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冥王様が通るのですよ!  作者: 木口なん
魔族篇 3章・天鳴戦争

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513話 地に堕ちた王族


 蛮族ラヴァから逃れるべく恥辱を呑んで脱出した天空人の内、スウィフト家が率いる一団は北部へと逃れた。同じく脱出を決めたイミテリア家はさっさと西方へ逃げてしまったが、スウィフト家は当主エイルギーズの脱出をギリギリまで待っていた。

 その結果、二家はばらばらに逃げることになったのである。



「結局、エイルギーズ様はいらっしゃいませんでしたか」

「仕方あるまいよ」

「ではスウィフト家のご当主は弟のグラベル様に?」

「そうなるでしょうね」



 これ以上待てば脱出飛空艇にまで被害が及ぶと判断したのは、今話題に上がったグラベル・スウィフト・ラ・ピテルであった。



「……ここだけの話、あのお方は当主の座が欲しかったのでしょう」

「おい、それは」

「言い繕ったって仕方ないだろう。才能も責任感もあるエイルギーズ様にずっと劣等感を抱えておられた方だ」

「ですです」

「それは……そうだが」



 彼らの表情は暗い。

 それもそのはずだ。彼らはエイルギーズに仕えていた侍従たちである。黄金要塞の王者として、相応しい人格と気品を備えていたエイルギーズのことが好きだった。逆にグラベルは野心的で自分勝手なところがあり、兄への劣等感から拗らせてしまっている。

 偉大な王家だからこそ仕えることを良しとしたが、グラベルのことを好む人物は少なかった。彼を必要としているのは、彼に擦り寄る一部の侍従くらいなものだろう。



「先は暗いですね」



 思わず本音が漏れてしまう。

 それを誤魔化すようにして少し大きな声を出した。



「そういえばもう少し北に都市国家があるようですね。かつてマギアがあった場所だとか。自分は少し楽しみですね。千六百年前のご先祖様が住んでいらっしゃった大地ですから」



 そうしておよそ十隻からなるスウィフト家を中心とした船団は、都市国家サンドラを発見する。天空人の技術と理知により支配すべく、狙いを定めた土地だ。

 しかし彼らは知る由もなかった。

 ここが既に人類を超越した、吸血種ノスフェラトゥの支配する国家であるなどとは。







 ◆◆◆







 レベリオ及び黄金要塞の陥落から数日が経った。

 要塞の墜落によって圧し潰されたレベリオは……レベリオ人はほとんど滅びた。皮肉なものである。生き残ったレベリオ人は、南へと追放された嵐神ベアル神官派だけになってしまったのだ。新時代に適応しようとした者たちは、蛮族ラヴァの襲撃に耐えられなかった。

 そしてラヴァという男は、黄金要塞の王座にいた。



「クハ。いい心地じゃねぇか」



 初めての感覚にラヴァは満足気だ。

 王座というだけあって、使われている材質は最高品質のものばかり。それも黄金要塞基準での最高品質なのだ。ラヴァからすれば至高の品に思えることだろう。

 食べ物も、着るものも、住むところも、全てが初めてである。ラヴァはこれまでで一番美味そうに生肉を齧った。王座が汚れるのも気にせず、食い荒らす。

 しかし次の瞬間、食った肉を吐き出した。



「ちっ。だが肝臓は不味いな」

「だから言ったんですぜ。天空人とやらの肝臓は不味そうな色してるって」

「本当なら一番美味いところなんだがなァ。残念だ」



 黄金要塞の制圧によってラヴァが最も喜んだのは、大量の人肉しょくりょうである。墜落による混乱や、黎腫れいしょうによって動けない人間も多いため、脱出艇によって逃げ出せたのは全体の一部でしかなかった。そのほとんどは蛮族によって自由を奪われ、屠られるのを待つ身となった。

 一部は身を引きずってでも逃げ出そうとしたが、そうした者たちは見つかった途端に食料となった。反抗的な天空人たちの目の前で解体され、食料にされる瞬間を見せつけたのだ。それを見て叛意を見せる者はいなくなった。



「おい」

「なんだよラヴァ様」

「天空人の女ってのはどんな抱き心地だろうなァ? 俺様の血に混ぜれば使えるガキが生まれるかもしれねぇ」

「それは良いかもしれねぇな。俺たちの末の弟が増えるってわけだ。いいじゃねぇかよぉ」

「クハハ。俺様の王国はこれからだ。これからもっと強くなる。俺様の血を増やし、俺様の血統で地上を埋め尽くし、天すらも支配するのだ」



 その野望はどんな山よりも高く。

 また欲望は海と比べても足りない。

 それがラヴァという男の人間性であった。誰かを顧みることはなく、欲したものは暴力によって手に入れる。気に入らなければ滅ぼし、気に入れば飽きるまで執着する。だが確かなカリスマと血統主義によって部族をまとめる確かな王でもあった。



「そういえば胸の跡はどうなんだ? 変な黒い跡が残ったって聞いたけどよ」

「あ? これか? 別に問題ねぇよ。古傷みてぇなもんだ。この俺に死を感じさせたほどの奴だ。直接会ってみたかったがなァ」

「病気じゃねぇだろうな」

「クハッ! 俺様は病気になったことなんざねぇよ」



 ラヴァは肉を喰らいつつ高笑いしていた。






 ◆◆◆






 完全に占拠されてしまった黄金要塞だが、全ての人々がラヴァ族の手に落ちたわけではなかった。数百人程度のラヴァ族に対し、黄金要塞はあまりにも広い。ラヴァが魔装の力で骸の兵士を作り出し補っているが、それでも人手が足りない。

 だから密かに一部の人間は黄金要塞で隠れながら奪還の機会を窺っていた。

 その旗頭となるのがラ・ピテル王家の一つ、クライン家であった。



「管制室は……?」

「完全に抑えられました。野蛮人共の拠点にされてしまっています」

「なんてことだ。価値も分からぬ癖に」

「いくつかの倉庫がまだ占拠されていないことを喜ぶべきでしょうね。弾と術符があればどうにか戦えます。倉庫の機能で食料も合成できますが、これには魔力問題が関わりますね。武装と食料を充分に生産させるためには我々の魔力では……」

「要塞の機関が止まったせいですね」



 黄金要塞はその性能の全てを魔力に頼っている。

 より正確には重力による位置エネルギーを魔術で抽出し、そうして得られた位置エネルギーを魔力に転換し続けることでエネルギーを確保しているのだ。つまり黄金要塞はエネルギーを使って浮遊するのではなく、重力エネルギーを減らすことで惑星の自転に伴う遠心力により浮いているように見せかけているのだ。

 そうして得られる膨大なエネルギーがあってこそ、要塞はあらゆる生産活動が可能なのである。

 しかし現状、黄金要塞は地上に降りている。つまり安定的に魔力を確保する手段がない。



「くそ! 管制室にアクセスさえできれば城を再起動して貯蔵魔力の回路を繋げられるのに!」

「奪還するなら早い内に、ですよ。こちらは資源を減らす一方です。武器を用意するには魔力が必要で、その魔力は私たちから捻出するしかなく、私たちは魔力を回復するために充分な食料が必要。その食料の生産にも魔力が必要なんですから」

「倉庫に揃っている備品が尽きればどちらにせよこちらの負けです。最低限、管制室で回路操作だけでも叶えば時間は稼げますが」

「今、この瞬間にも国民が殺されている。黎腫れいしょうで動けない人だって多いんだ。時間がかかれば死人が増えるぞ。我々だって黎腫れいしょうを患っている人が多い。時間がないんだ」

「そう悲観することはないだろう? 隔壁は降ろされている。簡単には破れない。ひとまずは安心できるはずだ」

「簡単には破れない? 骸獣はオリハルコンを紙のように引き千切っていたがな」

「おい!」



 言い争いに発展しそうになったが、激しく床を打つ音で皆我に返る。それは杖を手にしながら座るテドラ・クライン・ラ・ピテルであった。

 他の王家が黄金要塞から脱出した今、最高権力者はクライン家当主のテドラとなっている。彼のいるこの場こそが現時点の最高指令室であり、彼こそが抵抗者レジスタンスのリーダーであった。



「言い争いはよしなさい。こうなっては全てを救うのは難しい。何より敵は簡単ではなく、こちらの戦力や物資も限られている。多くを救う力は我々にない」

「ではテドラ様も民は見捨てるしかないと……?」

「その通りだ。私が責任を取る。ただ、今は管制室を奪還することだけに注力する必要があるのだ。これを為した人外の輩を決して野放しにしてはならんのだ」



 地上人との協調路線を述べたテドラも、対話による解決は諦めていた。千年以上続いた天空での平和は闘争心を失わせるのに充分だった。平和ボケともいう。

 要塞内に侵入されたときも初めに対話を試み、大量の犠牲者が出た。



「あれだけは確実に殺さなければならない。敵が覚醒魔装士であるならば《絶魔禁域ロスト・スペル》展開による制圧も無意味だろう。我々は今だけ倫理を打ち捨て、あの怪物を滅するために禁忌にすら手を染める。我がクライン家が保管する禁忌の技術を開帳し、使うべき日が来たのだ」



 それは苦しい戦いの幕開けだった。







 ◆◆◆






 ケシス・イミテリア・ラ・ピテルにとって、ここ最近は不幸の連続であった。

 目の上のたん瘤であった姉アラフを王から追い落とし、自分が王位に就いたところまでは良かったのだ。城を地上へ降ろしたことで王家の中で分裂が生じ、ケシスにとっては大きなチャンスとなった。アラフがネガティブな予言をしたことで求心力が低下したことも追い風となった。

 しかし実際にクーデターを起こしてみればアラフには逃げられ、王位に就いても蛮族に攻められ、今はこうして無様に逃げている。何も上手くいかないことがもどかしく、腹立たしかった。

 予言通りになってしまったことが悔しかった。



「ケシス陛下。どうにか言葉が通じました。どうやらレベリオと関わりのある行商人がいたようで、通訳していただけました」

「……そうですか。それでこの地は何というのですか?」

「ヴェリト王国という最近になってできた国のようです」

「最近……あまり都合が良くありませんね」



 イミテリア家は黄金要塞の王家であり、ケシスも一時的ではあったが王として君臨していた。つまり他国に対して亡命し、その後ろ盾を利用して黄金要塞を取り戻す算段を立てていたのである。その場合は何かしらの見返りを引き渡す必要があるものの、それは黄金要塞を取り戻すことさえできればどうとでもなる話だった。

 問題は脱出飛空艇から最初に発見したヴェリト国が、新興国という点である。新興国ということは基本的に力が弱い。後ろ盾として機能するかどうかは疑問だった。

 渋い表情のケシスに目を遣りつつ、ケシスの養父ガルヴァンが尋ねる。



「どういう国家なのか?」

「武力を用いて周辺を侵略し、多くの民族を取り込んだ征服国家です。そのため安定度は低いのですが、それは聖教会と呼ばれる勢力の力を借りているようです」

「聖教会……厄介な匂いだ。武力を持つ組織なのかね?」

「ええ、はい」



 黄金要塞はかつて神聖グリニアが作り出した兵器だった。したがってその搭乗員は漏れなく魔神教を信じていた。しかし長い時の中で魔神教は廃れ、おおよそ宗教というものは消滅している。しかしその歴史の中で争いがあったことは間違いない。

 また文明の滅びとなった終焉戦争のきっかけも、宗教の違いだった。

 宗教は民族に直結する重要な文化であるため、よく知らずに地雷を踏む可能性もある。



「聖教会というのはヴェリト王国とやらの固有宗教なのか?」

「申し訳ありません。そこまでは……」

「もしも宗教と手を結ぶのであれば、我々の立ち位置を考える必要があるかもしれん。場合によっては全面的な協力も得られるだろう」

「承知いたしました。調査を進めさせていただきます。ただもう一つ懸念点がありまして、実はこのヴェリト王国は東方の隣国シエスタと争っているようで……」

「つまり仮にヴェリト王国の協力を得る場合、シエスタが邪魔になるということか」

「一応はここから更に西へ行き、北方へ分岐する形でレベリオまで続く道は開拓されているようですが、そちらも不穏な話を聞きました。道中にあるヴァルナヘル、パンテオンという大きな都市国家が近年滅亡したようです」

「脱出艇で戻れないのかね?」

「あれでは人数に限りが出ますし、魔力問題もあります。何度も往復輸送はできませんから、精鋭を集めて送るのみとなるでしょう。軍を組織するのであれば地上ルートが必須です」

「そうか。苦労を掛けるなケシス」



 ともかく情報がなければ大胆な動きはできない。

 また言語の壁もある。今回はレベリオ人の言葉が分かる行商人のお蔭で助かったが、いつまでもそれに頼るわけにはいかない。やるべきことは多かった。



「ケシスよ。焦る気持ちは分かるが、ここはじっくり構えるべき時だ」

「分かっていますよ。私も子供ではないのです」

「理解しているならば良い。ではお前はどのように方針を立てるか」

「優先的に言語を習得してもらいます。そしてヴェリト王国が重要視している権威について探ります。血統が重要であれば王に取り入り、軍事が重要であれば武力を示し、神を重要視するのであれば神話を解明することで我ら天空人の存在を組み込む方法を考えます」



 それはガルヴァンの思いともおおよそ一致するものであった。

 大きな行動を起こすとき、権威に縋るのは最も効率の良い行為である。他に経済的支配の獲得という方法もあるが、それには時間がかかる。

 補足としてガルヴァンも述べた。



「聖教会については念入りに調べるのだ。どのような勢力なのか、はっきりさせておく必要がある。それと兵力を確保する手段として傭兵組織が存在するかどうかも調査して欲しい」

「ガルヴァン殿は聖教会が気になるのですか?」

「そういうケシスも気になっているのだろう?」

「ええ。まぁそうですが」



 焦るなと自身に言い聞かせつつも、ケシスだけでなくガルヴァンとて焦っていた。

 故郷は奪われ、数百人程度の同胞と共に言葉も文化も分からない土地に放り出された身だ。何より彼らは予言に頼り過ぎてきた。見えない未来が何よりも怖かった。

 あれだけ疎んでいた予言が、今は素晴らしいもののように思えていた。






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[一言] ヴェリトって蛮族の国だよな
[気になる点] 予言って明確な指針を無視して王になりたいってクーデター起こした奴が子供じゃ無かったら子供なんておらんわ
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