最後の一秒まで イノチの雫
「勇者ですね?私はスミレ。我が主人六人の命に従い、貴方を全力で倒します」
「私は勇者。魔王を倒すべきもの。貴方のその思いに答え、私も全力を尽くし、戦いましょう。では………」
西門から100mほど離れた場所。そこには二つの姿があった。
一つはスミレ。そしてもう一つは勇者、優香。
夕陽が照っていて、少し冷たい風が、2人にかかる。両者の間は約10m。
………
しばらくの沈黙が起こる。その時間も僅か10秒と言ったところだろう。まず、スミレが先に動いた。
「オリジナルスペル!多重展開呪文、フレイルバースト!」
この呪文は、スミレが創造されてから今日の日まで、魔法の展開式を限界まで精密に計算し、そしてこれができたのである。炎の柱が横に、直線上に展開される。その数12本。莫大な魔力を消費してやっと使うことができるのである。
「……っつ!?」
勇者も一瞬動きが止まるが、直ぐに厚い魔法の壁を作り出して対抗する。
「オリジナルスペル!フライバード!」
スミレはすぐに来るだろう勇者の反撃を受けないため、魔法を使い空を飛ぶ。フライとは違い、十字の方向だけでなく、八方向に、滑らかに、速く移動できるようになっているのだ。これがスミレの五つある内の、二つ目のオリジナルスペルである。
「魔力チャージ!……っく!!」
スミレが三つ目のオリジナルスペルを使用する。この呪文は、自分の魔力を杖に貯めておくことができるようにする魔法である。
しかし、先程から魔力の使用が著しく激しいスミレは、魔力欠乏の第一症状の頭痛が起こり始めた。元々勝てないのは承知であるが、なるべく長い時間を稼ぎたい。
「聖剣グラストソード、固有能力発動!グラストライト!」
気ずけば勇者が目前にまで迫っていた。慌ててスミレはあまり使いたくなかったが、貯めていた魔力を使って高性能な魔法防御壁を作り出す。勇者の力がイマイチ分からない現在は、できる限り攻撃を受けないようにしなくてはならないのだ。
「......そろそろ本気を出してあげる」
勇者はそう言う。
その瞬間、辺りの空気が変わった。
スミレは驚き、防御をしようとする。しかし、もう遅かった。
一撃、また一撃。
光を纏った剣が、スミレの体を深く切り刻む。
また一撃、また一撃。
速く、重く、強く。回避も無駄。防御も無駄。
そして、また一撃。
スミレの体が勢いよく地面に叩きつけられる。身体中傷だらけで血塗れである。
「バイバイ。貴方は毒の効果を持つ時にやられた。後数分で楽になるよ。もう動けないから。じゃぁね」
そう言って勇者は門へと近ずいて行く。
やられた。完全に。もう、動けそうにもない。意識がだんだんぼんやりしてきた。あんなに苦しかった体が、だんだん軽くなっていく。
でも、その時思った。私は何かできただろうか。魔王様達になにかをしてあげただろうか。その時、理屈では説明不能な何かの力が私の体を叩き起こした。
「く………オリジナルスペル......多重展開呪文......雫」
私は立ち上がった。そして、それに気がつき、驚愕した様子の勇者に向かって、私の最後の最終傑作の呪文を使った。
雫が辺りを埋め尽くす。そしてだんだん私は意識が遠のいていく。もう、これ以上何もできることはない。
「さようなら......魔王様達。またいつか会えることを願います……」
視界のはしに転移魔法を使おうとしている傷ついた勇者が見えた。私はできることをやり抜いた。もうやり残したことはない。
私を創ってくれて、ありがとう。
……スミレは死んだ。しかし、その顔には美しい微笑みがあったらしい。
スミレ!?
魔王陣営は強大な戦力が一つ減ってしまいました!!
次回は現実世界へ視点を戻します!




