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中代圭吾たん  作者: ザナドゥー
始まり幽霊事件
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帰り見るもの

『そうじゃったか……』


 じいさんへ事後報告。しっかし今どこにいるんだか。


『まあまあ、今日は大変だったじゃろう。はやる気持ちはわかるが、まずは休むことじゃな』


 その言葉でどっと疲れが現れる。学校行事の12キロマラソン大会に参加させられた時くらいの疲労度かもしれん。


『儂はもう少し捜査しておこう。お前さん達は家でゆっくりするとよい』


 じいさんには悪いが、そうさせてもらおう。明日はもっともっと大変なお仕事が待ち受けているのだからな。


 っておい。家って俺の家かよ。


『他に何処があるんじゃ。お嬢さんを一人にする気か?』


 せやけども。うーん……


「平山さん、俺の家に泊まるのOKですか?」


「え!? あ、う、うん! だ、大丈夫だよっ!」


「本当に申し訳ないっす……」


 気遣いのできる人だよ平山さんは。わざとらしいテンションの上げ方が空回りしているけども。


『そもそも手を出せないしの。まさかお嬢さんを前にして全裸で歩き回る真似なぞせんじゃろうに』


 しねーよ。むしろしてほしいわ。


『明日の朝七時ほどにこちらから連絡しよう。それまでお嬢さんを楽しませてあげるのじゃよー』

 

 休ませるんじゃないのかい。そもそも楽しませるってなにすりゃいいんだ。女子が喜ぶもの知らねーよ俺。


『お嬢さんがどんな子か理解しているなら大丈夫じゃよ。腕の見せどころじゃ、任せたぞい』


 ははーんさりげなく俺を労う気がないらしい。野郎はつらいよ。


「中代くん、Jさんになにかあったの?」


「今日はこちらに合流できないそうです」


「そ、そうなんだ。ならお礼を伝えてほしいの」


 お礼?


「中代くんと同じ、私なんかのために一緒に探してくれているから……そのお礼。ありがとうございますって」


 かーッ! なんて礼儀正しい娘なんや平山さんはァー!


「かしこま」


 だそうですよじいさんや。


『……ほほっ、そうか。老いぼれには嬉しい言葉じゃのう。なら儂からのも伝えてくれ』


 じいさんとの通信を切り、平山さんに伝言。


「私なんかだなんて言わないでおくれ、だと」


「Jさん……」


 ……じいさん、あんた口説くどいてねーかこれ?




 午後六時、我が家へ帰りつく。飼い犬の『レツ』は大人しく伏せてこちらを見ていた。


「おっきいワンちゃんだね」


「もうおじいちゃん犬なんですよ」


 俺が小学校に入学する前くらいに家へ来たゴールデンレトリーバーの雄。年寄りなので大体ボーっとしており、よく野良猫に餌を横取りされている。


 なんとなくレツの頭を撫でてみた。ゴツゴツとクシャクシャが合わさった毛並みの感触は癖になる。年をとった目が俺を見つめ、尻尾を振っていた。じいちゃん犬でも可愛いものは可愛い。

 うずうずしたのか平山さんも触ろうとしたが、やっぱりすり抜けるのだった。残念だけどまた今度会いに来てもらえたら嬉しい。


「ただいま」


 ドアを開くとカランカランとベルがなり、玄関へ。丁寧な平山さんはやはり「お邪魔します」とお辞儀していた。


「おか~えり。遅かったけど、今日は卒業式で早いんじゃなかったんかい」


「いろいろあったの」


 我が母親がテレビ番組を観つつお出迎え。録画していた人気アイドル番組が再生されており、ゲスト紹介の場面を映していた。


「私もこの番組好きなんだ。面白いよね」


 イケメンアイドルグループだから女子も知っていると。なら俺も今度から会話に有効活用できる……?


 手洗いうがいを済ませて共に番組を眺めることにした。どうせだし食事の用意もしておこう。ぶっちゃけリアルタイムで観て結末を知っている。この回はゲストの最近話題になっているらしい新人アイドルが目立ちまくっていた。


「平山さんはお腹空いたりします?」


「なんだか平気みたい」


 恐らく幽霊だからなのだろう。申し訳ないが俺はお腹がペコリンチョしているので、飯を食べるとしよう。


 ――――――よし、準備OK。それでは!


「いただきます」


「……あの、中代くん」


 ご飯を口に運んでいると平山さんが困惑していた。どうしたんだろう。


「その、夕食の内容だけど……」


 ?


「かなり――――――偏ってない?」


 食卓に並ぶ品。山盛りご飯に鮭のフレークをトッピングしたもの、鍋敷きに置いたフライパンにはスーパーで買った焼き肉に塩胡椒、以上。


 いつもの光景である。


「栄養とか大丈夫なの!?」


 ハッハッハ、俺の身長体重が男子平均以下なので察してほしいです。


「アレルギーとか?」


「……昔のトラウマで」


「ど、どんな?」


 そう、あれは保育園にいた頃だった。


「夏の暑い日、食い過ぎ、傷んだ食品、口からゲ」


「ご、ごめんなさいもうよろしいです……」


 思い出す度に食欲が無くなり消化物が逆流する感覚に襲われる。

 あの後気絶、起きたときにはほとんどの食べ物が食べられなくなってしまっていた。

 それでも長年を経て、少しずつ食べられる物が増えてきているというか分かってきているというか。


 失われたものを探しに、というとなんか格好いい。


「辛かったんだね……」


「給食の時間はお地蔵さまになってましたよ。高校は弁当持ち込みになって良かったですね」


 中学まで昼休みは給食で潰れたなあ。教室からみる校庭の皆は楽しそうだっなあ。


「お弁当で喜ぶ理由が重すぎる……」


 高校での弁当内容は母親の鮭おにぎり三個。まったく、お袋の味は最高だぜ!


「ごちそうさまでした」


 食べ終わったので後片付け。

 感想ですが、ほかほかご飯にひんやりした鮭のフレークの甘み。

 そこに熱々の焼き肉のジューシーさと塩コショウの辛さが対比に。

 口の中でプラスとマイナスのスパークがクロスしウルトラなビームが生まれるような美味しさでありんした。


「あんた今日は独り言が多いわね~」


 CMを早送りする母親にツッコまれた。平山さんとも脳内会話できればよかったと今さら悔やむ。


「そんな日もあるんだよ」


「あっそ」


 平山さんが「私のせいで」とまた謝ってきそうだし、ここにいると頭おかしい息子だと嫌味を喰らいそうなので二階の部屋へすたこらさっさ。




「狭いですけど、どうぞ」


「お、お邪魔します」


 ゲーム用のテレビや機器、プラモデルや工具以外、独り立ちした兄のお下がり部屋である。


「そういや今の平山さんはベッドに座れます?」


「たしかに。どうなんだろう」


 通り抜けないのか疑問だったが、意識していると平気なのか実際にはちゃんと座れた。

 その気になればベッドに真上から埋まり、足だけがはみ出た状態(パンツは見れなかった)になることもできたりとなんだか楽しそう。


「今のうちにできることはしておきたいね」


「テレビから体を出してみたりとか?」


 結果やいのやいのとアホ騒ぎ。高校生だからね、修学旅行気分のようなもんよ。女子が部屋にいるという初体験にテンションがアゲアゲなのもある。

 そんなことをしていたので余計に親から怪しまれ、なに騒いでんだと怒られたのはその少し後であった。


「――――――おっと、そういや風呂の準備しなきゃ」


 我が家の風呂掃除は俺の担当。どうせだし明日のことを考えて一番風呂までもらうとしよう。


 ……平山さんは風呂に入るの?


「ゆ、幽霊だし! 私に構わず、どうぞどうぞ!」


 照れ顔で遠慮されたので、一人風呂を楽しむとしよう。


 まあその、一緒に入ろうと言われてもなんだ、困るし……




 風呂場でシャンプーを片手に取りながら物思いに耽る。ところで俺は髪、体、顔の順に洗うのだが皆さんはどうなんだろう。


「出来事を整理しよう」


 脳内を駆け巡る記憶。卒業式、幽霊との邂逅、死神の協力と対立、少女の消された過去、救いのタイムリミットは――――――明日午後五時。


「まず、なぜ平山さんはああなったのか」


 頭をわしゃわしゃ泡立てる。垂れたものが入らぬよう目を閉じて。


 最大の謎であるが、まずわからない。病気などによるものなのか、誰かに殺されたのか。


 そもそも死んでいるのか?


 チャラ死神は彼女を存在していないと考えていた。痕跡がないからと。

 ならば平山さんは存在ごと別の場所に移った可能性もあるのではないか?

 幽霊だの死神だの出てきたんだ、このくらいの論理の飛躍は有だろう。


 もっとも、そうだったところでそうする理由も犯人も俺には分からないし、解決することもできない。

 この世界に無いものへ、手の出しようなどないからだ。

 こうなりゃじいさんが手掛かりを掴んでくれていることに期待しておこう。てか頼むマジで。


 髪のシャンプーを流し、次はボディを洗う。思考していても手は動く。


「じいさんを信じていいのか」


 やたらと好好爺こうこうやだが、あのチャラ死神の様子を考慮すると危険な面も持っていそうである。

 人間にも良い奴悪い奴がいるし、死神にもそういうのがあるかもしれない。


 とはいえ。


 会ったばかり、落とし物を拾っただけの間柄でここまで至れり尽くせりだと、なにか裏があるのではと疑わざるをえない。


 想像もつかないような目論みがあるのではないか?


「……でも」


 あのアクセサリーを渡した時の仕草や、時おり覗かせる平山さんへの気遣いが、演技や嘘偽りとは思えない。あれはじいさんの本当の表情だと俺は感じた。


 信用とまではいかないが、頼りにはできる。


 そういうスタンスがいいだろう。この件も俺にはどうしようもないのだ。


「そして……」


 桶で掬ったお湯を体へかけ、泡が消えていく。洗顔クリームを手に取り顔へと付けた。


「俺は、平山さんを救うことができるのか」


 これが一番の悩みである。大口叩いておいてなにも出来ませんでした~だなんて、お笑いにすらならない。

 時間は迫っている。見つけられるだろうか。


 プレッシャーで心臓がバクバクと速度を上げている。のぼせそうだ。


「救わなきゃならない……助けなきゃ……」


 ――――――ああ、もう!

 

 おもいっきり真上からお湯を被る。落ち着こう、今焦っても意味がない。じいさんに休めと言われただろうが。


 明日は明日の風が吹く。風の行方は、明日決まる。


 ならば。今はただ、明日を待とう。


「……いい湯だな……こんな状況でも」


 湯船に浸かると、温かさが全身を包み込む。風呂は入るまでが億劫だが、入れば爽快とは真実だ。


「平山さん、か」


 彼女を想うと、胸がざわつく。助けてあげたい、じっとしていられない気持ちになる。


 水野達みたいなのでも、まあ助けてやるかという気分にはなる。でも、こんなに心が騒ぐのは、やはり彼女が初めての女友達になってくれたからなのか。


 ひょっとして恋? 俺、恋に落ちた? 確かに平山さんは可愛らしい容姿だし、優しさあふれる性格だし。


 でもでも、俺は困っている人を助けたくなる性分なので、このヒーロー的な状況を楽しんでいるだけという可能性もある。

 中二病が治っていない男子高校生なら、自分が美少女を救出!って妄想は一度はするだろう。今がそれなのだ。


「なんにしろ、救いたいって決意は揺るがないけども」


 中二病、いいじゃない。下心、いいじゃない。

 そこに困っている人がいて、俺なら助けられるもしれない。だったら助けるだけだろうが! 原動力が中二でもエロでも同じことよ!


「あー太もも太もも」


 頭が愉快になったので口を滑らせた。

 平山さんの太ももは肉付きこそあまりないものの、柔らかそうなハリと薄い肌色をしていらっしゃった。撫でたくなる太もも、素晴らしい。やはり女性の太ももは芸術品である。


 ここだけの話、俺は太ももフェチなのだ。


 焼き肉はモモ肉が好き!

 ニーソックスも良いけどハイソックスも映える!

 短パンには褐色または日焼け生足が似合う!

 生まれ変われるなら蚊になって太ももに付いて叩かれて死ぬかファンタジー物でビキニアーマー女戦士の脚に絡み付く触手になりたい!


 なぜそんなに太もも好きで熱弁するのかと言えば、それは――――――遥かな父親いにしえから受け継いだ性癖しめいだから――――――


「……はあ」


 なに言ってんだ俺。

 最低だ俺。

 ごめんなさい平山さん。


 とにかく。俺が太ももフェチなのは置いといてだ。


 平山さんのために、俺が成すべきことは。


「諦めない」


 投げ出さない、最後の最後の最期まで。


「負けない」


 平山さんの悲鳴を聞いた時、血が燃え、俺の怒りは爆発寸前だった。


 明日が決勝。その先にあるものが光だろうと闇だろうと越えてみせる。


「平山さんを、明日を守る」


 頬を叩いて気合いを入れ直す。


 戦士()は、(中代圭吾)―――。






 ところで、ずっと俺の風呂シーンだったけど誰か得をしたのだろうか。


 これ普通は平山さんの役割じゃ……

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