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忘れ物

作者: 瀬川潮

 何も聞こえない。

 火の手は回っている。

 めらめらと音も無く燃える木造旅館で、スローモーションのように逆走している。下見をするため外出していた隙に宿泊旅館がこんなことになるとは!


 俺は、火の手から逃げているわけではない。火災の発生した旅館に突っ込んで強いほうに走っているのだ。なぜか俺に火は燃え移らないし、煙にも巻かれない。

 ……静かだ。

 何も聞こえない。こんなに周りは燃えさかっているのに。

 ふと立ち止まる。

 目の前に炎に包まれた梁が焼け落ちてきた。運良く難を回避した。

 ひらりと越えてさらに前進。

 やがて目当ての扉の前にたどり着く。

 扉を開けると、目の前には砂利の河原が広がっていた。

――いた。

 川の桟橋にアイツが立っている。いつものワンピースではなく、白い着物姿だ。

 かけよって左手を掴もうとしたら、薬指に触ったところでひらりと袖にされた。おっとっと、とバランスを崩したところ、とん、と押された。落ちながら振り返ると、妻がにこっ。

 やられた!

 どぷん、となぜかそこにあった川に落ちる。


 はっと気付くと、病院のベッドだった。

 火災現場で、おぼれたような症状で倒れていたのだと医者は首を捻る。

 手を開くと、見覚えるのある指輪を握っていた。

 数カ月前に水死した妻を追うつもりだったとは、言い出せない。ただ涙だけが不思議とこぼれた。

 握った指輪が、温かい。



   おしまい

 ふらっと、瀨川です。


 深夜真世名義で他サイトに発表したことのある旧作品です。同タイトル企画でした。

 結構当時から手を入れてますね。

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