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見上げた空は青かった  作者: うなぎさん
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葛藤

 俺は正宮直人、私立高校に通う1年生。高校は県内有数の進学校で、緑溢れる静かな場所にあり勉強をするにはとてもいい環境。ここを目指し県内外からいろんな人が集まる。一緒に上を目指そうと助け合ういい奴もいれば、他人を蹴落として上に上がろうとする嫌な奴、強い奴にごまをする奴


 そろそろ授業か。一時限目は数学っと・・・

 机の中には破られた教科書や汚い言葉が殴り書きされたノートが入っていた

 「はぁ、また今日もか・・・」

 この高校に入学し景色が桜色から緑に変わり紅葉色に変わる頃、俺は虐めのターゲットになっていた。これをやった奴等や原因はおおよそ察しはついている

 「くっくっく」

 こっちを見て久利生達がニヤついている。何がおもしろい?一人では何もできない弱い個体共が・・

 教室には嘲笑や愛想笑い、哀れみや無関心、その他いろんな感情が混在している

 「直人君・・・」「僕のせいで今日も・・・ごめんよ・・」

 「気にするな!勇気は何にも悪くない!悪いのは無抵抗で自分より弱い奴を貶めることでしか自分を保てない馬鹿!と、それを止めきれない俺だ」


 始まりはこうだ。休みの日、勇気が久利生達が万引きするところを見つけて事が大きくなる前に注意したらしい。未遂で終わったらしいが・・その行為が気に食わないと、そこから勇気は虐めの対象になった。そして虐められている勇気を見た俺が止めに入ってから俺もその対象になったらしい。勇気の行動はとても立派だったし、俺の行動も間違いではなかったはずだ。勇気とはこの時に知り合った

 教師にこの現状を訴えた。だがまともに取り合ってもくれない

 「この学校には虐めなんて存在しない。いいね?正宮君」

 結局、保身の為で自分にマイナスなことにからは逃げている。傷ついている人を目の前にしても見て見ぬ振り。人として、大人としてやらなきゃいけない大切なことがあるだろう!大人達はズルい

 そんな大人達が作ったルールの中で俺達は生きている

 間違った事も正せない大人たちが私利私欲を肥やす、自分達のご都合ルールばかりを増やす。そして大半の若い世代はそのルール、教えに従うしかない。ご都合ルールから外れようものなら「異端者!」だの罪人のような扱いだ。政治などニュースでよく見かける光景だ

 権力者に対し首振り人形のようにぺこぺこ頭を揺らす大人ばかり・・実に情けない世界だ

 

 「お~い、勇気くぅーん。なぁーに正宮と話してんだよ~名前の通り”勇気”あるんだな~明日はお前か?ははははははは!!」

 久利生達はそう言うと、周りを巻き込むように大声で馬鹿笑いする

 「うっ・・・」

 (勇気、俺は大丈夫だ。気にしなくていい。俺に話しかけるな)

 俺のアイコンタクトは伝わっただろうか。勇気が無言で自分の席に戻っていく


 たまに俺の性格や行動が本当に正しいのか?揺らぐ時がある。力は弱いくせに、俺の目の前で矛盾が成立しようとしてると、間違いが正解とまかり通ってしまおうとすると我慢出来ずに動いてしまう。本当はこの考えが俺のエゴであって、本当は矛盾が成立するのが正しいのか?正解だと思っていたことが本当は間違いだったのか?

 この世で弱い者は貶められ、貶める者はその偽りの価値を高め強くなった気でいる。そしてそこに群がるピエロ達や我関せずと無関心でいる者。そんな者達が伸び伸びと生活を送っている


 正しい選択ってなんだ?


 ガラガラ


 「授業を始めます」


 俺は授業が好きだ。いや、最近好きになってきたってのが正解だな。授業中の相手は人ではなく黒板と紙、そこに書かれた文字だ。それを鉛筆と消しゴム、持っている知識で征する。答えがある、必ず答えにたどり着く。今、当たり前に使われている言葉や方程式、法則や技術は、過去の偉人が自問自答し生まれたものばかりだ。時間はかかるものの、やはり答えにたどり着く

 だけど人と人の間には明確な答えがない。あるのかもしれないが俺には解けそうもない。わからないんだ

 俺は思ってる事がそのまま言葉に出る。相手はそれに同意したり時に褒めたり。だが本心はどうなんだ?口ではYES、心でNOなんじゃないかって、答えがないと言うより人によってその時の答えが変化して、いつまで経っても正解が見えない。コミュニケーション中に絶え間なく難解な方程式を与えられているようだ。1対1ならばたどり着くだろう。だが複数人になったらその方程式はもっともっと複雑化し絡み合った螺旋になり解く前に脳がオーバーヒートしてしまう

 その点、政治家やアイドルはすごい。相手を理解するんではなく相手に理解してもらおうと人前に立ち、動いたり声で訴えたり、それで支持者という味方を増やし、やがて大きな個体になる。その大きな個体は複数存在し思想も様々、吸収したりされたり、対立して潰しあったり、これがこじれると戦争に発展したりするのかな。まずは身近な味方をしっかり理解しないといけない。落とし穴がある。気づかないうちにそれらを裏切れば、大きな個体は小さな一個体に戻り弱体化し、やがて消滅する。そしてまた新たな一個体が巨大化しての繰り返し。世界中のいじめ、更には争いは一生消えないだろう。久利生のような人間はその予備軍とも言えるだろう

 だがネカティブなことばかりでもないはずだ。これが負の連鎖ならば、正の連鎖もあるはずだ。悪いことは認めて改める。しっかり理解しあい、尊敬しあい・・単純にありがとう、ごめんなさいが素直に言える世界に・・世界中がそんな個体になれれば・・

 まぁ相手の言葉、表情、行動に裏があってと勘ぐってしまっている。結局、相手を理解するという第一歩でつまづいてしまっている時点で、俺の理想は夢物語なのかもしれない

 考えすぎなのかなぁ。だがなんでも始まりは些細なことがきっかけになる。と思っている


 時間は早く過ぎ、あっという間に下校の時間だ。俺と勇気は久利生のグループとは帰る方向は逆ということもあり、勇気はキョロキョロしながらも俺に話しかけ、俺もキョロキョロしながらそれに答える。何を気にしているんだ。情けない

 「直人君・・僕・・・」

 「勇気!学校では俺と話さないほうがいいぞ!」

 「でも直人君が・・僕が原因なのに・・」

 「勇気は悪くないんだ。悪いのはあいつらだから。あとはそれを跳ね返せない俺の弱さのせいでもあるかな?結局根本的解決には至ってないからね」

 俺は苦笑いをするしかなかった。勇気は終始申し訳なさそうな表情をしていた

 並木道の長く緩い坂をゆっくり下っていく。俺は今の季節が好きだ。赤や黄が大半を占め、遅れて変化しきれてない緑が少し残る葉っぱたち。喧嘩することなく一つの木についている。その木たちが仲良く立ち並び街を彩る。そして寒くなり葉っぱたちは仲良く落ちて、住まわせてくれてありがとうと木に感謝するかのごとく、土に還り木の養分になり、木はその感謝を素直に受け取り、次の年には桜色で華やかに彩り土になった葉っぱたちに感謝する。とてもいい連鎖だ。自然に共感できたら人間達はもっと穏やかになれるんじゃないか?なんてふと考えたりもする。きっと正の連鎖開始の糸口になるだろう

 

 下り終えると、住宅地が現れる。勇気の家はその中にある一軒家

 「直人君また明日!」

 「おう!またねー!」

 俺は勇気と別れ、そこから数百メートル先のバス停からバスに乗る。バス停が見えてきた。バス停のベンチには同じ高校、同じクラスで幼馴染の香織がいた。普段と変わらない光景だ

 「あ・・直ちゃ・・直人君・・」

 「おっ?おう・・」

 これ以上、会話は発展せず間もなくバスは到着。扉が開き少し離れた席に座り、バスは静かに発車する

 名前は秋乃香織。家は同じ町内だが少し離れている。俺が赤ちゃんの頃に母親が秋乃の母親と会い、子育ての悩みなどを話していくうちに打ち解けたらしい。それで俺と香織も必然と仲良くなったみたいだ。幼稚園から今の高校までずっと一緒だ。小学校までは仲良く遊んでいたが、異性と意識し始めた頃から疎遠になっていった・・恋なのだろうか?そう意識してしまってからは、昔の感覚で香織に接することが出来なくなって故意に遠ざけてしまっているのだろうか

 なおちゃん、かおちゃんと呼び合っていたがそれはもう過去で、今では直人君と距離感がある呼ばれ方で、俺に至っては名前も呼ばずに”おう”と一言発するだけだ

 見るたび、会うたびに俺の気持ちのモヤモヤは膨れ今にも爆発しそうだが素直になれない

 ろくな会話もできずぎこちないまま時間は経過し二人の距離は離れ、想いは俺の過去から増幅し続け今まさにあと一歩のところまで出かかっている。がしかし、それでも意思と行動は反比例し続ける

 何か一言、何か一つ行動が出来れば現状を打開できるのかもしれないが、片思いというのは人を臆病にさせる

 普段の俺とは違う俺で自身がもっとも嫌う俺である

 そう考えて何もできずバスのロードノイズとアナウンスのみが聞こえる車内。今、俺が香織に何か話をかけてもこの臆病者の声はきっとか細く、それはその車内の音にかき消され香織の耳に入ることはないだろう。この心の声が自分の意に反し香織に届いたらどんなに楽か・・・

 やがてバスはバス停に到着した。俺と香織は同じところで降りる。ここからお互いまた同じ方向に歩く。一定の距離をとりながら・・・

 香織の家まではバス停から歩いて約5分、そこから更に5分程行くと俺の家だ

 立ち並ぶ街灯が太陽の代わりに街を照らす歩道を、微妙な距離を保ちながら俺が前をスタスタ歩き、香織はその後ろを歩いている

 心では立ち止まりたい。振り返りたい。顔をしっかり見て話したい

 そんな想い欲求が増えるがその分、体は家へと加速する

 数学は好きだがこの時ばかりは反比例という存在を嫌いになる

 またこんなことを考えてるうちに香織の家の前まできた。また何も行動できずに通り過ぎようとした時

 「直人君・・あのね!」

 「お??」




 「やっぱりなんでもない!また明日!」

 「おう!」


 そう言うと香織は家に入っていった


 (ぬぉぉぉぉおおおおお!!馬鹿か俺は!!願ってもないチャンスだったのに!!俺は「お」と「う」しか発音できないのか!!)

 行き場のない自分への怒りが込み上げ、今ほど人がいない海か山頂で大声で自分自身を罵りたいと思ったことはない

 俺はそんな後悔と仲良く帰宅した

 そのあとはよく覚えていない。とりあえず食事と風呂を済ませたようだ。家族の声、テレビの映像、ごはんの味、匂い、風呂でサッパリしたとか五感がすべて停止していた・・というよりも後悔くんがそれらを制圧していて感じることができなかった。俺はとんでもない奴と仲良くなりつつあるようだ。俺はゆらゆらと階段を上り6畳の殺風景な部屋のシングルベットに倒れこんだ

 (なんだか疲れたな 寝よう)

 そうは思ってもそれを許してくれない奴がいる

 俺は奴の入る余地がないくらいに連呼する

 (次こそは!次こそは!次こそ・次こ・・次・・・)



 気づいたら眠っていた。いやむしろ今も寝ているのか。無事夢の世界にいるみたいだ

 だけどなんだか変だ。窓と思われるところがやけに眩しい。俺はそれを直視しているのか?瞼越しにそれを見ているのか?そして光に包まれた人影らしき存在はなんだ?

 それはすぐ暗くなりその瞬間に意識がなくなった・・・



 ん?俺は起きたのか?目が開かないまま俺は背伸びをした。体が痛い、全身筋肉痛のような・・それよりも痛みが強い。その刺激により徐々に目が開く。殺風景な部屋に鈍い光が・・・


 んあ!?ここはどこだ!?部屋じゃない!

 殺風景ではあるが俺の部屋ではないということだけは間違いない

 大小さまざまな四角い白い箱と電柱のようなものが俺の両サイドに規則的に並んでいてその間の道のようなところに倒れるように俺はいた。もちろんベットはない

 

 この状況は??まだ夢なのか??

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