魔法戦闘 ◯
「あんた誰だ!?」
ナトが叫ぶ。もやしっ子と思えないほど……あ、変な考えはやめよう。
「私?私はルミドール」
ルミドールは、TRPGの時に出したNPCのはずだ。
で、私はもう結果的にわかってしまったことがある。
それは幸福と言えようか不幸と言えようか……
この世界は「有田 浩介」が作ったTRPGの世界なのだ。
なぜこんなとこにいるのかと聞かれれば1つだけ心当たりがある。
そう……短冊だ。
私含め6人はあの日、短冊に同じ願いを書いた。
よく思い出して欲しい。あの日私たちが書いた内容は
……TRPG世界に行く、だったはずだ。
そんなまさかなことあるわけないという人がいると思うがそれしか思い浮かばない。
だが、確信はない。
「……ーい……オーイ、カリン」
はっとした。
「ご、ごめん」
「あぁ……俺もカリンと同じこと考えたと思う」
やっぱり、ナトも同じことを考えていたみたいだ。
「でもその前に……アイツを倒さないといけないみたいだ」
相手のルミドールはもうやる気まんまんだ。戦闘狂ですねー。
戦闘反対!平和一番!
「ナト、ルミドールのパターンおぼえてる?」
「あぁ……たしか、小規模魔法2発の後に大規模魔法で魔力切れだよな」
攻撃や使ってくる魔法は覚えている。絶対に攻撃を受ける可能性も多分ない……大丈夫、大丈夫のはずだ。
「さぁ、いきますよ?」
ルミドールはニヤリと口の端を曲げる。
そこからはヒシヒシと殺気が伝わってくる。
でも、大丈夫。大丈夫。だって、ルミドールは初めたばかりの頃の敵。転移してくる前のTRPGのステータスでも大幅に勝っている。
私達は死なない……大丈夫だ。
「いくぞ、カリン!」
「OK!あ、ナト。笑わせるのはやめてね?」
ほぼ同時だった。私達2人と、ルミドールが動く瞬間は
「私をここら一体の魔女、《紫の術師》だと知ってて?『流れる水は動きを止め、たちまち凍りつくだろう。貴方も凍るであろう』【ダイヤモンドダスト】」
「いやごめん。知らない」
「ナトと同じで私も」
「っく!!余裕……ね!さぁ、氷が生まれたわ!行け!」
無数の氷の粒が私達2人へ向けてやってくる。
普通なら身体中ぼろぼろに穴が空いていて当たり前のこの魔法だが……
「ナト、魔力の結界お願いできる?」
「分かった。後ろにつけ!『私から出るその魔力は、守るべき人と私を魔から護ってくれるであろう』【魔法力場】」
TRPGで使った魔法をうまく呼び出して難なく乗り越える。
というか……いきなりゲーム時代とパターン違うんですけど……
「くっそー!近接攻撃系のピサロがいれば楽なんだが」
「ナト、いないものを求めても仕方ないよ」
この魔術師ペアは、一瞬のうちにルミドールへ向かう。
魔術師にとって接近されることは、敗北を表す。それは魔術師コンビであるカリン達も同じことだが、きちんと秘策を持っている。
【魔法剣】 それを魔法で呼び出し、近接攻撃を仕掛けようとしているのだ。しかし、殺傷能力は与えたくない。怪我をさせたりするのは流石に酷だ。攻撃されてて舐めるなとか思われそうだが、麻痺の効果で動けなくして戦闘を終了させるのがいいだろう。私達2人はそれを以心伝心のように分かっていた。
「……っく!私の攻撃がこんなにいとも簡単に!?まだよ!」
流石は《紫の術師》多少は狼狽えているものの、すぐに行動に移った。ルミドールは身長の丈ほどもある長い杖を地面に強く打ち付けると、次の魔法を完成させていた。
「これならどうよっ!『魔力により生み出されん炎よ。大きく、強く、熱くなれ』【魔力拡大・ファイアボール】」
今度は大きな火の玉が向かってくる。
2人が避けようとしたその時……想像していなかった現象が起きた。2人が左右に逸れると、その瞬間、火の玉は分裂し、勢いを止めぬまま2人に襲いかかったのだ。
「ッく、カリン俺はすぐに障壁を張れない!お前はたしか【技能】で【無詠唱】を持っていたはずだ!お前だけではこの分は受け切れない!逃げろ!」
「な、ナトっ!そんな訳にはいかない!【無詠唱・魔法力場】」
無数の火の玉が、ナトを守った障壁、即ち私に襲いかかる。
一つ一つの威力は弱いが、なんせ数が数だ。障壁がピキピキという音を立てて割れ始める。まずい……このままじゃ突破される。考えた直後……
「早く……しろ!」
「え……」
後ろから声とともに私が横に突き飛ばされる。
突き飛ばされる私が横目に見たのは、火の玉の目の前で苦虫を噛み潰したかのような表情をしているナトだった。
この数はまずい。
死んでしまう。
私が今から障壁を張る。駄目、間に合わない。
数々の方法をシュミレートする。
しかし、どれも【助かる】に至らない。
ナトは、死ぬ。
「ナト!!」
叫び声を上げた私はきっと泣いていただろう。
ナトが死んでしまうと思って。
でも、私のそんな考えは木っ端微塵に消え去ることとなる。
無数の火の玉が当たる寸前、それは起こった。
無数の白い斬撃が炎を切り裂き、消してゆく。
「オイオイ……なに無茶してるんだよ」
そこには2人がよく知る男「ピサロ」がいた。
「え……ぴ、ピサロ……?」
「……火の玉が消えてる……」
「残りのみんなより、結構近くに飛ばされていたみたいでな。あ、あと変な感動シーンここで作るなよ? コイツ男だからな」
「知ってるからっ!」
そう軽く言い放つとルミドールの方を見据えてピサロはこう言った。
「いやーちょっとためしたかったんだよねー」
そう言うと右にかけていた日本刀のようなものを構えて前に出る。
その扱いに慣れているかのような言い方だ。
「よーし、頑張りますか!」
ピサロはルミドールを睨みつけながら、まるでお遊戯のように言い放った。