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冥王様が通るのですよ!  作者: 木口なん
滅亡篇 5章・終焉戦争

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335/599

335話 ハデスの新兵器


 浮遊する氷の戦艦空母、水壺は神聖グリニアの国外に出ている。より正確には国外の海上で待機し、命令が発令されたら動くのだ。

 いずれ来るであろうコルディアン帝国奪還作戦に備え、その南側の海に浮いていた水壺三番艦グラールではある異変について話し合われていた。



「艦長、だめです」

「やはりか」

「こちらが壊れているわけではなさそうですね。受信側に何かあったのか、あるいは通信を妨害されているかのどちらかでしょう」

「どこにも通じないというのはおかしな話だ。後者だろう」



 神聖グリニアから寄せられる定期連絡がなく、彼らは次の行動に困っていた。ひとまずは待機命令を継続し、索敵を強化して奇襲に備えている。その間にも何度か通信を送っているが、未だにマギア大聖堂からの返信はない。



「今は情報が欲しい。マギア大聖堂以外の聖堂に連絡を取れ。それと水壺一番艦メイス、四番艦グラディウスに通信を送れ」

「はっ!」



 静かで広い海を、グラールは漂う。

 悍ましい何かがすぐ背後まで迫っているような気がして、艦長を含む彼ら一同は次第に口数が減っていった。








 ◆◆◆








 三百年前に滅びたスバロキア大帝国の帝都があった場所は、今やハデス財閥の本社となっている。中央の六角柱型ビルがシンボルであり、この一体型都市ヘルヘイムに住む者は皆、ハデスや系列会社の社員であった。

 一つの都市を丸ごと会社の設備にしてしまったハデスのトップこそがエレボス。二代目会長にして冥王の配下の妖精系魔物でもある。



「そう。召喚石はひとまず完成なのね?」

「性質上、やはり使い捨てにせざるを得ませんが……」

「問題ないわ。元から召喚魔術はコストの大きい魔術よ。魔晶に溜め込まれた魔力を使い尽くすだけじゃなく、その構造体に使われている魔力を使う必要がある。それに黒魔晶を使うことに比べれば使い捨ての方がマシよ」

「ありがとうございます」



 エレボスの前にはハデスが誇る研究員が複数揃っており、完成したばかりの品を見せていた。スバロキア大帝国の参謀本部兵装戦術課と共同研究で開発していたものであり、その成果はスバロキア大帝国に還元する必要がある。

 当然ながら、この場には参謀本部からの使者も訪れていた。



「どうかしらラプス殿?」

「素晴らしいです。期待以上のものができあがりました。量産は可能ですか?」

「そうね。まだ未使用の生産ラインがあったはずよ。そこを割り当てて召喚石の作成を始めましょう。かなりエネルギーが必要になるわ。原子力発電の稼働率を増やしましょうか」



 ヘルヘイムのエネルギー源は核融合発電所と、黒魔晶だ。住宅や工場が密集している都市であるため、エネルギー事情にはシビアだ。専門の部署が設立されており、その日の生産状況などに鑑みてエネルギーを割り振る必要がある。

 そして魔術系の生産には魔力が必須であり、人工賢者の石に加工した黒魔晶はそちらへと割り振られる。その分だけ他の工場に魔力リソースが不足するため、補える部分を電気で補うのだ。

 ちなみにヘルヘイムの原子力発電は、核分裂ではなく核融合を採用している。核分裂は重い原子であるウランに中性子をぶつけて分裂させ、プルトニウムに変化させることで質量差から熱を取り出し、タービンを回して発電する。一方で核融合は水素を合体させてヘリウムを生み出し、質量差から熱を取り出すというものだ。こちらは太陽と同じ原理となっており、エネルギー効率も高い。しかし核融合は様々な問題があり、超高温高圧を求められるので反応炉容器の頑丈さが必要になる。また水素が反応炉容器へと侵入し、水素脆化を引き起こす危険もある。オリハルコンという最強金属がなければ実現しなかった発電施設だった。これ一つでヘルヘイムの居住区と工場の電力を全て賄っている。



「三日……三日で幾つの召喚石を確保できますか?」

「それが黄金要塞を抑え込める日数ということかしら?」

「はい。最前線では指揮官が次々と狙撃されておりまして、かなり士気が低下しています。前線を無人魔術兵器で補っているのですが、それでもやはり……」

「そうね……リソースを全て召喚石に注いだとして千から二千といったところね。詳しいことは担当に聞けば分かるわ。それにその後も生産し続ければもっと増えるでしょうね」

「充分です」



 ラプスは軽く頭を下げる。

 考案した戦術を成功に導くため、彼は必死だ。兵装戦術課の課長である彼が自ら出ているのだから、本気度合いが窺える。



「それで召喚石の中身は……」

「禁呪級召喚魔術の数は少なくなりそうね。禁呪弾と同等と考えて下されば生産の難しさが分かってくださるかしら。現在は全力で生産中よ。その代わり第十階梯はある程度揃っているわ」

「ということは……」

「ええ。アレね」



 エレボスもラプスも意味ありげな言葉を交わす。

 神聖グリニアが情報社会基盤を破壊され、最前線に一切の支援ができなくなった今こそが好機。黄金要塞を撃退し、神聖グリニアが復旧するまでに決め手を打つ必要がある。その準備は整っていた。あとは戦場が全てを決める。

 またエレボスはデスクの上に放置されていたアタッシュケースに触れた。

 魔術ロックされていたそれを解除し、ラプスによく見えるよう開く。そこにあったのは厳重に包まれた青白い石。金属プレートのタグには『召喚・十四』と記されている。



「そしてこれが切り札。第十四階梯が込められた召喚石よ」

「おお、これが」

「量産には向かないから特注仕様よ。魔晶のエネルギーを全消費する性質上、術式が細かいものは失敗率も高くてね。貴重な禁呪級だから上手に使って」

「分かっています」

「黒魔晶を使えば簡単なんだけどね。それだと無駄に魔力を使ってしまうわ。魔晶を形作っている魔力をエネルギーに変えるこの技術があれば、魔力を節約できる。使い捨て魔術兵器のコストも低下するわ。禁呪弾に使っていた黒魔晶もこっちに転換できるかもしれないわね」

「確か弾頭用に小型化するため黒魔晶を使わざるを得なかったとか」

「そうよ。それを解決するために開発した技術の副産物が召喚石。まだ術式が大きくなると実験室で丁寧に作るしかないけど、いずれは禁呪弾も量産できるかもしれないわね」

「楽しみです。戦争が変わりますね」

「ええ。お手軽禁呪が完成したら、それだけで敵国は降伏せざるを得ないわね」

「ジャニス・フォートの抑止力理論ですね?」



 強大な兵器は存在するだけで力となる。

 それを唱えた学者がいることをラプスも知っていた。スバロキア大帝国では抑止力理論と呼ばれるそれは、軍部で大きく評価されていた。スバロキア大帝国は強くあらねばならず、また建国理由を鑑みても世界に対して圧倒的でなければならない。あの魔神教を上回る必要があるからだ。

 特に今は黄金要塞を容易に破壊できる力が要る。

 禁呪弾の量産は恐ろしい話であると同時に、希望でもあった。

 エレボスは召喚石の説明を任せていた研究員の方へと向き、口を開く。



「禁呪級召喚石はどのくらいで完成しそうかしら?」

「現在は第十一階梯を研究中です。しかし魔晶を崩壊させてその質量エネルギーを魔力利用する性質上、術式面での改良も必要となります。発動したこともない魔術をコンピュータ解析だけで分解し、再構築するとなると時間がかかります」

「まぁいいわ。ただし近い内に結果を出しなさい」

「はい。本社の量子コンピュータと魔力コンピュータを並列起動させて解析させていますので、結果は出せるはずです」

「そういうことらしいわラプス殿。完成次第、取引といきましょう」

「ええ、勿論です」



 黄金要塞を落とすべく、新しい兵器が投入される。

 スバロキア大帝国参謀本部の作戦は三日後。圧倒的な質量と火力で空を支配し、放出する殲滅兵によって何者をも寄せ付けない強大な兵器を落とす作戦が、始まる。









 ◆◆◆









 黄金要塞と戦うエルドラード軍は、スバロキア軍を含む周辺国家の援護を受けつつどうにか体裁を維持していた。だが士気は低下するばかりであり、前線の撤退が続いている。その理由は『魔弾』の聖騎士コーネリア・アストレイによる狙撃だ。彼女は神子セシリアの予言に従ってエルドラード軍の指揮官を狙い、的確に撃ち抜く。それだけでエルドラード軍は瓦解寸前にまで追い込まれるのだ。



「シュウさんが戦場に出てくるなんて珍しいですね」

「ああ。『黒猫』に頼まれてな。ここで負けると流石に困るらしい。せめて時間稼ぎをしてくれとさ」

「手助けするのです?」

「大帝国の考えている作戦が成功するよう、陰からサポートするつもりだ。ひとまずの目標は『魔弾』の聖騎士の始末だな。狙撃は厄介だ」



 戦場となる場所はエルドラード王国の山岳地帯であり、現在は南方のカイルアーザに近い場所へと移動している。エルドラード軍は前線を下げつつ、こちら側へと誘導していたのだ。これはスバロキア大帝国の作戦であり、黒竜も昼夜絶えずに飛んでいる。そのため既に何十機という黒竜が落とされているのだが、それでも惜しまず投入していた。

 正確にはシュウが惜しまず投入させていた、というのが正しい。



「ヘルヘイムでも多少の魔力は融通してきた。狙撃さえどうにかすれば勝てるだろ」



 山の頂上付近にある木に登り、見上げれば今も黄金要塞は尽きることのない攻撃を放っている。また定期的に投下される殲滅兵が地上でも猛威を振るっており、新型として投入された空中適応型殲滅兵は空から一方的な攻撃を仕掛けている。

 普通ならば黄金要塞一つで一日もあれば国を滅ぼせるだろう。

 エルドラード王国が未だに健在なのは、やはりスバロキア大帝国の支援と、ハデスから提供された技術によるものだった。そのハデスも背後には妖精郷があるので、スバロキア大帝国は冥王からの支援を受けているに等しい。これで負けることなどあり得ないことだった。



「どう動くのですか?」

「エルドラード軍の指揮官が狙撃された位置と、銃の痕、その時の黄金要塞の位置から逆算して狙撃場所は把握している。流石に当時の風や気温までは分からないから多少の誤差は生じるが……ある程度の位置は割り出せる……これだ」



 シュウは立体地図を表示させ、そこに狙撃の弾道予測線を加える。するとその始まりの場所は黄金要塞の上層部にある塔へと集中していた。多少のずれはあるものの、まず間違いないと判別できる。

 立体地図でそのあたりを拡大すると、大量の対空砲が設置されている他、空中適用型殲滅兵も大量に飛んでいる。外から近づくのは非常に困難だ。センサー類も豊富と思われるので、シュウが透明化かつ霊体化して近づいても気づかれる可能性が高い。迷路のようになっている黄金要塞の奥へと逃げられると暗殺は困難だ。

 それが分かっているシュウは、手元に立体魔術陣を展開させた。



「久しぶりにこれでやる」



 魔術陣の中心に反物質が凝縮し、保護するために黒く圧縮された魔力が覆う。凄まじい圧力のせいで魔力が雷のように黒く閃いていた。

 シュウは左手の上にそれを浮かべ、黄金要塞に向けて差し出す。



「《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》ですか。確かに久しぶりですねー。でも目立ちますよ?」

「俺が出てきたとバレるかもしれないな」

「いいのです?」

「神聖グリニア側が知らなければ問題ない。大帝国側に俺の存在が漏れたとして、幾らでも情報操作できるからな」



 冥王の黒い魔術は有名だ。

 とはいえ、一般に広く知られているわけではない。流石に神聖グリニアは気付くだろうし、各国の上層部も察することだろう。だが、なぜ冥王が攻撃したのかまでは分からないはずだ。有耶無耶にして情報操作してしまえば全く問題ない。

 ハデスや黒猫を通して実質支配しているからこそできることだ。

 黒い塊に三重の魔術陣が付与される。それらは加速魔術陣であり、狙うべき黄金要塞の塔を正確に撃ち抜くよう設定されている。尤も、《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》は広範囲魔術なので多少ずれたとしても問題はないが。



「威力は多少抑えてあるが……覚醒魔装士を殺すには充分だ」



 シュウはそう告げて、黒い暴虐を解き放った。










 ◆◆◆










 時はほんの少し遡る。

 いつものように黄金要塞司令官セシリアの命令で狙撃していたコーネリアは、その途中である連絡を受けた。



「え? 逃げる?」

『そうよ。エレベータで急いで地下まで。そこにいたら死ぬわよ?』

「どういうこと?」

『死にたくなければ言うことを聞きなさい。もう狙撃はしなくていいわ。あなたはここから退避よ』



 てっきり次の狙撃対象を教えられるだけかと思っていたコーネリアは混乱した。しかし他でもない歴代最高の神子セシリアの予言だ。従わない理由はない。



「……分かったわ。地下ね」

『ええ。あなたは充分戦ったわ』



 肩の荷が下りた気がした。

 コーネリアは魔装の狙撃銃を消し、ゆっくりと塔のエレベータに向かう。中に乗り込んでボタンを押すと、浮遊感を覚えた。

 冥王の即死範囲攻撃が届く前に、彼女は避難することになった。









 ◆◆◆








 シュウの狙い通りに《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》は直撃した。黄金色のオリハルコンに包まれた要塞の一画が黒に塗り潰され、内部では灼熱が猛威を振るう。黄金要塞上層は《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》に巻き込まれていた。

 反物質を保護するために使われた黒い魔力が結界として機能し、内部で引き起こされる対消滅爆発を留める。そして死魔法により内部で炸裂した熱エネルギーが殺され、その全てがシュウへと取り込まれるのだ。結界は霧散し、その魔力は冥王が奪い取った。



「……オリハルコンか。頑丈だな」

「ですね。シュウさんの《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》でもほぼ無傷ですか」

「おそらく内部の機械は壊れているが」

「外観はあまり変わらないですね」

「オリハルコンは魔術的な結合で強固になっている。《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》の最後の手順も熱エネルギーを奪うだけだからな。オリハルコンは無傷ということだ」



 浮遊する黄金要塞は健在だ。

 都市すら破壊する《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》もほぼ効いていなかった。実際は外装が無事なだけで、《暴食黒晶ベルゼ・マテリアル》領域内にあった内部機能は破壊されている。そのため全くの無傷というわけではない。



「まぁいい。目的は達しただろ」

「狙撃、止まりましたかねー」

「止まっていなければもう一度狙えばいい。殺せなくても、狙撃さえ止まれば同じだ。作戦も明後日には始まる。俺たちも殲滅兵を潰して援護するぞ」

「はーい」



 シュウは死魔法で空中適応型殲滅兵を殺す。

 アイリスは《超越雷光オーバーライト》で過去に雷撃を送り込み、殲滅兵を内部から破壊する。

 空から、地上から魔術や魔装や弾丸が飛び交う中、密かに冥王と魔女が参戦していた。









(たしか)まだ明かしていない魔術属性です。

召喚は定番よね

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― 新着の感想 ―
[一言] セシリアの話題全然出てないから気付いて無いんだろうね
[一言] 死魔力があるから、絶対改善しないよなー
[一言] シュウ、なんで魂が冥界に来てるかとか考えてないの?忘れた?
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