだよ。僕も意味は知らない」

「それは『ラ・ピテルの王座』という意味だ」

「へぇ。ありがとうシンク」



 ディスプレイは閉じられ、ファイも席から立ち上がる。先の言葉を人工知能は聞き取り、ファイの右目を認証することで王の間へ続く道が開いたのだ。既にロマノは新たに開いた扉の方へと目を向けており、こちらには耳すら傾けていない。



「シンク、アルネ、ここからは僕に従い、僕の言うことを聞いてほしい。そうすれば願いは叶うよ。これは確定した予言だ」

「何?」

「え?」

「余計なことは聞かず、今は大人しくね。それとシンク、君は僕がさっきしたこと(・・・・・・・)をロマノに言わないように。頼むよ」



 シンクとアルネを従えるように歩くファイは、そのままロマノの隣に並ぶ。するとロマノはそれぞれに対して指示を始めた。



「ネロ社はここで待機してください。術師たちを見張っておくように。私とファイ陛下、それとシンク君は王座の間へ行くとしましょう」

「あの、私は……」



 するとまだ名を呼ばれていないアルネが恐る恐る手を挙げる。色々なことがあり過ぎて、彼女は混乱の中にあった。信頼していたロマノは突如としてシュリットを裏切り、黄金要塞を我が物にしようとしている。そしてファイを王と呼び、自らも王家の人間であると語っている。

 とてもではないが整理しきれない。

 そんな彼女の手を取ったのはアイリスであった。



「私たちと一緒にいましょうね!」

「え? あ、でも……」

「大丈夫なのですよ、アルネさん」

「ッ!」



 耳元で囁くように名を呼ばれ、アルネは背筋が凍った。かつてネロ社の社員だったこともあり、確かにアイリスとは面識もある。しかし今は姿も変わっているし、全身を覆い隠している。まさか正体に辿り着かれるとは思いもよらなかった。

 考えられるとすれば、ロマノによって正体を告げ口されているという可能性だ。



「アルネさんのことを知っているのは私とシュウさんだけなのですよ。今は静かに」



 状況も分からないまま状況は進んでいく。

 大きな声で名を呼ばないのは一応の気遣いということだ。アルネが混乱している間も状況だけは進む。



「アイリス社長、後のことは頼みます。管制室の継続的な制圧をお願いしますね」

「分かっているのですよ」



 ロマノは満足げに頷く。

 そしてファイとシンクを伴い、新たに開いた扉の奥へと消えていった。ファイを陛下と呼ぶにもかかわらず、己こそを中心として。

 アルネがこれからどうなるのか戸惑っている中、アイリスは強く手を叩いて注目を集める。



「さてさて! システム掌握するのですよ!」



 するとネロの社員たちは術師を見張る一部を残し、それぞれ制御盤の前へと移動する。そして仮想ディスプレイを立ち上げて操作を始めた。あまりにも手慣れた様子であり、術師たちは戸惑ってしまう。

 しかもシュリット語ともプラハ語とも異なる未知の言葉を操り始めたのだ。



「なんて古いシステム……こんなので動いているんですか?」

「二千年前のものですからねぇ。こんなもんでしょう」

「でもだからこそ脆弱性を突いて掌握できるってもんです」

「私たちからすれば骨董品みたいなシステムですけれど、当時では最先端だったと思いますよ……はい、防壁の無効化完了っと」



 これにはアルネの困惑も深まるばかりだ。いったい何が起こっているのか、問いかけることもできない。



「凍結されているシステムが結構ありますね。復旧させておきますか?」

「お願いするのですよ!」

「了解です」



 不安がアルネの心を乱し、それが魔力にも伝わっていく。静かだった魔力はうねり始め、肌の上を不快なものが這いまわる。

 すると彼女の眼には奇妙なものが見え始めた。



(ネロの人たちの……耳が変? 長い?)



 魔力の高ぶりが見せた幻覚なのか、それとも真実か。定かとなるより早く、アルネは強制的に魔力を霧散させられてしまう。それは腕を掴んだシュウによるものだった。



「落ち着けアルネ」



 いつの間にか視界は元のように戻っていた。




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― 新着の感想 ―
面白かったです。
妖精郷が動き出した ワクワクしてくるね!
魔物も一部の種を除いて生殖するって明記されてる
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