Act.1 section.1 理解
…私の答えは間違っていたのでしょうか?
…私って一体、何だったのでしょうか?
…彼を助ける方法は、無かったのでしょうか?
…誰か教えて下さいよ、ねえ。
…あぁこれで終わりですか?
…終わり…終わり、終わり、終わり…。
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「瑠奈、おい」
つんつん。
「起きろー。朝だぞ。」
つんつんつんつん。
「…瑠奈の分の朝飯食っちまうぞー」
ぱち!!
「えぇっやめてくださいぃ!!」
「今まで狸寝入りでも決め込んでたのかってくらい反応早いな!?」
ガバッと起き上がり、自分を起こしてくれた白髪の男の子にしがみついた。
この子は、漢字は日向、読みはひゅうがっていう非常に変わった名前で、…さらに変わっているのが髪の毛。
ちょっと長めの、肩くらいまでの髪。そこまでは普通なんですけど…若白髪とかそういうレベルじゃなくて、真っ白。雪みたいに真っ白で、一点の汚れも曇りもないんです。
陽でてらされるとほんとに綺麗な色になって、思わず見惚れちゃうんです。
ご近所さんは日向くんの髪の毛が嫌いみたいで、『ばけもの』といったり、とても嫌そうな顔をしてました。
ばけもの…と言われるだけあってなのでしょうか?
実際のところどうなのかよく分からないけど、とってもとっても喧嘩が強いのだそう。
…だけど本当は、すっごくお人好しで、わたしをいつも気にかけてくれる優しい子なのだ。ふふ。
…それはさておきましてっ!
「で、でもっ!!ほんとに食べちゃったことあるしっ…!」
そう。
一度ならず何度も、わたしの朝ごはんは謎の消失を遂げていたのだ!
「犯人はお前だ!」みたいな感じで日向くんを指差すと、日向くんはのっそりとした動作で頭を掻く。
「それは瑠華がだろー…俺は食わねえよ、心配しなくてもさぁ、そこまでがっつく程燃費悪くないし」
ぇえ!?燃費良かったんですか…!!
てっきり、めちゃくちゃなほどにご飯食べるのは、燃費悪くて燃料切れ起こしやすいせいだと思ってました!
…いや!!それよりもっ!!
瑠華、わたしの双子のお姉ちゃんのことです!
可愛らしいツインテールで、わたしなんかよりずーっと明るい女の子です。
瑠華ちゃんは体が生まれつき強くないのに、すっごく元気な性格をしてる。そのせいで何度も体の動かしすぎや、食べすぎで倒れちゃってるんです。
それでもう何度も、お医者さんから注意されてたのに…!!
「えぇっ!?瑠華ちゃん!?お医者さんがあんまり食べすぎちゃダメだよって言ってたのに…!な、なんで今日まで教えてくれなかったんですかぁ!?」
「あいつそれでピンピンしてるし、もう諦めた方が早い気がしてさぁ」
無表情で頭を掻いてる場合じゃないんですよー日向くん!"きんきゅーじたい"です!
立ち上がった後日向くんの腕を掴んで、走り出…したかったのだけど、日向くん…全く動かない!踏ん張らないでよ〜…!
「言っとくけど踏ん張ってない。瑠奈が弱すぎて動かないだけで」
わたしが思ってたことを見透かしたように言ってくる日向くん。
どっ!読心術ですか!?
「にゃーっ!?!?わ、わたし強く…はないですけどっ!弱くはないです!!」
と、とにかく!!
「い、いますぐ食堂に向かうべきですよ日向くんっ!」
「いや、だから俺、最初からそう言ってるし」
ここ、『立花園』は、聞いただけではなんなのかよく分かりにくいのですが、孤児院で、わたしたち以外にも沢山の子供たちがいます。
お母さんもお父さんもいないわたしと瑠華も、5歳からここで暮らすことになりました。
…でも、ご近所さんのひそひそ話を聞く限り、ここに来ることはとっても不名誉な事なのだそう。
何か特殊なモノを持っている子だけが来るらしいです。
瑠華は、その食欲とかからしてそんな感じですが、わたしはよく分かりませんね。
創設者さんの名前は、…『山崎 沙由』さん…だった…筈です!本で写真をたまに見ますが、とっても綺麗な女の人でした。
『38歳でこの世を去った』と書かれていましたが…それにしては随分、…20代前半といっても通用するくらい見た目が若かったな…と、びっくりしてしまいました。
彼女(と、この施設)の噂を何個か紹介しますと…
『この施設でずっと沙由さんと一緒にいた茶髪の少年が消失した。30年経った今でもたまに現れては、沙由さんを想って涙を流しているらしい』ですとか、
『生前、沙由さんの瞳の色が度々人間離れした色に変わったらしい』ですとか、
『沙由さんは人の記憶を読み取れたらしい』ですとか。
どれもこれもホラーですね。お化けが苦手なわたしはこういうお話はきらいです。
あ、そういえば茶髪のお化けさん、わたしはみたことないですね…そうとうな『いけめん』さんらしいのですが。
それはさておきです。
その沙由さんのおかげで、わたしたちは、ここで穏やかな生活を送っています。
本当に幸せだなぁ…と、しみじみと感じます。おばあちゃんみたいですね、わたし。
日向くんも居ますし、瑠華も居ますし…昔みたいに、弱虫だっていじめられませんし。
そう。すっごく幸せなんです。
食堂につくと、瑠華ちゃんは食事の真っ最中。
わたしのご飯は…無事です!!やったっ!!
「瑠華ちゃん!ありがとうぅ!!」
「むぐむぐ…ごくん。え?お礼言われるようなこつしとらんばいワタシ!?」
いつも思うんですけど、何処からその方言仕入れてくるんでしょう?いろんなところの混ざってますし。
にわか関西人って言われちゃいますよ、瑠華ちゃん!
「そうだろうな。瑠華、照れんな」
「やーやー!かわいー妹がお礼言ってんねんで!?照れるばい!?可愛すぎやーこの子ぉ!」
「……まぁ、か、かゎぃぃけど………」
?
ちっちゃい声で日向くんが何か言ったのですが、イマイチ耳が良くないわたしはよく聞き取れませんでした。
「? 日向くん、食べないんですか?」
「く、食うから!!!」
あぁ、ご飯があるってありがたいですねぇ…。
わたしは猫舌なので、すぐに食べられないのが勿体無いです。
そんなわたしを見兼ねて、日向くんがわたしのごはんをじぃーっと見てます。あげませんよ!?
「おーい瑠奈、飯、冷めちまうぞ?冷める前に俺が食ってやろうか?」
「やっ!?食べます!食べますから待ってください!!…ふー…ふーっ」
「ホント猫舌だよなぁ、治んねえの、それ?」
「こ、これは体質なんです…仕方ないんですー…」
「体質ねぇ〜、まあ仕方ないっちゃ仕方ないか」
「むぐむぐ…ごほっ!?」
「る、瑠華ちゃん大丈夫ですか!?」
「あーあー詰まらせちまったのか瑠華?…うわあ吐くな!!水!!!ほれ水やるから飲め!!」
ごくごくごく、とまるで男の人みたいに水を勢いよく飲む瑠華ちゃん。その細い体の何処にその水や食べ物が入っていくのでしょうか…?
「っぷっはぁーー!!死ぬかち思たわ!!」
水を飲んで満足したのか、グラスを勢いよく机に叩きつけちゃいました。
そ、そのー、瑠華ちゃんを見てると、お酒を飲んでる社会人さんを見てる気分になるというか…。
「オッさんか」
うわあバッサリ言い過ぎですよ日向くん!?
「オッさんちゆうのは日向みたいに梅干しばっか食う奴のこととちゃいます?」
「うっせえ美味いから仕方ない」
「そーやってアミノ酸で全身侵食されてまえばええんや〜」
「…こ、こええこと言うなよ…」
「こええことなんか言うてませんけど〜アミノ酸」
「俺の名前アミノ酸じゃねえよ」
「まずは名前からやで〜うりうりうり」
「や、やめろぉお!!!」
このお二人さん、仲良しですね。
なんというかー…
「夫婦漫才みたいですね!」
わたしがそういうと、日向くんの耳が漫画みたいにピクッと動き、私をじとーっと見る。
「俺はコイツと夫婦になるのはゴメンだわー」
うわちょっと!!流石に酷いです日向くん!!
「そやなぁけど、あんたにるなはあげへんで、っていてぇいててててたたた」
なにかいいかけた瑠華ちゃんの頬っぺたを日向くん、思い切り抓る。
痛いそうですよ、やめてくださいと言おうとしましたが…あれ、瑠華ちゃんニコニコしてる。痛くないんでしょうか?
「…口を滑らす前にその口をちぎって取ってやろうかぁ?」
「怖いで〜そんな顔せんといてや〜」
「…怖いのはお前が変なこと言わないかってことだっつの……」
うむー…まぁ仲良さそうなので良しとしましょう!
さて、気分も良くなったことですし!ご飯を食べなければ!
「…あ、ご飯冷めちゃってる」