1話 幽霊
新作を書いてみました。
ただし、これは他の小説用に考えておきながらボツにした設定を混ぜ合わせたものです。折角思いついたのに放置するのも勿体ないので、新しく組み上げて小説に仕立てました。
よって更新は超遅いです。
章ごとに投稿していく予定なので、1章を投稿し終えた後は、次の投稿が何時になるか不明です。そこはご了承ください。
薄暗い森の中で動物たちが逃げ惑う。鹿のようなその動物は、狩人から逃れるために走っていた。しかし、奥から飛んできた大量の矢が体に刺さり、力を失くして倒れる。
ガサガサと音を立てながら出てきたのは人間の子供程度の人型生物。頭部には小さな角があり、非常に醜い顔をしている。それは小鬼と呼ばれる魔物だった。
小鬼はコソコソと何かを話し合い、倒した鹿に近寄っていく。
恐らく、今晩の食事になるのだろう。
そんな光景のすぐ側で、淡く光る不定形の物体が揺らいでいた。
(これは……なんだ?)
その物体には意識があった。まるで幽霊のように透き通った不定形物体は、一見すると生物には見えない。しかしながら、そこには確かに知性が宿っていたのだ。
(俺は……死んだのか?)
幼い時から心臓が弱く、殆どの人生を病院で過ごした。そんな記憶が残っている。暇だったので勉強しているうちに、それなりの知識は身に着けた。しかし、その知識を役に立たせることなく世を去ったのだ。
(そういえば家族、友達、病院の先生や看護師さんのことは思い出せない)
覚えているのは僅かな思い出と知識のみ。
死んだショックのせいか、それとも別の理由か。ともかく、幾つかの記憶は飛んでいた。
(いや、これは夢か? 小鬼が鹿を狩っている夢だとすれば、あやふやな記憶にも納得できる。明晰夢っていうんだっけ?)
夢の中で夢だと自覚するなんて珍しい。そんなことを彼は思った。
いや、まだ自分は死んでいないと思いたかったのだ。
もしも夢ならば、少し経てば覚めるはず。
ここが死後の世界でないならば、次の瞬間にはいつもの病室に戻っている。
そう考えて、しばらくは夢の世界を楽しむことにするのだった。
◆◆◆
(結論、ここは死後の世界)
太陽が七度沈んで、七度昇った時、彼はそう結論付けた。
これでも急な発作で昏睡状態になったこともあり、長い眠りも経験している。しかし、こんなに長い夢は今まで一度もなかった。ならばいっそ、死後の世界に来てしまったのだと考えた方がいい。
それに、自分の体は不定形な浮遊霊のような姿なのだ。
少しばかり、説得力がある。
そして七日の間で気付いたことが幾つかあった。
(話すことは出来ない、食事も睡眠も不要、自由に浮かぶことが出来る、日が当たっても平気、何より……)
彼は自分の内側に意識を落とす。
(意識を傾けると、俺自身の情報が浮かんでくるんだよな)
どうやら自分は幽霊になってしまったらしい。それは今の種族を指しているのだと、何故か理解できた。
更にもう一つ、自分には『吸命』という能力があるらしい。
なんだか物騒な能力だと彼は思った。
(試してみようか)
彼は近くにあった大木に向かって『吸命』を意識する。すると、体の中で何かが蠢き、大木から何かを吸い上げようとした。
しかし、何も吸い出せずに霧散してしまう。
(何故だ?)
他の木や草、花にも試してみたが、『吸命』は効果を発揮せずに霧散してしまった。
疑問に思った彼は、次に近くを飛んでいた蝶に対して『吸命』を発動させる。すると、驚くべきことに、蝶から何かを吸い出して自分に取り込んだ。それは一滴の水にも感じられる僅かなモノ。
そして蝶は力なく墜落してしまう。
彼は、生命力を吸い取ったのだと理解した。
(なるほど。動物や虫にしか使えないのか)
そうなると、次に試したくなるのはもっと大きな動物だ。
(あの小鬼っぽいので試したいな)
そうと決まれば即座に移動だ。この七日間で、小鬼の集落がどこにあるのかは把握している。彼はフワフワと浮かびながら小鬼集落へと向かった。
幽霊という種族のお蔭か、大木などもすり抜けることが出来る。物質に埋まっている間は視界が真っ暗になるので不安だが、慣れてしまえば気にすることでもなくなった。
森の中を一直線に移動し、数十分ほどで小鬼の姿を発見する。
(そういえば、俺の姿は小鬼から見えるのか? 幽霊だし見えないとか?)
そんな疑問を新たに感じ、何となく小鬼の側に寄ってみる。すると、三匹の小鬼に見つかり、目で追われた。攻撃こそされないが、明らかに見られている。
(ダメか。まぁいいや。すり抜けることは分かっているし、反撃される心配もない)
彼はそう考えて『吸命』を発動させる。目の前には自分の姿を見つけた三匹を含めて、合計七匹の小鬼がいるのだ。同時に『吸命』をかけていく。他の小鬼は狩りにでも出ているのか、他には十匹も見当たらない。多すぎても困るので、取りあえずはこれぐらいから吸い始めた。
すると、かなりの量が自分の中に流れ込んでくる感覚に襲われた。それと同時に、七匹の小鬼たちは苦しみ始める。
他の小鬼も苦しんでいる七匹に気付いたのか、こちらに寄ってきた。
彼は、問答無用で『吸命』を使い、他の小鬼からも生命力を奪っていく。この『吸命』は生命力を吸い取る速度こそ遅いが、同時発動は簡単らしい。ただし、同時発動を重ねるほど吸収速度は低下していると分かった。
(吸収速度が下がったからか? 動けるゴブリンもいるな)
少し体格の良い小鬼が立ち上がり、彼を攻撃しようとした。しかし、小鬼が振るった棍棒は虚しくもすり抜ける。矢で射られてもすり抜ける。殴られても刃物で切り付けられてもすり抜けた。
(物理攻撃は効かないと。ゲームみたいに魔法攻撃なら効くかもしれないな。まぁ、魔法なんかがあるかは知らないけど)
『吸命』などという魔法じみた力があるのだから、魔法も存在しているだろう。小鬼たちは使えないようだが、無敵だとは思わない方が良さそうだった。
数十分ほど吸収を続けると、ようやく小鬼たちは息絶えたらしい。眠るようにして同時に息を引き取っていった。
すると、彼の中に何かが流れ込んでくる。
それは『吸命』を発動するときに蠢いた何かに似ていた。
(生命力とは違うな。経験値といった感じでもない。これは……いわゆる魔力か?)
魔力、MP、マナ、プラーナ、チャクラ、気……そんなところだろう。何か力の源であり、自分自身を構成する何かであるように感じる。
そんな不思議な感覚を覚えた。
(ん? 種族が変化した?)
意識を自分の内側に向けると、今まで感じ取れていた幽霊から高位霊に進化していた。また、これまでは半透明で不定形な浮遊物体だったが、高位霊になったことで人型になった。
近くに池があったので、水面に映して自分の姿を観察する。
元から半透明なので非常に観察しにくかったが、少しだけ容姿が確認できた。
身長は一七〇センチメートルほどで、黒髪黒目の日本人顔だ。線が細く、中性的で、どことなくお化けっぽさがある。服装は貫頭衣に帯を締め、黒いボロ布を纏っているという貧相なモノ。少しばかり不気味な恰好だった。
(前世の顔は思い出せないけど……前と同じ顔なんだろうか?)
彼はそんなことを考えこむ。
頑張って思い出そうとはしているのだが、一向に記憶は蘇ってこない。知識は残っているくせに、思い出などは殆ど忘れている。
死んだ悲しみ、親や友達への申し訳なさが全く湧いてこないという点では、気持ち的に救われているのだが。
(覚えているのは自分の名前ぐらいか……)
高光修。
これが自分の名前だったのは確かだ。よって両親の苗字は高光なのだろうと予測することはできる。しかし、下の名前は全く思い出せない。兄弟姉妹がいた可能性もあるが、そちらも全く思い出すことが出来なかった。
(とりあえず修を名乗ろうか……いや、でもなぁ……)
碌に思い出せない前世の名前を名乗るのは、少し抵抗がある。
死後の世界と言っても、ここはここで一つの世界らしいと分かっているのだ。寧ろ、生まれ変わったと言った方が正確だろう。なにせ、小鬼はともかく、鳥や鹿などの動物もたくさんいるのだ。単純な天国や地獄とは考えにくい。
高位霊なので生まれ変わったという言い方はおかしいが、今という新しい人生を歩んでいるのは間違いない。
心機一転して新しい名前を名乗ることに決めた。
(とは言っても、一から考えるのは面倒だ。元の名前を適当に変化させるか……)
まずは英語に変化させてみる。
(修は……なんだろう? 直訳すればlearn(学ぶ)とかmaster(習得する)とか? うん、これはないな。いっそ音読みでシュウでいいか)
フランス語やイタリア語、ドイツ語などの知識があれば、別の変換も思いついたのかもしれない。しかし、流石に英語以外の語学までは勉強していなかったので、残念ながら諦めた。
それに、シュウでも響きは良い。
これはこれで彼も気に入った。
(次は高光だな。音読みすると……コウコウ? これもないな。だったら英語変換して……high light、tall ray、expensive opticalとか?)
シュウは色々組み合わせてみるが、どうもしっくりこない。そこはかとないダサさが滲み出ているように感じられた。
折角名乗る新しい名前なのだから、ちゃんと納得できるものでなければならない。そう考えて、次の候補を出してみる。
(『高』をbest、topにしても微妙だし、どうしようか)
やはりダメだった。
何となくダサい感じになるのは『高』のせいだとシュウは考える。そこで、何か良い変換がないか、必死になって思い出した。
そうして思考すること三十分。
ここで良い案が浮かぶ。
(そういえばarchも上位って意味があったよな。lightと組み合わせてArchlight……良いかもしれない。今日から、シュウ・アークライトと名乗ろう)
満足のいく名前が浮かんだところで、改めて考察を開始する。
その内容は進化についてだ。
(幽霊から高位霊に進化したのは、多分小鬼を倒したからだ。倒した瞬間に何かが流れ込んできたし、それのお蔭で進化したってことか? 流れ込んできた何かを魔力と仮定すると、大量の魔力で進化する?)
未確定だが、試してみる価値はある。
まずは今の自分がどういった状態なのか、魔力とは何か、進化の条件は何か、といったことを調べることが目標だ。
シュウ・アークライトは検証のために、次の小鬼を探すのだった。