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中代圭吾たん  作者: ザナドゥー
始まり幽霊事件
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集う若人

 平山さんと学校へ向かう片道三十分。互いに気を使っていたのか、この後起きるかもしれない何かに怯えていたのか、話が思い付かなかったのか。会話はほとんどしなかった。

 校門は閉じていなかったため、労せずして部室へと直通。校門さえ開いていれば、校舎内から通らずとも校庭から部室へ入れるのだ。


 部室の前へ着くも、窓から電灯の光が漏れている。てっきり俺たちだけだと思いきや、誰かが先に来ていたようだ。


「ここが……」


 平山さんが扉の上にあるネームプレートを発見。そういえばそんなのあったな、すっかり存在を忘れていた。って平山さんの前でとんだブラックジョークを……


「相談室って書いてあるね」


「お悩み相談部。俺はそう呼んでます」


 ザ・そのまんま。他に格好いい名前が考え付かなかったんや……


「こんな部があったんだね」


「廃部の予定でしたので。俺達が入部したんでセーフになったんです」


 とはいえ一般生徒にはどうにも知名度がない。やることはやっているんだけども。


 部名紹介もそこそこに、ドアを開けると中にいたのは一人の女生徒。長髪の文学少女は、こちらには目もくれず読書をしていた。


「あ、おはようございます」


 こちらから挨拶をすると、顔をあげコクリとお辞儀をしてくれた――――――返事はない。


 冴沢さえさわさん。俺達と同学年の……たしか一組所属のはず。この通り無口、そして常に無表情な人である。

 あまりに喋らないので彼女の声を忘れているのが俺の悩み。


 『女友達がいないと言ってたのに、部活仲間にいるじゃねえか!』と憤る方もいるだろう。

 確かに冴沢さんは同じ部の部員だ。それは認めよう。


 だが、それだけなのだ。

 会話すら一方通行、いつのまにか部室にいたかと思えば、ふらりと姿を消していたりで正直今の平山さん並みに存在があやふやな人なのである。

 誘っても答えてくれないので共に遊びへ出掛けるなんて出来事もなかった。これでは友達ではなく、ただただ部活仲間としか呼べないのではないだろうか。


 俺が冴沢さんの下の名前を知らない事からも、彼女との関わりのなさが伝わるだろう。


 それはさておき。ひとまずざっと見渡してみるも、部室の光景はいつもの通り。別段変わったところはなさそうだった。

 まさかじいさんに騙されたのか? 何もないぞ……


「冴沢さん。えーっとですね、最近なにか身の回りで起きたことはありますか?」


 平山さんのことを聞いても知らないと返されるだろうし、回りくどいが質問をしてみる。


「……」


 本を読んでいた冴沢さんは目線だけを一度こちらに向けたが、すぐに本へと戻した。


 これは……何もないってことだろう。


「き、気難しい人なのかな……」


 手強いって感じの人かと。


 こんなのどうすりゃええねんと天パをクルクル指で回していたら、閉めたはずの部室のドアが開かれた。


「あれ、中代じゃん。それに冴沢さんも」


 竹下だ。こいつは部室へ最初に来ていることが多い男である。本来なら休日に部活など来なくてもいいとはいえ、珍しく一番乗りではなかったな。


「おは。どうしたんだ今日は」


「ああ、それならもうちょい待ってくれ」


「イヨォォォポンポンポンポン」


「舞えとは言ってねえよ!」


 平山さんが苦笑いしてくれたのでそのツッコミは許してやろう。


 それから数分もしないうちに、ウッチーと水野も入室してきた。真面目な所もあるウッチーはまだしも、水野も来るとは意外だ。なにせこいつ休日は家かゲーセンでゲームだの漫画読んでるだのしているから。


「なんだお前ら。心を入れ替えたの?」


「珍しいのはわかるけども。あんまりな言いぐさ」


「オレ達にも事情があんのよー」


 俺みたいに幽霊を連れてきてんのか?


「実はさ……夢を見たんだよ。しかもはっきりと覚えていられた」


「その事をみんなに連絡したら、圭吾っち以外から同じ夢見たって返事が来たわけー」


 普段なら朝一で携帯を確認するのだが、今日は平山さんの件ですっかり忘れていた。まるで仲間はずれ。


「どんな夢なの」


「中代は見てないのか?」


「顔は分かんないけど女の子が倒れててさ、しばらくしたら化け物が出てきてーっていう」


 うーん、おぼろげだがそんな夢を俺も体験していたような。


「それで部室に逃げ込む所で目が覚めた」


「今まで見た夢の中でやたら臨場感あったし、みんな体験したってんだから気になって」


「んで集まろうってことで部室に来たわけー」


 ぬぬぬ、偶然にしては話が出来すぎている。


「中代くん、これってやっぱりなにか意味があるのかな……」


「おそらくは」


 じいさんは俺の夢の内容を知っている素振りだった。もしや、この件にも関係があるのでは……?


「冴沢さんはどうでした?」


 竹下からの問いかけ、しかしスルーする冴沢さん。彼女はこれがデフォルト。


「ウチらだけってことか」


「なんだったんだろうなー」


 そして彼らは各々《おのおの》が普段使う席に移動するのだった。せっかく来たからとしばらく部室に滞在するつもりらしい。


 で、じいさんや。こいつらがいるのと事件解決が結びついたりするのか? 場所はここで合っているんだよな? 聴こえてんのかじいさん?


「そういや圭吾っち、昨日誰か探していたよな。どうだったのー?」


 水野お前今その話題を振るのか。


「なにかあったのか?」


「なになに、どしたの?」


 ウッチーと共に竹下まで。面倒なことを――――――待てよ、もしやじいさんはこれを見越して……?

 それなら。


「俺が今日ここに来たのは、依頼があったからなんだ」


「この部に依頼が?」


「ああ。俺らと同じ一年、二組の女子。平山優子って生徒を探してほしい」


 この部を活かして、こいつらの力を借りよう。


「でもいないはずなんだよー、そんな生徒」


「そう、水野の言う通りらしいんだ」


「は? どういうこと」


 竹下が戸惑う。そりゃそうだよな、そこから説明を……



「神隠しでも起きて、いるはずの生徒が消えたから探せってことか?」


 ウッチーの名推理が眼鏡と共に光る。


「さっすがウッチー、秀才ですわ」


「そりゃどうも」


「へーそうなんだ」


 頭脳派は話が早くて助かる。下手すりゃウッチーだけで十分なんじゃないかな。


「それで部室に立ち寄ったんだ。タイムリミットは……今日の夕方五時」


「急だなおい」


「なにか手掛かりはないの?」


「……今のところは、ない」


「厳しいな」


「ちょっとねー」


 ここにいる時点でこいつらに用事は無いんだろうが、だからっていきなりこんな話をされても困るのは当たり前。

 休日に仕事を持ち込まれるなんて俺でもまっぴら御免だ。こいつらも同意見だろう。


「俺一人では無理なんだ」


「でもさあ……」


「分からないんじゃどうしようもないぜー」


 困難すぎるのは百も承知だ。


 それでも。


 彼女を助ける力が必要だ。



「頼む」



 今。必要なんだ。その為になら――――――


「な、中代くん……」


「な、中代……」


「圭吾っち……」


「……はぁ」


「……」


 友達にされたら気まずい行動。したくはない行動。



「協力してほしい」



 みんなの前で、頭を下げた。



「……今回の依頼は中代からってことでいいんだよな」


 ウッチーが口を開く。


「この部に入って、最初の生徒からの依頼人が中代とはな」


 冴沢さんほどではないとはいえ、そんなに笑顔を見せないウッチーが……ニヤリとした。


「先生からも忘れられているからねぇ、この部。知っている先生からの依頼はゴミ捨てや部屋掃除の雑用ばかりだったし」


 竹下は苦笑いして思い出を語り。


「まーいいじゃん。最初の依頼者が部員だったーっての。アニメとかでよくある」


 水野もなんかズレているが賛成した。


「中代にはこれまでの付き合いもあるし、いろいろと礼もあるからね」


「圭吾っちが真面目にやってるんだから、オレらも多少は頑張らないとなー」


「腐っても中代は部長なんだ、部長命令ってことにしておくか」


 み、みんな……




 なんか最終決戦みたいな空気になってる! 俺にはこいつらと一年の馴れ合いがあるから、思わず心で涙したよ……!



 これだけは伝えたい……! ありがとう!


 

「おみゃーら……!」



「変な呼び方するな気色悪い」


 切り捨て御免! 感動が台無し!


「やっぱいつもの空気になるんだなこれ」


 水野のツッコミに平山さんも呆れ顔で微笑むのだった。




 さーてさてさて。こいつらの力をお借りするとして、現状打つ手なしなのだけれども。


「誘拐なのか家出なのかも謎?」


「ああ。なにもかもわかってない。でも存在はしている」


「んなスピリチュアルな……」


 みんなでうんうん唸っていたら、突然冴沢さんが立ち上がったではないか。そのまま歩きだしたと思えば、出入り口の前で止まった。


「え、えーと冴沢さん……?」


 冴沢さんは顔をこちらへ向ける。立ち止まったままで。


「ど、どうしたんだろう」


「中代は分かる?」


 小声で聞いてくる竹下。なんで俺に振るねん。


 うーむ、「先生ートイレ行きたいです」なんて理由ではまずないし、協力する気がない、でもなさそうだがこれはいったい。


「あ。もしかしてどこかに案内するってこと?」


 そう尋ねてみると、彼女はコクンと頷いた。


「そうだったか」


 ウッチーも感づいてはいたらしい。鋭いのねあんた。


「圭吾っちよくわかったなー」


「一番冴沢さんとの付き合いが長いもんね」


 長いつってもお前らより少し先に入部した程度なんだが?


「なにか知っているってことだよね……」


 聴こえていないんだろうが、平山さんの疑問にも無言を貫く冴沢さん。

 行くのか行かないのかどうするんだと訴えるかのごとく見つめてくる。


「よし、さっさと行くとしようか。冴沢さん、お願いします」


 彼女が何を知っているかは不明だが、ひとまず信じてみよう。なんだか光明が差したようだから。




 学校からちょいちょい歩けばたどり着く高台。そこへ俺たちは案内された。通学路の方向的に俺は普段立ち寄らないが、たしかマラソン大会の時にコースで走ったような気がする。


「来年……じゃなくて今年か、まーた走ることになるよ」


「うひゃあ」


 竹下の言葉に一言ぶっちゃけた。その事実には運動が苦手なウッチーも、元陸上部な水野すらも苦い表情である。平山さんも参ったといった顔になっていた。


「去年は途中でリタイアしちゃって……」


 それは……お疲れ様です。せめて今年はと応援せざるを得ない。


「それで、ここに何があるんですか」


 ふらりと先頭をきっていた冴沢さんは、大きな岩々に囲まれていた。


 俺たちの身の丈などゆうに越える岩が片手では数えきれないほど落ちている。彼女はそれらを眺めてる様子。

 

「それらがなにか……?」


「……そういや、ここってたしか曰く付きのやつだよ」


「知っているのか竹下」


 さすが地元民。


「僕らが小学生の頃に大地震があったじゃん? 連日ニュースになったやつ。あれの影響でここの岩が崩れてこの形になったんだって」


「あーあったねそういや」


 ここは震源地から遠い方だったのに、それでもかなり揺れていた。今でも過去の大きなニュース特集などで話題に出されるくらい、凄まじい規模の地震だった。



「んで、崩れた後なんだけど。ほら、ここの模様。なんかの顔に見えない?」



 竹下の指差す所、俺の目線ほどの位置。そこにはなるほど、変な模様がある。丸にしては縦に楕円だし、円の内側に目のようなものもある。どっかの企業にありそうなマークだ。


「見ようによっちゃわりと格好いい」


「独特な感性だな」


 ウッチーには分からんのかこの格好よさが。



「それに触ると呪われる、なんて話があるんだよ……!」



「ファー!! 聞きましたか水野さん? 呪われるですってよ怖いですわねー」


「嫌ですわねーこれだから田舎の風習は、エンガチョエンガチョ」


「オメーらも田舎出身だろうが!」


 ああ怖い怖い。怖すぎてあくびが出てしまいましたわ。


「呪われるって、竹下は触ったことあんのかよ」


「……あれに触った帰りに携帯落としてヒビ入った」


 水野と二人で大笑いである。ウッチーはため息、平山さんは苦笑いだ。

 そんなことまで呪いのせいにされちゃたまったもんじゃないだろうに。


「でもよでもよ! その日以来、なんか霊的なものを感じるようになったんだよ」


「またまたー」


 正直、汚れですと説明されたらなるほどと納得できるくらいの模様のもよう。


「マジだって! 駆紋坂くもんざかとか昼間でも寒気がするし」


 駆紋坂とは、学校近くの駅から数駅ほどの距離にある坂。昔の時代にあった合戦での落武者が出るとかで、その筋では有名な心霊スポットである。俺は行ったことないからし、信じてないし!


「そんくらいじゃ説得力が――――――」




「黙っていたけど――――――部室に来てからここまで、なにか感じるんだ」



 え、と平山さんが反応した。俺もつられて返答する。


「……そ、それって主にどこら辺からよ?」


「うーんとね――――――」


 何かを凝視するように力む竹下。見守る我々。

 まさか竹下も平山さんを認識できたのか……? 息を飲み彼の向く末を待つ。



 やがて竹下が向いた方向にいたのは――――――俺の隣にいる、平山さん。



 マジでこいつ見えているのか……?


 つまり、呪いは本当に――――――



 と思いきや、平山さんを見ているにしてはどこか目線がおかしい。

 ……もしや。俺は平山さんの後ろへ顔を向ける。




 こちらを気にせず岩盤を眺めている冴沢さんがいた。


「……………………」


「な、なんだよ中代」


「べっっっっつにぃぃぃい?」


「言いたいことあるなら言えよなあ!」


「ないわ」


「三文字!?」


 俺の隣にいる平山さんはがっかりした様子だぞ。どうしてくれんねんお前。


「こんなトンチキ霊感は置いといて」


「マジなつもりなんだけどなぁ」


 これが墓石や卒塔婆そとば御神木ごしんぼくなら分からなくもないけどさあ。こ~んな岩にこびりついた汚れみたいなもんにな~んの力があるって~んだよ。


 俺はビックリさせられるホラーは苦手だけども、インチキくさいヤラセ臭がプンプンするホラーは大好物なのだ。


「なんの効果もないって証明したるわガッハッハ」


「いかにもな犠牲者の台詞……」


 だったら触ってみろとばかりに立ち退いた竹下に代わり、その汚れの前に。


 ほぅれどんなもんじゃいとゆ~っくり手のひらで模様に触れる。


 触れた。



 ……………………



「ほ、ほれみろ。とくになにもないじゃ」


 瞬間、爆音が鳴り響いた。

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