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欠陥魔術師と王の座  作者: 二一京日
1章 無属性魔術師
3/43

2話 始まった学校生活

 入学式は滞りなく行われて終了し、各々決められたクラスへと向かっていった。

 ずっと気まずそうにしていたミネルバは、最初の元気が薄れ、碌に会話と呼べるものにはなっていなかった。

 掲示板に張り出されているクラス表で別々のクラスになっているのを確認した時、レインはほっとしている自分を自覚した。ミネルバにとっても、そちらの方がいいのかもしれないとも思っていた。

 もしかしたら、レインが言ったようにこの先このまま接点もなく、入学式で話したのを最初で最後にしてしまうのかもしれないと思った。


(まぁ、平民の僕よりも貴族の令嬢とかと一緒にいる方が、話が合っていいかもね)


 自分に言い聞かせるのではなく、実際にレインが思っていることだった。

 そして何となく心の中でサヨナラをした。

 クラスは一学年にⅠからⅤ組まであり、一クラス三十人ほどだ。

 レインはⅠ組で、ミネルバはⅣ組となっていた。

 クラスでホームルームという流れだが、今日は入学式で初日なので、簡単にクラスの担任講師の紹介で終わった。

 レインの所の担任講師はヘイダス=ウィリーという男の講師で、魔術師としては第四階梯でそれなりに優秀であることが分かったが、第一印象としてはあまりレインとは合わなそうな講師だった。

 そのことに若干の不満を覚えつつも、初対面でわかることも少ないと判断し、そのことはとりあえず気にしないように処理した。

 しかし、次の日から早速始まった授業で、レインは自身の予感が外れてはいなかったことを理解した。

 授業と言っても始めは生徒全員が自己紹介していくことになった。


「レイン=スーウェルトです。どうぞよろしくお願いします」


そこでは自身の魔術特性を言うのは個人の自由で、レインは言わない方向で自己紹介を終了しようとした。

しかし。


「そういえば、レイン=スーウェルト、君はたしか、魔術特性を持っていないんだよね」


あろうことか担任講師であるヘイダスがレインのことを話したのだ。


「学校生活は大変かもしれないが、みんなと一緒に頑張ってくれ」


 その言葉に、レインは一瞬だけ固まった。

 面白半分というより、完全に嫌がらせのようなものだった。

 こんなところでそれを言い、ましてやみんなで頑張ろうなどという嫌味を言う時点で、この男へのレインの評価はがた落ちだった。

 いや、最悪の初対面と言ってもいいかもしれない。


(これだから自分の地位の高さに甘える奴は……)


 内心ため息をつきながら、周囲で嘲笑が生まれていることに気を向けず、自己紹介を次の生徒へと回した。

 それでも周囲の視線はレインの方をちらちらとレインの方を向いていて、この先の面倒を予感した。


(魔術特性を持たないのがここまでになるなんて……覚悟はしていても、なかなかに辛いものがあるな)


 レインにとっては嫌な空気のまま、魔術師育成学校の日々は始まっていた。


              ♢♢♢


 散々な日々になりそうなレインに対して、ミネルバの方は違う意味で面倒になっていた。

 レインのような欠点はなく、むしろ才色兼備なミネルバに他の人は近寄りがたい雰囲気を感じていた。

 一方、当のミネルバ本人は改めてレインの存在が、どれだけ接しやすかったかを理解していた。


(でも、最後に無神経なことを言っちゃったしなぁ)


 ミネルバがたびたび落ち込むことは、当然レインの魔術特性についてだ。本来それはミネルバに非はなく、レインもそれは気にするなと言っていたが、そう言われてもどうにもならないのが人というものであった。

 そういう悩んでいるという雰囲気が、より一層他の人を近寄りがたくさせているのだが。


(はぁ……)


 こちらはレインとは違って、悩みを割り切れない王女であった。


              ♢♢♢


 学校生活が始まって数日が経過した。

 華々しいはずの学校生活で、ミネルバアいきなり壁と衝突していた。

 それはもちろん、友人に関することなのだが。

 何とかして話しかけようとするが勇気が出ず、そのまま待つという行動になっているが、そんなことで自分たちよりも位の高い王女に話しかける人がそうそういるはずもなく、悩みに悩んでいた。

 授業に関しては何の問題もなく、むしろ自分には簡単に思えるもので、特に問題はなかった。この調子ならうまくやれるだろうとは思えるが、このままずっと一人ということになったら、精神的に耐えられるのだろうかという不安があった。

 結局、休み時間になっても一人で、周囲の生徒たちの話に耳を澄ませるという行動しかとっていなかった。

 そんな中、ある話がミネルバの耳の入った。それは三人の女子が話していることだった。


「ねぇねぇ、聞いた、Ⅰ組の話?」


「あぁ、聞いた聞いた。何か魔術属性を持たない欠陥魔術師がいるんだっけ?」


「ていうか、魔術属性がなかったら、魔術師じゃないじゃん」


「それ言えてる」


「何で、自分が欠陥だってわかってるのにこんなところに来るかな?」


「ただの悪あがきでしょ。無属性の基本魔術だけでどうやって魔術師になるっていうのよ?」


 それですぐにピンときた。


(レインのことね。他にそういう人がいるとは思えないし、まず間違いない。でも、そんなことを自分から積極的に言う人だとは思えないんだけど)


 そんな疑問が頭に浮かんでいた。

 しかし、それを確かめるためにわざわざレインに会いに行く勇気がなく、そのまま教室の中にいることにした。

 あくまで、教室の中であって、レインのことを話していた女子たちの所へ向かうことはしたが。


              ♢♢♢


 ミネルバが女子たちにきつい言葉をくれてあげたその日、午後には合同で魔術の訓練があり、偶然にもⅠ組とⅣ組が合同ですることとなった。

 教室から二クラスの生徒がアリーナに集合し、その中でぽっかりと空いたところにレインは立っていた。

 ぽっかり空いているというのは、明らかに他の生徒がレインを避けているためであり、いわゆるぼっち状態になっていた。

 レインの話は気付けば数日で広まっていて、レインが校内で動き回るときでもひそひそと話されるくらいだ。いくら気にしないと割り切っていても、ここまでされればイラつくというものだが、それでもレインにとっては覚悟していたことの一つであったため、気にする気も起きなかった。ここまで図太いとあっぱれと言わざるを得ないほどに。


(ただ、どうにもやりづらいという感じは抜けないけどね。ははっ)


 心の中でどうしようもないことに自虐的に笑うと、なんとも虚しいものがこみ上げてくる。

 そのことにまた笑いそうになったが、さすがに無限ループになりそうなのでやめておいた。


「レイン……」


 そんな風に時間が来るまで一人で過ごしていると、声が掛かった。

 この数日でまともに声をかけてくる人がいなかったので、その声はレインの予想以上に鮮明に記憶に残っていた。


「やぁ、ミネルバ。入学式以来だね」


「そうね」


 どこか話しづらそうにしているのを見て、なら話さない方が得策なのでは、と思いそうになるレインだったが、それを言うのは失礼だと理解してミネルバの次の言葉を待った。


「……この数日で、結構な噂になっているね」


「そうだね。不本意ながら」


 まるで他人事のように軽く言うレインだったが、言ってみると実際他人事のように思えてしまっているところがあると自覚した。


(これ以上自分を客観視しすぎると、精神的に悪いかもな)


 そう思っているのは表に出さず、ミネルバの顔を真っ直ぐに見る。


「大丈夫なの、こんなことになって?」


「覚悟はしていたよ。属性無しがどういう扱いを受けるかぐらいはね。ただ、僕の予想よりもちょっとだけバレるのが早かったかな」


 担任講師がばらさなければ、いくらか持たせられる算段はレインにはあったのだが、こう明らかになってしまうとその考えも徒労に終わってしまいそうだ。


「まぁ、末永く頑張っていけば、どうにかなるんじゃないかな?」


「でも、少なくとも三年間はこのままってことになると思うけど」


 ミネルバの言葉で現実を突きつけられるレインは天を仰ぐ。

 と言っても、空ではなくアリーナの天井だが。


「そうなんだよね。そこが面倒なところ」


「やっぱりそう思うんだ」


「そりゃ、感情を持った普通の人間だからね。普通の学校生活というものが送れないとなれば、それなりに思うところもあるよ。割り切ってはいるけどね」


「その割り切るというのは、一体どういう風にしているの?実際噂を聞く限り、ひどい言われようをしているようだけど」


「どんなことを聞いたのかはわからないけど、少なくとも気持ちのいいものじゃなさそうだね」


「それはそうだけど……で、一体、どうやって割り切るの?」


 ミネルバの質問に答えようとレインはするが、改めて言葉にしようとすると難しいものがあった。

 要は、感覚の問題なのだ。

 その感覚を言葉にすることの難しさを感じるところだが、それでも少しずつ言葉にしていく。


「えっと、自分にできることを認識して……それで、それがいかに有用かを自分に言い聞かせて、そして自分で自分に納得す、る、かな」


「それって、いわゆる自己満足ってこと?」


「あぁ、言われてみればそう言えるね」


「それでどうにかなるものかしらね」


「僕はどうにかなってるからいいんだよ」


 レインの得意気に話すさまは生き生きとしていて、やはりここ数日での出来事で疲れや苛立ちが溜まっていたのだろうとミネルバは察した。

 とは言え、ミネルバも何かと忙しく苦労もしているので、本人がこう言う以上は何も手を出すことができないのだが。


「まぁ、ひどい時は相談してくれていいから、気楽にしてればいいよ」


 自然とミネルバはそう言っていたが、そのことにレインは驚きの表情を浮かべていた。

 そのまま、じっと、ミネルバの顔を見ているので、気恥ずかしくなってミネルバが聞いた。


「なんで、黙ったまま見るの?」


 そうすると、我に返ったようにレインが慌て、そして弁明した。


「急に予想外のことを言うもんだから。そんなことを言ってもらえるほど、仲が良くなった自覚もなかったし、そもそも話したのは入学式の時の一回っきりだったから」


 改めて言われるとそうであるとわかったミネルバは、急に顔を赤らめた。

 ほとんど初対面に等しい相手にそこまで言うとは、自分でも考えていなかったのだろう。


(はぁ、なんでこうなるかなぁ)


 もともと他の人がミネルバを避けていくので、ミネルバは対人関係の経験が少ない。

 正確に言えば、同世代の人間と私的に話すことが今までなかったのだ。

 この学院に入って、やはりその傾向は変わらず、唯一話したレインに対してだけはある程度心を許していた。

 しかし、他の人との落差が激しく、実際はまだほとんど話していないことを失念していたのだ。

 そんな自分が、ミネルバはとても恥ずかしかったのだ。


「ま、まぁ、それがダメってわけじゃないから」


 レインの目の前で耳まで赤くなっているミネルバを見て、さすがに見ている側も恥ずかしくなってきそうだったので、レインはすかさずフォローした。


「それに、相談してくれていいっていうのは、素直にありがたいから。ただ単に、僕の突っ込みが余計だっただけだから、そっちがそんなになることはないよ」


 必死に言うレインにミネルバは、こくり、と頷くが、顔の赤みが取れるまではだいぶ時間を要した

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