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冥王様が通るのですよ!  作者: 木口なん
魔族篇 1章・魔神

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384話 預言石


 忌み嫌われた街、追放者の街だった場所を発ったシュウは、そのまま南下してシュリット神聖王国へと向かった。目指す先は新しい追放者の街である。聖教会の中心地として追放者たちの新たなる安息の地であった。

 非常に寒く、明かりを確保するためにも常に灯が絶えない。

 いくら伐採してもそれ以上の速度で成長する迷宮の木々を薪とすることで、暖を取り続ける街だった。

 シュウはその中でも一番目立つ建物の屋根に降り立つ。光の屈折を操ることで姿を掻き消し、透明化しているので誰かに見られて咎められることもない。



「五十年でよくぞここまで……」



 そしてシュウが驚いたのは街並みである。

 この厳しい環境の中、僅か五十年でここまでの街並みを整えたことは称賛に値するだろう。少なくとも人の力だけでは不可能な発展だ。魔術の介入があったと考えるべきである。建設系の魔術は既に忘れられた古代の魔術となっており、使える者は残っていない。

 だがシュウにはそれを可能とする方法に心当たりがあった。



「魔石だな。アレなら思うだけで望む現象を引き起こせる。そうなると、やはりここが手掛かりだ」



 手掛かりとは、勿論ダンジョンコアのことである。

 現代において魔石という技術を扱えるとすれば限られてくる。聖教会が『声』とやらに従って活動したとの記録もあるため、ダンジョンコアが深くかかわっている可能性は非常に高い。徐々に期待が高まる中、シュウは霊体化によって壁をすり抜け、聖アズライール教会の内部へと潜入する。

 外部とは一転して熱気のある内部は、意外なほど人気がなかった。

 人々の多くは建設や土木に従事しており、聖教会を管理する人間というのは少数なのである。国のために重要なのは、安全に暮らせる場所を作ること、そして蟲魔域に潜って食料や薪を手に入れることだ。決して余裕があるわけではない。

 とはいえシュウにとっては好都合で、探索に丁度いい。

 透明化は維持したまま問いかける。



(俺の求める情報を教えろ)



 問いかけ、というよりも命令であった。

 同時に送信された大量の情報によりシュウの求めるモノは瞬時に共有される。勿論、その対象とは煉獄の精霊たちであった。煉獄の精霊たちはシュウが死魔法で生み出した存在であるため、文字通りの意味で冥王の眷属だ。特別な情報回路で繋がっているのでシュウの意志を簡単に伝えることができる。

 そして逆も然りだ。

 煉獄の精霊たちは言葉を介すことなくシュウに情報を献上することができる。



(なるほど)



 理解した。

 そんな様子でシュウは移動し始める。

 幾つか壁をすり抜け、その間も誰一人として遭遇することはなかった。そしてシュウの辿り着いた目的地は非常にシンプルな部屋だった。構造としては中央部が祭壇のようになった正方形で、祭壇部分には正多角形の結晶体が鎮座していた。また部屋には三人の武装した男がいて、体を震わせていた。

 シュウはそんな彼らを素通りして、中央に飾られている結晶体へと近づく。

 この結晶体が何なのか、シュウにはすぐ分かった。



(魔晶を組み込んだ金属結晶か。となると、これも魔術道具になるな)



 マザーデバイスを使った分析魔術により、その機構も成分も明らかとなる。

 結晶体主成分は酸化アルミニウムで、所々に異物が紛れ込んでいる。クロム、チタン、鉄など金属元素が紛れ込むことで光吸収スペクトルが変化し、多彩な輝きを放っていた。どう考えても自然発生する結晶ではないので、魔術的に合成されたのだろうと推察できる。

 何より中央部には魔晶が組み込まれていた。探査によって魔晶に封入されている魔術を調べようとしたが、ここで異常に気付く。



(探査エラー? 詳細は……魔術プロテクトによる隠蔽か。マザーデバイスのハッキングでも見抜けないとなると、やはり)



 シュウの使っているマザーデバイスは賢者の石を改造したもので、魔晶技術における頂点として階層化している。妖精郷ハデスが作り出した魔晶であれば、決してマザーデバイスには逆らえないのだ。

 だが今回、この結晶体に埋め込まれている魔晶は探査を防御した。

 これによって逆説的に妖精郷とは関係のない技術で作られた魔晶ということになり、このようなものを生み出す存在を考えれば作製者は唯一に限られる。



(恒王ダンジョンコアの玩具というわけか。『預言石』というのはそういう意味だろうな)



 煉獄よりもたらされた情報から、この結晶体の名称も分かっている。そして預言石については追放者の街でも見た粘土板の記録からも読み取ることができた。アズライールという人物が『声』によって行動していたことは明白だ。その声の正体についても、ここの情報と統合すれば確信できるレベルで推察できる。

 


(さて、わざわざアリエットを焚きつけたんだ。どんな動きを見せるか、楽しみだ)



 シュウは透明化を維持したままその時を待つことにした。








 ◆◆◆








 アリエットは自分を包み込む『黒』が危険なものだと直感した。このまま闇に飲まれたら終わる。そう考えた瞬間、右腕が熱くなった。

 里でスレイに斬り落とされ、大樹に封印されていた『タマハミ様』と契約することで手に入れた腕だ。きっと何かがある。そんな確信を持って願う。



(どうにかできる!)



 実に無責任な感情だった。

 しかし彼女の直感は正しかった。

 黒く染まっていく視界が、空間を埋め尽くす黒が、一瞬にして弾け飛んだのだ。スレイの発動した闇の穴を完全に消してしまった。そればかりか、反撃とばかりにスレイに向けて闇の穴を放つ。空間に穴が開き、憎き男を飲み込まんとした。

 スレイはこのことに驚かされていたが、それで動きを止めてしまう素人ではない。聖なる光で闇の穴を消滅させ、アリエットの視界から外れようとする。滾るマグマは健在なので、それに阻まれて彼女はスレイの姿を見失ってしまった。

 そこでアリエットは再び意識を集中し、闇の穴を発動した。

 一度自らの意志で発動したことによりコツを掴めた。闇の穴はアリエットを中心に複数発動し、マグマを吸い込んで消していく。そればかりかスレイを最後に見たあたりに集中して穴を開いていった。



「死ね! そして償え! スレイ・マリアスぅぅぅ!」



 噴火のように湧き上がった魔力が宵闇の魔剣へと注ぎ込まれ、闇の十三階梯《星陰通孔アストロ・ホール》が発動した。空間を支えるエネルギーの均衡が崩され、それを穴埋めするために現世のエネルギーが吸い込まれていく。

 半径数キロをまとめて飲み干すこの禁呪にかかれば、津波の如きマグマですら無意味だ。全てが黒く染まり、全てが黒に飲まれ、全てが無となって消えていく。この禁呪に防御力というものは意味を成さず、耐えきれるとすれば反魔力で相殺するか、魔法を使うか、時空系の術式を使うかになるだろう。

 アリエットは知らずに自爆前提でこの魔術を発動してしまった結果、巻き込まれて死ぬはずだった。いくら迷宮魔力を宿していたとしても、ダンジョンコアと比べれば微々たるものでしかない。しかしながら彼女は《星陰通孔アストロ・ホール》の渦中でも健在だった。その理由はシュウが与えた防具、常盤の鞘であった。

 アリエットを中心に大自然は破壊し尽くされた。



「……は、あはは」



 お椀状に抉れた地の底で彼女は笑う。

 自分の得た力の大きさを理解し、興奮した。これだけの攻撃なら憎き男をこの世から消滅させることができただろう。そう思って油断してた。

 だから避けきれたはずのその攻撃を回避できなかった。

 突如としてアリエットは全身に衝撃を感じたのである。だが状況を理解する暇もなく攻撃に晒され、受け身を取る間もなく地面に転がる。だが彼女自身へのダメージは全くなかった。意識を集中すると防御装置として常盤の鞘が発動し、衝撃すら消え去る。

 そこでようやく彼女を攻撃していたものの正体に気付けた。

 杭のように細長く、先端が尖った黒い物質だった。

 常盤の鞘はアリエットに対する攻撃を完全に無効化しており、黒い杭は彼女にぶつかるたびに霧散して消滅してしまう。それに混じって雷撃や炎といったエネルギー攻撃も飛んできたが、その全てがアリエットの身体に触れた瞬間消え去った。



(なるほどね。冥王が渡してきただけのことはあるわ)



 この結果にアリエットは思わず笑みを浮かべた。

 常盤の鞘はその効果を発動している限り、ほぼ全ての攻撃を無効化してしまう。どのような仕組みでそれを行っているのかは彼女では皆目見当もつかない。しかし彼女にとって重要なのは自分が無敵であることであり、その理由ではないのだ。

 安心して、また落ち着いて自分を攻撃する存在を探した。

 《星陰通孔アストロ・ホール》のお蔭で真っ新になったのだから、苦労はない。すぐに怨敵を発見した。



「健在ということね。死ねばよかったのに!」



 まだ死んでいないという落胆と、もっと痛めつけることができるという歓喜が両立する。彼女が見たスレイは額から血を流しており、服で見えないがその下もダメージを受けていると推察できる。



(勝てる。あいつを殺せる!)



 闇魔術が組み込まれた魔剣、自分を無敵にしてくれる鞘、鎖の魔装、闇の穴の魔装、そして僅かばかりの迷宮魔力。これらが組み合わさったアリエットは敵無しに見えた。

 とどめは何を使おうか。

 持ちうる手段の内、どの方法で殺そうか。

 余裕が生まれた彼女はそんなことばかりを考える。

 やがてスレイも攻撃は無駄だと悟ったのか、魔装による攻撃を中止した。その代わり、彼は腰の剣を握りながらアリエットの方へと歩いていく。



「まさか君がここまでやるとは。禁呪まで……」

「スレイ……あたしはあんたを殺すため、ここまで来た! 言い訳なんて聞かない。あたしの故郷を、家族を、親友を殺したあんたを絶対に許さない!」

「そんなものをどこで手に入れたんだ? 迷宮か?」

「教える必要はないわ。ここであんたは死ぬんだから」

「はぁ……」



 スレイは立ち止まり、分かりやすく溜息を吐く。

 その様子にアリエットは激しい苛立ちを覚えたが、その彼女を抑え込むようにしてスレイは激しい魔力と殺気を叩きつけた。魔力が思念を伝達する粒子である以上、強い感情と共に放射することで気配を発することができる。コントロールすれば殺気をぶつけ、怯ませることも可能だ。

 魔力コントロールが未熟なアリエットでは抵抗レジストできなかった。



「犠牲とは仕方のないものだ。より大きな秩序のため、小さな犠牲は常に強いられてきた。世界はまだ未熟で、まるで歩き始めたばかりの子供だ。だから導かなければならない。子を躾ける親のように、私が導かなければならない」

「ふざ……ふざけないで! 何様のつもりよ! そんなくだらない――」

「くだらない? いいや、どうしようもない世界に秩序を与えるためだ。これは必要なことだ。あの時、君の死を確認しなかったのは私の落ち度だ。だからここで……眠れ。せめて痛みなく殺してあげよう」

「ぁ、ぁははははは! ぶっ殺す!」



 魔力の鎖を右腕から出し、宵闇の魔剣を固定する。

 そして睨みつけると同時に走り出し、勢いよく振るって闇の斬撃を飛ばした。スレイはその斬撃を剣で迎撃し、打ち消してしまった。だが剣を振った直後のスレイには隙がある。アリエットはそこを狙って突きを放った。

 剣を振った後、身体構造上硬直してしまうことはアリエットもよく知っている。型に沿った動きならばともかく、無造作に打ち払った際はそれが如実に表れるのだ。魔剣の切っ先がスレイの心臓部を貫く未来を彼女はイメージした。

 だが次の瞬間、アリエットの身体が停止する。

 切先もスレイに触れる寸前で止まり、それ以上進まなかった。



「え?」



 気付いたときには縛られていた。

 それは見覚えのある鎖だ。地表から飛び出る鎖がアリエットへと巻き付き、縛り付けることで運動エネルギーを打ち消してしまったのである。よく見れば樹木の根のようなものも地面から生えており、よく見れば鎖は樹木と繋がっていた。

 そして追加の鎖が出てきてアリエットを縛り付け、身動き一つとれないようにしてしまう。

 スレイはその様を表情一つ動かさず眺めていた。



「アリエット、君の魔装は優秀だ。だからコピーさせてもらったよ」

「どう、いう」

「それが私の能力だ。魔装の力を見れば、それを複製して自分のものにできる。君にはただの攻撃は通用しないらしい。だが、膂力が上がっているわけではない。だから物理的に拘束してしまえば、君はもう何もできない」

「……くっ!」

「さようならだアリエット。君は尋常ならざる防御力を持っているらしい。魔を取り込んだ証だろう。だが、聖王剣は君の力すら貫く」



 全く動けないアリエットに対し、スレイは聖王剣を水平に構えた。



「恨みも、苦しみも、忘れる必要はない。死後も私を呪い続けるといい。全ては恒久なる秩序の為に……」



 光を反射する刃が軌跡を描き、アリエットの首を通過する。

 直後、彼女の頭部が転がり落ちた。








 ◆◆◆









 聖アズライール教会に侵入したシュウは、預言石が置かれた部屋で待機し続けた。それからしばらく、神官服の人物を引き連れたアズライールが現れた。彼は歳を重ねているため、一人では行動範囲が限られている。しかしながら彼だけの特別な役割があるため、現役で最高神官を務めている。

 その役割こそ、預言石から言葉を受け取るというものだった。



「最高神官様、お気を付けて」

「うむ」



 手を引かれ、杖を突き、ゆっくりとアズライールは部屋の中央に向かう。そこを守る男たちも緊張した面持ちで彼を出迎え、道を空けた。

 真上から透明化して見守るシュウには気付くこともない。

 そして預言石のもとまで辿り着いたアズライールは、震える手を伸ばして様々な色を放つそれに触れた。すると反応を示すが如く淡い光を放ち、点滅し始めた。点滅は規則的とはいえず、まるで何かの信号を発しているかのようである。

 アズライールは目を閉じ、じっと動かず留まる。

 シュウは邪魔することなく行く末を見守った。

 しばらく預言石の点滅が続いた。誰も呼吸すら潜めて見守り、やがて光が止む。



「何ということだ。何と恐ろしい」

「一体、それはどういうことでしょうか?」

「西グリニアが……魔神教が再び私たちに暗雲をもたらすだろう。備えなければならない。自由を奪われぬために」



 シュウを除き、この場にいた者たちは誰もが息を呑んだ。







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― 新着の感想 ―
[一言] アリエットはタマハミと混ざってるから生きてそう
2022/04/18 20:26 サカサカナ
[良い点] 更新感謝です
[一言] もうスレイは洗脳されてるんだね
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