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中代圭吾たん  作者: ザナドゥー
始まり幽霊事件
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君この出会い

 卒業式。

 なんの間柄あいだがらもない先輩達の、とくに思うことのない涙。

 はやく帰りたいと考えている者が大半であろう我ら在校生が、式の後片付けをやらされる。

 ああ、なんて疲れる行事だ。文句を垂らしながら作業を終えた俺は、放課後のとある部室で友と語らっていた。


「卒業式で泣いたことある? 俺はないけど」


 話を切り出したのは中代なかだい圭吾けいご、つまり俺である。天然パーマ以外はぱっとしないであろう男子高校1年生だ。

 他のイケメンが目立つだけで、ひょっとして俺もイケメンなのでは? と心の中では睨んでいるのだが……現状は彼女も女友達もいないのでたぶんそういうことなのだろう。まったく可哀想な人間である。


「僕はないね」


 最初に答えたのは竹下たけした和馬かずま。1年男子の中では特に身長の低さに定評がある。ゆえによくイジられやすいが、その経験のせいか俺達の中ではコミュニケーション能力がある。でも彼女いない。

 俺と同じクラスなのもあり、話を振ればまず反応を返してくれるのが彼の良いところである。


「オレも圭吾っちと同じくー」


 間延びした答えが水野みずのたくみ。細目が特徴の、俺の幼馴染み野郎である。

 俺へのあだ名呼びで分かるだろうが、こいつとは保育園からの付き合いなのだ。悲しいかな、彼はオタクとしてすっかり染まっているからか、やっぱり彼女や女友達はいないのだ。


「ウチもないな」


 最後は竹ノ内(たけのうち)広人ひろと

 名字に竹があるため竹下とごっちゃになったり一緒くたにされてしまいがち。なので『ウッチー』とあだ名で呼ばれる、眼鏡の似合うふくよかな男だ。眼鏡キャラ特有の頭の良さで勉強を教えてくれたりする。

 基本クール、しかし彼なりのツボに入ると熱い奴……なんだが、その恰幅かっぷくのよさや毒舌キャラなのもあってか、これまた彼女や女友達がいない。


「やっぱりさ、思い出っつうか。付き合いのないものに感情移入はできないわけだろ」


 天パの髪を指にくるくると巻き付けながら皆に語る。


「そりゃそうだね」


「人付き合いのない、薄っぺらい青春をおくっているからな」


「ウッチーは太いのにー?」


 水野がウッチーから腹にパンチを喰らう。こいつは余計な口を叩きぎみなのが欠点の一つ。


「俺らももう二年生だぜ。彼女欲しーとか言ってるが、クラスの女子どころかチャラ男とすらも喋らない。同級生でそれなのに先輩後輩と仲良くなれると思うか?」


「まずその気になれないな」


「オレは必要ないかなーって」


「僕は後輩とか仲良くなりやすいけど無理かもねーって痛い痛い!」


 3人で竹下へローキックをかます。そういやこいつ、わりと後輩と仲良くなれるなどと以前に自称していたな。女との自慢話をするやつはこうなる覚悟を持て。


「あーあ、女の子に助けを求められてそれを救ってキュンと惚れられてイチャイチャしてーなー」


「実に非モテとわかる願望だな」


「圭吾っちはどーしてこんなことになってしまったのやら」


 お前がライトノベルやらアニメやらを薦めてくれたからやで水野くん。


「で、実際にあったらできそうなの?」


「……無理じゃねーかな」


「アニメならわかるけど、現実じゃあねー。初対面じゃよほどの美人とかでもなきゃ命賭けるなんて無理だと思うよー?」


「……だよなー」


 ようするに最初の質問の回答は。


「泣けるほどの付き合いをしてこなかったんだ。これからも付き合いする気がないなら泣かないわ」


「「「だな」」」


 この面子は、このまま卒業するのだろう。卒業式、俺達のために泣くのは親か場に流される涙もろい人くらいなんだろう。


「卒業しても俺達ゎ……ズッ友だょ……!」


「……お、おう」


「……ハハッ」


「帰るか」


 全員つれない反応だった。


「もぅマヂ無理」


 カラスが鳴くからもぅ帰ろ。。。ゲロゲ~ロ。


 カエルじゃん。。。






「んじゃー、オレ先に行くぜ圭吾っちー」


「ん」


 あれ以上部室にいてはさっさと帰れと先生がぷんすかするので校門でそれぞれ別れた。

 俺以外は自転車通学なので必然的に置いてけぼりに。徒歩は時間がかかるが、ゆっくりするのが好きなので構わない。乗れないわけではないが……歩行者を自転車で抜くのがなんか恐いというのもある。


「あんなことほざいたけど……やっぱりなぁ」


 男子高校生たるもの、青春したいという夢がある。可愛い女子ときゃっきゃうふふしたい欲望を抱えて生きる獣なのだ。それを叶えた者はリア充と恐れられ、蔑まれる定めでも。


 俺は!


 俺達は!!


 リア充になりたい!!!


 そう叫びつつ、女子どころかサッカー部などの「いかにも学生生活ゥ満喫してまウィィィッシュ笑」なやつらとも関われない、哀れ哀れな生き物となってしまった。


「……もしかしたらなれていたのかなあ、あの時」


 さっき部室にいたのは俺を含めて4人だったが、実はもう1人部員、しかも女子がいる。じゃあなぜこんなにわめいているのかは……のちのち彼女のことを語るときに分かるだろう。


 まだ昼過ぎなのもあって交通量が少ない故の静けさが心地よい。自転車に乗っていてはこの自然音は聴き逃してしまうだろう。

 最高に自由を感じる。こんな時だもの、ようし一曲歌ったろう!ちょっとこぶしを効かせるように――――――


 そんな思いを踏みにじるようにやかましい走行音、煙い排気ガスを撒き散らすトラックが横の道路を通り過ぎる。

 台無しだ、全く! サビに入るところだというのに……


「困ったもんじゃい――――――ん?」


 やれやれと目線が下を向く。丁字路の角、ふと目に留まる物が。

 ボロッボロでところどころ欠けている、かろうじてなにかしらのアクセサリーと判別できる物体。


 何故か、拾ってしまった。


形状、材質からして安物の指輪……だろうか。中学の時に流行っていたミサンガとか、修学旅行でテンション上がったときに買いがちなキーホルダーの類いを思い出す。


 なんだか懐かしいな。中学といえば、あの頃もいろいろあったよな、俺が部活の――――――


「うおっ! ……丁字路は車の飛び出しが危なくて困るな」


 けたたましい一般車がすぐ前の道路を通り過ぎ、ハッとした。いかんいかん、どうにも辛い思い出まで辿ってしまったのか涙が出ていた。

 例えばそう。あれは小学生の頃、俺は水野と――――――


「…………」


 と語る前に。なぜかこちらを見つめている女子がいた。


「……えっ」


 心臓の鼓動が速くなる。人見知りは見つめられると素直に呼吸も出来ない子もいるくらい辛いのだ。

 他に人がおらず、車もそこまで通らない昼下がり。動くものは雲か俺くらいだからだろう、体育座りしているその子はめっちゃ俺に視線を向けていた。


 それは、クレーンゲームで欲しい景品にチャレンジしているのを後ろで見ている人のごとく!


 アーケードゲームをプレイしているときに「あのにーちゃんなにしてんだろー」的な視線を寄越す土日特有の家族連れの子どもの如し!


 どうしよう、無視して帰路に着くべきか。我が校の、しかも同学年の制服のようだが、なんだか幸薄そうな雰囲気の子だ。体も透けているように白く……白く……透け?


「え、残像? 陽炎かげろう? 蜃気楼しんきろう?」


 その後ろにある電柱が分かるほど、彼女は半透明だった。


 今日はすこし暑いかもしれないが、納涼にはまだ早いのでは?

 お化け、お化けなの? あらやだどうしようわたくしホラーは苦手でしてよ! 一瞬にして総毛立っちゃったヤバいヤバい、に、逃げ「あ、あの!」あだめだ向こうが俺が向こうに気付いたのに気付かれた。



「私のことに――――――気付いてくれたんですか」



 彼女の一言。ざわついた心がしん、と凍えるような衝撃。

 冷えた体とは対称的に、握りしめていたアクセサリーらしき残骸ざんがいは熱を帯びたように熱く感じた。

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