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中代圭吾たん  作者: ザナドゥー
始まり幽霊事件
4/46

頑張る男と終わらせる男

「とにもかくにも、情報収集が先決じゃろうな」


 なら最初は当事者に聞くべきだろう。


「平山さん。気付いたらそうなっていたそうですけど、目覚めた時にここにいたのですか?」


「う、うん。そうなの」


「じゃあ、そこに自分の体が落ちていた、なんてことは?」


「その、遅刻する! と思って急いで学校に向かったから……幽霊になっているって自覚したのは、学校でみんなが反応してくれなかった時で……」


 その場では確認していない、か。


「普段はどれほどの時間に学校へ?」


「いつもなら余裕を持って着いているの。今日は卒業式だったから、遅刻したらどうしようって心配で寝不足に……」


 おどおどしている平山さんを見る限りでは、緊張で眠れなかったという話に説得力はあると判定できそうだ。


「全然役に立たないよね……」


「いえいえそんな、情報には変わりないですし」


「落ち込まなくても大丈夫じゃよ。ここに日本のホームズがおるのじゃからな」


 勝手に名探偵にされた。俺よりもワトソンの方が絶対役にたってくれるよ。


「そういえば、卒業式には参加を?」


「もしかしたらと思って……でもやっぱり何も起きなかったからここまで戻ってきたの」


 あの場に幽霊がいたとは驚きだ。保護者達のカメラに写ったりしていたら面白いな。


「家の方には帰ってはいないと」


「うん。昼間は誰もいないはずだし」


 幽霊だし家には入れるだろうが、確認するまでもないってことは共働きか。うちの親もそうだから。


「ここに戻ってきたのはいつ頃で?」


「卒業式が終わって、みんなが下校するのと一緒に」


「その時にはもう体はなかった、と」


 平山さんはうんうんと頷いた。


「ということは。確認していないとはいえ、平山さんが意識を失っていた時に体が持ち去られた可能性もあるのか」


 俺の推理力ではいつ体が無くなったかなどさっぱりだ。ぬう、と天パをいじりながら悩む。


「ここは体がどこへ行ったのかを考えるのが良いと思うぞ」


 じいさんのアドバイス。なるほど一理ある。

 平山さんの体の行方――――――仮に倒れている人がいた場合、普通なら発見した通行人が通報するだろう。

 とすると。


「……病院とか?」


「た、確かに!」


 ならば近くの病院を探そう。幸い携帯電話には地図アプリがあるのだ。




 検索の結果、この周辺から近い病院は黒日くろひ病院と影月かげつき病院。どちらかだろう。


「ここは二手に別れるとしよう。お前さんとお嬢さんが黒日病院、儂が影月病院へ向かうのはどうじゃ」


 じいさんからの提案。効率を考えればそれが良い……って、じいさんが平山さんに付くのではなく?


「発見したとき蘇生できるのはお前さんだけじゃからな。それに、儂よりも同年代のお前さんが良いじゃろう。蘇生方法的にも仲が良い方が」


「あーはいはいそうですか」


 まーた平山さんが顔を赤くされている。俺もその話をぶり返されるのは恥ずかしいからやめてくれ。


「そうじゃ、儂の方の病院にあった場合のことじゃが――――――」


 じいさんが俺の額に、指で丸の字を書いた。



『これで脳内での会話が可能じゃ。儂に念を送るつもりでやってみい』



 うおおすげえなんだこれ。頭にじいさんの声が響くような感覚。

 よし、ちょいとやってみよう――――――どう、届いた?



「……ウンコてお前さんなあ」


 凄い、本当にできた!



「中代くん……」


「儂にはお前さんがよくわからん」


 じいさんに言われたくはなかったが、平山さんがコクコクと同意しているのが辛いっすね。


「それじゃあ各自、目的地へと出発するかの」


 先に行くぞとじいさんは空へ飛んでいった。俺も空をゆったりと浮いてみたい。


「……えーと、俺達も参りますか」


「う、うん」


 おーっと、この気まずさ。間違いなくさっきの蘇生方法うんぬんのせいだ。


 俺はキスすること自体に嫌悪感などはない。むしろしてみたいという感情はある。

 ただ、それで嫌な思いをするのもされるのも勘弁願いたいのだ。

 俺やじいさんへの応対からして平山さんには彼氏どころか男友達すらいない様子だし。これでいざ生き返りました~となった後、その事がトラウマで男性と関われなくなったら俺の責任であり、それは困る。


 なんやかんや言っているけども。ようするに。



 つまりは、俺は平山さんに嫌われたくないらしい。



「……」


 歩きながら、沈黙を破るために口を開く。



「……昔、親友に助けてもらったことがあるんですよ」



 えっ、と平山さん。この空気を変えるために少し自分語りをさせてもらおう。


「まあ小学生の頃の話なんですけどね。当時気になっていた女の子がいたんですけど、そいつは告白の付き添いしてくれたんですよ。結局振られて、翌日には他の生徒にバレてて」


 俺としてはけっこうショックな思い出なのだが、平山さんには関係ないしあっさりと語っておく。


「その後いろいろからかわれたんですけど、あいつは――――――親友は、俺を庇ったりしてくれて。今の今までずっと親友でいてくれたんです。それがすっっっげえ嬉しくて」


 水野は「あーそんなことあったっけー」くらいの反応かもしれんが。


「だからその、親友っていいよねって話なんですけど……平山さんにもいるんですよね、親友」


「う、うん。美尋が……」


「俺は――――――平山さんがまた、友達と遊べるようになってほしいです」


「……」


 俺とキスしたくないのは仕方ない。今だって、本当は嫌々話をしてくれているのかもしれない。それはそれで構わない。


「恨み言はいくらでも聞きます。なんなら金輪際こんりんざい関わるなって命令でも受け入れます。でも」


 これだけは伝えておかねばなるまい。



「俺は平山さんを助けたい。それだけは……信じてほしいです……」



 あの日、水野から教えられた大事なこと。

 友のために、自分ができること。



「俺は、平山さんと――――――と、友達に……なりたいんで」



 困っている友達を助ける、ただそれだけ。

 ちっぽけな勇気でも、振り絞ればいい。


 平山さんを助けたくなるのは、平山さんを気に入ったからでいいんだ。


「中代くん……」


 平山さんがどんな表情をしているか、怖くてすぐには確認できない。だからどんな言葉がくるのか、心構えた。






「おや、こんなところに幽霊が」



 だが、返ってきた声は彼女のものではなく。



「やれやれ、仕事が増えちゃったよ」



 若い男の姿。

 じいさんとは違う死神が、俺達を見下ろしていた。


 二十代くらいの、金髪でチャラチャラしたイヤリングをしている男。じいさんと似た服で彼も死神だと推測できた。


「あ、あなたは……」


「ボク? 死神だけど。もしかして信じられないとか? ま、しょうがないだろうけどね」


 受け答えが飲食店のキャッチやっているお兄さん方のような軽さ、苦手だ。しつこいくらい絡んできて困るタイプの。


 男は携帯らしき物を取り出し、なにやら調べる動作。


「んー?お嬢ちゃんの情報はないっぽいけどなー」


 死人のリストでもあるのだろうか。どうやら死神も人間の仕事らしいことをするらしい。


「お嬢ちゃんちょっといいかなー?」


 平山さんに近づく死神。なにか嫌なものを感じたのか、平山さんは後ずさる。

 さすがに見かねてその間へ割って入った。


 とはいえ、怖い。奴の得体の知れなさが。


「おや、君ボクが見えるのかい。めっずらしいねー」


 でも君には用はないよと無視された。俺は死んでないとはいえ、その対応はちと腹立つな、おい。


「ちょ、ちょっと待ってください。これから予定があるんで」


「うん? どゆこと」


「びょ、病院に行く途中で……」


 ふーんと聞いていた死神は、あっと声をあげ一人で納得しだした。


「あーそういう、そういうことね。はいはい。魂を体に~ってやつ」


 意外と話が分かる……のか? 争う必要がないならこちらはそれがいいけど。


 死神は頭を掻きながら背中を向けた。しかし隙を感じさせない気迫を感じる。

 手を出そうものなら腕ごと消されそう。そんな俺の思惑を知ってか知らずか、死神は振り向いた。


「んーでもなー。なんで君達がそんなもの知ってんのとか引っ掛かるけど」


 じいさんの名前を出そうか迷ったが、勇気が足りないのもあって無言を貫く。


「今回は見逃すよ。ボクもちょっと気になることがあるし」


 沈黙は金、雄弁は銀。向こうが退こうとしているならわざわざ相手をして長引かせる必要はない。


「……それは、どうも」


「また会うかもねー。そんじゃ」


 美人のお姉さんだったならまだしも、チャラ男と再びなんて勘弁願いたい。



 死神は去っていった。姿が完全に見えなくなるまで、二人とも身動きや喋ることを忘れるほどの冷たい空気が場を支配していた。


「な、中代くん。Jさんに連絡したほうがいいかも……」


「そ、そうですね」


 じいさんはこうなることを予測していただろうか。




『Eに会ったのじゃな』


 知り合いだったようだ。あのチャラい死神はどういう奴なのよ。


『あれでも仕事はこなすタイプじゃ。退いてもらえて助かったの』


 もしかしたら平山さんはあの世へ連れていかれていたのかも、と。通信は俺しか聴こえていないのが幸いだ。


『そうそう。こっちはすでに確認したが、外れじゃったぞ』


 じいさんはもう着いていたのか。こちらも早く病院に参らねば。



『――――――のう。お嬢さんのことじゃが』



 通信を切ろうと思っていたら、最後にじいさんからの伝言。



『お前さんだけがその子を守れるのじゃ。忘れるんじゃないぞ』



 何を今更。


『分かっておるのならそれでよい』


 ……? 今はそれしかないのだろうに。


「平山さん、病院へと急ぎましょう」


「う、うん!」


 なんとかなるだろうと若干気楽さを振り撒いて歩みを進めた。


 しかし、何故だ――――――どこか不穏さは拭えず、胸騒きが治まらないのは……




 黒日病院に無事到着したのは、午後3時を過ぎた頃だった。水野はまだ店でゲームでも漁っているだろうか。


「ここにあるんだよね……?」


 不安になるのも無理はない。しかしそれももうすぐ終わる、この病院で当たりのはずだ。


「俺が受付で尋ねてみます」


「ありがとう……お願いするね」


 さて、何号室に運ばれたのやら。重大なことが残っているが、とりあえずほぼミッション完了だ。


「すみません、ここに平山さんという女子学生が今日入院されましたか? クラスメイトなんですが」


 はあー、緊張するなー。この後キスかあー。

 この受付のおばちゃんみたいに自分とほぼ関わらない人と短時間なら普通に接することができるんだけどなあ。

 長時間だったり、平山さんのような、同じ学校とか何かしらの関係性があると「下手こいたら周りに広まっちゃう!」って身構えてしまうんだよなー。



「いえ、本日は入院された方はいらっしゃいませんが……」



 そっかー。仕方ない、ここは諦めて覚悟を…………



「え、いないんですか?」



「はい。うちに平山さんという方は入院されていません」



 ……え?


「ど、どういうこと……?」


 俺にもさっぱり……病院に運ばれたのではないのか?

 ならば、平山さんの体はどこに? 別の病院か、どこかに放置か、または――――――持ち去られたのか?


 捜査は振り出しに戻ってしまった。




『そちらにも無かったか』


 すっかり意気消沈しつつじいさんと通信。現状はお手上げ、気分は駄々下がりだ。平山さんも落ち込んでいる。


『聞き込みするしかないの。お前さんは他の生徒に尋ねたらどうじゃ。儂も個人的に調べてみるぞい』


 そうなるよね。なら帰路の道中にある店にいるであろう水野を訪ねてみるか。あいつも時間ギリギリに登校する生徒の一人だし、平山さんに会っているかもしれない。


『あと、すまぬがしばらくそちらへ戻れないかもしれん、許してくりゃれ』


 ええ、そんなぁ。あのチャラ死神とかどうすりゃいいのよ。


『ホッホッホ』


 ホッホッホじゃなくてさあ。もうちょいあるんじゃ……



『――――――さっきの伝言、覚えておるな?』



 底冷えするような声色に心が引き締まった。


 俺はたまに教科書や体操服を忘れたりする男だ。

 だが、ほんの数分前に頼まれた使命を忘却するほどボケてはいない。


 あの言葉は絶対に覚えている。


『うむうむ、威勢が良いのう。それでこそヒーローじゃ』


 ヒーロー? 俺が? はあ。


『自己評価低いぞい。しっかりするのじゃよ? お前さんだから、できるのじゃ』


 とぼとぼ歩く俺にじいさんのやさしめの説教。それでも心に刺さってしまうのは、俺が体力的にも精神的にも弱っちい人間だからだ。

 平山さんは変わらずうつむいている。こんな顔させているやつがヒーローなわけないやろがい。


「ヒーローじゃないけど、やると思ったことはやるだけだから。そこんところは大丈夫……だと思う」


 ただそれだけなんだ。


『……頼りないのぉ』


 煽られた。くそぅくそぅ。


『それじゃあしばらく落ちるぞい。後は任せた』


 ゲームのチャットかよ。自由なじいさんだな本当に、いっそ見習いたいぜ。


 よくない話をしていたのが伝わっていたらしく、平山さんは不安やら困惑やらが混じった顔で心配していた。


「ま、まだ終わったわけではないですから。見つかる可能性は十分にありますよ」


「う、うん……ごめんね」


 ちくしょう、いたたまれない。悪くない人が謝るのは心が苦しいのだ。


 こんな気持ち、丁度店に着いたし水野で晴らすとしよう!


 水野ォ! 水野いるんだろ水野ォ! 店に着いたぞ水野ォ! どこやねん水野ォ! 普段なら常駐してるエッチなイラストのラノベコーナーにいないぞ水野ォ! 週刊少年漫画コーナーにいたぞ水野ォ! 百巻以上あるやつをよく読もうと思ったな水野ォ! 半分くらい進んでるな水野ォ! それ読み終わったら話しかけるぞ水野ォ! まだか水野ォ! もうちょいか水野ォ! 終わったな水野ォ! 次の巻にいく前にちょっと待ってもらうぞ水野ォ! 待て水野ォ!


 水野おい水野ォ!


「水野ォ!」


「なーんすか圭吾っち。ずいぶんと来るの遅かったみたいけどー」


 それはそれとして水野ォ! 質問に答えろ水野ォ!


「今朝通学中に女子生徒見なかったか? ショートヘアで背丈は――――――」


「……うーん見てないような。それがどーかしたの? 彼女? しょされてぇーか?」


 こういうとき童貞オタクは面倒なのだ。嫉妬はみっともないな! やっぱ女自慢した竹下にローキックしてたやつは駄目だ!


「じつは行方不明らしくて。探しているんだ」


「ほーん、そういうことー」


 この様子じゃ水野は知らないと。はい参考人のおやく御免さよなら。さて次はどうするか。


「その生徒の名前と組はー?」


 一応教えておくか。平山さんは何組でしたっけ? 二組? どうもどうもおい水野ォ! 平山さんは二組じゃいってお前と同じクラスやないかい!


 なんか知っとるんかワレェ!






「俺も二組だけどさー、そんな人知らんよ?」

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